ガンダムビルドファイターズF   作:滝つぼキリコ

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Act.22 『涓滴岩を穿つⅢ』

 

 カトー・トモヒサは、自分の役割を全うする。

 マップに点されたマーカーを確認し、機体を上空へ浮上させた。ジニアが示した方角へ、ガンダムAGE-1フルグランサと同じマウントポジションに変更したグラストロランチャーから、砲撃を開始する。

 

「さぁ、暴れてやるか」

 

 着弾点が大きく爆ぜ、密集している樹冠が爆風に煽られる。

 そして数秒とかからず、木の葉が舞う中から一機のモビルスーツが現れた。

 ミキシングモデルと分かる巨大な砲身を担ぎ、胸部、脚部を追加アーマーが覆う重装甲の姿。とりわけ目立つ額と胸に存在する砲門は、ガンダム好きなら一目で分かる高出力兵装「ハイメガキャノン」だ。

 ZZガンダムによく似ているが、しかしZZガンダムに非ず。

 

「ツヴァイゼータガンダムって奴か!」

 

 そう、何故ならば。

 素体に使われているガンプラは、どう見てもガンダムAGE-3ノーマルだからである。

 

『随分、派手な攻撃かましてくれんじゃないの!』

 

 掠れたガラガラ声がオープンチャンネルから響いた。

 その声は忘れもしない。一度聴いたら忘れない特徴的な声は、この間の「ビッグリング」での一件を鮮明に思い出させた。

 ツヴァイゼータガンダムは上空に飛び上がり、ガンダムヘリクリサムと向かい合う。

 

「よぉ、五日ぶりだな」

『黒い試作2号機の改造ガンプラ…本物を見るのは初めてだぜ』

「有名みたいで光栄なことだ」

 

 掠れた声の主――アシヤ・シュウトは、ツヴァイゼータガンダムの巨大な砲身――ハイパーメガカノンの砲口をこちらへ向けた。

 

『けど、俺のツヴァイゼータも侮ってもらっちゃ困るね!』

 

 快哉と共に、グラストロランチャーに匹敵する程の膨大なビームを吐き出す。

 ヘリクリサムを回避させつつ、バインダー上部のツインドッズキャノンで牽制射撃を行うが、ツヴァイゼータは外見に似合わない素早い運動を見せた。

 そのまま互いに森林の中へ着地し、マップで位置を確認する。

 やや離れた場所で、ハルジオン・フェイクが表示された。その傍にホウカがマーカーを付けた機体がいるため、交戦しているのだろう。しかし、予定ならば炙り出された三機目とガンダムラナンキュラスも表示されるはずだが、未だに音沙汰はない。

 

「どうしたってんだ…ッ!?」

 

 意識を僅か逸らしていたところに、ロックオンの警報が鳴り響く。

 その直後には、ハイパーメガカノンのものであろう砲撃が、木々を巻き込んで襲い掛かってきた。

 

『隠れてないで出てきな!”黒い悪夢”さん!』

「ちっ…!」

 

 舌打ちしつつ、フレキシブル・スラスター・バインダーからバーニアを噴射させて機体を横滑りさせる。粒子の塊が先程まで立っていた場所を飲み込むのを見送り、グラストロランチャーを両腰から伸ばした。

 

「望み通り、出てきてやったぜ!」

 

 おおよその位置に狙いを付け、ヘリクリサムの足で地面を削りながら砲撃を撃ち込む。

 相手の砲撃が止まない内に撃ち込んだのだ、直撃させる自信はあった。 

 が、

 

「――上かッ!!」

 

 天を仰いだ時には、既にツヴァイゼータガンダムがビームサーベルを振り被って急降下してきていた。

 反射的にビームサーベルを選択し、左サイドアーマーからサーベルの柄を突出させる。それを右手で引き抜き、真正面から受け止めた。

 

『おりゃあああーーー!!』

「なんのぉっ!!」

 

 ピンクとライトグリーンのビーム刃が、鮮やかに閃光を散らして弾ける。

 続け様に、ツインドッズキャノンの銃口を眼前のツヴァイゼータへ向けた。

 

『うわっ、危ね!』

 

 ツヴァイゼータは後方へ飛び退き、ツインドッズキャノンの射撃を避ける。放った穿孔する粒子が大木を貫通し、その向こう側の丘にある大きな一枚岩をも撃ち砕いた。

 

『ひゃ~、なんて貫通力なんでしょ…』

「あんたから仕掛けたんだ、余所見すんなよ!」

 

 息をつかせる暇を与えず、再びバインダーの推力に任せて近接戦闘に持ち込む。ライトグリーンとピンクのビーム刃が切り結び、群生する樹木の間で重装甲の機体が一進一退を繰り返した。

 

『ジリ貧かよ…!』

 

 アシヤ・シュウトは吐き捨てると、ツヴァイゼータガンダムを飛び上がらせる。

 

「場所を変えようってか」

 

 上空からの砲撃に注意しながら、ガンダムヘリクリサムを追従させた。

 重力下に合わせたグランサブースター01は上部ユニットが取り外され、そこへシールドビットR(張り合わせていたのを分割して2枚に減らしている)を接続アームで介してマウントしている。グラストロランチャー自体の推進力で積載分を賄えるため、重力下での機能性はベストな状態なのだ。

 

(まぁ、あまり長く飛んでいられないから、さっさとこいつを片付け――)

 

 密集する樹幹を突き抜けて森林の空に出た瞬間、別方向からのロックオンをアラートが報せた。

 

「別方向からッ!?」

 

 咄嗟に機体を翻すが、物理的な衝撃がヘリクリサムを襲う。

 幸い、直撃は免れており、左のバインダー上部をビームが掠っていた。攻撃の主を確認しようと、ヘリクリサムの鋭いツインアイを巡らせる。

 

「今度はガンダムクロスエックスか」

 

 その姿をはっきりと確認した。

 如何にもミキシングビルドと見て取れる、独特の機体バランスを持つガンプラである。しかし、名前が示す通りならばガンダムX、或いはガンダムDXを意識しているはずだが、最大の特徴であるサテライトシステムに相当するパーツはなかった。

 

「トモヒサ、大丈夫!?」

 

 そこへ、ハルジオン・フェイクが現れる。

 コンソールのモニターにジニアの顔が表示され、心配そうな視線をこちらへ向けていた。

 

「大丈夫だ。それより、一旦退くぞ」

 

 ハルジオン・フェイクを連れ、再度森林の中へ身を隠す。そのまま移動しつつ、状況を確認し合う。

 

「そっちはどうなってた?」

「ごめん、クロスエックスの隙を狙おうとしたんだけど、こっちの位置は全部バレてたみたいだよ」

「チッ、やっぱりかよ…道理でホウカともう一機、ダブルゼロガンダムの姿が見えねぇわけだ」 

「そんなに索敵能力が上手そうなチームに見えなかったのにね」

「いや、そうでもねぇな。ダブルゼロガンダムのウイング、ありゃクラビカルアンテナの塊だぜ」

 

 記憶に焼き付いている姿を思い浮かべる。

 一見、ダブルオーライザーとウイングガンダムゼロを意識した趣味的なデザインに見えるが、複雑なパーツ構成をしているのは理由があるはずだ。羽のような部分をクラビカルアンテナに近いものと考えれば、相手の動きにも納得がいく。

 リーダーのオオゾラ・ユキナリは、中々のやり手らしい。

 

「さて、こっから気張っていこうぜ。奴さん達、使ってる装備がどれも高出力だから粒子切れを狙える」

「攪乱するなら任せてよ!」

「期待してるぜ」

 

 そうしていると、ロックオン警報が鳴り響いた。

 

「そら来た。じゃあな」

「うん!」

 

 差し出したヘリクリサムの拳に、一回り小さいハルジオン・フェイクの拳がぶつかる。

 そして別れ、降り注ぐビームを避けつつ次の行動へ移った。

 

「ホウカも、頼んだぜ」

 

 ダブルゼロガンダムと交戦しているはずの幼馴染のエースへ、届くことはないエールを送る。

 

 

 

     ・・・・・・・・・・

 

 

 

 ダブルゼロガンダムと湖で会敵した後、川を下りつつGNバスターライフルの攻撃を掻い潜っていた。

 バトルフィールドは森林地帯であるが、中心部は落ち窪んだ渓谷になっており、そこへ湖から繋がる川が直瀑となって落下しているのだった。

 そして、今は霧に(けぶ)る滝壺を挟んで互いに対峙している。

 

『どうしたんだ?反撃してこないようだが、まさかその両手の武器と背面のものは飾りではないだろう?』

 

 ダブルゼロガンダムのファイター、オオゾラ・ユキナリの声が届く。

 そうだ、今まで回避行動をするだけに留まり、反撃は一切していない。フラワリング・フィールドは元より、Pファンネルはおろかドッズトンファーさえも刃を伸ばしているだけだ。

 その理由は、この状況にあった。

 どんな方法かは分からないが、こちらが相手を補足する前に位置情報は把握されていたようだ。その上ダブルゼロガンダム自体は索敵にかからず、湖で待ち伏せをしていた。分断しようとしていたのは明らかだ。

 それならばと、相手の狙い通りにした。一対一に持ち込まれるのは願ったりでもあるため、与える情報も最小限に留めてここまで誘導したつもりだ。

 無言のまま、ガンダムラナンキュラスを構えさせる。

 

『寡黙なのか?しかし、考えていることは分かる。作戦に乗った風を装い、ぼくをここまで誘導した…そうだろう?』

「…!」

『分かっていたさ、それが狙いだからな。そもそも、今のところ二人の救援に向かうつもりはない』

 

 そこまで言うと、ダブルゼロガンダムがGN系列の機体特有の飛行音を発して浮き上がった。二丁のGNバスターライフルを張り合わせ、背部のウイングを展開する。

 

『ここで君を倒してから、そうするよ』

「…その言葉、返させていただきます」

 

 ラナンキュラスのフラワリング・ジェネレータを開き、同じように浮き上がる。

 

『ようやく喋ってくれたか。真面目なのもいいが、バトルは楽しむべきだと思うぞ』

「いいえ。真面目に楽しんでいるだけです」

『なるほど、全くだ』

 

 言葉に笑みを乗せつつ、オオゾラ・ユキナリの纏う雰囲気が変化した。

 

『では、真面目に…楽しもう!』

 

 滝霧を破り、ダブルゼロガンダムが両肩のツインドライヴから粒子の尾を引き、驀進する。

 ラナンキュラスに半身を取らせ、剣のように持ったGNバスターライフル(GNバスターソードモードとでも呼ぶべきか)をドッズトンファーの刃で打ち返した。

 

『…っ!!』

 

 通信から吐息が漏れるのを耳にしつつ、カウンターを打ち込む!

 水飛沫をドッズトンファーで弾きながら、刃を突きの構えにダブルゼロの胸部を狙った。

 だが、それは目標を貫くことなく、霧を裂く。ダブルゼロガンダムは驚異的なスピードで機体を移動させ、ラナンキュラスの上を取っていた。

 一瞬の内に優位を取られ、GNバスターソードが振り降ろされる。

 

 

 ――ガキィン!!

 

 

 反射的なガードが間に合い、ドッズトンファーの薄い刃で受け止めた。

 

「やります、ね…!」

『そちらこそ、鋭いカウンターにしなやかなガンプラの動作…』

 

 実体剣同士の鍔迫り合いが、ギャリギャリと音を鳴らす。

 

『賞賛に値する!』

 

 ダブルゼロガンダムが、装甲の厚い膝で蹴り上げてきた。ラナンキュラスを後退させ、一撃をやり過ごしながらコントロールスフィアを滑らせる。

 

(地区予選で、初めて使うよ!)

 

 背部のフラワリング・ジェネレータの中心部にマウントされる花弁が、解き放たれた。

 

「Pファンネル、お願い!」

 

 四基のPファンネルが曲芸飛行のように飛び、ラナンキュラスの前へ整列する。

 そして、一斉に鋭いビームを発射した。

 

『やはりCファンネルの改造か!』

 

 オオゾラ・ユキナリは読み通りとばかりに、ダブルゼロガンダムを小刻みな空中機動で回避する。流石の操縦テクニックを見せ付けられるが、当たらなければ次の手を打つまでだ。

 与える指示は、プラフスキーパワーゲート。

 放射状に並び直したPファンネル同士の間に、正方形の膜が形成される。両腕のドッズトンファーを突き出し、射撃をゲートに潜らせた。

 穿孔するビームが、纏うエネルギーを細く、鋭く、貫き通す槍のように瞬時に磨き上げられる。撃ち出された高圧縮の射撃が、ダブルゼロガンダムに直撃した。

 

「あれはっ…!?」

 

 否、直撃してはいなかった。

 ダブルゼロガンダムの眼前で、圧縮されたドッズのエネルギーが渦を描いて拡散されているのだ。

 美しくも思える光景の向こうに、機体が煌めく緑の球体に包まれているのを見る。

 ビームが切れると、同時に緑に光る球体も消滅した。

 

『まさか、パワーゲートにドッズライフルを通すとは。GNフィールドが無ければ、危なかったかもしれない』

 

 Iフィールド・バリアと比肩する、堅牢な防御領域を誇るGNフィールド。主にGN系列と呼ばれるガンプラ(GNドライヴを搭載したガンプラ、及びそれに不具合なく適合したガンプラを指す)が持つ、粒子変容効果を応用した能力である。

 ガンダムラナンキュラスの持つフラワリング・フィールドは、Iフィールド・バリアよりもこちらに近いものだ。異なる点は、防御領域をそのまま攻撃に転用できる点にある。

 

『あまり多用したくはないのだが…君がぼくにこれを使わせたんだ。認めよう』

「…何を、でしょうか」

 

 Pファンネルを帰投させ、次の攻撃に警戒する。

 

『無論、君が好敵手足り得るファイターだということさ』

 

 オオゾラ・ユキナリは、焦った様子も興奮した様子も見せず、ひたすらに冷静であった。

 そして、ダブルゼロガンダムのツインドライヴから、一際輝く粒子が散り始める。

 それは、GN系列の機体が出力を上げた証拠。

 

『故に、全力で君を駆逐する』

 

 流れ落ちる瀑布を背に、霧と粒子に包まれるダブルゼロガンダムの相貌が、強く光った。

 

 

 

     ・・・・・・・・・・

 

 

 

 激甚なる威力を持った光軸が、木々を根こそぎ吹き飛ばす。

 絶えず繰り返される高出力砲撃の応酬により、プラフスキー粒子によって再現された森林地帯は、一年戦争末期の東南アジアもかくやという様相を呈していた。

 ただし、これを引き起こしたのは、後の時代を駆け抜けたモビルスーツを再現したガンプラである。

 

「出鱈目に撃ちまくりやがって…ジニア、そっちは?」

「クロスエックスは何とか抑えてるよ!」

 

 ツヴァイゼータガンダムは、ひたすらにガンダムヘリクリサムを狙い続けている。それ故、こちらも応対せざるを得ず、ツインドッズキャノンとグラストロランチャーはフル回転だ。

 

(あっちも粒子切れを狙ってんのか?にしても、消費が荒っぽすぎるぜ)

 

 一方、ガンダムクロスエックスは、ハルジオン・フェイクの不規則な機動に翻弄されているのか、先程から当てずっぽうな方角へビームライフルをばら撒いている。まるで、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、と言わんばかりだ(当たっていないが)。

 

「そろそろ攻勢に出た方が良いな。もう満足にビームをばら撒けないはずだ」

「りょーかい!」

 

 ジニアの気持ちのいい返事を聞き、ヘリクリサムのフレキシブル・スラスター・バインダーを展開して森の中から飛び出した。

 

『やっとやる気になってくれたかよ!』

 

 同じく飛び出してきたツヴァイゼータが、両腕のダブルビームライフルを発射する。即座にシールドビットRを射出した。

 

「ああ、勝たせてもらうぞ!」

『言ってくれるじゃないの!ツヴァイゼータで片付けてやる!』

 

 連続で発射される二連射のビームをシールドビットRのオートガードで防ぎ、ツインドッズキャノンから銃身を分離させ、両手持ちにする。直接的なダメージを狙わない牽制射撃で、ツヴァイゼータを後方へ押し遣る。

 

『お、おい!こっち来るなよ!』

『お前が移動しろよ!』

『む、無理だって!あの赤いのがこっち来てんだよ!』

『こっちだって黒い奴が来てる!』

 

 ……ん?

 

「仲間割れ…か?」

 

 オープンチャンネルを伝って、アシヤ・シュウトとガドウ・ランの口論がうるさく響く。二人とも特徴的な掠れ声で、重なると何を言っているのか分からない。

 こちらはクローズチャンネルを使用し、ジニアに繋ぐ。

 

「よく分かんねぇけどチャンスだ。一気に畳みかける!」

「喧嘩する程仲が良い、って言うんだよね、あれって」

「知るか!やるぞ!」

 

 呑気なジニアに発破をかけ、グラストロランチャーを突き出す。

 

『後でこの続きはケリつけてやるからな!』

『あーもー、分かったよ!』

 

 二人はそう言葉を交わすと、クロスエックスはウイングバインダー裏の武器(モンテーロのビームジャベリンに似ている)を手に取り、ツヴァイゼータはこちらへ体を真正面に向けた。

 そして、額と胸部にある砲口が輝く。

 

「なっ…まだそんなエネルギーが!?」

『ハイメガキャノンだ!!』

 

 咄嗟に、グラストロランチャーの出力を最大に引き上げる。

 

(やるしかねぇ!)

 

 そして、互いに二門同時、ハイメガキャノンとグラストロランチャーが膨大な粒子を吐き出した。

 

『いけぇぇぇーーーーーっ!!!』

「食らえぇぇーーーーーっ!!!」

 

 それぞれの世界観において、当代最強と謳われた兵器がぶつかり合う。

 完全に拮抗したエネルギーが炸裂し、巨大な爆発を巻き起こした。爆風が樹冠を撫で、折れた木々や木の葉が滅茶苦茶に吹き飛ぶ。シールドビットRによってダメージは受けなかったものの、ヘリクリサムがパワーダウンを起こした。そのまま更地となった地面へ降着し、状態を確認する。

 

「さすがに最大出力は厳しかったか、少し休ませねぇと」

 

 視線を上げると、ツヴァイゼータの体が煙を上げているのを見た。爆風の余波に機体表面が焼かれたらしく、バーナーで焙られたように黒ずんでいる。

 

『くそっ!動け!動けってんだよ俺のツヴァイゼータ!』

 

 ツヴァイゼータガンダムはぎこちない動作で四肢を動かすが、直後に装甲内部が爆裂を起こし、そのまま落下を始めてしまった。

 絶好の攻撃のチャンスを、あいつは逃さない。

 

「つーかまーえ――」

 

 アタッカーとナッターに分離したハルジオン・フェイクが、落下するツヴァイゼータガンダムへ全速力で突進してきたのだ(何かダメージを受けたクロスエックスが、森へ落下していくのを視界の端で見る)。

 

「――たっ!!」

『ぐえぇっっ!?』

 

 アタッカーの機首からドッズライフルが発射され、焼けていなければ堅牢だったはずの胸部(偶然なのか狙撃したのか、ハイメガキャノンの砲口)を貫通する。一秒ほど遅れ、ナッターの吻部から発生するビームサーベルが装甲で覆われた腰部の隙間を捕らえた。器用に回転(獲物を食い千切るワニのような)を始めて、滅茶苦茶に切り刻む。

 ちょっと引いた。

 

「グレミーさん大勝利!希望の未来へレディー・ゴー!」

『なんだよその決め台詞はぁぁーーーー!!!』

 

 色々な意味で残念な最期を遂げたツヴァイゼータガンダムが、派手に爆発する。

 

(…分離機能がバウを参考にしてるから、ってか…)

 

 ややこしいことこの上ないオマージュである。

 

「…ふぅ。ともかく、これであと二機だ。俺たちはクロスエックスを…」

 

 と、気持ちを切り替えたところで、見上げた先に一つの機影が上昇していくのを見た。

 

『ガドウ!始めるぞ!』

 

 オープンチャンネルに、中性的な少年のような声が混ざる。声の主はオオゾラ・ユキナリであり、つまり、上昇していく機影はダブルゼロガンダムだ。

 瞬間的に、ホウカの無事を案じる。

 

『っしゃあ!!せっちゃん先輩、待ってました!』

 

 しかし、ラナンキュラスの元へ向かう余裕はなさそうだ。

 

『来い、サテライトビルドファルコン!!』

 

 ガドウ・ランが叫ぶと、地表から何かが一直線に飛び出す。

 

「えっ、支援機!?いつの間に!」

 

 ジニアの素っ頓狂な声は、直後のガドウ・ランの声に搔き消される。

 

『合体だッ!!!』

 

 呼び声に応えた(のかどうか分からないが)のは、メガライダーに似た白いブースターだった。それが飛び上がったガンダムクロスエックスの背に合体し、華奢だった機体に厚い装甲を与える。そして、右肩から長い砲身が伸び、ブースターにあるウイング状のパーツが開いた。

 

「…道理でサテライトシステムが無かったわけだぜ。合体限定なんてな」

 

 それは紛うこと無き、サテライトキャノンの発射シークエンスであった。しかし、バトルフィールドは真昼間であり、月が出ている様子はない。

 サテライトキャノンはフリだけか?と、少し安心していた矢先である。一定の高度で止まったダブルゼロガンダムは白昼の空で翼を広げ、輝く胸部から一筋の光線を下へ伸ばしていく。それが、ガンダムクロスエックスの胸部へ届いた。

 

「じ、冗談だろ!?ガンプラが照射すんのか!?」

 

 マイクロウェーブをガンプラが照射するなど、聞いたこともない。そもそも、そんなエネルギーを持てる方が有り得ない話であり、本当にただの冗談である可能性の方が何倍も高い。

 しかし、もし本当に可能だとすれば、それは心形流や、あの二代目メイジン・カワグチに――

 

『マイクロウェーブ…来、来……来いよォ!!』

『バカ!これはガイドレーザーだ!』

 

 変な遣り取りが聞こえる。

 

「ガイドレーザーだよねアレ!?」

「言ってる場合じゃねぇ!…くそっ!まだパワーダウンしてやがる!」

 

 ガンダムヘリクリサムは未だに動けず、使えるのはツインドッズキャノンとシールドビットRだけだ。

 その瞬間、何かが脳で閃いた。

 咄嗟にシールドビットRを前面へ展開させ、ある指示を下す。シールド裏が開き、長い筒と短い筒を取り出した。

 

「何とかしてみる!」

 

 ドッキングしたハルジオン・フェイクが、じっとして動かないクロスエックスへ一直線に向かう。

 

『させるかよ!サテライトビット!』

 

 しかし、クロスエックスの背部から細かな物体が無数に射出され、ハルジオン・フェイクを迎撃した。確かに、サテライトキャノンはその絶大な威力を撃ち出すまでに、時間を要する。そのため、時間稼ぎのために何かしらの策を用意するビルダーも多いのだ。

 

『”ダブルゼロシステム”、解放!』

 

 オオゾラ・ユキナリが何かを宣言すると、X字に展開されているリフレクターが黄金色に輝き始める。マイクロウェーブが照射された証だ。

 

『マイクロウェーブ…来たっ!』

 

 定番の台詞を、ガドウ・ランはご本人かと聞き間違えるような声で言った。

 

「何も考えずに走れ、ジニア!」

「で、でも!」

「俺はいいから、こっから離れろ!」

 

 一瞬だけ躊躇ったハルジオン・フェイクは、可変してその場を離れていった。

 

(頼むぜ、ヘリクリサム…特大の花を咲かせてやろうじゃねぇか)

 

 ジニアがサテライトビットに迎撃されていた間、ヘリクリサムに"あの武器"を構えさせていたのだ。このガンプラがGP02を基にしている最大の利点、そして、ガンダム史上手持ちにする中で最強と言われる、禁断の兵器。

 アトミックバズーカ。

 準備が整ったところで、クロスエックスも遂に受信し切ったようだ。

 

『覚悟しやがれ!サテライトキャノン、いっけぇぇぇぇぇーーーーーーーッ!!!!』

「負けるか!アトミックバズーカを食らいやがれぇッ!!!」

 

 同時。

 片や、外部からのエネルギー受信で可能となる超長射程砲撃、サテライトキャノン。

 片や、条約で禁止され、星の屑作戦に用いられた戦術核兵器、アトミックバズーカ。

 ぶつかってはいけない兵器が、真っ向正面から激突した。

 

 

 

    ・・・・・・・・・・

 

 

 

 まるで白昼夢を見ているかのような、白一色に染まる視界。

 突然赤く輝いたダブルゼロガンダムに蹴飛ばされ、滝壺へ没したラナンキュラスを何とか脱出させ、追い縋った空で見た景色だ。

 

「――綺麗」

 

 そんなことを、口走ってしまった。

 下の方で轟音が響き、ややあって余波が押し寄せてくる。

 ガンダムヘリクリサムが――トモヒサが――アトミックバズーカを使った証拠だ。しかし、それと同時にガンダムクロスエックスがコロニーレーザーのような極太の砲撃を行ったのも目にしており、それらがぶつかったのだろう。

 発動させたフラワリング・フィールドで身を守り、余波が消えるのと同時に解除する(フラワリング・フィールドを隠し通すためだ)。

 仲間の様子を確認しようと、コンソールに目を移した、その刹那。

 GNドライヴの音が上空から聞こえた。

 

「――ッ!」

 

 反射的に天を仰ぐが、音の正体、即ちダブルゼロガンダムを確認できない。眩い太陽光のためだ。

 剣か、砲か。それを判断する前に、別種の音が轟いた。

 後者だった。

 しかし、それと分かる前に体が反応しており、回避よりも防御を優先する。

 砲撃が届くが、眼前を粒子の塊が弾け飛んでいった。

 

「耐えて、ガンダムッ…!」

 

 再び発動したフラワリング・フィールドが、GNバスターライフルの砲撃を正面から受け止める。

 やがて砲撃は終わると、今度は音が降ってきた。

 ドッズトンファーを振り、一撃を弾き返す。

 

『どうやって防いだ!?』

 

 オオゾラ・ユキナリが、先の戦闘では見せなかった気迫を伴って攻撃してくる。

 

『GNフィールドか!?Iフィールドか!?それとも、エイハブ・リアクターか!?』

「くっ!重い…!」

『答えろッ!!』

 

 一撃一撃が、重くなっていた。GNバスターソードを両手で持ち、力任せに何度も叩き付けてくる。

 こういう攻撃の対処は、嫌と教授を受けてきた。

 振り降ろされた一撃をドッズトンファーで受け止め、刃を返して横へと逸らす。生んだ間隙へ、すかさず片方から突きを繰り出した。

 

『――がっ!?』

 

 ギリギリのところで、ダブルゼロガンダムは致命傷を免れる。

 持ち前の機動性で避けたが、突き出したドッズトンファーは左腕と奥のウイングバインダーを貫いた。

 

「これはっ…?」

 

 爆発したウイングバインダーが、煙と共にセルリアンブルーの輝きを散らしている。

 そう、この色は見間違うはずもなく、プラフスキー粒子そのものだ。

 本来ならば、例えガンプラが大破したところで炎や煙が再現されるだけであり、粒子が姿を見せることはないのだ。だが、それが見えるということは――

 

『思い返せば、君は何かしらの格闘技の使い手だったな!』

 

 一つの結論が浮かびそうになったところに、ダブルゼロガンダムは残った右腕でGNバスターソードを真横から叩き付けてきた。

 全身のスラスターの補助と重心移動で、空中で回避する。そのまま、ドッズトンファーのライフルによるカウンターを撃ち込んだ。

 

『くっ…!…まだ、答えを聞いていないぞ!』

「……どれでも、ありません」

『…なんだと?』

 

 射撃を回避したダブルゼロガンダムは、こちらが放った言葉を聞いて動きが止まる。

 

『では、何だと言う?思い当たる節がないではないが、有り得ない』

「フラワリング・フィールドです」

 

 最早、隠し通すことはできなかった。

 

「私とラナンキュラスとで掴んだ、粒子の力です」

『ガンプラと共に掴む…』

 

 彼は言葉を噛み締めるように静かに言うと、ダブルゼロガンダムのツインドライヴが大きく唸り始める。

 

『…なるほど。聞くところに寄れば、君はガンプラバトルの経験は浅いらしいようだが、短期間ながらそれほどまでとは。相応の才覚を持っているというわけだ』

 

 やがて噴き出るGN粒子は、その色を真紅へ変えていく。

 通常スペックを三倍に引き上げる、GNドライヴの持つ特殊機能。

 トランザムである。

 

『ぼくは、ある理由でダブルオーガンダムそのものを使うことを止めた。そして、別のアプローチでGN機を再現しようと努力してきたんだ。それは、何物にも代え難い尊い経験だ』

「…素晴らしいガンプラだと思います」

『その通り、素晴らしいガンプラだと自負する。だが、君はまるで、粒子に選ばれたと言わんばかりだ。それではあまりに…己を惨めに感じる』

「そんなこと――」

『謙遜は要らないよ。これはぼくの問題だ。故に…』

 

 ゆっくりと始まったトランザムが、突如活性化する。

 

『君を駆逐し、己を証明してみせる』

 

 刹那、空気が爆発するように振動した。

 そう感じたと思うと、次なる衝撃がラナンキュラスを襲う。

 

「ぐぅっ!?」

 

 赤い閃光のような何かに攻撃された。ダメージを受けた腰部に、横一文字の斬撃の跡が刻まれている。

 

(速過ぎる…!目で追えない!)

 

 防御が叶わないとなれば、この場を離脱するしかない。出来うる全速力で急降下を始めた。

 しかし、赤い閃光が瞬時に距離を詰めてくる。

 咄嗟に、Pファンネルを選択した。

 

「行って!」

 

 一直線にダブルゼロガンダムへ飛び、迎撃を敢行する。

 しかし、素早い剣速によって悉く弾き飛ばされてしまった。

 

(くっ、まだ!)

 

 感覚が研ぎ澄まされ、あの時感じた薫風を想起する。

 自然と、”それ”ができると思った。

 

「――Pファンネル!」

 

 今、思考がプラフスキー粒子を伝播する。

 コントロールスフィアによる操作ではないが、弾き飛ばされた花弁達が指示に応じ、ダブルゼロガンダムの背後へ向かっていった。

 

『速い…!?』

 

 ダブルゼロガンダムはラナンキュラスを追うのを止め、Pファンネルの迎撃に傾注する。GNバスターライフルを二丁に分割し、狙撃を行った。

 しかし、花弁は小刻みに避け、まるでアニメのような活き活きと動きを見せる。

 ”思考通りに動いている”のだ。

 

『ああ、有り得ない…この動きはまるで、シアクアンタの――』

 

 一瞬の動揺、その隙を見逃さない。

 

「そこっ!」

 

 花弁達の動きに合わせるように、ドッズトンファーを振る。

 完全にダブルゼロガンダムの周囲を捕らえたPファンネルが、ウイングバインダーを切り刻み、足を断ち、GNバスターライフルを破壊した。

 

『がァッ――!』

 

 攻撃の手を奪われたダブルゼロガンダムが、落下してくる。

 その直下で、ドッズトンファーを張り合わせて左手に持った。空いた右手を掌底突きの形にし、上へと飛び出す。

 

「これが私の――本気ですッ!!プラフスキーインパクトッ!!!」

 

 掌に輝くセルリアンブルーの風を、突き上げ――

 

 

 

『せっちゃん先輩ッ!!』

 

 

 

 ――た瞬間、何かが目の前に滑り込んできた。

 滑り込んできた何か――ガンダムクロスエックスは、こちらに背を向けながらダブルゼロガンダムを抱える。

 

『ガドウッ!?』

 

 青く輝く風が凄絶な威力を持った衝撃波となり、ガンダムクロスエックスの体を駆け上がっていく。その痩身が、衝撃波によって細かく罅割れていき、爆散した。

 その中から、ダブルゼロガンダムが爆煙を裂いて落下するが、

 

『Over the time limit. BATTLE END!』

 

 電子音声がバトルの終了を告げたことで、試合が決着する。 

 

『勝者、英志学園チーム『スターブロッサム』!』

 

 ウグイス嬢のアナウンスが響き渡り、会場が沸き上がった。

 ガンダムラナンキュラスを回収すると、真っ先に相手チームの元へ駆け寄る。

 

「あのっ…!」

 

 声をかけようとしたが、思わず押し黙った。

 

「俺達、せっちゃん先輩がいてくれたから、この場所に立ててるんだぜ!?」

「そうさ、俺のハイパーメガカノンもガドウのサテライトビルドファルコンも、せっちゃん先輩が手伝ってくれたから完成したんだ!」

「えっと、だからさ…先輩がやられるとこ、見たくなかったし、やられたっていう事実を大会に残したくなかったし、さ…」

 

 アシヤ・シュウトとガドウ・ランが、オオゾラ・ユキナリに何かを伝えているのだ。

 すると、オオゾラ・ユキナリが笑い始めた。

 

「ははは、滑稽にも程があるぞ…はは…」

「えっと、ごめんなさい…」

「いや、違うよ。そうじゃないんだ」

 

 彼は自分の頬を叩くと、二人へ向き直った。

 

「ぼくは一体、何を憤っていたのか…。実は、このチームを任されたのに対して納得していなかったんだ」

「「えっ?」」

「本当はオープントーナメントに出場する予定で、ダブルゼロガンダムもそのために調整していた。だが、あの事情から地区予選に出場せざるを得なくなったことで、内心はムカついてたんだ」

 

 二人は、彼の言葉を聞いてやや怯えた様子で、微妙に後ずさりしている。

 

「でも、ガドウ。お前がぼくを助けようとしてくれたこと、素直に嬉しい。アシヤも、そんな風に思ってくれていたとは微塵も分からなかった。不甲斐ないリーダーですまなかったな」

「「せ、せっちゃんせんぱ~~い!」」

 

 突然泣き始めた二人は、オオゾラ・ユキナリの懐に飛び込んだ。

 

「…せっちゃんじゃあないけどな…」

 

 ふと、彼がこちらを向く。

 

「ああ、変なところを見せてしまったな」

「い、いえ。むしろ覗き見している気がして、こちらこそ…」

「君に対しても、非礼を詫びさせてくれ。みっともない吐露も聞かせてしまったし」

 

 二人をどかした彼は、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「頭を上げてください、どうしたらいいのか、私…」

「君は、才能だけで強くなったのではないと、今ならはっきりと分かる。ガンダムラナンキュラス…その完成度は君だけじゃない、友人達の協力と、君自身の努力が作り上げたもの。違うかな?」

 

 的確に指摘され、素直に頷く。

 

「うん。そして、ぼくは感じたよ。ガンプラを自分に合わせるのではなく、”君がガンプラに歩み寄った”結果なのだとね。その逆も然りだ」

「私が、ガンプラに…?」

「ある人の言葉を借りれば、”プラフスキー粒子はよく見ている”。粒子は、人とガンプラを繋げ、心を相手に伝える力がある。これはファンタジーでもオカルトでもない、事実だ」

「分かる気がします」

「そうだろうな、あのファンネルの動きは思考制御…それこそ、君とガンプラが互いに歩み寄り、手にした力だ」

「そんなことまで、分かってるんですね」

「何、無駄に知識だけ集めてしまっただけさ」

 

 あの数秒の出来事で、pファンネルの動きを見ていたのか。

 ふと、気になったことを訊ねてみる。

 

「一つ、いいですか?気になったことがあるんですが」

「何だ?」

「ウイングを斬ったときに、青い粒子が飛び散ったのですが…あれは、エネルギー供給のためにフィールドの粒子を集めていたように思ったんです」

「ほう、聡いな。ほぼその通りだ。過去には、フィールドを作る粒子を自在に操ったと言う伝説が存在するが、その真似事だよ」

 

 真似事でそんなことができてしまうのは、もしかしなくても凄い技術である。

 

「”涓滴岩を穿つ”か…ぼくも、愛機とそうなれるよう頑張りたいと思う。今度は一対一でバトルをしてみたい、受けてくれるだろうか?」

 

 そう言って、彼は握手を求めてきた。

 その手を握り返し、精一杯の自信を込めた表情で返答する。

 

「ええ、喜んで」

 

 握手を解き、会釈をしてからトモヒサとジニアの元へ戻る。

 

「あ、せっちゃん先輩羨ましい」

「俺もあんな子と手ぇ握ってみてぇなぁ~…」

 

 去り際に何かが聞こえたが、直後の悲鳴で分からなかった。

 

「よぉ、何を話してきたんだ?」

 

 戻ると、トモヒサが迎えてくれる。

 

「またバトルしようってこととか」

「お、また一人ライバルが出来たって感じか?」

「それは…それより、二人はどうなってたの?」

「ああ、俺はぶっちゃけアトミックバズーカ撃ったら本当に動けなくなっちまって、そのまま粒子切れ」

「私はね、余波からは逃げたんだけど、最後に突っ込んでいったクロスエックスを追いかけてたら試合しゅーりょー」

 

 ジニアは、海外ドラマなどで見るようなオーバーアクションで肩をすくめて見せた。

 そして、他のファイターからの拍手などを受けつつ中央ホールを後にした。

 

 

 

     ・・・・・・・・・・

 

 

 

「フラワリング・フィールドにプラフスキーインパクト、そしてファンネルの思考制御、ですか」

「あら、どうしましたの?もしかして、貴女ともあろう方が怖気づいてますの?」

「ふふ、まさか。その逆です」

 

 中央ホールを見下ろす観客席で、バトルシステムを後にする英志学園の三人を見る。

 

「イクス・ルシファーを強化した甲斐があった、と言っておきます」

「”イクス・ルシファー・オーキッド”…そう名を改めたのでしたわね?」

「希しくも、花の名前を冠することになるとは、私自身も驚いています」

「…オーキッド…胡蝶蘭、ですよね…」

 

 隣で身を縮こまらせながら、"機械仕掛けの魔女"が言う。

 応えるように、一説から抜粋し、詠うように紡ぎ出す。

 

「 ―― 俄然として覚むれば、即ち蘧々然(きょきょぜん)として周なり ―― 」

「目が覚めれば、驚いたことに荘周であった」

 

 "緋ノ神巫"が訳を続ける。

 

「夢で見た蝶である自分も、今の自分も、例え今が夢だとしても、形は変われど本質は同じ自分自身である。それを、ガンプラに込めました」

 

 "荘厳の剣士"こと私――ユヅキ・ララは、ライバルとの再戦に胸を高鳴らせる。

 

「さぁ、私達の出番は午後ですわよ。あの方たちを見るより、まずは目の前の相手を倒すことが大事ですわ」

 

 美しき"緋ノ神巫"――アンドウ・サダコが私達を炊き付ける。

 

「…はい、全部…ぶっ壊し尽くしましょう…ふへ…」

 

 "機械仕掛けの魔女"――クラオカ・オリハが、不気味に笑った。

 セント樫葉女子学園チーム『天照す閃光』、今日もバトルフィールドの遍くを照らし出す。

 

 

 

 

 

   Act.22『涓滴岩を穿つⅢ』END




 
●登場ガンプラ紹介

・ガンダムアスタロトオリジン
 チーム『ハウンドクロス』が二回戦目で相対したチームのリーダー機。
 外見には大きな改造は見られないが、γナノラミネートソードが実現している点などで相応の完成度が垣間見える。だが、その機能を発揮することはなかった。

・レギンレイズ
 右腕にオプションセットのマルチウェポンとソードを装備している。
 ファイターの実力も悪くはなかったが、如何せん相手(狂犬)が悪かった。

・ゲイレール
 オプションセットのロケット砲に加え、背部にロケットランチャーを装備しており砲撃用のカスタマイズが施されている。
 ファイターは少々めんどくさい性格をしているが、それがガンプラを呼び起こしたのか撃墜判定を覆した。

・ガンダムクロスエックス
 ガドウ・ランのガンプラ。
 ガンダムDXに似せているが、一切原典機のパーツは使われていない。
 しかしその性能は悪くはないのだが、今回はハルジオン・フェイクの機動性に翻弄されることとなった。
 しかし、本領は支援機として使用できるサテライトビルドファルコンと合体した時である。この状態は機動力、火力、制圧力が高次元で纏まっている。作戦上、サテライトビルドファルコンは出撃時に分離して隠しておいたが、シングルバトルにおいては合体状態のまま成績を残してきたほどである。
 想定よりも早くツヴァイゼータガンダムが撃墜されたため、サテライトキャノンの掃射で少なくとも一機は撃破、一機は行動不能まで追い込むつもりだった。しかし、トモヒサの機転で同等の威力を持つアトミックバズーカの相殺を受けたがために、失敗してしまった。

・ツヴァイゼータガンダム
 アシヤ・シュウトのガンプラ。
 ZZガンダムに似せたガンダムAGE-3である。
 着脱可能な装甲やハイメガキャノンの実装などに加工の妙が見て取れる。
 今回の作戦ではヘリクリサムを狙い撃ちにして粒子切れを起こし、生まれた隙を衝くつもりだったが、グラストロランチャーの出力やいきなり襲い掛かってきたハルジオン・フェイクなど、不運が続いたために撃墜となってしまった。

・ダブルゼロガンダム
 オオゾラ・ユキナリのガンプラ。
 ダブルオーライザーとウイングガンダムゼロを意識したデザインを持つ。
 武器はGNバスターライフル/ソードのみだが、本来は高速戦闘を得意とするガンプラのため余計な装備を必要としない。今回の地区予選のために他のことに掛かり切りだったため、ダブルゼロガンダム自体を改造する時間が取れていなかった。
 フィールドの粒子を戦闘をこなしつつ微量ながら吸収し、バインダー内部のタンクで供給可能な粒子に変換する驚くべき能力を備えている。"ダブルゼロシステム"の名が示す通り、ツヴァイゼータガンダムにもマイクロウェーブを照射可能である。ちなみに、この名称はガドウ曰く「ダブル(俺達の)でゼロ(粒子残量)なシステム」というしょーもない由来からである。

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「師匠、失礼致します」

 懐かしい古巣の香りに、心を落ち着かせる。
 己の未熟を、今一度鍛え直すために戻ってきた。
 しかし、出迎えてくれたかつての師の応対は、意外なものだった。

「あれ?サダコ?」

 一方、こちらは外国人の若き女優の卵。
 ふと立ち寄った場所で、意外な人物を目撃する。

 次回、ガンダムビルドファイターズF
 Act.23『灯台下暗し』

 身近なことは、やっぱり分からない。

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