ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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みんなチノちゃん好きすぎやろ。
前回の感想数半端なかったで。

さて、今回は原作沿いで、長くなったので分割しました。


第十二羽

ザーザーと、雨音がラビットハウス店内にも聞こえてくる。

店内は静かで、客は遊びに来ている千夜とシャロだけ。

 

「今日は雨であんまりお客さんこないね」

 

「いつも客は多い方じゃないけどな。まあ、天候はどうしようもないからな。……私そういえば傘持ってきてないな。帰りどうしよう」

 

「いざとなったらウチに泊まればいいですよ」

 

客がいないことで、私語を慎む必要がないのが唯一の利点だろう。

だが、経営的にはマズイ事なので、普段から店員同士の会話が多いラビットハウスはマズイのではないかと八幡は最近思い始めていた。

 

「私たちがここに来た時は晴れてたのに」

 

「きっと千夜の日頃の行いのせいよ」

 

「きっとシャロちゃんがラビットハウスにくるなんて珍しいことがあったからだね」

 

「えっ!?私のせい!?」

 

ココアからなんとも理不尽な事を言われガックリと項垂れるシャロ。

 

「ほら、シャロこれでも飲んで元気出せよ」

 

八幡はスッとマグカップを差し出す。

その中身はただのコーヒーではなくMAXコーヒー。

さりげなくシャロを味見役にしたのだが、相手が悪かった。

 

「ありがと。………」

 

「シャロちゃん、コーヒーはーー」

 

「分かってるわよ。まあ、八幡がせっかく淹れてくれたし」

 

そう言ってマグカップに口をつけるシャロ。

シャロはカフェインで酔うという珍しすぎる体質。

それを心配した千夜だったが、カフェインよりも、糖分の方が強いのがMAXコーヒー。

 

「あ、甘っ!な、何これ!?」

 

マッカンを知らない人が飲むと必ず第一声が「甘い」。

基本的には甘すぎるので敬遠されがちな飲み物なのだが、八幡は愛飲している。

 

「マッカンことMAXコーヒーだ。うまいだろ」

 

「いや、甘すぎじゃない!?」

 

「まあ、全部飲めばシャロもきっとマッカンの虜になるはずだ。いや、むしろ虜になれ」

 

「なによそれ。まあ、口つけちゃったし飲むけど」

 

グイッと今度はマグカップを一気に傾けるシャロ。

それを見た千夜は何かを期待しているような表情に。

 

 

 

そして三分後。

 

「みんなー今日は私と遊んでくれてありがとー!」

 

「いつでも遊びにきていいんだよ?」

 

「いいの?行く行くー!」

 

シャロのテンションが普段では考えられないほど高くなる。

それを見て八幡、リゼ、チノは「えっ?」と驚いた表情を見せる。

 

「チノちゃん、ふわふわー」

 

「ココアが増えたみたいだな」

 

「ああ、シャロはこっち側だと思ってたんだが……こんな隠し技を持っていたとは」

 

八幡としてはチノ、リゼとシャロは基本的に暴走しがちなココアと千夜のストッパー的な役割をする。

だからこそ、このメンバーのボケとツッコミのバランスが取れているわけで、一人でもボケ側へ行ってしまうと途端に収集がつかなくなる。

 

「いぇーい、はちまーん、飲んでるー?」

 

ついに八幡にまで絡み始めるシャロに、八幡は「げっ」と口にしてしまう。

 

「いや、店員が仕事中に飲んでたらダメだろ」

 

「もー、八幡は冷たいわねー。そんな硬いこと言わないで、ね?いいでしょ?私の淹れたコーヒーが飲めないって言うの?」

 

「いや、シャロは淹れてねえだろ。淹れるのはチノの仕事だ」

 

「もー、八幡はいつも捻くれてるんだからー」

 

シャロは普段とは違いグイグイと八幡の方へと詰め寄り、話の展開も普段とは違った感じだ。

 

「千夜ちゃん、シャロちゃんどうしたの?」

 

「シャロちゃんはカフェインで酔う体質なの」

 

「珍しすぎるだろ。…シャロは酔った時の事を覚えてるのか?」

 

「あやふやな感じらしいわ。まあ、覚えてないんじゃない?」

 

「シャロさん、コーヒー一杯で顔真っ赤です」

 

外野はシャロの体質について話し合っているが、八幡はそれどころではなく、どうにかしてシャロを引きはがさなければならない。

 

「し、シャロ?離れてくれると嬉しいんだがーー」

 

「八幡は私が嫌いなの!?」

 

「言ってねぇよ、元ぼっちに女子とのスキンシップは難易度高すぎるんだよ」

 

「じゃあ私で練習しましょう!」

 

「いや、話聞いてた?っておい、なに飛びかかろうとしてんだ」

 

シャロは助走をつけて八幡に飛びかかろうとーーしたが、寸前で躓きビターンと床に倒れる。

 

「お、おい!大丈夫か?」

 

シャロは目を回して倒れていた。

八幡は少しホッとしたが、すぐにシャロの対処にかかる。

 

「千夜、シャロを持って帰ってくれ」

 

「わかったわ」

 

「でも、外は大雨だよ?」

 

シャロを持って帰ろうにも外は大雨、傘を持ってきていない千夜はシャロを持って帰ることなど不可能だろう。

 

「でしたら、ウチに泊まっていってください。部屋は空いていますので。リゼさんもどうですか?」

 

「いいのか!?」

 

友達とお泊りなどしたことがないリゼは食いつきが激しい。

すぐにケータイで家族に連絡し、泊りの許可を取る。

 

「んじゃあ、俺は帰るわ」

 

八幡も傘は持っていなかったが、流石に女だらけのラビットハウスに泊まるのは憚られた。

 

が、この好機を見逃さないのが千夜である。

 

「八幡くんもここに泊まったらどうかしら?ねえ、チノちゃん」

 

「はい、八幡さんもどうですか?部屋は余っていますし、着替えは父のを使えば大丈夫ですよ?」

 

「いや、着替えはいらないから傘だけ貸してくれ。そうすれば帰れる」

 

タカヒロがいるとはいえ、女子率が圧倒的に高い場所に泊まるというのは八幡にとって高難易度のことなのだ。

つまり、出来ることならすぐに帰りたい。

 

「八幡さん、現在傘は修理中でありません」

 

だが、チノは追い打ちをかけるようにそう口にした。

 

「いや、嘘だろ、さっき倉庫に予備の傘がーー」

 

「ありません」

 

「いや、だからーー」

 

「少なくとも八幡さんに貸す傘はありません」

 

「チノ、そんなに俺を虐めたいのか?」

 

「い、いえ、そういうわけではなくてですね……」

 

チノは何としても八幡にラビットハウスに泊まってもらおうとしているらしい。

 

それは少なからず先日のフルールでの八幡の告白もどきが関係しているようだ。

 

「八幡、諦めろ。チノは中々に頑固なんだ」

 

「くっ、まだだっ!」

 

そう言って八幡が懐から取り出したのはスマホ。

小町に電話して傘を持ってきてもらおう作戦である。

 

「もしもし、小町?」

 

『どーしたのお兄ちゃん』

 

「傘を持って行くのを忘れてな、すまんが傘を持ってラビットハウスまで迎えに来てくれないか?このままだとラビットハウスに泊まることになるんだよ」

 

八幡痛恨のミスをやらかしてしまう。

最後の一言は完全に余計だった。

小町の性格上、そんなことを口にしてしまうとーー、

 

『無理、嫌だよ。お兄ちゃんは小町をこの雨の中ラビットハウスまで行かせるっていうの?ラビットハウスに泊めてもらったほうがいいよ!幸い明日は休日だよ!』

 

こうなる。

小町までもが八幡の敵に回ってしまい四面楚歌の状態に。

 

「いや、そこをなんとかーー」

 

『あっ、ゴメンお兄ちゃん、小町は勉強中だったのです!じゃあね!』

 

プツッと通話が切れる音。

 

「な、なぜだマイエンジェル」

 

小町(エンジェル)に裏切られ項垂れる八幡。

ここまでくると流石に八幡も腹をくくる。

 

「仕方ないな」

 

「ついに八幡くんはラビットハウスに泊まることにーー」

 

「走って帰ろう」

 

「それでも帰るの!?」

 

八幡はラビットハウスの戸を開け、外の様子を見る。

だが、天は八幡を見捨てたのか、ピカッと白い光が天に迸った。

 

ゴロゴロ。

 

「雷までなったらさすがの八幡くんも泊まるしかないんじゃないかしら」

 

「この悪天候の中傘もなしで帰るのは危険だ。大人しく泊まれ」

 

「八幡くんとのお泊り楽しみだなー!」

 

「私たちは気にしませんから泊まっていってください」

 

「う、うぅ、あれ?私…」

 

それぞれが八幡に死刑宣告と同様の言葉を放つ。

ついでにシャロも眼を覚ます。

 

「寝る部屋は別、夜10時以降の接触は禁止!これ絶対な」

 

八幡が妥協し、泊まるにあたってのルールを提示してきた。

それを聞くとココア、チノ、リゼの三人があからさまに顔を暗くする。

 

「大丈夫だよ、夜こっそり忍び込めば」

 

「そうだな、せっかくの泊まりなのに夜更かししないのはつまらないしな」

 

「ウチは部屋の中から鍵はかけられないので問題ないですね」

 

「ふふっ、楽しくなりそうね」

 

「なんの話?」

 

「おい、聞こえてるからな」

 

八幡のラビットハウスでの夜は騒がしくなりそうだった。

 




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