学校行事が忙しかったり、先日まで風邪を引いていたりで、執筆が遅れてしまいました。
空は青く、淀みのない真っ白な雲が少し漂う。
まさにいい天気の典型である。
そんな天気の中比企谷八幡は、引きこもり精神全開で、家でゲームへと洒落込んでいた。
最近は何かとアグレッシブだった八幡だが、やはり根っこのところはあまり変わらないらしい。
「ねぇ、ごみぃちゃん」
「なぁに?小町ちゃん。ナチュラルにゴミ扱いされてお兄ちゃん悲しい」
「いや、こんないい天気なのに家で引きこもってるんだからごみぃちゃんでいいでしょ?そもそも、バイトは?」
「休み」
「また?」
最近は何かと理由をつけてラビットハウスに行けなかったりという事態が多発しているように思われるが、八幡はしっかり仕事をしているし、ばっくれた事も未だにない。
「タカヒロさんはスゲーできる大人だからな。はっきり言うとラビットハウスの集客量ならなんも問題はない。人手が足りなかったら連絡くらいくるだろうしな」
実際、タカヒロさんは倒産目前だった前代マスターの落ち込んでいた経営をその圧倒的な敏腕さで切り抜けたのだ。
高校生のアルバイトが一人二人欠けたくらいで、店がどうにかなる事はない。
「じゃあお兄ちゃん、小町からお願いがあります」
「断る。嫌な予感しかしない」
「お兄ちゃん、まだ何も言ってないのに即答は小町的にポイント低いよ」
「GWのキャンプ強制連行を忘れたとは言わせない」
「それに関しては忘れてほしいな。キャンプのおかげでごみぃちゃんがお兄ちゃんに進化したんだから!」
ごめーんね☆と軽く謝りながら、それでも小町は悪くないとそんな話の方向に持ち込む小町は悪魔に見える。
「それに、今日は普通に小町がお兄ちゃんとお出かけしたいのです!」
「……はぁ、わーったよ」
「やったー、それじゃ、四十秒で支度してね!」
パタパタと小町は自分の部屋へと消えていく。
八幡も重い腰を上げると、ため息をつきながら意趣返しに四十秒以上かけて準備してやろうと考えるのだった。
○
「それにしても、この街は店がわかりやすくていいよな」
小町に連れられ外出した八幡が、この街を見てポツリと感想を漏らす。
木組みの家と石畳の街は、職業ごとに屋根の色が決められているらしく、一目で何を生業としているのかがはっきりする。
「初めて知った時は小町もびっくりしたなぁ。……リゼさんがモデルガンショップをやるとしたら何色なんだろう?」
「きっと迷彩だろ」
「変なお店だね」
迷彩色な屋根のモデルガンショップなど趣味全開すぎて、その手の人間しか寄り付かなそうである。
「で、どこに行きたいんだよ」
「うーん、どこに行きたい、とかはないんだよなぁ。強いて言うなら、お兄ちゃんと一緒にいたい!今の小町的にポイント高い♪」
「帰る」
「わー!待って待って!」
くるりと踵を返した八幡の前に立ち両手を広げて阻止する八幡。
「小町、服欲しいな」
「棒読みに聞こえるのは気のせいか?」
「さて、目的地も決まったしレッツゴー!」
あぁ、めんどくさい。
そんな事を口にできない八幡は小町にどれだけ圧力をかけられているのか、八幡がシスコンなだけなのか。
小町に連れられ服屋にやってきた八幡。
小町は鼻歌を歌いながら服を選んでいる。
だが、小町が見ているのは男性服のみ。
「お兄ちゃん!これ試着してみて!」
「小町、自分の服はーー」
「お兄ちゃんの服がださいから選びに来てんでしょ!」
「えぇ」
八幡はジーンズにTシャツ、上にパーカーと簡単な服装。
八幡的には全然それで構わないのだが、小町的には不合格らしい。
「ほら、今俺金持ってないし」
「なんで持ってきてないの!馬鹿なの?死ぬの?」
「適当に財布ごと持ってきたから中身を確認しなかったんだよ」
金は多少持っていても、服を買うには足りない。
「全く、これだからお兄ちゃんは」
元はと言えば小町がどこに行くかも知らせずに服屋に来たのが悪いのだが、八幡に対してぶつぶつと文句を言っている。
「じゃあ、しょうがない。お兄ちゃん、他のところにーー」
シャッ。
試着室のカーテンの開く音がなぜか二人には大きく聞こえ、ついそちらの方を見る。
「こ、これで大丈夫なのか?」
「いい!いいですよお客様!」
いつもとは一風変わった服装、髪型をしているリゼの姿がそこにはあった。
髪は下ろしウェーブをかけ、いつものようなカジュアルなものではなく、清楚と形容するのが正しい服装。
「………誰だお前」
ぼそりと八幡はそんな事を呟いてしまった。
その声は小さいながらも試着室の前に立つリゼと店員の耳に入ると。
「な、な、なあっ!なんでお前がぁっ!」
「お知り合いの方ですか。どうです?今の彼女の服装!」
さすがは服屋の店員。
目が合った瞬間にポケモントレーナーのごとく有無を言わさず話しかけてくる。
「すごい!すごく可愛いですよリゼさん!いつもの女子(笑)はどこ行っちゃったんですか!」
「失礼だなお前!」
ズバッとものを言ってしまう小町。
だが、そう言われてもおかしくはないくらい、普段のリゼから見れば大変身である。
そんな姿を見られたからかリゼは顔を赤くしている。
「いや、でも、いいんじゃね?そっちの方がラビットハウスに客来るだろ」
「それ完全に店員目当てだろ!」
「リゼさんは元がいいんだからそれなりの格好したらちゃんと女の子ですね!」
「だからお前は私をなんだと思ってるんだ!」
小町が先ほどからグサリグサリとリゼを言葉の刃で攻め立てる。
流石の八幡といえど、そんなSっけ全開の小町にドン引きしている。
「それではお客さま、こちら全部でーーー」
「お前は勝手に買わせるな!いや、買うけど、買うけど!なんか納得いかない!」
リゼは服を買うとそれを試着したまま、元の服を紙袋へ入れ、強制退店させられたのだった。
そのままリゼは小町に捕まり、三人で行動する事になった。
リゼとしては今の格好で知り合いと行動するのが恥ずかしかったのか帰ろうとしたが、小町にがっちりと腕を掴まれ逃げられない。
「いやー、お兄ちゃん、こんな美人さんなリゼさんと行動できるとは男冥利に尽きるんじゃない?」
「いや、普段からラビットハウスで一緒にいるだろ」
「普段は美人さんって言うより軍人さんじゃん」
「否定できないのが悔しい」
だったら普段から女の子らしくしろ、という話なのだが、八幡も小町も黙っておく。
これ以上リゼを弄ると本気で帰りかねない。
八幡としては別にどちらでもいいのだが、小町は八幡と二人で行動するよりはリゼも一緒の方が楽しいのだろう。
「それで、私を捕まえて、どこに行くつもりなんだ?」
「うーん、どうしよう?」
「そもそも何も考えずに出てきたからな」
結局、どこに行くかも決めていない小町だが、小町的にはリゼを捕まえた時点でだいぶ満足していたりする。
「じゃあ、公園の方でうさぎと戯れに行こう!」
「何を今更」
この街ではうさぎなど毎日のように目にできる。
「いいの!普段捻くれてるお兄ちゃんの相手をしてるから、たまには小町にも癒しが必要でしょ」
そうと決まればしゅっぱーつ!とリゼの腕をグイグイと引っ張る小町。
それを後ろから渋々とついていく八幡。
そんな三人に声をかける人が二人。
「リゼさん?」
「へ?」
「あれ、八幡くんと小町ちゃんも!」
チノとココアである。
「あれ?リゼちゃんじゃない?」
「でも、八幡さんと小町さんも一緒にいますし」
普段の格好ならともかく、今の清楚系リゼの姿ではココアとチノにはリゼだと認識できないようだ。
「私、ロゼ、と言います」
こんな姿は私じゃない!とでもいうかのようにさらっと偽名を口にするリゼ。
「でも、リゼーー」
「ロゼと言います」
ゴリ押しである。
問答無用でロゼという架空の人物をでっち上げるリゼ。
「ココアさんにチノちゃん、この人はロゼさんと言って、最近仲良くなった人なんです」
先ほど散々弄った罪滅ぼしからか、リゼの援護に入る小町。
「それにしてもびっくりです。ロゼさんによく似た人がうちの喫茶店にいるんですよ」
純粋なチノは完全にリゼをロゼとして認識してしまったらしい。
「そ、そうなんですか。ぜひ行ってみたいです」
八幡は思った。
お前は誰だと。
清楚な格好で丁寧な言葉遣い。
普段のリゼと比べると完全に別人である。
「ラビットハウスと言います、是非いらしてください」
「小町ちゃんもいつでも遊びに来てね!」
「はい!また遊びに行きます!」
「コーヒーを飲みに来いよ」
完全に友達の家感覚でラビットハウスに遊びに来られても八幡としては小町に黒歴史をバラされかねないのであまり喜べないのである。
それでは、とチノは礼すると歩き出す。
ココアは名残惜しそうにしながらも手を振って別れを告げる。
小町もロゼの正体がばれるのを防ぐためにココアたちを引き止めはしない。
「ふぅ、助かった」
「名演技だったな。さすが演劇部の助っ人」
「まあ、あれくらいなら」
「で、ロゼさんはどうやってリゼのいる時にラビットハウスに行くんだ?」
「……もうロゼが現れる事はない」
その場しのぎで適当な事を言っていたため、その先のことを考えていなかったという風なリゼ。
「え、もうロゼさんはいなくなっちゃうんですか?」
「そうだ、ロゼがいなくなるのは寂しい」
小町と八幡はロゼという名前を連呼する。
その度にリゼは顔を赤くしプルプル震えている。
「ロゼの名前で呼ぶなぁ!」
自分で決めた偽名だというのに何を恥ずかしがっているのやら、とさらに追撃をかけながら三人は公園に足を運んだ。
いつもの公園。
うさぎ達の憩いの場でもあり、人間たちの静かに落ち着く場所でもある。
「いやー、もふもふだよ。癒されるよ」
小町はうさぎを抱き上げ、ほおに擦り付けている。
八幡はそんな天使な小町スマホで激写。
「おい、そこのシスコン」
「なんだよ」
「変態にしか見えないからやめとけ」
「兄が妹を愛するのに周囲の目なんか気にしてられるか!」
「お兄ちゃんキモいよ」
どこまでシスコンをこじらせれば気がすむのか、八幡はリゼに指摘され渋々小町を撮るのを止める。
パシャリ。
「おい、今何を撮った?」
「何って、ロゼだけど」
小町の代わりにといった様子で八幡は自然な流れでリゼをカメラに収める。
「消せ!」
「断る」
ダッシュで逃げる八幡とそれを追うリゼ。
だが、いつもと違って今のリゼは走るのに向かない服装。
当然八幡に追いつけるわけもなく、逃してしまう。
「あら?八幡さん」
「……青山さん」
リゼが落ち着くまで身を隠してようと公園内をぶらついていた八幡に、青山さんが話しかける。
キャンプが終わってから始めての邂逅。
八幡としてはあまり会いたくないというよりかは、気まずい相手ではあった。
「この間キャンプで、ほとんどずっと一緒にいたのに、久しぶりな感じがします」
「その節はお世話になりました」
ーーあなたのおかげで俺は変われた。
内心では青山に礼を言っているが絶対に口にはしない八幡。
これが八幡が捻デレと呼ばれている原因の一つなのだろう。
「そうだ八幡さーー、八幡は《うさぎになったバリスタ》の映画、見てくれたんでしょうか?」
ついに公開しましたよ!と自慢げに話す青山さん。
八幡は呼び捨てにされた事に一瞬戸惑うが、すぐに正気に戻ると質問に答える。
「いや、まだっす。でも、絶対見に行きます」
「ちなみに、私はまだ見てません」
「え、原作者なのに?」
普通は、原作者が制作現場に立っていろいろと指摘するものなのではないだろうか?
「私は、映像化が楽しみで、出来るまで私は見ませんって言ってしまったんです」
「劇場でみたいって事ですか?」
「はい。ですから、キャストの皆さんにはお会いしたんですけど、どんな映画に仕上がっているかはまったくわからないんです」
今時珍しい事をしているが、自分の書いている小説が映画かともなればそれなりに嬉しいし、見るのが楽しみにもなるのだろう。
「そうだ、八幡さーー、八幡、今度一緒に見に行きませんか?デートのお誘いというやつです」
未だ呼び捨てには全然慣れていないようで、毎回言い直している青山さん。
八幡としては呼び捨てにされた事などまるで頭に入らず、デートに誘われたという事実しか頭に入ってこなかった。
「ちょうど私はペアチケットを監督さんから渡されたんです。編集さんと見たらいかがですかって」
「じゃあ編集さんを誘いましょうよ」
「いえ、私は八幡と一緒に見たいんです」
「なんでそんな強情なんすか」
別に八幡でなくとも構わないし、それこそ編集を誘えばいいのではないだろうか?
「編集さんと見るよりも、ファンの方と見た方が、嬉しいからです」
読者を大切にするその姿勢に八幡はすこし感動した。
「分かりました。ご一緒させてもらいますね」
「はい、楽しみにしてますね」
デートの約束を取り付けた八幡。
青山さんもどことなく嬉しそうな顔をしている。
お兄ちゃーん。
不意に、そんな八幡を呼ぶ小町の声が聞こえた。
「っと、妹が呼んでるんで、俺は行きます」
「そうですか。ではまた」
手をひらひらと振る青山さんに、会釈をする八幡。
「青山さーー、“翠”。映画、楽しみにしてますね」
「ふふっ、ありがとうございます」
八幡は人生初のデート!と一瞬喜びかけたが、よくよく考えれば青山ブルーマウンテンの近しいファンなら誰でも良かったわけで、と、ネガティヴな思考に陥ったのだった。
ちなみに言っておきますと、未だ青山さんは八幡に恋愛感情を抱いておりません。
リゼもまだグレーゾーンといったところでしょうか。
まぁ、好意を抱いているのは確かなので落ちるのも時間の問題かな、といったところです。
逆に既に落ちているのはココア、モカ、チノ、ギリギリ千夜くらいですかね?チノはもう少し明確なイベントを書くつもりです。
今回執筆が遅れてしまいましたが、決してエタッたわけではございませんのであしからず。
感想評価お待ちしております。