ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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あの、前回のヤンデレ回。
いつもの倍くらい感想来たんだけど。
もっと批判が飛んでくると思ったら、そうでもなし。

あれ?ハーメルンはヤンデレ好きが多い?

これはヤンデレエンドも書くしかないか!(使命感)


第二十羽

ほくほくと、もわもわと、ラビットハウス内でなんとも美味しそうな香りが充満している。

 

現在は、ココアがラビットハウスの新メニュー開拓のためパンの試作を作っている最中である。

 

その匂いに空腹感を覚える八幡。

思えば、ベーカリー保登でもこんな美味しそうな匂いを感じていたなぁと八幡は思い返す。

 

くぅぅ。

 

不意に、そんな小さく可愛らしい音が音が八幡の耳に入ってきた。

とても小さな音で、店内に客がいれば気がつかなかっただろう。

 

音の発生源は?と店内を見渡すと、若干顔を赤くして、さりげなくお腹を押さえているチノが目に入った。

 

「出来たー!」

 

オーブンのあるキッチンの方からココアの元気な声が聞こえてくる。

流れから察するにパンが焼けたのだろう。

 

パンしか焼けないココアだが、パンに関しては一流半のココア。

味は保障されていると言っていい。

 

「みんな!パンの試食をしてくれない?」

 

ココアが焼きたてでいい香りのするパンを複数持ってくる。

八幡だけでなく、リゼとチノもその香りに食欲をそそられている。

 

だが、チノとリゼは、ハッ、と我に帰ると、

 

「今日はちょっと」

 

「私も結構です」

 

パンの試食を断った。

 

「じゃ、俺はもらうな」

 

あち、とパンの熱さに少し手間取りながらも八幡はパンを口に運ぶ。

 

「ん、うまいな。さすがココアパンだけはよく出来てる」

 

「えへへー!……あれ?パンだけ?」

 

「そんなことより、リゼとチノはいいのか?」

 

「そうだよ!いつも食べてくれるのに!」

 

さりげなく話題をそらす八幡。

ココアはちょろいので基本的にこれだけで誤魔化されてくれるのだ。

 

「「食べたい気分じゃ……」」

 

「私にはもう飽きたのね!」

 

言葉だけだと勘違いを生みそうなセリフを吐くココアに呆れる八幡、チノ、リゼ。

 

「私じゃあ、食べきれないし……」

 

チラッ。

 

ちらちらと八幡の方を見るココア。

その目は懇願するような目。

 

普段のポンコツココアならば八幡は断れるのだが、こうなると八幡は弱い。

 

「はぁ、まぁ、おれが食べるからいいよ」

 

「ありがとう八幡くん!私も頑張るから!」

 

ココアはそう言って自分の作ったパンを口いっぱいに頬張る。

頬がハムスターのように膨らむココア。

 

一体何がしたいのか、八幡は呆れながらも、八幡の最近の楽しみであるココアパンの試食をするのだった。

 

 

 

そして、ココアの挑戦は続く。

 

ある日は

 

「甘くなくて低カロリーなパンを作ったよ!」

 

味やカロリーに工夫をしてみたり。

 

「ふむ、うまい」

 

だが、八幡しか食べず敗北。

 

ある日は

 

「出来立てホカホカのパンだよ!」

 

フランスパン、ロールパンなどパンの定番を詰め合わせたもの。

 

「うまい」

 

これもまた八幡しか食べず敗北。

 

メロンパン、ロールパンなどの菓子パン。

 

「ムグムグ」

 

八幡しか(ry

 

「こ、今度こそは!」

 

涙目のココアは更に工夫を凝らす。

 

コロッケサンド等の惣菜パン、一口で食べられるお手軽パン。

 

だがやはり、チノとリゼは口にしなかった。

 

 

 

「チノちゃん口開けて!」

 

そして、パン以外の要因を探ることにしたらしいココア。

ココアはチノが虫歯かどうかを疑っているようだ。

 

「……リゼ、お前はいいのか?」

 

「な、なにがだ?」

 

八幡はココアがチノに気を取られているうちに小声で話しかける。

 

「お前は虫歯だろ?」

 

「……そ、そそ、そんなわけないだろ!?」

 

「分かりやすすぎだっつーの」

 

八幡に指摘され逃げ場はないと悟ったリゼは手を挙げ降参のポーズ。

 

「リゼのパンを食べない理由はなんとなく分かったんだが、チノの方はわかんないんだよな」

 

「……チノも虫歯じゃなくてか?」

 

「チノはお前と違って甘いものを食べ過ぎたりしてないだろ」

 

「なんだと!私がお菓子大好きで、歯磨きもちゃんとしないズボラだって言いたいのか!」

 

「そこまで言ってねぇよ」

 

だが、実際丁寧に歯を磨いていれば虫歯になんてならないわけで。

しかし、それを口にすると八幡はCQCでもプレゼントされそうなので心のうちに止めおく。

 

「チノちゃん!歯医者は行かなきゃダメだよ!」

 

ココアの中ではチノが虫歯であると断定されたらしい。

 

「リゼちゃんは、十分痩せてるんだから大丈夫だよ!」

 

リゼはダイエットに勤しんでいると勘違いされているらしい。

 

迷推理にもほどがあると一瞬考えたが、あながち間違ってもいないことに気がついた八幡。

 

「リゼ、歯医者行けよ。なんかココアが不憫だ」

 

ココアは二人が自分の作ったパンを食べてくれないことですでに涙目。

それを流石にかわいそうだと感じた八幡はリゼに歯医者に行くことを勧める。

 

「うっ。……歯医者、音、怖い」

 

「銃声を嬉々として聞く人間がなにを言ってるんだ。お前も軍人ならシャキッとしろ」

 

「う、うぅ〜。あの音だけは、あの音だけはダメなんだぁ」

 

リゼの普段とは違って弱々しい姿を初めて見た八幡。

なんともめんどくさい奴だと考えてしまったが、人には苦手な物の一つや二つは存在しているのだから仕方がないと割り切る。

 

バン!

 

唐突にラビットハウスの戸が開けはなたれる。

扉から入ってきたのはシャロ。

まだ学校の制服を着ているところを見るに学校から直でここにきたようだ。

 

「リゼ先輩!私が低カロリーお菓子を作ってきました!」

 

いつの間にかリゼがダイエット中だという噂が広まったらしく、シャロが助太刀にやってきた。

 

「………」

 

だが、リゼはシャロの持ってきたお菓子を物凄い眼力でひたすら睨むだけで、手をつける様子もない。

 

食べたくとも歯が痛くてそれどころではないのだろうが、シャロはそれを勘違い。

 

「ひ、貧乳ぽっちゃりは去りますー!」

 

「しゃ、シャロさんは太ってなんかないです!」

 

勘違いして逃走しようとしたシャロに意外にもチノが待ったをかける。

 

「私のほうが……」

 

しょぼんと、自分の体を見下ろすように顔を俯かせるチノ。

 

そしてその行動で八幡はチノがダイエットに勤しんでいたのかと理解した。

 

「分かったよ、食べるよ」

 

一方リゼはココアに泣きつかれ、渋々とお菓子、パンを口に運ぶ。

 

すると途端にリゼは口を押さえてしゃがみ込む。

 

「え?」

 

ココアはこの一連の流れを見て全てを察したようだ。

 

「え、えと、チノちゃんがダイエットをしてて、リゼちゃんが虫歯だったの!?」

 

チノなんて太ったなどと気にするような体型はしていない。

リゼは単純に歯医者に行きたくないだけと面倒な理由。

 

つまるところ、今回に関してはココアが何か騒ぎを起こしたわけではない。

頭の片隅でココアを疑っていた自分を戒める八幡。

 

「チノは太ってなんかないだろ?」

 

「ココアさんは私のことをふわふわとかふかふかって馬鹿にするじゃないですか」

 

「私のせい!?」

 

前言撤回である。

おもっくそココアが原因でチノが食事制限をしていたようだ。

 

「先輩、歯医者行きますよ!」

 

「や、やめてくれぇ!」

 

ラビットハウスの玄関口ではシャロがリゼの首根っこを掴んで歯医者に連行しようとしていた。

 

「シャロ」

 

「なに?」

 

「は、八幡!」

 

歯医者にリゼを連行しようとしたシャロを八幡は呼び止める。

リゼは救世主!とでもいう顔をして八幡を見る。

 

「しっかり連行しろよ」

 

「もちろん」

 

「う、裏切り者ーー!!!」

 

そもそもリゼの味方などしていなかったのになんて言い草だと八幡は内心文句を言うが、シャロならばきちんと歯医者に連行してくれるので、報いにはなるだろう。

 

「……八幡さん」

 

「どうした?」

 

八幡のそばにより、小さめの声で話しかけるチノ。

 

「私、太ってませんか?」

 

「太ってねぇだろ。チノで太ってたら世界の半分以上が肥満だろ」

 

「ほんとですか?」

 

「嘘なんかつかねぇよ」

 

八幡にお墨付きを貰いホッとするチノ。

女の子的には体重の増減は死活問題。

たとえ中学生のチノであろうと変わりはしない。

 

そんなこんなで、騒がしい(主にココアのせいで)ラビットハウスの一日は終わりを迎えた。

 

 

 

ラビットハウスでの仕事を終え、八幡は一人帰路についていた。

 

夕日が登り、周りが赤く染まり始めているようにも思える時間帯。

 

リゼはシャロに連行されたまま、帰らぬ人となったため、八幡一人での帰宅。

 

だが、そんな八幡を追いかける人影。

八幡は、すぐに逃げ出そうとーー、

 

「ちょっ!?ま、待ってよ八幡くん!」

 

不審者かと思いきやココアだった。

 

「どうした?なんでそんな疲れてんの?」

 

「八幡くんが逃げようとするなら急いだんだよ!」

 

もーっ、とココアは怒ってるアピールをするが、八幡的にはあざといの一言に尽きる。

 

「で、どうした?」

 

「はい、これ」

 

ココアが八幡に差し出したのはパンのたくさん入ったカゴ。

 

「余っちゃったから、八幡くんにおすそ分け。小町ちゃんと食べてね」

 

「サンキューな」

 

八幡としてはそこらの市販のパンよりも美味しいココアのパンを食べられるのは嬉しいので、素直に礼を言う。

 

「お礼を言うのは私の方だよ」

 

「なんでだよ」

 

八幡としては礼を言われるようなことなどしていない。

そんな状態で礼を言われても嬉しくもなんともない。

 

「八幡くんは、チノちゃんとリゼちゃんが私のパンを食べなかった時、ずっと一人美味しそうに食べてくれたから」

 

「そんなことで?」

 

美味しいものを美味しいと言って自分の好きなだけ食べただけの八幡なのだが、ココアとしてはそれは非常に嬉しいことだったようだ。

 

「そんなことじゃないよ!私、嬉しかったんだよ?二人が私のパンを食べてくれなくなって、私のパンが嫌われたんじゃないかって思ったけど、八幡くんは一人美味しそうにたくさん食べてくれたの、嬉しかった」

 

面と向かって、真剣な顔でココアにこんなことを言われたのは初めてかもしれないと、八幡は思った。

 

「別に、大したことじゃないだろ」

 

「でも、何かお礼をさせて欲しいな」

 

「じゃあ、またパン作ってくれ。それでいい」

 

「そんなんじゃなくても、なんでもいいんだよ?」

 

そんなこと言われても、八幡はココアに個人的なお願いなど持っていない。

強いて言うならもう少し落ち着いて行動してほしいという事くらいである。

 

「いや、特にないな」

 

「えぇ!?」

 

ココアとしては八幡にお礼をしなくては気が済まない。

なんとか、自分にできる八幡への礼を考えてーー、

 

「八幡くん」

 

少し、緊張感のある声で、ココアは八幡の名を呼んだ。

 

「どうしーー」

 

どうした?と返答しようとしたところで、八幡は言葉を詰まらせた。

 

八幡は自分の頬に何か柔らかいものが当たる感触がして、ココアの顔が八幡の顔のすぐそばにある。

 

つまりは、そういうことだ。

 

「………今はこれぐらいしか、私には出来ないけど、もっと、ちゃんとしたお礼、考えてくるっ」

 

夕日のせいか、顔を真っ赤に染めたココアは、そう言い残すと一目散に去っていった。

 

そして、その時のココアの顔に負けず劣らず、八幡の顔も赤く染まっていた。

 

 




ココア回でしたね。
あれ?頬とはいえキス一番乗り?
いや、チマメが一番だったら犯罪臭ヤバイんだけどね。

さて、次は誰を攻略しようかな?

感想評価待ってまぁす!

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