この魔法少女どもはアホである。   作:輪るプル

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エピローグ『この魔法少女どもはアホである』

ワルプルギスの夜は終わった。

魔法少女史上初の快挙とも言えるかの舞台装置の魔女の撃破は、きっと世界の魔法少女たちへゆっくりと広まっていくことだろう。

正直何故広まるのかさっぱり謎だ。基本的に群れないぼっちとアタマおかしいヤツしかいない(ほむら当社比)魔法少女の間に、面識もないのに話が広がるの謎すぎる。

でもマミは間違いなくワルプルギスの情報を持っていた。何故だ。

 

ほむらは考えるのをやめた。アホの思考のトレースは不毛である。

 

 

結局世間的にこの事件は、局地的に発生した大竜巻の中心に、偶然にも小規模隕石が落ちたことで、お互いのエネルギーを相殺して消え去った珍事ということになった。

ワルプルギスの被害、魔法少女による二次災害、志筑家がアパッチから落とした爆撃の被害、ホストのショウさんが砕いた地面の被害、OLの血糊で汚れた壁、グルメグリズリーが食べた魚屋の魚切包丁、ほむらが爆弾のため失敬したホームセンターの肥料、田代本部長が負けかけた南場三局。すべては竜巻と隕石の被害ということになった。田代本部長首の皮一枚繋がりやがった、だから誰ですかあなた。

 

みんなは、魔法少女たちの死闘を知らない。

大人たちは――飛び降りOLとショウさんとホスト後輩は知ってた。

クラスの友達は――仁美知ってた。

あれ? 結構魔法少女の活躍メジャーなのでは? ……と思ったが、隣近所はす向かい全員知らなかった。大丈夫、まだ魔法少女は社会から隠れてる。ほむらは気を取り直した。

 

 

だからきっと、社会の大勢の人たちは、この戦いを忘れていくのだろう。

 

 

勝者たちがそれぞれ代償を払い、傷を負い――1人、帰れなくなった犠牲者を出した戦いを。

 

 

 

 

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暁美ほむら。

戦いの中でリミッターを外し過ぎたため、極度の筋肉痛と肉離れのため1週間絶対安静。

セキュリティはしっかりしてるが居住環境はあんまりよろしくない安アパートはなんとか被害から逃れていたため、部屋で寝たきり状態。

ママいなかったので、ミルキィを食べて静養しておいた。ママ味って言うけど、この人たちにとってママって何なんだろうか。食べるのかな。

 

 

 

美樹さやか。

中学生の乙女、体重70kg、まだ成長期。

これで100キロとか言われたらまだギャグかよと諦めもつくが、1発1kg体重が増えるさやかちゃんビームを連射したわりには、割とリアルにイヤな数字に落ち着いた。

体格は割といい方とはいえ女子中学生の背の高さ。それで体重だけが増えていたため竜巻に飛ばされずに済んでいたフシもあるので、一概に害悪とは言えない。が、こんな体じゃ愛してなんて言えない、抱きしめてなんて言えないと一念発起。

普通のダイエットでは単純質量の増えた彼女には向かないということで、ヨガを鍛えて常に微妙に浮遊することで体重を軽減する計画を立てている。アホである。

ちなみに7ヶ月後に成功し、手足が伸びるようになり、火も吹けるようになった。ヨガってすごい。テレポートはまだ修行が足りないとのこと。

 

 

 

 

 

巴マミ。

家が高層マンションだったため、ワルプルギスの被害を受けて家なき子に。

一応保険は降りているので、今はさやかの家にご厄介になっているがその内適当に住処を見つけるだろう。

ところで劇的ビフォーアフターにリフォーム希望を送っている中学生がいるらしい。

元は家族3人で暮らしていたが今は半ば廃屋! 匠は一体この家にどんな遊び心を加えるのでしょうかというテーマが通りかけているとのこと。きっとそのオリジナリティ溢れる家に、依頼人は大満足であることだろう。

巴マミ、厨二病の終わりが住み辛い家の始まりである。

 

 

 

 

佐倉杏子。

想い出の廃教会が灰! 新しい夢にFly high! 料理のために渡るぜSky! グリズリー連れてlet's try! サツに追われて闇世界! 身を寄せるぜイオニア海!

要約すると、想い出の教会が壊れたのを機に心機一転、料理を極める夢を追うために本場イタリアへ飛ぶ。

しかし空港でグリズリーが飛行機に乗れないことを初めて知り、一時期警察にまで追われるに至ったがそこは蛇の道は蛇。何とか密入国を繰り返し、シチリアまでたどり着くのだった。

しかし、そこで身を寄せたのはシチリアマフィアだったのが運命の分かれ目。ドン・キョーコの率いるサクラ・ファミリーはジャポネーゼマフィアとして周辺を傘下に収め、杏子はしばらくうまい料理よりも敵対する組を料理するばかり。紅い大熊が目印の極道、料理を研究できるようになったのは5年後のことであった。

 

 

 

そして ――鹿目まどか。

彼女は、2度と戻ってこなかった。

死んだわけじゃない。傷を負ったわけじゃない。

 

ただ、彼女は運が悪かった。

 

 

――己の魔法の暴走で、世界はまどかを失った。

 

 

 

 

 

 

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「よーっすほむら、お昼だーっ!」

「もう、美樹さん……そんなに急がなくてもお昼ご飯は逃げませんよ」

 

どこか欠けた日常を彼女たちは明るく過ごす。

傍で困ったように笑う仁美にはわからないだろう、歪みを抱えながら彼女は生きる。

 

「いやいや、ほむらは何もわかってない! ご飯は逃げるんだぞー」

「足が速いとかいうオチは却下しますよ」

 

ほむらが触るもの皆傷つけた。

 

「……違うよ! えっと、ほら、うどんとか伸びたら美味しくないじゃん! うどんと言えばまどかも何とか言って――」

 

さやかは不自然に言葉を切った。ほむらは沈黙した。

それは、禁句だ。さやかとほむらの間だけ、学校では呼んではいけない名だ。

その2人の沈黙に、仁美は訝しげに尋ねた。

 

「一体何を言っておりますの?」

 

嗚呼、そうだ。

仁美は戦っていたが、魔法の才能はない。故に、この歪みに気付くことができない。

彼女が【円環の理】の主となったことが、知覚できないのだ。

 

「いや……何でもないよ」

 

さやかは、誤魔化すのが下手だ。

真っ直ぐで不器用な性根の彼女は、根本的に隠すことに向いていない。

 

 

 

「まどかさんといえば――バナナでしょう?」

 

「ウホッホ」

 

 

ほむらは天を仰いだ。

 

まどかはあの日、ジャイアントゴリラを鹿目まどかであると認識させる魔法を使った。ここまでは間違いない。

……あの娘、アホだアホだと思ってたけど、自分の魔法解く方法何一つ考えてなかった!

しかも周りのみんな、気づけ! 学校にゴリラがいて違和感ないの!? 突然身長2m超になって体重180キロになって「あらー、鹿目さんは成長期なのねーふふっ」じゃないよ養護教諭! 人間を何だと思ってるの!?

 

「あ、アンジ……じゃなかった、まどかはバナナだよね、あは、あはは……」

 

だめだこの大根役者。ほむらは指でこめかみを揉んだ。

というか周りが全員、ジャイアントゴリラのアンジィのことをまどかと呼ぶし、普通に鹿目家に帰るのもアンジィなのだ。

 

「ほむらさんはお弁当を持ってきていらっしゃらないようですし、今日も円環の理でしょうか?」

 

見滝原中学校食堂であったフードコートは、竜巻の被害から復旧していない。

だから、臨時での例外措置として、学校のはす向かいに数軒ある食事処は使ってもいいとお達しが出たのだ。

 

 

 

「へいらっしゃい! ほむらちゃん、さやかちゃん、仁美ちゃん、アンジィ!」

 

うどん屋【円環の理】の主人、エンーカン=クォートワリ。日系アメリカ人で、日本へはニンジャの修行に来た。

好きなものはウドンで、かつてサヌキ忍軍の首領と拳で語り合ったことがある。現在は鹿目家にホームステイ中。

 

そういう設定にして、勉強とか一切をアンジィに任せて好き勝手うどんを茹でるまどかがいた。アホである。

 

「いつものだと、ほむらちゃんは春菊天、さやかちゃんはしいたけ天、仁美ちゃんは……今日はお弁当かあ。まあ、広げていってよ。アンジィはバナナクレープだね!」

 

まどかはテキトーに、「鹿目まどかは故郷にいる友人のアンジィに似てるから」という理由をでっち上げて普通にアンジィ呼ばわりしている。

誰のせいでアンジィをアンジィと呼びづらくなってると……ほむらはそのはた迷惑さにわなないた。

 

 

と、いつもなら肉厚で旨味のぎゅっと詰まったしいたけの天ぷらに食いつくはずのさやかが止めた。

 

「せっかくだし、あたしもバナナクレープにするよ」

 

ちらっと目配せしてくるさやかに、気づいた。

あの戦いの日に、そんな約束をした。せっかくだし、ここで果たして一緒に食べるのも悪くない。

 

まったく。

 

「私も――バナナクレープを1つ――!」

 

 

どうにもこうにも、慣れやしない。

もともと平穏に、健康に生きられたらそれでよかったほむらの人生を、彼女らは笑顔で搔き回す。

 

 

鹿目さんにせよ、佐倉さんにせよ、巴先輩にせよ。

 

 

 

 

 

――この魔法少女どもはアホである。

 

 

 

 

 

 

 

「へいうどんお待ちー!」

「バナナクレープ頼んだのに!?」

 




3年越しくらいに完結です。
応援してくださった皆様、ありがとうございました!
一番好きなキャラはメガネほむらです。それ故、自分のいつものボーボボの文脈で書いてしまいました。
でも一般人宣言心続けるほむらちゃんはそれはそれでぽんこつ可愛いのでアリだと思って続けていました。後悔はありません。


@@@今作のキャラをこうした理由まとめ@@@
・まどか
書き始めた時たまたま近くにうどん玉があったから。

・さやか
「さやかちゃんビーム!」って言うと最高にホントバカで楽しそうだったから。

・ほむら
PSP版でめがほむが可愛かったから。主人公は強いほうがいいよねみたいな理由でワンパンマンの影響受けて、最強になりました。

・マミさん
特に普通の壊れから外してないと思います。

・ゲルほむ
普通の変態ほむらさん。シュタインズゲートの影響でループしすぎてゲルになった。あと憑依先のほむらが最強存在すぎて憑依失敗しました。

・上条くん
ループによって音楽の才能違うと聞いて楽しくなりました。

・飛び降りるOL
ゲームアニメ両方出てきて「死にたい……」って言ってるのが面白かったです。


@@@当初の最終話想定@@@
避難所と戦場両方に絶望がある→ほむら、契約で避難所の絶望を解決→ほむら、ゲルほむと自分のソウルジェムでツインドライブしてまどかに魔力供給→まどかアローでワルプルギス撃破!ハッピーエンド!あとほむらも契約したからアホの仲間入りね!

ここからまず、ジャイアントゴリラが避難所にいたあたりから歯車が狂い出し、全ての話が崩壊しました。
その後上条くんがロック始めたあたりでもう逃れられず、奇跡も使わずワルプルギスを倒し切りました。
これまた定めだと思って受け入れます。書いていて楽しかったです。

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