過去最長の1話になってしまった。
長くて読み辛かったらごめーんね☆
ぷくーっ、つーん。
そんな擬音がつきそうなほど、チノの頬は膨らみ、機嫌悪いですオーラが滲み出ていた。
チノは普段から感情が大きく顔に出るタイプではないので、見る人が見れば変わりはないと言うだろうが、少なくとも八幡にはチノの機嫌が悪く見える。
そんな状態で仕事をしているものだから、八幡はどうすればいいのか分からない。
「おい、八幡、ココア、チノの機嫌悪くないか?」
「やっぱ、リゼもそう思うか」
リゼも八幡と同意見だったらしくチノの機嫌をさらに損ねないように立ち回っていたようだ。
「そう?チノちゃんはいつも私にツンツンだよ?」
思い返してみれば、ココアはチノからもかなりぞんざいに扱われている。
「……直接聞くか」
ココアに聞いても答えがでないと判断した八幡はチノに直接起こっている内容を聞くことに。
「チノ、ちょっといいか?」
「何でしょう」
「チノ、怒ってないか?主に、ココアに対してとか」
チノの怒りの矛先がココアかは定かでないが、八幡、リゼに心当たりがない以上、最有力候補はココアである。
「……実は昨日ーー」
理由を聞き出したところ、毎日少しずつやるのが楽しみだったパズルをココアにいつの間にやらほぼ完成させられていたらしい。
しかも1ピース足りないというおまけ付き。
「そりゃ凹むな」
「ココアさんに悪気がないのは分かってますが、ショックだったんです」
「悪気があったら陰湿にも程があんだろ」
「まぁ、ココアだからそれはないだろ」
八幡、リゼがだいたいの内容を把握。
リゼはココアの方へ事情を説明に行く。
「私、お姉ちゃん失格だぁー!」
すると唐突にココアは飛び出していった。
「ど、どうする?」
「そのうち帰ってくんじゃねぇの?」
「ココアさんですし、心配しなくてもすぐ帰ってきますよ」
チノも八幡も気にした様子はない。
リゼは少し心配そうにしている。
「チノ、許してやったらどうだ?」
八幡としてもこれ以上職場の空気が悪くなられても困るだけ。
ココアとチノならば、放っておけばすぐに仲直りしそうなものだが、早いに越したことはないので、チノに仲直りを促す。
「私も怒ったままというのは嫌なのですが………その、冷たい態度を取ってしまった以上、話しかけるのに少し抵抗が」
確かに喧嘩と言ってもおそらくはチノが一方的に怒っているだけ。
一人で勝手に怒って謝るというのは少々勇気がいる。
「ココアなら気にしないだろ」
「ですが」
「じゃあ、ちょっとココアに話聞いてくるよ。今は客も少ないから大丈夫だろ」
リゼは二人を心配してか、ココアを追って外へ出る。
「……オカン」
「リゼさんに言ったらきっと怒られますよ」
「だ、黙っててくれ」
「私としても、ラビットハウスで流血沙汰は嫌なので黙っています」
「え?流血?」
予想以上の仕打ちがチノの口から発されたので、想像してみると、銃を持ったリゼが自分を追いかけてくる姿が目に浮かぶ。
流血とは銃に撃たれてのことだろう。
「あれ、モデルガンだよな?本物だったら俺死ぬんだが」
「黙っておきますから心配しないでください」
「バイトの先輩がマジ天使な件について」
「何変なこと言ってるんですか」
八幡がラノベのタイトルのようなことを口にしたが、チノがそれを理解できるはずがなく冗談として受け取られる。
「チノは他の人を立てて家事上手、真面目で働き者」
「……?何が言いたいんですか?」
はっきりとしない八幡の意図がいまいちつかめないチノ。
「チノが中学生じゃなかったら、養ってくださいって言ってるところだったなぁって事だよ」
「………へっ?」
最近の八幡はかなりグイグイと本音を話すようになっている。
中学時代などは度重なるイジメ等から他人に本心など明かさず、心すら閉じていたというのに。
「え、え、ええ!?えと、つ、つまりそれは」
「これをタカヒロさんの前で言ったら冗談抜きで殺されそうだからこれも他言無用で頼む」
八幡はタカヒロが元軍人であるということをリゼ、青山さんからチラッと聞いている。
なので、先ほどの発言が知られればどうなることか分からないので、これも黙っていてもらう他なかった。
「私が中学生じゃなかったらどうしてたんですか?」
「それ聞く?」
「はい、気になります」
八幡の頭に『私、気になります!』と有名なセリフが浮かび上がってくる。
現在のチノは正にそれ、上目遣いで、ぐいぐいと押してくるタイプ。
八幡は、いや、男ならばこの頼み方をされればまず断ることは不可能である。
「チノが同い年か、少なくとも高校生だったら、告白して振られるまである」
「………ふふっ、振られちゃうんですね。八幡さんらしいです」
「いや、普通に考えて目が腐ってて専業主夫希望の男の告白受ける人っているのか?」
「自覚してるなら、一つでも直したほうがいいと思いますよ」
もっともな意見である。
目が腐っていなければイケメン自称する八幡。
だが、確かに本人が言うように八幡の顔は整っている。
性格、目のどちらかを直すだけでも女子から少なくとも異性として認識されることだろう。
「難しい話だな。専業主夫を諦めるか目を治すか。………不可能だな」
「諦めちゃうんですね」
「気長に、受け入れてくれる人を待つとするよ」
「し、仕方ないですね、なら私がーー」
チノは何と口にしようとしたのだろうか。
とても真剣な表情だったのを八幡は見た。
自然とこれはふざけて聞いていいものではないと理解した八幡はしっかりとチノの言葉に耳を傾ける。
だがそれは外から遮られる形となった。
「チノちゃん!新しいパズル買ってきたから許して!」
「すまん、止めきれなかった」
かなり大きめなパズルを買ってきたココア。
概要を見れば八千ピースのうさぎのパズル。
何か言おうとしていたチノは自分が何を言おうとしていたのかを理解し、顔を赤く染めている。
リゼが疲れている様子からどうにか止めようとしたことが伺えるが、それも無駄に終わってしまったようだ。
「………ココアさんのばか」
「ええっ!?なんで!?」
チノの機嫌を余計に悪くしてしまったココア。
このままいくと土下座までする勢いである。
「八幡、何かあったのか?」
「起こりそうなのをココアが止めたんだよ」
「ふむ、よくわかんないが、間が悪かったんだな」
ココアだから仕方ない、なぜかそれだけで片付けられるのだからココアは不憫である。
○
「で、私たちはパズルを手伝うために呼ばれたわけね」
「楽しそうでいいじゃない」
「悪いな、八千ピースを四人で一日で終わらせるのがそもそも無理な話なんだ。助けてくれると助かる」
八幡はいつになっても終わるめどが立たないパズルの進行を早めるため、シャロと千夜を呼び出した。
このパズルはココアがチノのために買ってきたはずなのだが、多すぎて片付かないため、ココアが参加。
更にリゼ、八幡と巻き込まれて今に至るわけである。
事情を説明するや否や、さっさとパズルの方へ没頭する八幡。
八幡はぼっちだったので、一人遊びを極めた。
なので、パズルのような一人で遊べるものに取り組む際は完全に周りとの意思疎通などをシャットアウトし、一人熱中するのだ。
「す、すごい集中力ね。八幡もリゼ先輩も」
「私にはこれを止めることはできないよ」
「ココアちゃんは単純作業とかすぐに投げ出しそうね」
「ココアさんですから」
八幡とリゼが黙々とパズルをする様に感想を言っていたはずが、いつの間にやらココアを弄る方へと話が転換する。
ココアが「ひどいよ!」などと叫んでいても一切気をそらすことなくパズルに集中する二人。
その二人の様子に影響されてか自然と静かにみんなパズルとにらめっこを始めたのだった。
沈黙を破ったのはシャロ。
空気を読むことに長けたシャロは、みんなの集中が途切れ始め、沈黙を破るにふさわしい最高のタイミングで言葉を発する。
「少しお腹空かない?」
バイト上がりの夕方。
早い家ならば夕食の時間帯。
みんなの意見が統一する話を振るあたり流石である。
「じゃあ、私がホットケーキを作ってくるよ!」
「私も手伝います」
ウトウトし始めていたココアが立ち上がり部屋を出て行く。
ココア一人だと心配なのかチノもあとに続いた。
「二人、自然と仲直りしたみたいだな」
リゼも少し疲れた様子でみんなに話しかける。
八幡もペースが落ち、周りを認識し始めた様子で、リゼの話に耳を傾けた。
「喧嘩してたんですか!?」
「いつも通りに見えたけど」
「ココアはともかく、チノはあんまり感情を表に出すタイプじゃないからな」
八幡の意見に、千夜とシャロはなるほど、と納得した様子。
二人はココアの性格上、自分から喧嘩を売ったわけではなく、いつの間にか恨み?を買われていたのだろうと即座に答えにたどり着く。
即座にその回答にたどり着く千夜とシャロはココアとチノをよく理解している。
「チノも本気で怒ってるわけじゃないし、そろそろいつも通りにーー」
リゼがそう口にしようとした途端、バタン!も勢いよく扉が開く。
その奥から涙目のココアが。
「チノちゃんが口聞いてくれないよぉ!」
「部屋を出て行って数分で何があったんだよ」
呆れたように八幡はココアに尋ねた。
「チノちゃんの顔に焼けたホットケーキを落としちゃって」
「「「「それはココア(ちゃん)が悪い!」」」」
満場一致でギルティである。
少ない情報量で即座に何があったかを察する四人。
悪気がなくともココアは人を怒らせるのが得意なようだ。
ココアが再び退室してから数分後、部屋に残った四人はパズルをしていた手を完全に止め、談笑していた。
話の内容は、主にココアとチノについてである。
「ココアちゃんって面白いわよね」
「俺は面白いって言うより騒がしいっていう方が強いな」
「確かに落ち着かないよな」
「誰にでもあの態度なのは一周回って長所じゃない?」
それぞれがココアについての感想を述べる。
八幡はこの話題が出た当初、女子は裏で他人の悪口を言いまくる人種だと信じていたものだからどんな暴言が飛び出すのかとビクビクしていたのだが、この三人は純粋だったようで、悪口など飛び交うことはなかった。
「その点チノはすごい大人びてるよな。ちょくちょく年相応な部分が出てくるが」
「チノちゃんはココアちゃんとは別の意味で可愛いわ♪」
「ココアが妹にしたいって言ってるのが分からなくはないわ」
「ラビットハウスのバイトで私とチノの二人の時よりは表情が増えたんだよ。これもココアパワーか?」
こんな内容が四人の間で飛び交っていた。
そんな中、再びバタン!と勢いよく扉が開いた。
「ココアさんがケチャップで死んでます!」
「構って欲しいんだよ」
チノが慌てた様子で戸を開けてきたので何事かと思った四人だが、思いの外くだらない、ココアらしい内容だった。
そんなこんなで、ココアとチノの仲直りをし、パズルも無事完成したのだった。
帰路に着いた八幡とリゼ。
この二人で帰るのはいつぶりかと八幡は考える。
思えば、ラビットハウスに来て間もない頃に一度こんなことがあったくらいかと思い出す。
あれ以来八幡は別段帰る時間をリゼに合わせているわけでもないので、必然的に着替えが早く終わる八幡が先に帰るので、同じ時間に帰ることはなかなかないのである。
「久しぶりだな、八幡と二人で帰るのは」
リゼも同じことを考えていたらしい。
やはり、八幡は八幡を取り巻く少女たちと波長が合うらしい。
「最初はぼっちオーラを垂れ流していたが、だいぶ丸くなったな」
「あのメンツに毎日のように揉まれちゃあ、まあ、そうなるわな」
「ははっ、大変そうだな」
「他人事かよ」
「私はいつもツッコミだったりで八幡側だろ?」
確かにリゼは基本的に八幡と同じ側だ。
ツッコミだったり、ストッパーだったり。
たまに二人のうちのどちらかがボケに回ることがあるが、それは特殊な事例だ。
「それは、助かってるよ。この女だらけのメンバーでリゼだけは女子!って感じがしないんだよなあ」
「どういう意味だ!」
言ってから「しまった」という顔をする八幡だが、時既に遅し。
リゼのCQCが八幡に炸裂。
だが、リゼもそこまで本気ではないので八幡も笑いながら「痛い痛い」などと叫んでいる。
八幡が今一番悩ましいのは女子陣のスキンシップへの戸惑いのなさである。
男子高校生としては理性的な面でもなかなか厳しいものがある。
八幡に一通り仕返しをして満足したのか、リゼは八幡を解放する。
「チノと何か話したんだろ?」
「ああ、チノが高校生だったら告白して俺が振られてるなって話をしたんだよ」
「振られる前提なのが八幡らしいな」
「リゼはココアと何か話したのか?」
「特にないよ。いつも通りだ」
互いにココアとチノの仲を心配して取り持つように動いたのだが必要はなかったなと互いに笑いあう。
「私たちはいつもココアに振り回されるな」
「ここまでくれば諦めがつくな」
「だな。………それにしても、八幡もチノのこと好きすぎだろ」
「チノは天使だからな」
「お前が女子にそんなこと言うようになるとは、人は変わるもんだな」
ニヤニヤと、リゼは八幡の失言を掘り返していく。
八幡は自分の発言を後悔する。
最近の八幡は、ATフィールドが薄くなってきている。
八幡は、少し気を強く持ち直そうと決意した。
「じゃあ、私はどうだ?」
このままの勢いなら、八幡からさらに黒歴史的な発言を言わせようとするリゼ。
「どうって?」
「チノは天使だろ?じゃあ、私は?」
「……オカン?」
「お前、喧嘩売ってるのか?」
リゼのこめかみにピキっと青筋が浮かんだ(きがした)ので、オカン以外のリゼを形容する言葉を探す八幡。
「面倒見のいい、みんなのお母さん的な立ち位置かな」
「あんまり変わってないんだが……じゃあ八幡はオトンだな」
リゼは特に何も考えずにその言葉を口にしたのだろう。
八幡もその意味も深く考えなかった。
「いやいや、俺が結婚するのは俺を養ってくれる人と決めてるんだ」
「ん?結婚?」
「いや、オトンってことは相手がいるわけでーー」
そこまで口にして漸く互いに何を言っていたのかを少し理解し始めた二人。
「……私がオカンなら、そうなるのか」
「俺がオトンならな」
チノとココアが子供、するとその両親がリゼと八幡という流れになる。
「いや、だが俺は養ってくれる人じゃなければーー」
そこまで八幡は口にしてから、改めてリゼのスペックを考え始めた。
リゼは容姿端麗、学業優秀、スポーツ万能。
仕事もそつなくこなし、軍人のお偉いさんを父に持つお嬢様。
(あれ?リゼなら俺を養えそうじゃね?)
「ふむ、リゼ、将来俺を養う気はないか?」
「お前はいきなり何を言い出すんだ!」
顔を赤くして叫ぶリゼ。
周りの視線を集めるが機にする様子はない。
「すまん、失言だった。忘れてくれ」
八幡的には、自分のそれなりに波長があって自分を養ってくれそうな人となると、中々見つからないので、ついそう口にしまった。
以前の八幡ならば絶対にありえないことなのだが、やはり八幡の気が緩んでいるのが原因だろう。
「八幡、私としては、旦那はしっかりした男がいいんだが」
なぜか真面目に将来の結婚相手を考え始めたリゼ。
八幡は口うるさく働きたくないなどと言ってはいるものの、今まで一度もラビットハウスのバイトはサボったことはないし、仕事の手際もいい、
目はともかくとして、性格さえもう少しまともなら結婚相手として申し分ないのではないかと考えてしまった。
そんなことを自然に頭に浮かべた恥ずかしさからリゼの顔はさらに赤く染まる。
「親父は過保護だからそのうちお見合いとか進めてきそうで嫌だなぁ」
「お嬢様だな」
「私は嫌なんだよ。愛してくれてるのはわかるんだが、結婚相手とかは自分で見つけたい」
「その見つけた相手がお見合いに乗り込んできて、『その縁談ちょっと待ったー!』とか言うのか?」
「そんな漫画みたいな」
なぜこの二人は真面目に結婚について語り合っているのか。
恋人同士でもないのに。
これが二人の中の良さからなのか、互いに恋心を宿しているのかは未だ謎である。
「なら、八幡がやってくれないか?私、部活の助っ人で演劇やるんだけど、いつも王子役でな。たまにはお姫様役がやりたい」
「俺じゃ力不足だろ?」
「そんなことないさ」
「リゼの周りに他に男がいないからそう思うんだ」
なぜかこんなところでリゼを疑う八幡。
微妙なところで気を引き締め直したからこんなことになったのか。
「八幡だからさ」
「俺には王子役は似合わん。やるなら、姫をさらう小悪党役だよ」
「それでも、ちゃんと私をさらってくれるだろう?」
「さあな。っと、じゃあ、俺はこっちだから」
「ああ、またな!八幡」
手を上げて返事をする八幡。
それはいつかの再現のようで。
だが、明らかに違うものがあった。
先ほどまで一緒に歩いていた時の二人の距離?
確かに前回よりも縮まり、それこそ恋人同士のように肩が触れ合うほどの距離だった。
二人の親密度?
確かに距離からも見て取れるように二人は前よりも仲が深まっているだろう。
だが、上二つのどちらでもない。
遠回しな言い方をするのであれば、『心の距離感』と言い表す。
明らかに会話の内容が、二人の互いへ対する接し方が違っていた。
物理的なものではなく、精神的なもの。
具体的なものではなく、抽象的なもの。
だが、確かにそれは感じ取れる、曖昧なものだった。
ゆえに、一人家路に着く八幡とリゼの頬は緩んでいるのだろう。
チノ&リゼ回でした!
少しずつ関係を進めていきます。
じれったくてすいません!
で、でも、全員分のルート回収しないといけないから、他も好感度上げしないと!(ギャルゲ脳)