ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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………遅れました。
難産でして、筆が進みませんでした。
申し訳ありません。


やはり青山翠はマイペースである

ベーカリー保登から戻った八幡とモカ。

思い返せばなかなか気恥ずかしい発言やら行動をしていたが、戻ったあとに気まずくなるなんてことはなく、普通に接することができていた。

 

「八幡くん、そっちに配膳お願い」

 

「了解」

 

「え、えーと、私は何をすれば」

 

「翠、もっとキビキビ動けんのか」

 

しっかりと働く八幡とモカに対して青山さんはおっとりしすぎて置いていかれている感が否めない。

それに平塚先生は呆れているが、青山さんだから仕方がないと割り切っている様子。

 

無事配膳が終わると食堂になだれ込んでくる小中学生。

運営側もテーブルに着く。

八幡はモカと青山さんに挟まれる形で座る。

その向かいにはマヤとメグ。

 

知り合い組でガッチリと固められることになった八幡。

 

「このパンおいしーね」

 

今日の昼食は定番のカレー……かと思いきやバイキング方式で様々な料理を自分で持ってくるスタイル。

カレーは二日目の夕食の際にみんなで作るとのこと。

 

「ふっふーん、ウチで作ってるパンなんだよ!」

 

「えー!すごいですね!」

 

どうだ!と自慢げに胸を張るモカとそれを純粋な目で褒めるメグ。

マヤもパンをお気に召したらしく口いっぱいに頬張って頬が膨らんでいる。

 

「本当に美味しいです〜。これぞまさしく絶品というやつでしょう」

 

青山さんからも大絶賛なベーカリー保登。

これならばココアの作るパンが美味しいのも頷ける。

 

「八幡の兄貴にモカの姉貴。そういえば、むぐ。ふぁっひはほへんへ」

 

パンを口に入れながら喋るマヤ。

結局話の本題が全く見えてこない。

 

だが、メグはマヤの言おうとしていることを正確に汲み取り翻訳する。

 

「えっと、マヤちゃんはさっきはごめんねって言ってるの」

 

「むぐむぐ、ごくん。そう!さっき、私のせいで怒られたでしょ?」

 

さっき、とはマヤの所為で川へ三人揃ってダイブしたので平塚先生から説教を受けたことを言っているのだろう。

 

「私は気にしてないよ?」

 

「パンを食べながら謝ってる時点で本気で謝る気ないだろ」

 

「でも、私のワガママの所為だからさ。謝っておかなきゃって」

 

「意外に律儀なんだな」

 

八幡はマヤの評価を上方修正した。

もっと勢いだけの子だと思っていた八幡だが、実は考えているタイプだとわかって感心する。

 

「私だってそんなにバカじゃないんだよ?」

 

「マヤちゃんは影響されやすいだけで頭いいんだよねー」

 

マヤが何かをしてメグがサポートといういいコンビ。

だが二人ともどこか抜けたところがあるので、冷静に物事を考えるチノのようなタイプが加わればもっといい形に落ち着くのではと八幡は考える。

 

「ふふっ、みなさん仲が良いですね。私も混ぜてください」

 

「「「いいよー!」」」

 

マヤとメグだけでなくモカも声を揃えて青山さんのお願いを了承。

 

「八幡さんもよろしいでしょうか?」

 

「こいつらがいいなら俺も問題はありません」

 

「ありがとうございます」

 

女子三人から許可が出たというのに八幡にも聞くのが青山さんらしいといえばそうなのだろう。

 

おっとりしていてもしっかりするところはしっかりしている。

それが仕事のこととなるとまた別なのだが、若くして有名な作家となったのだから仕事方面でもそれなりに頑張っているのだろう。

 

「マヤちゃんとメグちゃんは同じ中学なの?」

 

「そうだよ。本当なら私たちともう一人でいつメンなんだけどね!」

 

「チノちゃんは家の手伝いでこれなかったんだよねー」

 

モカは確証はないがココアの姉。

八幡は元々知ってはいたがマヤとメグもチノの友達。

 

(世間ってこんなに狭かったっけ?)

 

これらが全て木組みの家と石畳の街を中心に動き、それが回り回ってこんな田舎でも運命が交差する。

 

「仲のいい三人組って憧れるなー。私は弟妹の世話で忙しかったから遊べる時間が少なくて」

 

「私も後輩や静さんに追いかけ回されたりで遊ぶことはあまりなかったですー」

 

「そもそも友達がいなかったからそれ以前の問題だったんだよなぁ」

 

それぞれが自らの過去の学生時代を頭に浮かべそれぞれの学生時代について感想を述べる。

だが、そのどれもがどこか華やかさに欠けるものだった。

 

「いや、みんな暗くない!?」

 

「私たちは仲良く楽しく遊べてるから余計悲しく感じちゃうねー」

 

「「「え?」」」

 

自分たちが悲しい学生時代を送ってきたとは微塵も思わない八幡、モカ、青山さん。

実際に、八幡以外は友達もいれば遊ぶこともたくさんあった。

 

だが、遊びよりも優先されることがあった。

それだけのことなのだ。

 

「よし!じゃあメグ、私たちがこの三人と遊んであげよう!」

 

「いいねー!」

 

「俺たちが遊んでもらう側かよ」

 

微妙に上から目線な気がしなくもないが、マヤもメグも好意からの発言なので気に触れない。

 

「私はいいよ!妹分と遊ぶのも姉の役目!」

 

「新しい小説のネタになるかもしれませんし」

 

モカと青山さんはノリノリで遊ぶことを了承。

八幡も渋々といった感じではあるが、コクリと頷く。

 

その様子を見たマヤが嬉しそうにウンウンと首を縦にふると残っていたパンを一気に口の中に入れると立ち上がる。

 

「ふぁあ、あほほー!」

 

マヤが「じゃあ遊ぼう!」と言ったのをその場にいる全員が理解した。

すると元々完食していたモカ、青山さんも立ち上がると、マヤは二人の手を引いて外へ出ようとする。

 

だが、まだ完食していなかったメグと八幡は置いていかれる形に。

 

「先に行っててー!」

 

「分かった!すぐに来いよ!」

 

マヤとメグがそんなカッコよさげなやり取りをするとマヤは二人を連れて外へ。

 

「………ありがとうねー、八幡くん」

 

「何がだ?」

 

唐突にお礼を言うメグ。

お礼を言われるようなことをしたか?と八幡は首をかしげる。

 

「マヤちゃんを怒らないでくれてることとか、ご飯食べ終わるの遅い私を待ってくれてることとか」

 

八幡に配膳された昼食の皿の上には既に何も乗っていない。

八幡はコップに手を伸ばし水を飲む。

 

「ほら、食後は少し落ち着く時間がほしいからな。別に待ってるわけじゃねえよ」

 

「八幡くんは、捻デレさんなんだねー」

 

「おい、本当それ誰が広めてんの?俺の知らないところでそんな頭の悪そうな単語が爆発的に広まってんだけど」

 

小町が考え出した単語の「捻デレ」だが、小町とあまり関わりのない人がそれを知っていたりすることが多々存在しているので、八幡は驚いている。

 

「八幡くん」

 

「……早く食べないとマヤとかは飽きて戻ってくるぞ」

 

「いっぱい遊ぼうね」

 

おっとりとしたメグは満面の笑みを八幡に向ける。

すると、その後は会話もしなくなりモグモグと自分のペースながらもしっかりとパンも口に入れ始めた。

 

「ったく、元ぼっちの俺に遊び相手とか。少し前までの俺が見たらどうなることやら」

 

そんな八幡のどうでもいい呟きはメグの耳には届かなかった。

 

 

 

「おっそいよー!八幡もメグも待ってたんだからな!」

 

「おい、しれっと俺を呼び捨てしたな」

 

「八幡くん、ほら、私たち友達だからいらないよねってことだよ!」

 

つい先ほどまで八幡のことを「八幡の兄貴」と呼んでいたのだが、モカの入れ知恵か「八幡」と呼び捨てで呼ぶようになったマヤ。

 

「でも、青山さんは治らなかったですね」

 

「私はタメ口というのが苦手で」

 

青山さんも呼び捨てにチャレンジしてみたようだが、癖なのか敬語で話してしまうようだ。

 

「八幡さんは私のこと、『翠』って呼んでいいんですよ?」

 

「青山さんが俺のことを『八幡』って呼んだら考えましょう」

 

青山さんからの提案に対抗する八幡。

青山さんがタメ口で話すのが苦手だと知った直後にそんな提案をする八幡はSの気質があるのかもしれない。

 

「あらー。なら頑張って八幡って呼ばないといけませんねー」

 

「「「今呼んだ!」」」

 

青山さんとしては何気なく口を開いたつもりだったのだろう。

だが、速攻で八幡を『八幡』と呼び捨てで呼ぶ事に成功した?

 

実際今のは八幡を呼んだわけではなく、八幡という単語を口にしただけだろう。

が、八幡は八幡と呼んだら翠と呼ぶと約束をしてしまった。

 

「では、八幡さん。翠と」

 

既に『八幡さん』に呼び方が戻っているが約束は約束。

 

モカマヤメグの三人の「早く呼んであげて」オーラに気圧された八幡は渋々と口を開く。

 

「……わかりましたよ。翠さん」

 

「呼び捨てでお願いします」

 

さん付けでは納得しないと青山さんは敬称を取るように八幡に告げる。

 

「………翠」

 

少し恥ずかしさを覚えつつも八幡は翠と口にする。

 

「はい♪何でしょう八幡さん」

 

青山さんは美しくも可愛い大人の笑顔を八幡に向けた。

それは平塚先生のような威圧感のある少し怖い笑顔のようなものでなく、柔らかなものだった。

 

「じゃ、青山さんに戻しますね」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

淡白に、スッパリと元の呼び名に戻した八幡に一同驚きを隠せない。

 

「ど、どうしてでしょうか?」

 

「青山さんも結局『八幡さん』って呼んでるじゃないですか」

 

八幡は自分が敬称をつけて呼ばれているのに自分だけ呼び捨てと言うのが納得いかないらしい。

それにしては八幡は敬称をつけて呼ばれているチノの事は呼び捨てなのだが、青山さんは知らないので、突っ込まれることはない。

 

「まぁ、少しずつ慣れていきますので、私が呼び捨てで八幡さんを呼べるようになったら、翠、と呼んでくださいね」

 

「……覚えておきます」

 

八幡は年上に弱いタイプなのかもしれない。

実際青山さん、モカ、平塚先生にいいように丸め込まれているのだから否定するのが難しいところだ。

 

「さて、何して遊ぼうか!」

 

呼び名についての話に飽きたらしいマヤが話をぶった切り、遊びへと方向を転換した。

 

「はい!私、今度こそ川に行きたい!」

 

川に入ろうとした段階で止められてしまったのがよっぽど悔しかったのか、モカは挙手して提案。

 

「怪我人はダメだろ」

 

足をひねっているモカは怪我の悪化の可能性も考えると川遊びなどは控えるべき遊びである。

それを考え、八幡はモカの提案を却下。

 

「でも、水切りとかなら大丈夫じゃないかなー」

 

メグが妥協案を提案してくれたので、曇ったモカの顔がぱあっと明るくなる。

それを見た八幡は呆れ顔をするも止めることはない。

 

「よぉし!じゃあ水切りしよーぜ!」

 

「「おー!」」

 

「「お、おー?」」

 

元気よく掛け声に乗るモカとメグに対し、ノリに乗り切れない八幡と青山さん。

 

思いの外、インドア派とアウトドア派のバランスが取れたメンバーになっている。

 

八幡は駆け出すマヤ、メグ、モカの背中を追いかけながら、青山さんと二人アイコンタクト。

 

ーー楽しいですね。

 

ーー否定はしません。

 

八幡と青山さんの心が通じ合った瞬間だった。

 

 

 

結局、このメンバーの遊びは、夕食の時間になり平塚先生に呼び戻されるまで続いた。

 

 

 

 

 




そろそろ、なろうの方の活動を再開しようかと考えているので、更新頻度が全体的に遅くなるかもです。

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