ちょい長めの7,000字弱。
……テスト前なのに何やってんだろ。
「保登モカです!よろしくね!」
「青山翠です〜」
八幡は、ココアと同じように『姉』を自称する少女、モカが小・中学生にワイワイと囲まれながら自己紹介する様子をぼんやりと眺めていた。
今は、『三日間お手伝いをしてくれるお兄さんお姉さんと仲良くなりましょう!』タイムである。
八幡は名前を一言で自己紹介終了。
それに比べて「お姉ちゃんに任せなさいっ!」と堂々と八幡に言い放った少女、保登モカは持ち前のコミュニケーション能力で、小・中学生に早々に好かれたのだった。
八幡はモカの自己紹介を聞いた際、彼女の苗字「保登」に聞き覚えがあったのだが、勘違いだろうと軽く流しておいた。
青山さんの自己紹介も中々に受けが良かった。
というよりは、おっとりとして優しそうなオーラを常日頃から溢れさせていれば嫌われる要素などない。
八幡が意外に思ったのは、青山さんが「青山翠」と本名で名乗ったことである。
流石にこのような場でペンネームは使用しないのか、と八幡は作家の裏表を使い分けている青山さんに感心していたりする。
キャンプ運営スタッフは八幡以外大人気。
八幡はむしろ避けられている感が否めない。
だが、八幡と元々面識のあるマヤとメグは八幡のそばでワイワイと騒いでいた。
「八幡の兄貴はあの中に混ざらないの?」
「いや、俺にはあの人たちみたいなコミュ力はないからな」
「あの二人のお姉さん大人気だね〜」
マヤ、メグも先ほどまでは、モカや青山さんの方にいたのだが、一人輪から外れていた八幡を見かねて二人は八幡のところに来たのだ。
本来ならば八幡が面倒を見る側だというのに、逆に面倒を見られているこの状態に八幡は少し危機感を覚えている。
「八幡の兄貴はこのあと何するか知ってる?」
キャンプに来たはいいが、何を行うかは明かされていなかったようで、今後の予定を八幡に尋ねる。
「知らん」
「使えねー!」
八幡も当日に平塚先生に引っ張り出されたのだ。
予定など知るはずがなく、もうこのまま働かなくていいのでは?と若干ダメ人間な思考に陥り始める八幡。
「次は、この自然の中を探索するオリエンテーリングだ。森の中に設置されているお題をクリアしながらゴールを目指すんだ」
見かねた平塚先生が、八幡にフォローを入れる。
実際彼女が何も知らせていないのだから仕方がない。
ほら、と平塚先生は今後の予定表を八幡に渡す。
「君らは見たらダメだぞ」
「えー!いいじゃんかー!」
「どうして秘密なんですか〜?」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて、八幡の手にある予定表を覗き込もうとするマヤとメグ。
それを平塚先生がたしなめるように言った。
「次何があるかわからない方が、楽しみが増すだろう?」
「「そうか(そうだね)!」」
納得!といった感じで顔を見合わせるマヤとメグ。
「の、割にはオリエンテーリングの事はすぐに教えましたね」
「どうせすぐ始まるんだ、一つくらいは構いはしないさ。っと、ほら、君たち、集合だ」
「仲良くなろう!」タイムの終了。
現地のインストラクターたちが生徒を集め、オリエンテーリングの説明するようだ。
それに伴い、イベント進行補佐である八幡、青山、モカの三人も平塚先生とインストラクターの人に説明を受ける。
「君たちにやってもらいたいのは、誘導と監視。しっかりと整備されてはいるが、危険がないとは言い切れない。この辺りに立って見ておいてほしい」
地図を見せられながら説明される三人。
立っておいて欲しいと言われた場所は川辺。
子供とは水辺が好きなもので、つい行ってしまう傾向があるので、それを防ぐための措置だろう。
「じゃあ私が!」
挙手したのはモカ。
何とも積極的な少女である。
「わ、私は、長時間炎天下にさらされるのはちょっと」
渋い顔をする青山さん。
小説家なので、体力があるわけではなく、少しずつ気温が高くなりつつあるこの季節は厳しいようだ。
「じゃあ、比企谷。君がモカと二人で川辺にいてくれ。なるべく子供達には見えないように頼む」
「お、俺はゴール地点で飲み物を配る係がーー」
「いいな?」
「……うす」
八幡的には見知らぬ少女と二人きりの状態で炎天下の中さらされるのは厳しい。
ラビットハウスやその他の二人の女子たちと関わってきたことで多少は改善されたが、未だコミュ症なのは変わりない。
が、それも平塚先生により仕事の変更はかなわず。
「大丈夫だよ?八幡くん、だったよね。不安なのはわかるけど、一緒に頑張ろう!」
(不安なのはあなたと一緒にいることとか、俺の体力が持つか、とかその辺なんだけど)
微妙に勘違いしているモカに内心突っ込む八幡。
だが、知り合って数十分なのだから八幡という人間を理解できていないのも仕方ない。
こうして、八幡は半ば強引にモカと関わることになってしまった。
○
太陽の光を綺麗に反射し光る川。
その傍に生い茂る木々。
葉の隙間を通り抜け、肌を照らす太陽光。
ザ・キャンプといったような場所に配置されてしまった八幡。
しかもなるべく小中学生の前には出ないようにとのこと。
つまり、オリエンテーリングの時間はほぼモカと二人きりの状態なのである。
「八幡くんは、どうして静ちゃんに問題児扱いされてるの?」
コミュ力が恐ろしいほど高いモカの前では、八幡のコミュ症という弊害など全く気にせず懐へ。
「えと、作文を提出したら、なぜか」
「どんな作文?」
「高校生活を振り返って、みたいなお題でした」
「それをどう書いたら問題児扱いされるのかな!?」
学生時代でも優等生であったモカにとって、作文を提出しただけで問題児扱いなどわけのわからないことであった。
「……保登さんは、平塚先生とはどんな関係で?」
少し気になっていたことを八幡はモカに聞いた。
呼び方は保登さん、と他人行儀な感じにモカは一瞬顔を顰めたが、追求する様子もなく、質問に答える。
「静ちゃんは、私の高校時代の先生なんだよ」
「へぇ、てことは保登さんは意外に若いんですか?」
「意外って何かな?私はまだピッチピチの十九歳だよ!」
女性に年齢の話は禁句と言うが、モカはそんな気にした様子はないようで、自分の年齢を明かす。
「未成年だったんですか」
「何で君はさっきから私の年齢を上に見積もるのかな!?」
「『お姉ちゃんに任せなさいっ!』とか言ってたんで、お姉ちゃんと呼べるほど人生経験を積んだものかと」
さりげなく八幡は『お姉ちゃんに任せなさいっ!』の部分だけ裏声を使う。
これがモカでなければキモいで一蹴されていただろうが、モカは感性が多少普通ではない。
「ふふっ、八幡くん、面白いね。ちなみに、私は実の妹がいるので、人生経験というよりも姉としての経験から姉を自称しているのです!」
「結局自称かよ」
モカの天然ボケ?に反応してつい敬語が抜けてしまった八幡。
それにモカは反応する。
「おお!八幡くんようやく敬語が抜けたね!このまま保登さん、からモカお姉ちゃんに呼び方を変えてもいいんだよ?」
むしろ、「モカお姉ちゃん」って呼んで?と八幡がそう呼ぶのを期待している。
「お姉ちゃんは死んでもつけねーよ」
「おお、いいね!敬語が完全に抜けて私たちは友達から姉弟だね!」
「そもそも友達じゃないんで。そもそも敬語は人を敬うときに使う言葉遣いであって、敬う必要のない人には使わなくてもいいという事なんだ」
「それって遠回しに私が尊敬する必要はないって言ってるの!?……でも姉弟なら敬語はいらないよね」
「冗談ですよ、保登さん。俺たち友達じゃないですか」
「そんなに私の弟になるの嫌!?」
八幡はココアを弄る時の要領で次々にモカを弄る。
モカの反応がココアにとても近いので、八幡もつい調子に乗ってしまうのだ。
モカが、魔王系の姉だったならば、八幡の対応もまた違ったことだろう。
(そういや、ココアの苗字も保登だったような?)
先ほどの疑問についての答えが自分の中で出されたが、直接モカに「妹の名前ってココア?」と聞くのも八幡はなぜか嫌だった。
「全く、八幡くんは私をもっと丁寧に扱うべきだと思うよ!」
「俺の身近にあなたのような人がいるので、つい」
八幡は頑なにモカを名前で呼ばない。
モカもそれには気が付いているのだが、モカはココアと違い有能なのだ。
八幡が心に抱える傷にそれとなく気が付いたのかもしれない。
モカとしては、いや、姉としてはそんな八幡を放っておけないのだが、今この状況下でそれを聞くのはモカとしても避けたい。
だからモカはこの状況では八幡との距離を縮めることを選択する。
そんなことを考えていると、ワイワイガヤガヤと、中学生のグループがこちらに向かってくる。
「川だ!」「入ったらきもちよさそー!」「入っちゃう?」「入りてー」
など、森を抜け体が暑くなった人にとっては絶好の場所というべきだろう。
気の早い男子たちはすでに着ていたTシャツを脱ごうとしている。
それを女子がキャー、と軽い悲鳴を上げているのが今の状況。
「さて、八幡くん、出番だよ!」
「やっぱ俺も行くのか」
働きたくねぇなぁと愚痴を漏らしながら八幡は木の陰から出る。
モカもそれに続く形で中学生の前へ。
「みんな、ここは泳いじゃだめだよ。オリエンテーリングを進めよう!」
モカは笑顔で中学生に話しかける。
だが、中学生とは難しい年頃で、年上が何かを言っただけでは聞かない場合がある。
「えー」「何でダメなの?」「誰も見てないし!二人以外」
と、川に入るのを止められた中学生、主に男子は文句をこぼしている。
「ここは急に深くなるところもあるし、大人の目があるところで、ね?」
「お姉さんと、ゾンビの人がいるじゃん」「そーだ、泳ごう!」
何とも聞き分けのない男子中学生である。
このような自己中な人間があるから社会は悪い方へと進んでいくのだ、と社会のことについて考え出す。
「ほら、浅いとこだけだから!」「服は濡らさねーから!」「お姉さんが黙ってくれれば!な?」
完全に川に入る気である。
モカも聞く耳を持たない中学生を相手にオロオロと困っている。
このまま中学生を川に入れたらどうなるか。
八幡は考える。
バレたら平塚先生に怒られる=殴られる。
↓
下手をすれば奉仕活動の追加、延長も現実的に。
↓
せっかくの休みが全部消える。
この流れが八幡の頭の中で完成してしまった。
八幡としてはこれ以上奉仕活動が増えるのは勘弁願いたいところである。
なので、八幡はなるべく平静を装い、中学生を止める方へ動く。
「お前ら、ここにこのキャンプの今後の予定が書いてある」
え?とモカも含めた全員が八幡に注目する。
「この予定には、オリエンテーリングの後、スタッフが昼食の用意を終えるまでの約一時間、水遊びと書いてある」
八幡は平塚先生には見せるなと言われていた予定表を見せながら説明する。
「つまり、だ。今ここで川に入るとしても三十分も入れないだろう。さらに、入ったことがバレたらその水遊びの時間も説教で潰れる可能性がある。すると、今ここは我慢して、このあとの一時間を全員が集まってる中で楽しんだ方が得じゃないか?」
「た、確かに」「後で水遊びの時間があるなら…」「確かに水着持ってきてるしな!」
明確なデメリットを示すことで八幡は説得に成功したようだ。
八幡としても平塚先生に殴られ奉仕活動延長などという最悪の未来を避けられたことにホッとする。
八幡は自分の出番は終わりだとでも言うように、一歩後ろに下がる。
その際、あとは任せたという視線をモカに送る。
その視線に気が付いたモカはコクリと頷くと、パンパンと手を鳴らし、自分の話を聞くよう促す。
「よし!じゃあ皆、ここはオリエンテーリングの中間地点。あと半分頑張って行こう!ちなみに、オリエンテーリングの中のクイズに全問正解してゴールまで行くとご褒美もあるからね!」
ご褒美に反応したのか、中学生たちは川に向いていた視線を、ゴールの方向へと視線を移すとまた喋りながら先へ進んでいった。
「元気だな、中学生」
八幡はもともとインドア派。川遊びなど考えたこともなかった。
「八幡くん、ありがとね」
モカは、一組目で既に疲れを見せている八幡に呆れながらもお礼を言う。
八幡としては自分のためだったのだが、それでもモカは手助けしてもらったので、最低限の礼儀を見せる。
「べつに、俺の仕事でもあるんだ。礼を言われるようなことじゃない」
「ふふっ、全く、素直じゃないなぁー」
二人はまた木の陰に身を隠そうと動くが、すぐに次の中学生組が来てしまった。
「あっ、メグー!川があるよー!」
「ま、マヤちゃん待ってー!」
マヤ、メグを先頭に走ってくる中学生組。
グループの全員が女子だというのに中々アグレッシブな中学生である。
「げっ」
「また元気そうな娘たちが来たね!」
「八幡の兄貴とモカの姉貴だー!」
「ほんとだー」
マヤとメグは脇目も振らずに八幡とモカの元へ。
マヤはすでにモカとも打ち解け姉貴と呼ぶほどの仲になっているのかと驚愕する八幡。
「こんなとこで何してんの?」
「楽しそうだねー」
「楽しくはないな。仕事だから」
「そう?私は楽しいよ?」
「まあいいや、あとどれぐらいで、コレ終わるの?」
「半分くらいだ」
「えー!」
八幡がオリエンテーリングの残りのおおよそを伝えると露骨に嫌な顔をするマヤ。
「マヤちゃんは早く川に入りたいんだよねー」
「何でこのあと水遊びって知ってんだ?」
「さっき予定表を覗き見たんだ〜」
おっとりした性格のはずのメグは意外にそういうところを見ているようだ。
で、メグからマヤへとその情報が流れた事により、マヤとメグはこんなオリエンテーリングより水遊びの方がよっぽど楽しみらしい。
「でもほら、水着は着てないけど足だけならいけるよ!」
いつの間にか靴と靴下を脱いでちゃっかり川に入っているマヤ。
それを見たモカは慌ててマヤを止めに入る。
「ほら、早く川から出て!」
モカも靴と靴下を脱いで裸足になると川に入っていく。
川に入れないためにここで監視しているのに、自分が入ってしまっては本末転倒ではないのか。
「じゃあ、あれやりたい!手を繋いでシャンプするやつ!」
マヤが言っているのはよく家族がやるアレの事だ。
子供が真ん中に入り、父と母がその子供を腕力で持ち上げ、真ん中の子供は浮いている状態になるアレである。
川でそれをやると、ジャンプした際に水しぶきが舞い、普通にやるよりも少し面白かったりするのだ。
「しょうがないなぁ」
チラッと八幡を見るモカ。
マヤを川から出すために八幡も手伝えとのことなのだろう。
この仕事を任され、失敗した暁には平塚先生からの説教を避けられない。
もうすでに「中学生が川に入らないように」というのは守れなかったわけだが、だからと言ってそのまま川に入れていていいというわけでもないだろう。
しぶしぶと八幡も裸足になると八幡、マヤ、モカの順で手を繋く。
「マヤちゃんいいなぁ」「家族みたーい」「ずるーい!」
と様々な言葉が他のメンバーから飛び交うが「あとで水遊びの時間にやってやるから」ということで落ち着きを見せる。
だがマヤは「今がいい!」との事なので仕方なくといった感じだ。
「じゃあ行くよ?八幡くんもいい?」
「さっさと終わらせようぜ」
「1・2の3!」
マヤの掛け声で八幡とモカは腕をあげ真ん中のマヤを持ち上げる。
マヤは思いっきり水面を蹴り上げたので、正面にいたマヤのグループメンバーに水がかかる。
「いえーい!」
マヤは空中で足をバタバタさせ暴れ始める。
八幡は問題ないのだが、モカはーー。
「ちょ、マヤちゃん!?」
モカはマヤが暴れたことによりバランスを崩す。
不幸なことにここは川の中。
石などがごろついているので足場が悪く、モカは足を滑らせ水の中へ。
手をつないでいたマヤ、さらに八幡も引っ張られ水の中へ。
「だ、大丈夫ですかー?」
メグは三人を心配するように
三人は尻もちをつく。
川は意外にも水かさがあり、八幡のひざ下5センチといったところ。
そんなところで盛大に転べば、全身ずぶ濡れになる。
「あー、楽しかった!」
マヤは全身ずぶ濡れだが、満足したようで靴を履く。
八幡も別に大した問題はなく、川から出る。
モカも二人に続いて川から上がるが、メグ、八幡はモカの違和感に気がついた。
「も、モカお姉さん。……その」
「え、えと、み、見てない」
「え?何が?」
モカは自分の姿を確認する。
今更だが、モカの服装は最近暑くなってきていることもあり、シャツ一枚に7部丈のズボン。
つまり、上のシャツは薄く、水に濡れると、透けて下着が見えるわけで。
自分の今の姿を理解したモカは一気に顔を真っ赤に。
「み、見たよね」
「………見てないです」
この後二人の間に少し気まずい空気が流れたのだった。
そして余談だが、ずぶ濡れで戻った八幡とモカ、マヤは平塚先生にこってりしぼられた。
…八幡がただのラッキースケベ野郎にしか見えなくたってきた。
だが、私は気にしない!俺ガイル原作でも一回あったし、セーフでしょ?
因みにこのキャンプは二泊三日の予定。
つまり!モカさんだけでなく、青山さんも攻略可能!?
じゃなくて、さっさと原作進めろよ!という方は申し訳ございませんm(_ _)m
テスト前最後の投稿でした。
次回投稿は二週間後になると思いますので、ご了承下い。
感想評価待ってます!