前話の時間軸はココア達が初めてシャロと会ったときと同時刻という設定ですので、ココア達は既にシャロを知っている、ということで話が進行いたします。
「みんな!シャロちゃんが大変なの!」
ラビットハウスにていつもの四人が働いていると、突然ものすごい勢いでラビットハウスの戸が開かれた。
入ってきたのは千夜。
運動が苦手なはずの千夜が息を荒くし汗をかいている。
それだけで、どれだけ大変なことが起こったか察することが出来る。
「千夜ちゃん、落ち着いて!」
「何があったんですか?」
千夜は一度大きく深呼吸をして落ち着くと、懐から一枚のチラシを取り出した。
「ここでシャロちゃんがバイトしてるって、きっといかがわしい店に違いないわ!」
千夜が取り出したチラシはフルール・ド・ラパンの広告だった。
確かにうさ耳のシルエットと、『心も体も癒します』というキャッチコピーが記載されているので、千夜のような天然は勘違いしてもおかしくはない。
「いや、フルールはただの喫茶店ーー」
「聞けない!怖くて本人に聞けないわ!」
八幡が真実を教えようとしたが、千夜に遮られる。
この状態の千夜には何を言っても聞かなそうなので諦める八幡。
「どうやって止めたらいいのかしら?」
「仕事が終わったらみんなで行ってみようよ」
いかがわしい店かもしれないという話なのになかなか根性のあることを言い出すココア。
「潜入ですね」
チノのそんな一言に今まで冷静だったリゼが熱くなる。
そして、八幡はその時点で大きく話を訂正することを完全に諦める。
「お前ら、ゴーストになる覚悟はあるのか!」
「ちょっとあるよー」
「ねぇよ」
「潜入を甘く見るなぁ!」
軍隊関係のことが話に関わると熱くなるリゼ。
八幡とチノは完全に蚊帳の外。
ついていけるのはココアと、なんとなーく合わせている千夜の二人だけだった。
「また面倒なことになりそうだな」
「いいじゃないですか。楽しいのはいいことですよ」
「それしても、どこでシャロと知り合ったんだ?」
八幡の知らないうちに、ラビットハウスの面々とシャロが知り合いになっていることに疑問を持った八幡。
「先日、コーヒーカップ…買いに行った際に会ったんです。リゼさんと同じ高校らしくて、友達になりました」
「ってことは、あいつもお嬢様学校なのか。……イメージ通りだな」
「ですね」
八幡とチノは会話を終わらせると仕事へ。
幸いなことに、客はもうおらず、残っている仕事もそう多くはない。
フルールへ行くのもそう時間はかからないだろう。
「よし、私について来い!」
「「いえっさぁ!!」」
ああ、いつもの騒がしくなるパターンだ、と八幡とチノは思いながらも、仕事をするのだった。
○
「ここみたいだね」
コソコソと、フルール・ド・ラパンの店の前までやってきた五人だが、八幡だけさっさとフルールの中へ。
だが、他四人はそれには気付いていない様子。
「いいか?慎重に覗くんだぞ。せーのっ」
リゼの掛け声と同時に店の中を覗く。
四人の視線の先にはーー、
「いらっしゃいませーって、八幡どうしたの?」
「シャロこれから騒がしくなると思うから、先に謝っとく。悪りぃな」
「え?なんの話って、なんかいるー!?」
ロップイヤーとスカート丈の短い制服を着ているシャロと堂々と中へ入っていく八幡がいた。
「おお、八幡、堂々と入っていくとは…潜入とは別のジャンルだが、センスがあるな!」
「ほら、リゼちゃん私たちも中に入るよ」
外で覗いていた四人はシャロに気づかれた事でさっさと中へ入っていく。
「ここは、ハーブティーがメインの喫茶店よ、ハーブには体に良い色んな効果があるの。そんなフルールに何しに来たの?」
シャロがいかがわしい店でバイトしているのを止めに来た筈なのだが、ココアはそんなことは忘れていたようで。
「私はシャロちゃんに会いに来ただけだよ?」
「シャロさんがいかがわしいお店でアルバイトしてるって聞いたのですが……いかがわしいってなんですか?」
「こんなことだろうと思った」
チノとリゼも気にしていなかったらしく、シャロに会いに来ただけのようだ。
そしてシャロは一番怪しい千夜へと目を向ける。
「………その制服素敵ね!」
「アンタが犯人かー!ていうか、八幡がいてなんで私がそんな
変なバイトしてるって話になってんのよ」
「なんで八幡くん?」
「だって、八幡ウチに来たことあるじゃない」
「察してくれ」
「ええ!?八幡くん、まさか……シャロちゃんとそんな関係に!?」
「ああわかったわ。千夜が無視したり引っ掻き回したのね」
流石は空気の読める少女シャロ。
八幡の疲れたような反応に、どんな状況だったのかを察する。
「それにしても、シャロちゃんうさ耳かわいーね。すっごい似合ってるよ!」
「て、店長の趣味なのよ。恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないで。……り、リゼ先輩も何でジロジロ見てるんですか?」
「なあ八幡、私、ロップイヤー似合うかな?」
「……なんで俺に聞くんだよ。ココアとかでいいだろ」
非常に答えにくい質問が八幡を襲う。
なんとか逃れようと、ココアの方へと転換させようとする八幡。
「ほら、男の感想とかの方が重要だったりするんだよ」
「………似合うんじゃねぇの」
そっけなく、小声で八幡は告げる。
出来ればスルーして欲しかった八幡なのだが、それは周りの少女たちが許さなかった。
「ねえ八幡、私は?私は実物がここにあるんだから答えられるわよね?」
シャロが追撃。
味方だと思っていただけに、予想外の方向からの攻撃に対処出来ず、ごまかすための策を考えていなかった八幡。
「ねえ、どう?」
「なにこれ、いじめ?………に、似合ってるよ」
ぶつくさ文句を言いながらも問い詰められたことにより仕方なく口を破る八幡。
その答えにふふっと笑顔を浮かべるシャロ。
八幡はこれで終わったと、やりきった感を出しているのだが、前二人とのやりとりが他のメンバーにも影響を与えてしまった。
「ねえ、八幡くん、私はどうかしら。可愛いと思う?」
千夜の新たな攻撃に八幡は戦慄する。
前のリゼとシャロからの質問に対しては似合うか否かで答えればそれでよかった。
だが、千夜はその方法を潰し、可愛いか否かで答えさせようとしているのだ。
「いや、ま、待とうぜ、ほら、実物見てないし」
「シャロちゃん、それ借りるわね」
ヒョイっと千夜はシャロの頭からロップイヤーを奪い、自らの頭上へ。
八幡の逃げ道をさらに潰しにかかる。
「これで、実物が見れたでしょ?で、どう?可愛いかしら」
八幡は救いを求めてリゼ、シャロの方へ視線を飛ばす。
だが、リゼは諦めろと首を横に振り、シャロも目をそらされてしまう。
「………可愛くなくはない」
「むぅ、求めてた答えと違うけど、まあいいわ♪じゃあ次はココアちゃんね」
ぷくっと頬を膨らませた千夜だが、まあいいわと笑顔になり、ロップイヤーをココアへ渡す。
「おい待て、なんで一人ずつに感想を言わなきゃいけないみたいな感じになってんの?」
八幡の制止の声もむなしく、ココアの頭にロップイヤーが装着される。
「どうかな、可愛い?」
上目遣いで、八幡に尋ねるココア。
だが、それはココアの求めていた答えとは違うものを口にさせる。
「あざとい」
一蹴である。
ココアが狙ってあざとくしてあるわけではないのを八幡は理解しているが、丁度よく逃げ道が出来たので利用させてもらったといったところだろうか。
「酷いよ八幡くん!なんで私だけそんな感じ!?」
だが、涙目で訴えるココアに、八幡の心は揺れた。
八幡は罪悪感を感じ仕方なく、もう一度、今度は違う答えを口にする。
「か、可愛いよ」
目線をココアに合わせないようにしながらココアにそう告げると、涙目から一転。
ココアの顔はパアッと笑顔になる。
「えへへぇ、ありがとね八幡くん」
「お、おう」
「じゃあ最後はチノちゃんだね」
巻き込まれないように、と息を潜めていたチノだったが、ココアがチノの事を忘れるはずもなく捕まってしまうチノ。
「わ、私は結構ですから!」
「ほらほら、そんなこと言わずにー」
無理やりロップイヤーをつけられたチノだが、最後の抵抗といったところか、八幡に見られないようリゼの背中に回る。
「ほら、チノ。お前も八幡に見てもらったらどうだ」
「ど、どうしてリゼさんまで、ちょっと、ココアさん!」
背中をグイグイと押され無理やり八幡の前に。
チノは恥ずかしがりながらも諦めた様子で抵抗するのをやめる。
「わ、笑っていいんですよ。似合わないってーー」
チノはバカにしてくれて構わないと、罵倒の言葉を求めるが、八幡の答えは違った。
「毎日、俺に味噌汁を作ってくれ」
「「「「「えっ?」」」」」
八幡の口からとんでもない言葉が放たれる。
チノは顔を真っ赤にして口をパクパクと動かし、八幡の顔を見つめる。
他の四人も何が起こったのが理解できずに呆然と立ち尽くす。
対する八幡は自分が何を言ったかあまり理解していないのか、平然としてーー、
(や、やってしまったあぁぁぁぁ!!!)
平然としていなかった。内心恐ろしいほど後悔していた。
(何言っちゃってんの俺!?中学生に告白!?シャレにならねぇよ!フラれて、今後ラビットハウスの空気が悪くなるだけだろぉ!)
八幡はロップイヤーチノのあまりの破壊力に告白まがいの言葉を口にしてしまったのだ。
「あ、あ、あ、あの、その、あ、あぅぅ」
チノもチノで頭が混乱しているようで、何度も吃り、最後には頭から蒸気を出して気絶してしまった。
そして、漸く頭の中を整理し終えた八幡は、一言。
「すまん、今の無し」
このあと八幡は説教されたり問い詰められたりで、グロッキーになるのだった。
チノちゃんマジ天使(挨拶)
今回は原作通りのフルールの話のはずだったのに…まっ、いいか!
さて、今回も感想評価ドシドシ送ってくれていいんですぜ?