………次こそは!
時刻は昼過ぎ。八幡と小町は学校の制服のまま、二人公園を歩いていた。
「お兄ちゃん、最近どうなの?」
下校中、偶然にも小町に遭遇した八幡は小町と一緒に家路についていた。
「どうって、なにがだ?」
「ほら、ラビットハウスとか」
「どうって言われても……友達が出来たってくらいかな」
八幡は何気なくそう口にするが、それを聞いた小町は盛大に驚く。
「ええっ!?お、お兄ちゃんに友達!?しかも、ラビットハウスってことは、女友達!?」
「おい、妹よ、お兄ちゃんをなんだと思ってるんだ」
「え?口を開けば捻くれたような事しか言わない目の腐った高校生?」
「ま、まあ、否定はしない」
酷い言われようだが、実際その通りなのだから否定ができない八幡。
「いや、だって事実だし。比企谷八幡がお兄ちゃんじゃなかったら小町は絶対に近寄らないし。で、そんなお兄ちゃんに女友達!?しかもあの可愛い三人だよね!?」
「ああ、ココア、チノ、リゼだな。ラビットハウス以外ならシャロとか、千夜も友達か?」
「……ぜ、全員女の子?」
「その名前で男はねぇだろ」
八幡がそう言うと小町は、確かにと頷いたあと、一度大きく息を吸って、叫ぶ。
「お、お兄ちゃんに春が来たああぁぁぁ!」
時間帯は昼、場所は遊具等があるわけではないが、それなり広いため人がそれなりに集まる公園。
小町は周囲の人の目線を集めているが気にしない。
「それはねーよ。あくまで友達だ」
「甘い、甘いよお兄ちゃん!男女間の友情なんて愛情と同じなんだよ!」
「そんな、ラブコメじゃあるまいし」
漫画の読みすぎだろ、と一蹴する八幡だが、小町はそんな風には思っていないようだった。
「はぁ、これだからお兄ちゃんはごみぃちゃんなんだよ」
「え?俺が悪いの?」
小町の言い分が正しいのかも、と不意に思ってしまった八幡だったが、いやいや、と我に帰る。
「お兄ちゃん、その捻デレを治さないと一生結婚できないよ。お兄ちゃんの性格を容認出来て、養ってくれる人なんて小町以外いないと思うよ?今の、小町的にポイント高い♪」
「百歩、いや、千歩くらい譲って専業主夫の夢は諦めたとしよう。だが、この性格は多分治らんぞ」
「だよねぇ、お兄ちゃんの性格がマトモになる時は、お兄ちゃんの目が綺麗になる時だもんねぇ」
「おい、それは遠回しに俺の目は治らないって言いたいのか?」
八幡の目が病気のような扱いを受けているが、八幡の目が一番腐っていたのは、ラビットハウスに行く前の高校一年生の時期だ。
その時期に比べれば、現在の八幡の目は優しくなった方だと言える。
それもラビットハウスへ行くようになってからだと勘のいい小町は気づいていたし、それゆえに八幡にはこれからもラビットハウスに通ってもらわなければならないのだ。
「違うよ、お兄ちゃんは性格と目さえなんとかなればそこそこイケメンなんだけど…」
「ふっ、小町もついにお兄ちゃんのハイスペックさに気がついたか」
「性格と目がなんとかなってないからハイスペックじゃないんだよ」
「………まあ、そうだな」
「成績とかも文系科目はそこそこいいのに、もったいないよ」
心底呆れたように八幡を見る小町。
だが、八幡も自覚しているのだ。
八幡だってなりたくてこんな風になったわけではない。
「社会が悪い!だから俺は悪くない!」
どこかの某
八幡も
「これだからお兄ちゃんは八幡なんだよ」
「ついに八幡が悪口みたいになってんぞ」
兄妹だからこそここまで軽口を叩き合っているが、これが血のつながりもない他人同士ならば、険悪なムードになっていることだろう。
だからこそ、それに目をつけたのか、一人の女性が比企谷兄妹に話しかける。
「あら?随分と仲が良い兄妹ですね」
「「え?」」
突然話しかけられたことに驚きながらも声の方に振り返る二人。
その声の主は小説家青山ブルーマウンテンだった。
「あ、青山さん」
「はい、そちらはーー八幡さん、でしたよね?」
「はい、比企谷八幡です。よく知ってましたね」
「ラビットハウスの店員さんがそうおっしゃっていたので、なんとなく名前だけではありますが。失礼でしたか?」
「いえ、光栄です」
青山と八幡の二人で話が進んでいくので、しびれを切らした小町が八幡に問いかける。
「ねえ、お兄ちゃん。この人は?」
「ああ、小説家の青山ブルーマウンテン先生だ。俺のよく読んでる本も書いてる、有名作家だな」
「なんで、そんな有名作家さんと知り合いなの?」
「ラビットハウスの常連なんだよ」
ラビットハウス、常連、の単語を耳にした小町はキラリと目を光らせた。
「どうも、青山さん。私は比企谷八幡の妹の比企谷小町と申します。お兄ちゃんから青山さんの本の話を伺っています」
実際八幡は家でそんな話をした覚えはなかったのだが、ここで話の腰を折ると小町に怒られそうだったので、口は出さないことにする。
それよりも小町の処世術とでもいうべきか、会話の組み立てが非常にうまく、元ぼっちで会話もろくに出来ない八幡は兄妹でどうしてここまでの差が、と落ち込んでいた。
「そうなんですか?嬉しいです」
「ええ!兄は家では本を読んでいるかゲームをしているかのどっちかなのでーー」
小町に妙なスイッチが入ったことを確認した八幡は、道の端に置かれていたベンチに腰掛けると、空を見上げる。
「空が青いな」
その後、小町と青山の会話は十数分ほど続いた。
小町と青山の長話が終わり、再び公園の中を歩き出す二人。
「いやー、お兄ちゃんにあんな年上ヒロインがいたなんて驚きだよ!」
「ヒロインじゃねえよ。流石に歳が離れすぎだろ」
「そうなの?若く見えるけど…」
「平塚先生の後輩って言ってたから、平塚先生をギリアラサーだとして二十五歳。すると青山さんは最低でも二十三歳だ。俺とは七歳差だよ」
八幡は高校二年生になりたての十六歳。
だが、平塚先生が二十五歳という確信はなく、三十歳に近ければ近いほど更に二人の年は離れていく。
そこまで年齢が離れていたら流石に八幡の守備範囲から外れてしまう。
「ふーん、チノちゃんとの三歳差はokなのかな?小町より年下だからオススメはしないよ?」
「オススメってなんだよ。商売じゃないんだから」
「まあ、チノちゃんは良い子だから気にしないけどね!」
中々恋バナから離れてくれない小町に疲れを感じながらも八幡歩く。
すると、偶然か、見覚えのある中学の制服を着た二人の少女が公園の中に見えた。
二人は何やら木の上を見ているようだ。
「なんだろうね、あれ」
小町が不思議に感じたのか、持ち前のコミュニケーション能力を使い話しかけに行く。
「どうしたのー?」
八幡は小町のコミュニケーション能力の高さに驚きながらも、追いかける。
「あそこー、マヤちゃんの帽子が木に引っかかっちゃったの」
「うー、調子に乗って帽子を投げなきゃよかった」
「今日は体育がなかったから元気が有り余ってるんだよねー」
上を見れば、身長が百四十センチ程度の二人では届きそうもない高さに帽子が引っかかっている。
「うーん、小町じゃ届かないかな。お兄ちゃん」
「ハイハイ」
「お兄ちゃん優しい!小町的にポイント高いよ」
一人で公園を歩いている際に見かけたらきっとスルーしていただろう八幡だが、今は小町と一緒だ。
小町と一緒の時にそんな薄情な行動をしてしまうと、家で冷たく接されるのは必至。
すると、八幡の選択肢は一つしかなかった。
「よっ」
八幡の身長は普段は猫背なので、そこまで高くないように見えるが、背を伸ばし、ジャンプをすればそこそこの高さがある。
「「とれた!」」
中学生二人が声を揃えて、叫ぶ。
そして、年上で更に目の腐っている八幡の元へ寄る。
「ありがとうございます。ほら、マヤちゃんも」
「わかってるよ。私の帽子をとってくれてありがとね目の腐った人!」
「マヤちゃん!失礼だよ」
「事実だから気にしなくていいんだよ!」
「なんで小町が答えるんだよ」
八幡が呆れたように言うと、アハハ、と笑う中学生二人。
そんなこんなで、珍しく八幡の下校は騒がしかったのだった。
最後の中学生二人、一体何マメ隊なんだー!
まあ、マヤの名前が出ているのでお察しですね。
感想評価沢山貰えると執筆速度が上がるんだけどなー(チラッ
に、日間ランキング入りだとおぉぉぉ!!??(3/19現在)
感想評価お気に入り登録誠にありがとうございます!
これからも執筆頑張ります!