いや、一発ネタの短編を書いてたら遅れてしまったのです。
「俺、そんなに変わったかな?」
「家に押しかけてきたと思ったら何よ、いきなり」
今度こそちゃんとした休暇をもらった八幡は、周りから変わった!と言われるので、それを確かめようとシャロの家を訪ねた。
これも以前の八幡ならばありえない行為だろう。
休日に、女子の家に遊びに行く。
以前の八幡が聞いたならば「なにそのリア充」などと口走っていることだろう。
「変わった?八幡ね、人っていうのはそんな簡単にーー」
変わらない。そう言いかけたシャロだが、一度よく考えるようにしながら八幡を観察する。
そして、言い直すように口を開く。
「八幡、なんか変わった?」
「いや、それを確かめに来たんだよ」
「じゃあ、変わったと思うわ。何かあったの?まぁ、変わったって言っても…雰囲気が柔らかくなった程度だけど」
「まぁ、色々あったんだよ」
色々ねぇ、と何があったか考えるシャロ。
男が変わる理由。
それは何時だって女が起因だ。
果たしてシャロはその答えにたどり着けるのか。
「……小町ちゃんに怒られた?」
「確かに小町に怒られたら変わらざるをえないが違う」
「チノちゃんにーー」
「それも違う。お前は一体俺のことをなんだと思ってるんだ」
「え?シスコン」
「正解だけど腑に落ちねぇ」
確かにシスコンだけれども、妹に弱いけれどもとぶつくさ文句をいう八幡。
実際シスコンなので否定はできないのだが、何でもかんでも妹が関係しているということはない。
「……彼女でもできた?」
「………俺に、いると思うか?」
「思わないわ」
シャロの無慈悲な一言にぐっさりとハートを傷つけられた八幡。
平塚先生ほどではないが、彼女いない歴=年齢の八幡はその辺少しナイーブになっているのだ。
「そもそも彼女ができたくらいじゃ俺は変わらん」
「そうかしら?意外とコロっといきそうなイメージよ?」
確かに昔はそうだったのだが、ことごとくリアルに裏切られてきた八幡はすでに脱チョロインに成功しているのだ。
「俺は小町以外の尻に敷かれるつもりはない!」
代わりに、激シスコンの称号を手にしたが、それは言わないお約束である。
「そういうことじゃないんだけど。……まぁ、このままだと真相に近づける気がしないから、ここらで追求はやめにするわ」
「それが賢いと思うな」
「あんたが変わったかって聞きにくるから理由を聞いたのよ!?」
「……そういえばそうだったな」
「目的見失ってんじゃないわよ。………それより聞きたいことがあるんだけど」
今度はシャロからの質問。
八幡は質問をしに来た側なので、その対価としてこちらも質問に答えるのは当然のことであると考えているので、コクリと頷いて肯定の意思を示す。
「なんで私のところに来たの?」
「………それは、遠回しに早く帰れって言ってるのか?」
「そうじゃなくて!なんで私に変わったかを聞きに来たの?リゼ先輩とかの方がいい気がするけど」
なんとも答えにくい質問が飛んできたものだと八幡は質問することを許可したのを後悔した。
「……なんで?……うーん。……強いて言うなら」
「言うなら?」
「最初はシャロにすべきだと思ったからだな。……まあ、チノにはすでに聞いたけど」
八幡にとってはシャロは初めての友達であるし、八幡が変わるきっかけの存在である。
未だ人を信じられなかった八幡の心の扉を開けたのがモカと青山さんであるならば、扉の鍵を開けたのがシャロである。
ならば、自覚は薄いとはいえ、変わった自分を最初に見せるべきはシャロだと無意識に感じていたのかもしれない。
「……まぁ、深くは聞かないことにしといてあげるわ」
「そうしてくれるとありがたいな」
「それにしても………雰囲気は変わったのに目は変わらないのね」
雰囲気が変わったならば目も変わってもよさそうなものだが、頑固汚れのようになかなか取れないようである。
「ふっ、これは呪いで、俺を一生養ってくれる人が現れないと治らないんだ」
「何バカなこと言ってるの?そんな人いるわけないじゃない」
「ふっ、舐めるなよ?養ってくれそうな人なら既にいるんだ!」
「うそ!?」
青山さんの事ではあるが名前は伏せておく八幡。
ここで名前を出しておいて、青山さんから後で「何の話?」なんて言われた時に言い訳が効くようにしているあたり八幡はヘタレである。
「……その人に何か言われて変わったの?」
「ち、違うぞ?」
大正解である。
何かを言われたわけではないが、その人のおかげで変わったことには違いない。
わずかな情報量の中、正確に答えにたどり着くシャロは探偵のようである。
「まぁ、恋をすれば人は変わるって言うしね」
「……恋?」
「違うの?」
「違うな」
確かに養ってくれるみたいなことは言っていたが、モカに恋人でもないのに!と指摘されていたことを思い出す。
つまり八幡も青山さんも互いに好意は抱いているが、それが恋愛感情であるなどとは言っていないし、八幡からすれば青山さんに好かれるようなことをした覚えもない。
「なんだ、恋じゃないの」
「なんで残念そうなんだよ」
「女子校に通ってるとそういう話題から離れるのよ。すると、知り合いの恋バナとか面白そうじゃない?」
「お前、意外に黒いのな」
八幡はずっとシャロのことを気が利き、空気も読め、なんでもできる完璧少女だと思っていたのだが、そんなシャロにも黒い部分があるということに驚いた様子。
「いつも周りのお嬢様たちと話題を合わせてるのよ?気の許せる友達の前でくらい愚痴を言ったっていいでしょ」
「苦労してるのな」
「本当よ」
そんなたわいもない話をしているとトントントンと戸を叩く音が玄関から聞こえる。
「はーい」
シャロが立ち上がり玄関へ向かう。
程なくして、シャロが戻ってくる。
「千夜の帰りが遅くて千夜のおばあちゃんが心配してるから探しに行くわ。八幡も来なさい」
「………お前、ほんと苦労してんのな」
学校ではお嬢様に話を合わせ、家では千夜が暴走しすぎないように手綱を握る。
八幡は次シャロの家に来たならば、たくさん愚痴を聞いてやろうと、そう決めた。
○
千夜を探しに、川の土手を二人歩く八幡とシャロ。
「で?なんでこんなところに?」
「球技大会がもうすぐあるって言ってたからココアと練習してるんじゃないかって思って」
それならば運動が不得意なイメージの千夜が土手などにいても不思議ではないなと納得する。
数分歩いていると、シャロの予想通り土手下でバレーの練習をしているココア、千夜、チノ、リゼがいた。
「千夜!帰りが遅いっておばあさんが心配してたわよ!」
土手の上から千夜に声をかけるシャロ。
八幡とシャロは千夜を探しに来ただけなのだが、千夜から見ればまるでーー、
「あら?シャロちゃん、八幡くんとデート?」
とんでもない爆弾を千夜は投下した。
「「「「「ええっ!?」」」」」
八幡、シャロだけではなく、下にいたココア、リゼ、チノまで驚きの声を上げる。
「おばあさんに言われてアンタを探しに来ただけよ!」
誤解を生む前に真っ先に否定に入るシャロ。
その顔は日が傾いてきたからかはわからないが少し赤みを帯びていた。
なーんだ、とつまらなさそうな顔をする千夜。
八幡とシャロからしたらちっともつまらなくない。
「そうだ!八幡くんとシャロちゃんもバレーやろうよ!」
そんなココアの誘いの結果。
ココア、シャロ、チノvsリゼ、千夜、八幡の構図が出来上がった。
「「なんでこんなことに」」
八幡とシャロのため息が重なった。
「ココア、リゼ先輩に勝てる気がしないんだけど」
「リゼさんは運動神経がいいですからね」
「大丈夫!これを使えば!」
と、どこからか缶コーヒーを取り出すココアを尻目にリゼにこの集まりの目的を八幡は聞くことにした。
「リゼ、この集まりの目的は?」
「千夜の練習だ」
「よろしくね、二人とも」
つまり、八幡とリゼは千夜のサポートに回ればいいのだろう。
「さあ、じゃあ始めるよ!」
ココアの開始の合図と共に練習試合?が開始。
「バレーボール大好きー!」
「千夜!」
カフェイン酔いしたシャロから、サーブ。
アンダーによる山なりの軌道なので、危なげなく八幡がレシーブ。
「え!?……えいっ」
八幡としてはトスをして欲しくて千夜にボールを渡したのだが、その予想に反して、千夜はスパイクを放つ。
「ふぎゃっ」
放たれたボールはココアの顔面へ吸い込まれるようにして直撃。
「……リゼ」
「ああ、そのための練習だ」
なんとなく状況を察した八幡。
どうせ、千夜の放つスパイクは全てココアの頭部に当たるのだろうと勝手な推測をした八幡だが、間違っていないので、リゼも八幡の言わんとしていることを察して肯定。
次はリゼからのサーブ。
そのボールはチノに向かっていくのだが、それをココアが横取り。
「チノちゃんにいいところを見せるんだぁ!」
「へーい!」
ココアの強引なサーブレシーブからシャロがスパイク。
八幡はトスって知ってる?と言いたくなったがぐっとこらえ、レシーブ。
今度はリゼに。
「千夜、リゼのを見とけ!」
パスッと短く音を立てリゼはトス。
八幡に上げられたトス。
それを八幡は誰もいないところを確認して相手コートにスパイク。
「今のリゼのやつをやろう」
「私にできるかしら?」
「私たちが千夜に取りやすいボールを回すよ」
八幡チームは全員協力して頑張ろう!的な雰囲気を醸し出している反面、ココアチームはソロプレイ。
シャロはカフェインにより暴走。
ココアもチノにいいところを見せるため暴走。
チノは未だにボールに触れていないという謎な状態である。
「あの、ココアさん、みんなで協力ーー」
「待ってて!私が頑張って逆転するから」
「聞いてない!?」
そんな感じで試合は再開。
再びリゼのサーブから始まり、ココア、シャロのアグレッシブな動きでボールが帰ってくる。
「千夜!」
八幡は本当にぼっちなのかというレベルでチームスポーツであるバレーの完璧なレシーブを決める。
ボールは高く上がり、山形の軌道を描いて千夜の元へ。
「えいっ」
今度はスパイクではなく、しっかりとしたトスを上げることに成功する千夜。
「リゼ、もう帰りたいから決めてくれ」
「うおおおおぉぉ!」
八幡の声援?を受けパシンと音を立てボールを打つリゼ。
そのボールはココアたちのコートに落ちる。
「やったな」
「できたじゃないか!」
「八幡くん、リゼちゃん、ありがとう!」
ココアとシャロは二人でボールを追いかけ回ったせいか疲労により撃沈。
今日はそのまま解散することになった。
バレーの練習も終了し、解散後、やはり八幡はリゼと帰路につく。
「なんか、帰るときっていつもお前と一緒な気がするな」
リゼの感想に八幡も確かに、と感じながら口を開く。
「家の方向が同じなんだからそうもなるだろ」
「………そういえば八幡。お前、雰囲気とか変わったな」
「やっぱ変わってんのか」
みんなから言われるなぁと、そんなに変わったかなぁと自覚があまりない八幡。
変わった原因に心当たりがあっても、何かを変えた覚えはないのだからそれも仕方がないことではあるが。
「ぼっちオーラが薄まったよ」
「おい、微妙に変わってねぇだろ」
「いやいや、変わったよ。今なら……小悪党から皮肉屋の騎士くらいにはなれるさ」
いつぞやの帰り道に話したことの続き。
小悪党から皮肉屋の騎士にランクアップしたらしい。
だが、まだまだ王子様とは程遠い。
「そもそもお姫様が逞しいんじゃ、その騎士の出る幕もないだろ」
「不埒者はCQCで成敗してくれる!……みたいな感じか?」
八幡の言葉にノリノリで答えるリゼ。
「なんならお前が王子様で俺が………給仕の召使い?」
「お前は私の助けなんか必要なさそうだけどな」
「お互い様だ」
だから二人は対等な関係であり、今も互いを支えるような関係なのだろう。
そして、いつもの、八幡とリゼが別れる場所。
だが、今回は言葉なく別れる。
バトル漫画にありがちな「もはや言葉などいらぬな」みたいな状況に他の人間が見たら驚くことだろうが、八幡とリゼは当然のようにそのまま歩き去っていく。
でもやはり、二人は口に笑みを浮かべて去っていくのだった。
遅れたのにこのクオリティ。
マジですいません。
………誰か私の書いた短編の続き書かへん?
ダンまち+このすばなんだけど(丸投げ)
感想評価待ってまぁす!