最近は甘い感じが続いていたので、原作消化&日常回です。
ハッピーハロウィーン!で、ございます。
いつものように、客足の少ないラビットハウス。
その上に、いつも騒がしいココアが今はいない。
今ラビットハウスにいるのは八幡、チノ、リゼの比較的常識的な人間のみ。
つまりはーー、
「「「今日も平和だ(です)」」」
暇なのだ。
「ココアがマメの二人をつれて職業インタビューに行ってから騒がしかった店内が一転したな」
普段振り回されているリゼが素直な感想を言葉にする。
それには八幡もチノも激しく同意だった。
「ココアがいないと暇だな」
八幡も八幡で多様な捉え方のできる言葉を口にする。
「ココアさんがいないと余計なトラブルも起きませんからね」
「カップを割ったり立ったまま寝てたり、転んだり、いつもアイツは忙しいからな」
………………
訪れる静寂。
ムードメーカーであるココアがいなくなった途端に、会話のネタも、仕事も無くなって、ただただ暇な三人。
これはまずい、とリゼは焦ったように口を開く。
「このままだと殺られてしまう!」
「「なにに!?」」
「この空気にだ!」
ああ、面倒なスイッチが入った。
八幡とチノの心情は一致した。
二人はリゼとは違って、静寂を好むタイプ。
この空気は悪くはないと感じていたのだが、リゼに変なスイッチが入ったからにはこの空気は消えてしまう。
「働くんだ!動くんだ!このままでは死んでしまう!」
「………で、なにすんだ?」
こうなったからにはもう止めることは不可能と分かりきっているので、渋々ながら八幡はリゼの話を聞くことにした。
「よく聞いてくれた比企谷二等兵!」
「俺、一番下っ端なのね」
「この空気に負けないように鍛錬だ!」
「り、リゼさん、店内なので発砲とかはちょっと」
「そんなことはしない!私をなんだと思ってるんだ!」
無駄に高くなったリゼのテンションだが、ツッコミを入れるところは入れるという謎の器用さを見せるリゼ。
チノはリゼがいつ拳銃を取り出すか気が気ではない。
「まずは、客がいないうちにもう一度店内の掃除だ!急げ!」
ダダダダっと店の奥へ掃除道具を取りに行ってしまったリゼ。
その光景を見て困り顔で八幡に視線を送るチノ。
「は、八幡さん」
「チノ、諦めろ」
「………そうですね」
はぁ、とため息をついた二人は渋々とリゼの後を追い、掃除道具を取りに行く。
そこからラビットハウスの先ほどまでの静かさは一転しバタバタと激しい音をさせる空間へと変貌した。
「八幡!手が止まってるぞ!あと二分で窓拭きを終わらせろ!」
「め、めんどくせぇ」
「口答えするな!」
リゼは八幡に指示を飛ばしながら、自らも箒がけ。
八幡はどんよりとしたオーラを発しながらもダラダラと窓拭きをする。
「チノ!テーブルを拭き終わったらカウンターだ!」
「……リゼさん、今日そんな綺麗にしなくても」
「チノ、そんなことじゃあ大きくならないぞ!」
「これとそれにどんな関係が!?」
チノもなんでこんなことに、と文句をリゼに聞こえないように呟きながらもリゼの指示通りに働くチノ。
「おい八幡!私の死角でサボろうとしても無駄だ!罰としてお前の仕事は倍だ!」
「ぐっ、なぜバレた」
無謀にもサボりを敢行した八幡は無様にも仕事量を増やされる。
「こらチノ!これぐらいでへばるな!」
「す、少し休憩をーー」
「まだ始めたばかりだろう!」
「うぅ」
体力のあまりないチノが一息つけばリゼは目ざとく見つけてを動かせる。
「「なんでこんなことに」」
「こらそこ!聞こえてるぞ!」
こうなったリゼは手がつけられない。
リゼが納得するまで八幡とチノは働き続けるしかないのだ。
「次は倉庫の整理だ!」
私の後に続け!と片腕を築き上げリゼは倉庫へ向かう。
チノは店番にティッピーをカウンターに残し八幡と共にリゼを追う。
「八幡!」
「あいよ」
「え、えぇ……」
リゼを満足させなければ終わらないと判断した八幡は段々と仕事を真面目に取り掛かり始める。
リゼのアイコンタクトとよく意味のわからないハンドシグナルだけで八幡は的確にリゼの意思を汲み取り動く。
が、チノはリゼからの合図には対応できずにその場であたふたしている。
「チノ」
それに気がついた八幡は、普段のバイト時の様にアイコンタクトでリゼの意図を伝える。
リゼ→八幡→チノ、という面倒な意思伝達の仕方だが、言葉を使わない分圧倒的に時短になり作業効率は上がる。
リゼの指示通りチノがコーヒー豆の袋を種類ごとに分け、八幡とリゼが以前よりも取り出しやすい位置に移動させる。
なんだかんだ倉庫には物が置かれがちなので整理しなければ後から面倒なことになりかねない。
更にココアがラビットハウスにきてから、パン作りの為の道具なども倉庫に追加されたので、その確認と小麦粉やジャムの在庫確認も忘れず行う。
リゼと八幡が細かく在庫をチェックして、チノがそこから判断し発注すべき品をピックアップ。
後でタカヒロさんに報告するためにメモを取る。
タカヒロさんはこの喫茶店のマスターとはいえ、主に夜のバータイムで働いて昼はアルバイト組に大体を任せているので、こちら側の確認等は月に一、二度程度の頻度でしか行わない。
故に、アルバイト組がこうして偶に確認する必要があった。
「ん、八幡さん」
「分かった。リゼ」
「分かった、私と八幡ですぐに行ってくる」
数あるコーヒー豆の一つの残りが心もとなくなっている。
チノは時間が空いている今仕入れた方が良いと判断し、八幡とリゼに買ってくるよう頼んだのだ。
それだけのやり取りを名前を呼んで、少しの情報を与えただけで大体理解してしまうこの三人も中々に壊れてきている。
最初は面倒臭がっていた八幡とチノも笑顔を見せながら働くようになっていた。
そんなこんなで仕事は一通り終了。
「「つ、疲れたぁ」」
八幡とチノはだらしなく客席に座り、机に突っ伏していた。
「お疲れ様」
あまり疲れを見せていない様子のリゼは、二人を労う様に、二人の好みに合わせて作られた甘めのコーヒーをコトリと机に置いた。
先ほどまであんなにも面倒臭かったリゼが急に女子力高めの乙女になったことに八幡は呆れつつもコーヒーに手を伸ばす。
「おぅ、サンキューリゼ」
「ありがとうございます」
「私も休憩」
リゼも先に座ると三人でコーヒーを啜る。
先ほどまで騒がしかったのがまた一転して落ち着いた空気が戻ってきた。
「………もう、当分は働きたくない」
「八幡さんがまた変なことを……と言いたいところですが私も同じ気分です」
「まったく、二人は軟弱な精神が染み付いてるぞ!」
「お前と比べればそりゃそうだろ」
流石のリゼもこのタイミングで口答えした八幡に何かペナルティを課すような鬼のようなことはしなかった。
「……そういえばチノは職業インタビューはいいのか?」
「私は父にインタビューしたので問題ありません」
「「なんかずるいな」」
「ずるくないです」
学校の宿題を簡単に終わらせられるような環境にいると、他の人から羨ましがられるものである。
「そう言えば私もやったな、職業インタビュー」
「お前のことだから軍事基地とかに行ったりしたのか?」
「リゼさんが訓練に混じってても違和感ないです」
「本当に失礼だなお前ら!………私は花屋にインタビューしたよ」
「何その乙女。誰だよ」
先ほどまで軍隊じみた仕事をやらされていた八幡は信じられないとばかりにツッコム。
「あの時は私も幼かった」
「いや、普通のことだと思いますが」
「リゼってたまに乙女な一面が見え隠れするよな。なんなの?乙女なの?」
「乙女だよ!」
先ほどの苦行の仕返しのようにリゼを弄る八幡。
チノもそれを咎めるようなことはせず、むしろ援護する、と言うような雰囲気すら出している。
「そうですよ八幡さん。リゼさんは可愛い乙女じゃないですか」
「ふむ、そうか、そうだったな。リゼは可愛い乙女だったな」
「な、な、な、かわ、可愛いなんてぇ……」
あの凛々しかったリゼの顔は赤くなり、声も尻すぼみに消えていく。
そんな姿のリゼを見て、攻撃するならここだ!と八幡の中の本能が叫ぶ。
「お前がいつもみたいにカジュアルな感じじゃなくて清楚な服を着ればロゼみたいに可愛らしくて美しくなれるのになぁ」
そう言って八幡はスマホのフォルダの中から先日撮影したロゼの写真をちらつかせる。
「なあっ!お、おい八幡!まだそれ消してなかったのか!」
「ロゼさん、いつになったらラビットハウスに来てくれるのでしょうか?」
チノはロゼの正体がリゼだと言うことに気がついていないので純粋にそんな言葉を発するが、リゼとしてはあの姿はただの黒歴史。
できれば触れてもらいたくない話題である。
「チノ、ロゼは優しいからきっときてくれるさ。なぁ、リゼ。お前もそう思うだろ?」
「お、お前ぇ」
「そうですね、ロゼさんのような美しくて誠実そうな方が約束を破るとは思えませんから」
「ぐ、は、八幡!」
チノからの純粋な信頼により、罪悪感に苛まれているリゼは、そのやるせない怒りと恥ずかしさを八幡に向けるほかなかった。
だが、チノの前でそれをぶつけてしまえばロゼの正体がリゼだとバレてしまう。
これ以上近しい人にそれを知られてはリゼとしては生きていけないことだろう。
「さて、リゼ。何か言うことは?」
「……調子に乗ってすいませんでした。だからもうやめてくれーー!!!」
その後一週間は軍人モードリゼはなりを潜め、おとなしくしていた。
先日、30万UAを突破しました。
思いつき半分で書き始めたこの作品がこんなたくさんの方に読んでもらえるとは思ってもいませんでした。
これからも宜しくお願い致します。
それはさておき、原作2巻終了。
30話ちょいかけてようやく2巻。
5巻とか更にあと30話以上かかるんじゃね?
トリックオアトリート!感想評価くれなきゃイタズラするぞ!