ごめんなさい。
今章ラストです!
キャンプファイアー。
それは、キャンプをする上で欠かすことのできないイベントである。
二日目も滞りなく過ぎ、辺りは暗くなっている。
そして、キャンプの花、キャンプファイアーの時間である。
すでに参加者はぞろぞろと集まっており、八幡たち運営側はキャンプファイアーのための薪、火種の作成に奔走していたが、それも終え、残りは火をつけるのみとなっていた。
八幡、モカ、青山さんの三人は一通りの仕事を終え、点火を見守れば今日の仕事は終わりと言い渡されているので、少々暇をしていた。
「二日目もそろそろ終わりですね」
不意に青山さんがそう口にした。
「…そうですね」
八幡と青山さんはまだしも、モカは普段会おうとしても会えない場所。
少し物悲しさがあるのかモカの顔は陰りを見せる。
「モカさんはこの辺に住んでいるんでしたね。すると、次お会いするのはいつになるか。さみしいですー」
「モカの家はあのパン屋だから遠いな」
木組みの家と石畳の街からベーカリー保登までは車でも数時間はかかる結構な距離だ。
「八幡くん、キャンプが終わっても私たちの関係は終わったりしたいよね?」
「いや、どんな関係だよ」
「……八幡くんが私の胸に顔をうずめるぐらいの関係?」
顔を赤らめ恥ずかしがりながらもモカは具体的に関係性を口にした。
それを聞いた八幡も顔を赤くし、目線を左右に泳がせてから、弁解しようとする。
「い、いや、確かに間違ってない。間違ってないが説明不足だろ」
「うーん、じゃあ友達」
渋々といった様子でモカはそう口にする。
「なんで不満そうなんだよ。俺と友達は嫌だってか?傷ついちゃうだろ」
「そうじゃないよ。私は八幡くんと友達以上の関係を望んでいるんだよ!」
八幡はその言葉の意味を考えるように黙り込んでから、少し間を開けて現状と対比する。
「少なくとも、胸に抱かれた時点で友達の域は超えてる気がするな」
「すると、私たちは……親友?」
「俺は出会ってすぐの人間を親友と呼べるほど馴れ馴れしくないんでな」
出会って三秒で友達がモットーのモカの妹を知ってるけどな、と八幡は内心考えながらもモカとの関係を考える。
友達?確かに親しい間柄にはなった。
だが、それは八幡とモカとの関係を表すのには少々適切ではない。
親友?八幡も言っていた通り、それにしてはお互いを知らないし、共にいた時間も少ない。
恋人?互いに一定以上の好意を向けてはいるが今の所八幡はモカに恋心を抱いてはいない。
「俺とモカの関係はーー」
八幡が口にしようとした瞬間、ブワァッと一気に辺りが明るくなった。
「……キャンプファイアー、始まったね」
いつの間にか青山さんは八幡たちのそばから離れ平塚先生の方にいた。
その気遣いに八幡は感謝しつつ、控えめにモカの手を取る。
モカは八幡らしくないそんな行動に驚きつつ、控えめに握られた手をしっかりと握り直す。
「踊ろう、八幡くん」
「ああ」
周りはすでに輪になったり踊ったりとキャンプ最後の夜を思う存分に楽しみ始めている。
八幡は踊り方なんて知りはしない。
そもそも一緒にダンスを踊ってくれるような友達がいなかった八幡に踊りをしろという方が酷なのだ。
だから踊りの主導権はモカが握っている。
だが、モカはそれがひどく嬉しかった。
捻くれていて、自分が信じられなくて、他人も信じられない。そんな八幡に踊る時だけでも頼られているということが。
八幡はモカが背を押さずともいずれは自らの力で前に進んでいたのだろう。
それを昨夜モカと青山さんが強引に背を押した、手を引いた。
だが、八幡は少しずつ前に進んでいた。
それにモカは気が付いている。
それでも、自分の姉としてのちっぽけなプライドが八幡の背を押させた。
いつも弟妹を相手にしていた時ははっきりと言えた「お姉ちゃんに任せなさい」という言葉が、八幡を前にして言えなくなった。
八幡ならばモカに頼らずとも前に進める。
それがひどく悲しかった。
いつも"頼られていた"モカが、"頼って欲しい"そう思った。
頼られたい。それがモカの姉としての誇示。
頼りたがらない八幡に頼られたい。
姉として頼られたい。
姉としてではなくでも、頼られたい。
モカは八幡の背を借りた。
なら、次は自分が背を見せる番だとそう自分に言い聞かせ、昨夜必死になって八幡の心を開かせた。
それが八幡にとってどう影響を与えたのかは分からない。
でもーー、
「うおっ、わ、悪い」
「ううん。楽しいからいいの」
少し申し訳なさげに笑う八幡を見て、モカは姉としてではなく一人の人間として頼られることを覚えた。
前日は頼ることを教えられ、今日は頼られることを教えられる。
こんなモカにとって革新的な二日間はモカにとって初めてで刺激的だった。
「八幡くん、次は足を右に」
「お、おう」
ぎこちないながらも少しずつ踊りを覚えようと努力する八幡。
そんな八幡を優しく微笑みながら指導するモカ。
(ああ、そうだ。私が欲しい八幡くんとの関係は)
頼り頼られ、隣に立つ。
どちらかが足を止めても手をとって引っ張りあっていけるような関係に。
きっと、その関係の上位互換が夫婦なのだろう。
でも、モカは多くを望まない。
今はまだーー、
「八幡くん」
「なんだ?今話しかけられると足踏んじゃうんだけど」
なんとも格好悪い八幡。
そんな八幡でも好きになってしまったのだから自分の負けだとモカは思った。
「私、君のパートナーになりたい」
その時のモカの顔は、キャンプファイアーにも劣らない、明るく美しく、輝いていた。
○
翌日、キャンプも終わりを迎える。
すでに小中学生は帰宅用のバスへ乗り込み出発してしまった。
八幡、青山さん、平塚先生も、車へ乗り込む前に、モカへと別れを告げようとしていた。
「すまなかったな、比企谷の相手、疲れなかったか?」
「平塚先生、俺のことなんだと」
「ヒモ志望のダメ人間」
「くっ、間違ってないから言い返せない」
そんな二人のやりとりを見てくすりと笑うモカ。
「いいなぁ静ちゃん。楽しそうで」
「む?お前も教師を目指してみるか?こんな問題児がいるから中々大変だぞ?」
「確かに大変そうだね」
「おい、認めちゃうのかよ」
軽口を叩く三人はまるで本当の姉弟のように青山さんには見えた。
「寂しくなっちゃうなぁ。この二日間が楽しかったから」
「なら、今度はお前がこっちに来ればいいだろう」
「それだぁ!」
平塚先生の提案に名案!とばかりに反応するモカ。
木組みの家と石畳の街にモカが来たら、なんて八幡は想像してしまう。
八幡の頭の中ではなんとも賑やかになること間違いなしな絵面が浮かんだ。
「青山さんもありがとうございました」
「いえいえ、私こそ楽しませていただきました」
一時はバチバチと火花を散らしあった二人だが、今は二人とも別れを惜しんでいた。
「……負けませんよ」
これはきっと、婚期を逃さないための女の戦い。
その宣戦布告。
「ふふっ、こちらこそ」
ぐっ、と硬く握手を交わす青山さんとモカ。
その姿は親友のように八幡の目には写った。
「八幡くん。楽しかったよ、ありがとう!」
「いや、こっちも礼を言わないといけないようなことしてもらったから」
一通り挨拶を終えると三人は車へ乗り込む。
最後に車の窓を開けそれぞれが一言ずつ。
「じゃあな、モカ。達者でな」
「お元気で」
平塚先生と青山さんがそうモカに伝えたところで、モカはあっ!と何かを思いついたような仕草をすると、八幡の座る助手席の方へと移動する。
「な、なんだ?」
最後の最後に何かやらかさないかと心配になる八幡。
「はい、これ、私の家の住所とか、郵便番号とか。何かあったら手紙とか送ってきてね」
「なにかって、そんなこと物騒な感じにはなんねぇよ」
「それでもだよ」
ふっ、と一息置いてから、モカは八幡の前でしっかりとポーズを決め一言。
「
「……そんなに頼らねぇよ」
「ちょっとは、頼ってくれるんだ?」
恥ずかしさから八幡は車の窓を閉める。
程なくして、平塚先生の車はエンジンをかけると発進する。
モカは、その車が見えなくなるまで手を振り続けた。
「どうだった?」
八幡たちを見送った後、足を痛めていることも忘れダンスやらなんやらしていたモカの足は悪化。
母親にスクーターで迎えに来てもらい、今はその帰り。
母の背中につかまっているモカだが、ふと、感想がモカの口から漏れた。
「八幡くんの背中、大きかったな」
「あら?ふふふっ、ついにモカに春が来たのかしら?」
「お、お母さん!そんなんじゃ……」
いいよどむモカ。
そして母に自分の思いの一端を伝える。
「ねえ、お母さん」
「なあに?」
「次、今度はキャンプじゃなくて、木組みの家と石畳の街に泊まりで行きたい」
「あらあらうふふ。そこにはココアもいるし、愛しの彼もいるし、足が治って、ウチに貢献したら行ってきなさい」
「うん!頑張る!」
そんなやり取りをスクーターの上で繰り広げながら、モカは想い人に思い馳せる。
……端折った感半端ないっす。
スンマセン。
次話からはタイトルもごちうさ風に戻して、メインキャラのターンへ戻ります!
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