八幡は、ココア、チノ、リゼ、千夜、シャロ、更には小町に囲まれていた。
「八幡、観念しろ」
「そうだよお兄ちゃん、何事も諦めが大事だよ?」
「八幡さん、逃げようなんて思わないで下さいね?」
「ふふふっ、楽しくなってきたわね♪」
「私たちから逃げられるわけないんだから!」
「はぁ、八幡、気持ちは分からなくもないけど、流石にどうにもならないわ」
全員が敵のこの状態。
八幡の天使である小町すらも敵に回ってしまっているのだ、八幡にはどうすることもできないだろう。
「……ぐっ、ま、まだ死にたくないし」
必死の抵抗だが、出てきたのはわけのわからない言葉。
「八幡、何が嫌なんだ」
「嫌に決まってるだろ、何が楽しくてこのメンバーでーー」
最近何かと流されがちな八幡がここまで拒否するもの。
それはーーー、
「温泉プールなんて行かなきゃなんねえんだ!」
意外にしょぼかった。
むしろ、このメンバーでプールに行けるのなら金を払ってまで行くという人すらいるはずだ。
「みんなで行った方が楽しいでしょ?」
ココア的には八幡も当然ついてくると思っていたので、ここまで八幡が抵抗しているのが意外だというような顔をしている。
そして、小町から何か背を押されチノが八幡の前へ進みでる。
「八幡さんがいないのはさみしいです」
「「ぐはっ」」
チノが、胸の前で手をキュッと握り、上目遣いで「寂しい」と。
この一人っ子なのにもかかわらず圧倒的妹オーラに八幡だけではなく、自称姉のココアもハートブレイク。
「さ、さすがチノちゃん、小町もびっくりするほど天然あざとい」
チノをけしかけた本人でさえも驚愕の可愛さ。
「こいつら妹に弱すぎだろ」
「リゼちゃん、この世にはシスコンっていう特殊な人もいてね」
「ちょっと千夜、リゼ先輩に変なこと吹き込まないで!」
八幡の敗北を確信している面子はもう八幡を落としにかかる必要はないと説得すらしない。
「だ、だが、み、水着は!俺の水着は家だ!だからーー」
勝った、そう一瞬でも思ってしまった八幡。
確かに、いつもの五人だったのならば、これで切り抜けられたのかもしれない。
だか今日は小町がいる。
「ああそれなら」
「シャロさんからメールを貰ったから、小町が持ってきてるよ」
こんな時にシャロの気配りが仇となった。
唯一の味方だと思っていたシャロにまで逃げ道をふさがれたらどうしようもない。
「だ、だがな、そもそも男女でそんな場所に行くのはーー」
それでも何とか逃れようとする八幡。
「お兄ちゃん、いい加減にしないと怒るよ?」
「行きます、むしろ行かせてください」
それをたった一言で制する妹小町。
今までの問答はいったい何だったのか。
「お前、本当に妹に弱すぎだろ」
そんなリゼの一言に返す言葉もない八幡であった。
○
木組みの家と石畳の街。
そこには様々なスポットがある。
圧倒的な本を所有する図書館、かなりの敷地面積とうさぎが常に敷地内に存在する公園。
そして、この温泉プールもこの街のスポットの一つである。
お城のような外観。
建物内も広く、温泉、プールと複数浴槽が存在する。
それらはしっかりとした造りなので、泳ぎを本気で楽しむことも可能であり、温泉で体を癒すのも可能。
八幡は早々に水着に着替えると、風呂、プールを一通りどんな感じか確認する。
「思ってた以上だな。………てか、この街何でこんなに設備充実してんだ」
この街に住む人間の素朴な疑問である。
だが、それはきっと触れてはいけないことなのだろう。
気にしないほうが、きっと楽しく過ごせる。
「わー!広いねー!」
「ココアさん、走ると転びますよ」
するとそこに騒がしい声が入ってくる。
子供のようにはしゃぐココアとそれをたしなめるチノ。
これではどっちが姉でどっちが妹なのか。
「水着で温泉って初めてなの」
「私もだ」
「最近は私も温泉とか来ないのよね。……お金なくて」
「小町は友達とたまに来たりするので、前来たのも結構最近です」
続いて千夜、リゼ、シャロ、小町も更衣室から出てくる。
八幡はなるべく全員の水着姿を目に入れないように努力したのだが、何らかの力が働いて、八幡の目は自然と六人の方へ。
リゼ、千夜、ココアはそれぞれにあった色のビキニで、露出が多い。
シャロ、小町はフリルがあしらわれているビキニより一段階胸部の露出が少ないものを。
チノは子供が着るスクール水着のようなタイプのものを。
(リゼ、千夜はわかってたけど、ココアも何がとは言わないが、思いの外大きいーーイカンイカン、煩悩退散煩悩退散)
他人から見れば、こんな美少女六人に囲まれている八幡は幸せなのだろう。
だが、八幡からすれば理性との戦い。
ここは逃げに徹しようとーー、
「八幡、私、深いプールで泳いだことないんだ。教えてくれないか?」
逃げに徹しようとした八幡をいきなり捉えるリゼの一言。
「意外ですね、先輩は何でもそつなくこなせると思ってました」
「なら、向こうに二十五メートルプールがありますからどーぞ練習してきてください、今ならコーチにお兄ちゃんをつけますから!」
再び小町が動き出す。
小町の策略、八幡はそれに逆らえない。
妹に歯向かうとあとあと困るのは自分だと八幡はよく理解している。
「………シャロ、お前も来い」
せめてもの抵抗でシャロも連れて行く。
この状態で二人きりというのはよろしくないからである。
「よし!今日はお前たち二人が教官だな!」
この調子のリゼとなら甘い空気にはならないだろう。
シャロもやれやれと少し呆れている様子だった。
「とりあえず、ビート板を使ってバタ足から始めるか」
準備運動をすませプールに入った八幡たち三人。
このプールにはビート板などの小道具も準備されている。
「あ、私、手を引っ張るやつがやりたい」
「…………シャロ」
「わかったわよ」
八幡の心境を察したシャロはリゼの手を持つ。
「じゃあ、行きますよリゼしぇん!?」
「「どうした!?」」
突然シャロが奇声を発して、リゼの手を離しプールサイドへ。
足を伸ばそうとしていることから推測するに。
「………あしつった」
「じゃあ、シャロは休んでてくれ。八幡、引っ張ってくれ」
「いや、ビート板の方がーーあれ?」
先ほどまであったビート板がなくなっている。
キョロキョロと見回しても見当たらない。
「お兄ちゃーん、これ借りるねー!」
少し離れた風呂から小町が手にビート板を持って手を振っている。
とことん兄の逃げ道をふさぐ妹である。
「ほら、八幡」
ここでさらに拒否をすればリゼから疑問を持たれる。
八幡が正直に「理性が持たなそうだからヤダ」とでも言おうものならリゼから蔑みの目で見られるのは必至。
八幡的にはバイト先の同僚にこれからそんな目で見られるのは避けたい。
「………わーったよ」
そう、ただ手を繋ぐだけ。
男としては勘違いしてしまいそうなシチュエーションだが、八幡は勘違いなどしない。
リゼと手をつなぎ、引っ張る。
バタ足の練習をしながら、リゼは口を開く。
「悪いな八幡、このメンバーの中に男一人は辛いだろ?」
「今更かよ、もう気にしてねーよ」
このタイミングで謝られても困るだけなので軽く流す八幡。
「だ、だがな八幡」
「だから気にしてな、うわっ」
会話に気を取られていた八幡が足を滑らせ水中へ。
その間、バタ足をしていたことによりうつ伏せ状態で少し前へ進んでいる。
そこに喋っていたところで水中へと入ってしまったために酸素が足りなくなった八幡が顔を上に向け、急いで浮き上がってくるとーー、
「なっーーー!?」
(な、なんか柔らかい物がーーー!!!???)
八幡が水中から顔を出そうとしたところはリゼの胸部。
つまり八幡はリゼの胸に顔を埋めている状態なのだ。
八幡は早々にそのポジションから抜け出す。
「そ、その、す、すまん」
「ーーーー」
顔を真っ赤にしてプルプルと震えているリゼ。
それは羞恥心からか怒りからか。
八幡にとってはどちらも社会的に死ねる要因となりうる。
「い、今のは事故だし、私が喋りかけてたのが悪いからな」
顔を真っ赤にしながらも、八幡は悪くないと言ってくるあたりリゼの優しさなのだろう。
事故だから仕方がない、これはリゼだから言ってくれたのであって他の女性ならば悲鳴を上げられても文句は言えない。
「す、すいません」
敬語になってしまう八幡。
その八幡の顔も少々赤くなっている。
その後、リゼの泳ぐ練習はシャロに受け継がれ、無事泳げるようになったのだった。
はい、リゼ回?でした。
展開が結構強引でしたね。
プール回はこれで終わらせるのがもったいない気がするんですけど、すると本当に原作の進行が遅くなるので、今回で終了かな?
感想評価待ってますぜ?