ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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遅れました。難産でした。
そして、分割です。

べっ、別に続きを書き終えるのに時間がかかるから分割投稿したわけじゃないんだからね!


第二十四羽

静かな公園の中、ふと見渡せばうさぎがちらほらと飛び跳ねている。

少しずつ高い位置へと登りつつある日は木々の間からそのうさぎ達を優しく照らしている。

 

朝の優しい日が木々を通し優しくうさぎ達を照らし出す。

そんな、この街ではありふれているようで、意外に目にできない風景。

 

それを見ているだけでも、暇をすることはない、そんな風景。

 

休日の朝十時前。

普段から仕事をしている大人達も一部を除き休み。

朝から公園に来るような人など、朝のランニングでも日課にしているような人間か、比企谷八幡のように、誰かと待ち合わせをしているような人間だけである。

 

「……小町め」

 

青山さんとのデート(仮)当日。

まだ青山さんとの約束の時間までは時間が少しあるのにも関わらず、八幡が公園のベンチで一人座って待っているのは小町が「女の人は待たせちゃダメ!」なんて言い八幡をさっさと家から追い出したからである。

 

だが、早く家から追い出されたおかげか、普段ではあまり眼にできないような風景を見ることができたのだから早起きは三文の徳という言葉もあながち間違ってはいないな、なんて八幡は考えていた。

 

「おはようございます」

 

そんな文学少年的な思考にふけっていると、耳に覚えのある声が八幡の耳に届く。

 

八幡の目にはいつものように大人ながらも少しあどけなさが残る青山さんが映る。

 

「おはようございます」

 

「待たせてしまいましたか?」

 

「数分ほど。まぁ、俺が早く家を追い出されただけなので気にしないでください」

 

「……いまのやり取り、恋人同士みたいじゃありませんでした?」

 

「行きますよ」

 

青山さんのからかうような言葉をガンスルー。

映画の時間までは少し時間があるが、このまま留まっていても八幡が青山さんにからかわれる運命が眼に見えていた。

 

「……男の人と並んで歩くのも、八幡が初めてかもしれないです」

 

「どんだけ周りに男性がいないんすか」

 

「八幡とタカヒロさん、マスター以外の男性とは特に話をしたこともありません」

 

青山さんの様な大人の女性が、周りに男の影すら見えないなど、八幡からすれば意外にもほどがあった。

 

確かに青山さんは恋愛関係にとても疎い様子だが、容姿端麗、性格もおっとりしていて優しく、この若さにして小説家として大成功を収めている。

詰まる所、超優良物件である。

 

男よりも男らしい平塚先生ならばまだしも、そんな青山さんが男性と恋愛関係を作ったことがないのは驚きを隠しえない事実である。

 

「八幡だって静さんが『比企谷は見た目通りのダメ人間だから彼女なんてあと数十年はできないぞ!むしろ、私より先に結婚なんてしやがったら許さん』とかっておっしゃってました」

 

「平塚先生どんだけだよ」

 

「静さんは男らしいですね」

 

「男らしすぎですよ。……平塚先生、普通にしてれば優良物件なのに」

 

平塚先生も容姿も悪くなく、高校教師という安定した職についており、男らしすぎる性格と、結婚関係のことにがっつく悪癖さえ直せば結婚も遠くはないだろう。

 

「静さんはそろそろ婚期を逃してしまいますから」

 

「……その理屈で言えば、翠もそろそろ婚期、逃しますよね?」

 

その言葉で、青山さんは引きつった笑みを浮かべ硬直する。

八幡は意図せず地雷を踏み抜いてしまったようだ。

 

「………その時は、静さんと二人一日中飲み明かします」

 

「平塚先生も結婚出来ない前提な口ぶりですね?でも、翠が一人行き遅れる可能性もーー」

 

そこまで八幡が口に出した時、ガシッと青山さんは八幡の肩に手を置いた。

その意図を八幡はうまく汲み取れていなかったし、青山さんの顔は俯いていて表情をうかがうこともできない。

 

程なくして、青山さんは顔を上げイイ笑顔で八幡に告げる。

良い笑顔ではない。イイ笑顔で、である。

 

「その時は八幡に貰って貰いますね?」

 

男ならば多少なりともときめくセリフ。

だが、八幡は背筋に悪寒を感じた。

 

その笑顔と言葉の裏で「これ以上言及したらーー、ワカルナ?」と耳元で低い声で囁かれたような錯覚に八幡は陥った。

 

「………ごめんなさい」

 

「ふふふっ、いつか隣に素敵な男性を侍らせて、行き遅れた八幡を笑ってあげますね?」

 

「いや、マジでごめんなさい。だから、その笑顔を引っ込めてっ!」

 

数分後まで、青山さんはその笑顔のままだった。

 

 

 

映画館に到着すると、流れるように青山さんはポップコーンのLサイズ一つに、コーラのMサイズを二つを注文。

コーラを一つ八幡へと差し出す。

 

「ありがとうございます。いくらでした?」

 

「大丈夫です。私が誘ったんですから、私が払います」

 

「いや、でも」

 

「いいんです。むしろこれだけの出費であの外出をあまりしたがらないことで有名な八幡を連れてこれたなら安いものです」

 

「いや、どこで有名なんすか」

 

「静さんからの情報です」

 

八幡は別に平塚先生にそんな情報を与えた事はなかったのだが、八幡からにじみ出るオーラが既に自宅にこもる人間のオーラだったのだろうと勝手に解釈する。

 

「それに、私大人ですから、子供の分を払うのは当たり前ですよ?」

 

「いや、高校生はすでに子供から脱却してるようなーー」

 

「人の胸の中で泣いちゃうような子は子供だと思いません?」

 

「ちょ、いや、その、スンマセン、黙るんでその事を掘り返すのは勘弁してください」

 

自らの黒歴史をほじくり返された八幡はあえなく撃沈。

大人しく青山さんの厚意に甘えることにした。

 

「ふふふっ、この話をすれば八幡は大人しくなってくれるんですね。一つ、いいことを見つけてしまいました」

 

「いや、そんなことすぐ忘れてください。できれば俺が羞恥心で死ぬ前に」

 

「先ほどの婚期云々の話の仕返しだと思ってください」

 

「くそっ、何故だ数分前の俺!なぜ俺はあんなことを!」

 

もはや八幡のキャラがブレッブレになってきたところで青山さんの仕返しは終了。

シアター内に入ると大人しく観客席に腰掛ける二人。

 

周りを見渡せば大盛況、といった様子ですでに客席が埋まりつつあった。

 

「はい、ポップコーンは私の膝の間に挟んでおいておくので、好きに取っていってくださいね」

 

肘掛にはコーラを置いているので、ポップコーンは置けない。

それで仕方なくと言った様子で青山さんは自らの太ももでポップコーンのカップを挟む。

 

「いや、もうその時点で取る気なくなったんですけど」

 

「?」

 

八幡は映画館などという暗闇の中で、女性の太ももに挟まれたカップの中にあるポップコーンに手を伸ばす度胸など微塵も有りはしなかった。

 

青山さんは案の定そういったことには鈍い様子で首をかしげる。

 

そうこうしているうちに、CM、最新映画情報が流れ出す。

 

そこまでくると、流石に私語を慎み、映画を見ることだけに集中し始める。

 

定番の映画泥棒のパントマイムも終わり、青山ブルーマウンテン作、『うさぎになったバリスタ』がスクリーンに映し出される。

 

八幡は原作ファンで、映画化すると聞いたときにはどうなることかと心配したが、いざ見てみると青山作品の強みがよく表現されているなと感心しながらもスクリーンを見つめる。

 

が、不意に八幡の肩に何か力が加わるのを感じた。

こちら側には青山さんが座っていなかったか?と思いつつ隣に目を配るとそこには八幡の肩を枕代わりとしてねむりこける青山ブルーマウンテンの姿があった。

 

おい原作者!と八幡は青山さんを起こそうとしたが、青山さんのあどけない寝顔をみると、起こすことが申し訳なく感じてしまい、起こすことを断念。

 

だがその判断は愚策となる。

この状態では自らの青山さんの頭が載せられた肩から香る女性らしい、いい匂いがすることに八幡は悩まされることになってしまった。

 

そして八幡は中盤以降の映画の内容を、あまり集中して見ることができなかった。

 

 

 

映画も終わり、映画館の外へと出た二人。

 

「本当にごめんなさい」

 

「いや、気にしてはいないですよ」

 

青山さんは映画鑑賞後に八幡の態度がギクシャクしてしまっていることを、八幡の肩を枕にしてしまったことに腹を立てていると勘違いをしているようだ。

しかし、実際は、いい匂いのした青山さんと目を合わせるのが気まずいだけなのである。

 

「しょ、しょんな事よりも、翠は映画なんで途中で寝ちゃったんですか?」

 

なんとか動揺を隠そうと話題転換を試みる八幡だが、噛んで、吃って、目線がブレブレの三拍子で全く動揺を隠せていない。

 

「え、えーと、昨日、つきっきりで編集さんに小説書かされていて眠かったんです」

 

「いや、映画行った意味ないじゃないですか」

 

「いえ、八幡とこうして喋れてるので私は満足だったりします」

 

「それとこれとは別でしょうに。てか、俺と喋ることなんて罰ゲームと等しいですよ。あっ、目から汗が」

 

そんな卑屈なことを口にする八幡に表情をムッとさせる青山さん。

 

「八幡はまだそんなこと言ってるんですか?もう一度胸を貸しましょうか?」

 

「………け、結構です」

 

「いまの間はなんですか?」

 

「なんでもないです」

 

決して青山さんの胸に視線をやったことで、八幡の理性が揺らいだなんてことはない。

 

「さて次はどこへ行きましょうか?」

 

一度気持ちを切り替え、デート(仮)の今後についての話題を振る青山さん。

 

「え、映画終わったから帰るんじゃないんですか?」

 

しかしやはりそこは八幡。

安定の帰宅宣言である。

 

「だめです。珍しく今日は私の編集さん公認の休暇なので、めいっぱい遊ぶんです」

 

「その割りには映画寝てましたけどね」

 

「あ、あはは〜」

 

笑ってごまかす青山さんに呆れた様子でため息をつく八幡。

二人のお決まりのやり取りになってきたような気がするのは気のせいではない筈である。

 

「で、どうしましょうか?時間的にはお昼ですが、八幡は何かいいお店を知ってませんか?」

 

「サイゼですかね?」

 

「却下です」

 

笑顔で即答され、解せぬ、という顔をする八幡。

 

「八幡、仮にも女性と二人でお出かけしているんですよ?そこは男の見せ所だと思うんです」

 

「男女平等論を押す俺はそんな固定観念にはとらわれないんです。なんなら全部女性に丸投げするまであります」

 

「で、どうしましょうか?時間的にはお昼ですが、八幡は何かいいお店を知っていませんか?」

 

「無限ループって怖くね?」

 

八幡は仕方なく、女性受けをしそうな店を頭をフル回転させ探す事にした。

 

 

 

余談ではあるが、結局昼食は青山さんのチョイスした店で済ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後半に続く。(後半もまた難産な模様)
分割しなかったらもう一週間くらいかかりそうだったので分割です。
でも分割したらしたでまた遅れそうな気がーーゲフンゲフン、まあ、頑張って投稿速度を上げます。

そしてこの話を投稿して「あれ?青山さん回多くね?」って思った。
次終わったらメインヒロイン攻略再開するから待って!
マジで!

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