ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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ぐぐぅ、漸く1日目終了でごぜぇます。
燃え尽きそうなんで2日目3日目は駆け足で行こうかと思います。

今回は真面目な話です。


そして比企谷八幡は二人の女神に包まれる

夕食の支度を始める小中学生のサポートに回る大人達。

八幡は、この光景を今までに数度目にしてきた。

だが、そのどの光景にも自分の居場所はなく、常に陰で見ていただけか、白い目で見られながらもインストラクターの人にやらされるかのどちらかだった。

 

だが、今現在、八幡の目に映るのは、自らを迎え入れてくれる数人の少女たち。

 

マヤ、メグ、モカ、青山さん。

 

彼女達は八幡を否定することはないし、八幡の事を少なからず思ってくれる。

 

だから、八幡は今この場所が、心地良いと、不覚にも思ってしまっているのだ。

 

「はちまーん、見てみて!二刀流!」

 

「マヤちゃんカッコいいねー」

 

「コラ、危ないでしょ!」

 

「マヤさん、かっこいいです」

 

子供用の包丁二丁を手に持ち、まな板の上にある野菜に狙いを定めるマヤを褒めるのはメグと青山さん。

 

それを咎めるのがモカ。

 

マイペースな二人はマヤを褒め、調子に乗らないようモカがたしなめる。

 

マヤは同意を求めようと八幡に向けてポーズをとったりしているが、八幡は大きく反応することはなく、「危ねぇぞ」とぶっきらぼうに、だが、言葉の節に優しさを感じる言葉をかけるのみである。

 

「比企谷、君も参加したまえ」

 

「うっす」

 

平塚先生に背を押された八幡は輪の中へ。

大人組が三人に中学生二人となんともアンバランスな班ができてしまった。

 

「俺はーー」

 

ぐるりとメンバーを見渡し、自らの仕事を考える。

モカに料理の心配はいらないだろうし、青山さんもジャイアンカレーのようなものを作るような人ではない。

マヤメグもその辺は弁えているはずである。

 

「はぁ、薪作りか」

 

キャンプ場ではガスコンロがなく、かまどでの調理となる。

 

それには薪が必要。

本来ならば男のインストラクターの人間か、男子中学生がやるものなのだろうが、あいにくこの班に男子は八幡しかいない。

 

薪作りと言っても鉈で木を割るなんて危ないことはしない。

もともとそれなりの大きさの木が用意してあり、それを手なり足なりを使ってかまどにちょうどいい大きさに折るだけだ。

 

ふと目をやると、平塚先生が男前な感じに木をたたき折っている。

そんな平塚先生に呆れつつ、八幡は平塚先生の元へ。

 

「カッコいいっすね」

 

八幡は話しかけつつ、手頃な木を手に取り、バキバキと木を折る。

 

「ああ、君か。私に男が寄ってきたのかと思ったよ」

 

「少なくとも今の平塚先生を見て寄って行く人なんてそうそういないっすよ」

 

「いや、これ、意外にストレス解消になるんだ。………ついこの間も友人が結婚報告を……くそっ、死ねっ」

 

メキメキ。そんな音を立てて、それなりの太さの木がいともたやすく折れる。

そんな平塚先生に男性のインストラクターは苦笑い。

 

「それで、君の方はどうかね?」

 

「どう?っていうと?」

 

「例えば、モカとはどんな感じだ?」

 

幾つかの木を折りながら八幡はどんなものかと考える。

………友達、なのだろうかと八幡はふと頭に浮かべる。

少なくともお互いに名前で呼び合うくらいの仲にはなっているのだから友達と呼んでも差し支えないのではないだろうか。

 

「まあ、悪くはないと思います。……向こうがどう思ってるかはわかんないっすけど」

 

「モカは意外に難儀な子でな。だが、君たちの様子を見るに、比企谷、君はモカに嫌われているなんてことはない」

 

「だといいんすけど」

 

「比企谷、もう少しモカを、いや、君を認めている人を信じてみたらどうだ?」

 

八幡には友達ができた。

だが、そこにはまだ怯えがある。

 

嫌われる、嫌がられる、無視られる、虐められる。

 

そんな過去を経験した八幡は確かにトラウマというものを形成した。

そしてそれは全て八幡の捻れた性格という形で現れた。

 

つまり、八幡の意識不覚では、未だに嫌われるのを嫌がっている。

 

最近の八幡の周りには何人かの『優しい』少女たちがいる。

 

だが、その優しさを八幡は踏みにじっていないだろうか、報いられてはいないのだろうか。

 

そんなことが八幡の頭によぎるのだ。

 

無論、八幡を嫌うなど、その少女たちにとっては冗談でもありえないことだ。

 

だが、その思いは八幡には届いていなかった。

 

「俺は、どうしたいんでしょうね」

 

友達、もう諦めていた存在が、シャロという少女を始めとして、増えた。

 

「比企谷、君は変わったよ。私が最初に君を呼び出した時よりと比べれば格段に。だが、君自身がその変化についていけてない」

 

「……」

 

自覚はあるのか、八幡は黙りこくったまま平塚先生の話に耳を傾ける。

八幡は木を折る手をいつの間にか止めていた。

 

「比企谷、自分がどうしたいのか。本当はわかってるんだろう?」

 

「……それは」

 

比企谷八幡の願い。

それはきっとひどく曖昧で、言葉にしがたいものだ。

 

八幡は怖がっている。

その八幡の願いである関係性に至ることを。

 

八幡の周りの少女たちが、それを拒まないということは、八幡も理解している。

足りないのは八幡の勇気。

 

シャロに友達になって欲しいと言われた時のように、勇気が欲しかった。

差し伸べられた手を取る勇気が。

 

「比企谷。奉仕活動と別にもう一つ。モカ、翠のどちらかに心の内を明かしてこい」

 

「そりゃまた、難しいっすね」

 

「君ならできるさ。私の教え子なんだ、できてもらわないと困る」

 

「……ほんと、なんで結婚できないんだアンタ」

 

八幡の心からの言葉だった。

八幡は平塚先生ともう少しだけ年が近ければきっと、平塚先生に心底惚れていたに違いない。

 

八幡は、薪をそれなりの量を作り終えると、ふと、モカと青山さんの方へと目をやった。

 

するとそれに気がついた様子の二人は、ふわっと、優しく柔らかな笑みを八幡に送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

夕食後、八幡は一人バンガロー内で就寝の準備を整えていた。

時刻は、9時。

小・中学生のバンガローはおそらく消灯の時間帯。

 

インストラクターの人たちは明日の打ち合わせに少々の時間を取られているようだったが、八幡たち有志の人間は免除されているようだ。

 

八幡は、バンガローの窓から見える空に目を向ける。

都会では決して見ることのできない星が浮かんでいる。

 

普段なら星には興味など持たない八幡だったが、なぜか、今は外に出てほしでも眺めていたい気分だった。

 

 

 

「夜は意外に寒いな」

 

ふらりと外に出た八幡は寒さに少し体を腕で抱くようにする。

大自然では気温の変化が激しいようで、八幡は関心する。

 

「「八幡くん(さん)?」」

 

普通ならば、聞こえないはずの声が八幡の耳に届く。

 

「モカに、翠さん。……もう消灯の時間だろ?」

 

「「静さん(ちゃん)に外で風に当たってみろって」」

 

「……あの人は余計なお節介を」

 

はあ、と八幡は平塚先生に呆れつつも、感謝する。

こんな場で、こんな状況でなければ八幡は心の内を開かせないだろうから。

 

「少し、話を聞いてもらいたい」

 

「いいよ。なんでも話して」

 

「大人として、八幡さんの友人として、しっかりと聞かせてもらいます」

 

やはり、二人は優しい。

そう、八幡は感じた。

八幡の纏う真剣な雰囲気を敏感に感じ取った二人は普段のマイペースなオーラはどこへ消えたのかと言いたいほどに真剣な顔つきで答えたのだ。

 

「これは、俺の友達の友達の話なんだがーー」

 

八幡は語り出した。

自らの黒歴史となるであろう話を。

 

「そいつは、ぼっちでな。友達なんかいなくて、見れば笑っちまうぐらいの勘違い野郎だった。そんなやつが、小中学校と過ごすうちに、イジメられ、好きな女の子に告白すれば翌日にはみんなが知っててまたそれをネタに弄られるそんな奴だった。そして、人を信じないように、避けるようになった」

 

モカと青山さんはひどく悲しそうな目をしながら八幡の言葉に黙って耳を傾ける。

 

「でも、そんなやつに転機が訪れたんだ。一つのバイト先で、そんなどうしようもないような奴を受け入れてくれるような奴らがいたんだよ。そいつらは優しくて、そんな馬鹿に近づいて、踏み込んで、いつしか捻くれたそいつの心に居座るくらいの存在になってた」

 

チノはこんな自分を頼りになると慕ってくれた。

 

リゼはこんな自分の隣に立ってくれた。

 

ココアはこんな自分の懐に嫌がる素振りなど見せず踏み込んでくれた。

 

シャロはこんな自分と友達になってくれた。

 

千夜はこんな自分に一つの形に残る思い出(写真)をくれた。

 

「だから今は怖いんだ。それを、そいつらとの関係を失うのが。自分の至らなさを自分が一番知ってるから。自分から踏み込めば相手を傷つけるかもしれない。これ以上相手を近づければ傷つけてしまうかもしれない。それがひどく怖い」

 

八幡は自分の目頭が少しずつ熱くなるのを感じた。

無様に、女の子の前で涙を流す。

そんな自分も、平塚先生に背を押されなければ動けない自分も八幡は大嫌いだった。

 

「だから、どうすればいいか、分からないんだ。離れれば、互いに傷つかずにすむ。でも、そいつにとって、その繋がりは失いたくないものなんだ」

 

嗚咽が漏れる。

必死にこらえようとしていた涙も、既にとめどなく流れる。

その涙が、八幡の頬を冷やす。

八幡の体を、心を冷やす、

 

「どうすればーー」

 

八幡が、うつむき、二人に問いかけようとした瞬間。

 

ふわっ、と八幡は暖かい何かに前後から包まれた。

 

「八幡くんは、怖がりなんだね。君は君が思ってる以上に強いんだよ?」

 

前から、そんな優しい声が聞こえる。

 

「八幡さん、もう少し自分を信用してあげてください。あなたは、あなたが思っている以上にすごい人なんです」

 

後ろから、そんな温かい声が聞こえる。

 

ーーそれでも、自分が信じられないなら。

 

 

 

「「八幡を信じる私を信じて」」

 

 

 

八幡をそんな二人の言葉が温めた。

頬をつたる涙も、気温も、既に冷たいとは感じなかった。

 

八幡はそのぬくもりに包まれたまま、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 




ちなみに、八幡の頭は二人の女神の胸の中。

じ、次回投稿、早めにしたいけど遅れそうです。

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