ガンダムビルドファイターズF   作:滝つぼキリコ

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恋愛話って難しいですね…。
  


Act.19 『恋は思案の外Ⅲ』

 

 

 スマートフォンを鷲掴みにし、画面を口元に向ける。日本の古い刑事ドラマで見た格好を真似てみた。

 

「目標が食事を終えた。"キャプテン・アゼリア"と何か意味深な会話をした模様。繰り返す、目標が食事を終えた。送れっ」

『なんだいラインアリス、その喋り方は』

 

 通話の向こうから、シマ・マリコがツッコミを飛ばす。

 

「言ってみたかったんだよね~」

『それはいいから、キンジョウはどんな様子だい?』

「ちょっと緊張してるっぽいけど、さっきよりは柔らかくなったかな?」

『そうかい。二人共妙な喋りをするけど、人柄は良いからね。それが緊張を解してくれたんだろう』

 

 目深に被った帽子から、ちらりと眼鏡越しに見る。

 窓際の席に座る三人は、まるでファッション雑誌のモデルの集まりかと思うほど画になっていた。特にホウカの真向かいに座る二人は、完璧な着こなしの上に素材も極上だ。

 

(いやいや、ホーカだって負けてないよ)

 

 ふと、自分の身形を確認してみる。

 髪は纏めて団子にし、大きめの帽子の中に隠した。服も目立たないように茶系にし、せめてものファッションとして短パンのオーバーオールを着ている。伊達眼鏡も完備し、完璧な変装だ。

 何で尾行紛いのことをしているのかと言えば、昨晩寝る前に休日はどうするのかと、何となくメールで訊いてみたところ『実は、テライ先輩から出掛けないかと誘われてて…(絵文字割愛)』という返信が来たからだ。

 

(だってそんなの…気になるじゃん…!)

 

 ついでにマリコ(勤務中)を巻き込み、こうしてバレないように後を着けているのだ。

 しかし、二人きりと思いきや、まさかカンザキ・ツツジまで一緒だとは。何のつもりなのかは分からないが、どうやらテライ・シンイチは"そういうつもり"で誘ったのではないようだ。

 

「あっ、目標が立ち上がった!移動する模様。追跡のカヒを問う」

『可否のアクセントが逆だよ』

 

 急いで、注文しておいたいちごパフェをかき込む。

 

「シーマ様、また連絡するね」

『やれやれ。止めはしないけど、過干渉は程々にするんだよ?』

「りょーかい!」

 

 三人がレジへ向かうのを確認し、スマートフォンの通話を切ってポケットに仕舞った。

 マリコの注意は重々承知している。あくまでも見守るだけだ。

 

(本当は、仲を取り持ってあげたいところだけど、我慢だぞ。我慢…!)

 

 会話の内容は聞こえなかったが、ここに来たということは、ビルダーなら行く先は一つしかない。ガンプラショップ「ビッグリング」に決まっている。

 何とも男女が訪れる場所には相応しくないが、そこはやはりガンプラバカなのだ。

 レジの精算を終え、三人が外に出た瞬間に自分も急いで精算する。

 

「店員さん、急ピッチで!トランザムでお願い!」

「は、はぁ…?」

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

「おぉっとっと!」

 

 ストライクルージュが、エールストライカーの大出力によって弾丸のように飛び出す。

 

「敵が編隊を組んできた。出力を出しすぎるなよ、迎撃だ!」

 

 隕石に着地させたガナーザクウォーリアの、M1500オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲をハイモックの編隊へ向けた。

 

「ミソラは前に出てくれ。援護は任せろ!」

「りょ、了解です!」

 

 威勢の良い返事をするミソラ。

 ミソラのストライクルージュは、寮の自室から持参してきたものだ。出来映えに関しては素組みだが、ゲート処理などは概ね良好であり、初心者としては及第点といったところだった。

 一方、今自分が操縦しているガナーザクウォーリアは、塗装の試作として組み上げてビッグリングに完成見本として寄贈していたものだ。 黒い三連星の高機動型ザクⅡを意識した、黒・白・紫で塗装してある。

 

「狙撃の練習がてらってな」

 

 数機が重なったところに、オルトロスの砲撃を撃ち込む。3機のハイモックを的確に捉えた。

 ガナーザクウォーリアのオルトロスは元から威力が高い。それに、我ながら中々の出来映えのため、高性能に仕上がっていた。その分扱いは難しい部分もあるが、上手く物にできれば頼もしい武装だ。

 さらに、二機、四機と立て続けに撃墜数を稼いでいく。

 

「よし、ミソラの援護に…お?」

 

 ふとガナーザクウォーリアのモノアイを滑らせると、ストライクルージュは大振りながらも、振り抜いたビームサーベルでハイモックを撃墜していた。

 

「中々やるじゃねぇか。けどな…」

 

 しかし、その背後に一機のハイモックが回り込む。マシンガンの銃口が、エールストライカーを狙っている。

 オルトロスの砲身を振って、狙いは大雑把にそのハイモックに向けてビームを放った。

 

「…!後ろに!?」

「周囲にもちゃんと気を配れよ」

 

 背後の砲声と衝撃音に気付き、ミソラはストライクルージュを爆発から回避させる。

 

「ありがとうございます!」

「気にすんな。それより、残りも片付けるぞ!」

「はい!」

 

 拙いながらも連携しつつ、やがてハイモックの編隊を全て撃墜することに成功した。

 

「ふぅ、お疲れ」

「お疲れ様です!」

 

 ストライクルージュが足場にしている隕石へ近付き、ガナーザクウォーリアの隣に着地する。

 

「宇宙のフィールドは経験あるのか?」

「はい、この間アズマさんにしごかれた時に。初めは難しかったんですけどね」

 

 照れ笑いするミソラに合わせ、ストライクルージュも後頭部を撫でる。

 

「はー、よくやるよなミソラも。ホウカも率先してスパルタを受けに行くもんなー」

 

 どうして自分の周りにいる女子は、こうもストイックなのか。アズマの指導となれば、生半可な姿勢ではすぐ根を上げてしまいそうなものだと言うのに。

 それだけ、本気で取り組んでいるということなのだろう。

 一先ず、他の利用者のためにプラクティスモードを終了し、バトルシステムからは一旦離れることにした。

 

「それじゃ、ストライクルージュをワンランク上に仕上げてみるか?」

「あ、是非!教えてください!」

 

 手元にストライクルージュを抱え、ミソラは嬉々とした笑顔で答えた。

 間に昼食を挟みつつ、幾つかプラクティスモードを試しているのだが、ミソラは驚くほどストライクルージュを使いこなしていた。ややエールストライカーの出力に遅れている部分はあるが、それに食らいついていく熱意を感じる。

 

(古武術って、そんなにガンプラバトルと相性が良かったのか…?)

 

 いや、それは考えすぎか。

 もしそうなら、今頃は門下生も大勢生まれているはずだ。スポーツとガンプラバトルの相性は確かに少なからず存在するが、かなり特殊なケースである(三年前のカミキ・セカイ選手が、まさにそのケースに該当する)。

 これは、ミソラ本人の才能なのかもしれない。

 ホウカの場合も、バトルスタイルが上手く合致したからであって、古武術そのものの影響はそれほど大きくないと思っているのだ。

 個人的な推測をしながら、作業スペースへ移動する。幸いと言うか、先客はいなかった。

 作業台に着席し、スミ入れ用のペンを取り出す。

 

「よし、まずはスミ入れをやってみるか」

「スミ入れ、は…隙間を塗ることでしたよね」

「そうだ。デザイン上で彫り込まれているモールドを浮き立たせることで、ガンプラに立体感を与える作業だ」

 

 練習用のジャンク品を手に取り、モールドを極細のペン先でなぞる。

 

「こんな風に、大雑把になぞる。後で拭き取ったりできるから、はみ出しは気にしなくていいぞ。やってみろ」

「は、はい…」

 

 ミソラもジャンク品を持ち、ペンでなぞり始めた。少し緊張気味のようで、余計な力が入っている。

 

「肩の力を抜けよ、気楽にやるのもコツだ」

「了解です…!」

 

 そうは言うが、それでもまだ緊張していた。

 とりあえず、1パーツ分のスミ入れを完了する。

 

「よし、いいだろう。スミ入れペンは、乾いても簡単にはみ出した部分を消すことができる。専用の消しペンなんかもあるが、今回はコレを使う」

 

 作業台のケースの一つから、白い物体を取り出した。

 

「…?消しゴム、ですよね?」

「意外に思うか?これがまた便利なんだ。はみ出した部分を角で、こう…」

 

 スミ入れをしたモールドと同じ方向にならないよう、はみ出した部分を払うように繰り返してこする。そうすると、余分な塗料だけが消えた。

 

「とまぁ、こんな具合だ。試してみろ」

「分かりました、やってみます」

 

 ミソラは頷き、実践して見せたのと同じように、消しゴムではみ出した部分を消していく。

 

「あ、本当だ!綺麗になった!」

 

 モールドだけを残し、しっかりと塗料を消すことができた。

 やはり、手先も器用なようだ。

 

「できると、結構楽しいですねスミ入れって!」

「こっちはめんどくさく思わないか心配だったぜ」

 

 ミソラが、顔をこちらに向ける。

 その顔が、息のかかるほど近い場所に。

 作業を覗き込んでいたため、自然と身を寄せる形になっていた。

 振り向いた勢いでショートカットから漂う、少し甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 そして、兄のリクヤに少し似た、活発そうなぱっちりとした大きめの両目と視線が交差した。

 

「……ぉわ!すまん!」

 

 慌てて距離を取り、咄嗟に謝ってしまった。

 時間にして、僅か数秒。

 しかし、その間に思考が停止してしまい、まじまじと見詰める状態になっていたのだ。

 

「あ……い…いえ、大丈夫、ですよ」

 

 改めてミソラの顔を見ると、距離を取ったにも関わらず、はっきりと赤くなっているのが分かる。

 

(どう見ても大丈夫じゃねぇ!)

 

 心の中で冷静にツッコミを入れる自分を呪う。

 よく考えてみれば、この作業スペースに二人きりなのだ。それを意識すると、居心地がとてつもなく悪くなってくる。

 

「あぁ…えっと、じゃ、じゃあ、ストライクルージュのスミ入れに取りかかる、か?」

「は、は、はい。ソデスネ」

 

(カタコトになってるし…)

 

 これはいかん、このままでは作業どころではない。一旦、空気をリセットしなければ。

 

「おー、そうだ。さっきから我慢してたんだ。ちょっとお手洗い行ってくるわ」

 

 全く尿意はなかったのだが、この場をリセットするにはそれしかない。

 席から立ち上がり、少しだけ早足で作業スペースを出た。

 扉を閉め、横にずれてから大きく深呼吸する。

 自分から先に逃げるとは、何て情けない。しかも、ミソラを一人にして出ていくとは、男としてやってはいけないことではないか。

 

(くっそぉ…俺の馬鹿野郎)

 

 もっと配慮しておくべきだった。

 近頃は、女子と一緒どころか、男一人きりという状態が続いていたため、感覚が麻痺していたのかもしれない。ホウカやジニアに接するのと変わりないスタンスだったのが、そもそもの間違いなのだ。

 

「やべ、本当に行きたくなってきた…」

 

 どっと溢れる疲労と共に、水に流してしまおう。

 そして戻ったら、元通りにガンプラの話をするのだ。

 そう願いつつ、お手洗いを目指す。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 ビッグリングの店内に入ると、お手洗いの方から歩いてくる一人の人物と鉢合わせした。

 

「え?」

「ん?」

 

 地味な二枚襟のシャツにデニムという、飾り気のない服を着ている身長の高い男性。見慣れたその顔は、学園では硬派イケメンと評される(らしい)。

 

「トモにぃ?」

「ホウカ、何でここに…」

 

 あ、と。そういえば、昨日トモヒサはミソラと何か約束をしていたらしいのを思い出した。

 

(ガンプラのことだったんだ…)

 

 残念やら落胆するやら、複雑な気持ちになる。

 

「ていうか、何だよその組み合せ…果たし合いでもしに来たのか?」

 

 自分の後ろに並ぶ二人に、トモヒサの訝しげな視線が投げ掛けられた。

 

「果たし合いか…ふふ、それも一興だ」

「止めてくれたまえ。私は、単純に遊楽に来たのだからな」

 

 ツツジは不敵に笑い、シンイチが首を振って否定する。

 

「地区予選の期間中に菱亜のエースを誘う度胸は、シンイチさんくらい肝が据わってないとできないな」

「買い被りだぞ」

「そうさ。これが君と二人きり、であったならばメールを斬り捨てていたところだ」

「ツツジは少し言葉が過ぎるようだな…」

 

 シンイチが弄られている…。

 三人のやり取りを見ていると、店の奥からミソラが歩いてきた。

 

「え、どうしたの。この大所帯…」

 

 そして、トモヒサの隣に並ぶが、一瞬目を合わせたかと思うと二人共落ち着きがなくなる。トモヒサは咳払いし、ミソラはショートカットの襟足を触り始めた。

 

(…何かあったのかな?)

 

 明らかに、何かがあった雰囲気だ。

 どうしたものかと、ツツジとシンイチに救いを求めようと視線を送るが、救世主は別のところから現れた。

 誰かが、自分達の脇を通り過ぎようとする。

 

「…んん?ちょっと待て」

「わひゃ!?」

 

 その人物の行く手を遮るトモヒサ。

 

「お前…ジニアだな!?」

「うぇ!?…チ、チガウヨ!エ、エージェント888ダヨ!」

「誤魔化すのヘタクソ過ぎんだろ!?」

「あぁぁ~帽子取らないでぇ~!」

 

 トモヒサが大きめの帽子をひっぺがすと、お団子に纏められたマゼンタ色の髪が衆目に晒された。最初に声を出した時点で分かっていたが。

 ジニアはばつの悪そうな顔をしながら、伊達眼鏡を外す。

 

「何でお前までここにいるんだよ」

「うぇ?えー、いやぁ…アッハハ」

「その格好、俺かホウカを尾行していたんだろ?分かり易すぎるぞ」

「えぇー?けっこー完璧な変装だと思ったんだけどなー」

 

 ジニアはくるりと一回転し、腰に両手を添えてびしっとポーズを決める。「あ、ちなみに尾行してたのはホーカの方ね」と付け加えたが、それは聞かなかったことにした。

 しっかりと見ると、短パンのオーバーオールがとても可愛らしい。

 

「ジニー可愛いね!似合ってるよ」

「えへへー、でしょでしょ?日本のファッションも中々いいよね!」

「何ー?二人共楽しんじゃってさ」

「私も輪に入れてくれないか。男子どもとでは賑やかさが足りなくてな」

 

 ジニアを中心にして、女性陣が集結した。

 

「……なぁ、やっぱり皆で来た方が良かったんじゃないか?」

「何の話だ、トモヒサ」

「う~ん…分かんねぇなぁ女って…」

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 それから少しの間、どのガンプラがよく動くだとか、このビルダーズパーツが中々具合が良いだとか、一堂でひとしきり語り合った。

 そして、トモヒサとミソラは対人戦をやってみるのだと言って、現在対戦相手を募っているところだ。

 

「一応2on2で出してるけど、もし三人がいいって言われたりしたらホウカに出てもらうかもな」

「その時は、ホウカさんよろしくね」

「うん。ガンプラはここにあるので何とかなりそうだから」

 

 今日は、ガンダムラナンキュラスを持ってきてはいない。ガンプラを持ち歩く習慣が自分にはまた浸透していない上、地区予選に控えるために最高の状態を維持しておきたいのだ。

 それはトモヒサとツツジも同じ考えだったようで、トモヒサはビッグリングに寄贈していたガナーザクウォーリア、ツツジはGサイフォスを持参してきたらしい。

 隣のバトルシステムでは、ツツジとシンイチがプラクティスモード(HARD)で共闘していた。

 

「あれが、ガンダムAGE-1トールギス…」

 

 平野のフィールドの空を、まるで白い流星のように貫く姿。スーパーバーニアの加速で一気にハイモックの部隊へ突入し、手持ち武装としては破格のドーバーガンの銃口が轟いた。

 その一射で、ハイモックを10機ほど撃ち抜く。そのまま、ドーバーガンを振った反動で腰のビームサーベルを抜刀し、接近したハイモックを横一文字に一閃した。

 

「久々のガンプラバトルだ。相手がCPUと言えど、私の心も赤々と燃え滾る!」

 

 黄金に輝く大きなアンテナの奥で、緑色の相貌が睨みを効かせる。

 その背後に、濃紺のモビルスーツ、Gサイフォスが降り立った。

 細長い脚部はAGE-1スパローを元にしたと言われ、Gバウンサーの改修機ながらに、カラーリングとパーツの変更によって全くの別機体に見える。

 右手に握る高出力ヒートソードの刀身が、陽の光を反射してギラリと光った。

 

「策を弄さず、敵陣の直中に突入するとは相変わらずの男だな」

「フフ、ツツジこそ。己を棚に上げるか?」

「まさか。…蛮勇は承知の上!」

 

 ツツジの声を合図としたかのように、純白と濃紺のモビルスーツが飛び出す。怒濤の如く迫るハイモック達を次々に撃ち抜き、斬り伏せ、飛び込んでは快哉を叫んだ。

 これが、熟練の世界。

 

(この世界に、挑戦してるんだ…)

 

 改めて、気を引き締め直した。

 隣を眺めながら挑戦者を待っていると、コンソールにサイン音が鳴る。

 

「お、きたきた」

「い、いよいよですね…」

「落ち着けよ、気楽に行こうぜ。ガンプラバトルは楽しんだモン勝ちだ」

 

 挑戦者は二人らしい。これなら、自分が出る必要もなさそうだ(隣のバトルを見て、少しウズウズしていたのは正直なところだが)。

 バトルシステムの音声に従い、トモヒサはガナーザクウォーリアを、ミソラはストライクルージュ(スミ入れ済み)をユニット台に置く。

 

『BATTLE START!』

 

「カトー・トモヒサ、ガナーザクウォーリア!行くぜ!」

「カ、カネダ・ミソラ!ストライクルージュ!い、行きます!」

 

 カタパルトを滑走し、宇宙空間に飛び出す二機。

 フィールドは、特にギミックは無さそうな普通の宇宙フィールドだった。

 

「さて、お相手さんは、と…」

 

 トモヒサがコンソールで索敵を始める。すると、すぐに反応があったようで、コンソール上のサインが明滅してアラート音が鳴った。

 フィールドを注視すると、星の海から二機のモビルスーツが飛んでくるのを確認する。

 一機は、両肩部から左右に伸びる航空機のようなウイングが特徴的な、細身の機体。右手には装甲板が貼り合わさったようなビームライフルが握られている。

 もう一機は、僚機を一回り大きくしたような大柄の機体。一見、ガンダムAGE-3にも見えるが、両膝から突出する砲身と着膨れしたような脚部、そして両腕に装備されている二門のビームライフルが印象を変えていた。

 二機とも、見覚えがある。

 

「あの機体…まさか…!」

 

 トモヒサも気付いたようだ。

 それは、地区予選の初日のこと。自分たちのブロックが終えた次の試合に、今目の前に現れている二機がいたのだ。

 それぞれ、名前は「ガンダムクロスエックス」と「ツヴァイゼータガンダム」だったはずだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

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『気分転換に一勝負頼むぜ!』

 

 オープンチャンネルで、ガンダムクロスエックスのファイターから掠れたような声が届く。

 

「ちょっと待ってくれ、その機体…紗寺学園か!?」

『ん?俺たちを知ってるってことは…あんたも地区予選に出場したファイター?』

 

 トモヒサの問いかけに、今度はツヴァイゼータガンダムのファイターが応える。こちらは少しトーンが低いが、やはり声が掠れていた。

 少し距離を置いて、二機が停止する。

 

「俺はチーム『スターブロッサム』のカトー・トモヒサだ。あんたら、チーム『アンダブル』だろ?」

『するってぇと…"黒い悪夢"か!?あの化け物を操縦してた!?』

『おいおい、ちょっとやばい奴と出会しちまったんじゃ…』

 

 トモヒサの正体を知るや、二機が戦いたように顔を見合わせる。

 

「先輩、紗寺学園って言うと…『スターブロッサム』が次に戦う相手ですよね?」

「ああ。まさかとは思ったがな…」

 

 ミソラがトモヒサに問いかけた。

 その瞬間、二機の態度が変わり始める。

 

『そこのストライクルージュ、女子か…』

『そういや、"黒い悪夢"ってイケメンらしいじゃん』

『…なーるほど』

 

 ガンダムクロスエックスが、何かを納得した様子で頷いた。すると、突然ビームライフルを構え、ツヴァイゼータガンダムも両腕のダブルビームライフルを構える。

 

『『リア充か!!』』

 

 宇宙空間に響き渡る(システム上、音が伝わる)、二人の掠れ声。

 

「……はぁ?」

『よく見りゃ、そこにもう一人女子がいるじゃねぇか!』

『確かに!しかも可愛い!』

 

 今まで静観していた自分に、いきなり矛先が向く。

 

『許すまじ、"黒い悪夢"!』

『覚悟しろー!』

 

 捲し立てるように言い散らかした二人が、機体を押し出した。

 

「何だかワケわかんねぇことになったが、やるしかねぇ!行くぞミソラ!」

「は、はい!」

 

 ガナーザクウォーリアは後退して隕石に着地し、ストライクルージュが前へ出た。

 

「無理すんなよ、相手はあれでも代表選手だ。俺が援護する!」

「了解です!」

 

 ストライクルージュはビームサーベルをエールストライカーから抜き放ち、粒子刃を発生させて斬りかかった。

 それに対し、接敵したガンダムクロスエックスが難なく回避して見せる。

 

「速い!?」

『へっ、トーシロかよ!』

 

 そして、回避されて体勢が崩れたストライクルージュを蹴りつけた。

 

「きゃあ!?」

『アシヤ!』

『任せな!』

 

 クロスエックスのファイターの声に、ツヴァイゼータのファイターが即座に返す。ダブルビームライフルから、合計四発の光軸が発射された。

 それがストライクルージュに当たる寸前、太い光の奔流がそれらを掻き消す。トモヒサのガナーザクウォーリアの砲撃だ。

 

「俺を忘れんなよ!」

『ちぃ!おい、あの黒いガナーザクは頼んだぜ!』

『おうよ!』

 

 そう声を上げ、ツヴァイゼータが発進しようとした瞬間。

 

 

 

――バシュウゥゥゥ……!!

 

 

 

 別方向から、新たな砲撃が襲いかかった。

 しかし、それはガナーザクウォーリアとストライクルージュを狙ったものではなく、それどころかツヴァイゼータガンダムの行く手を阻んでいる。

 

『げぇ!?こ、このビーム…!?』

『…やっば』

 

『げぇ!?じゃない!!何やってるんだお前達!買い付けはどうした!?』

 

 声の主を探すと、やや離れた場所に翼を広げたようなシルエットを作り出している機体を発見した。

 横に展開された翼のようなウイングに、両肩から突き出るコーン状のパーツ。そして、先程の砲撃を繰り出した大型のバスターライフル。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「…ダブルゼロガンダム。リーダーのお出ましかよ」

 

 トモヒサが、声に焦りを滲ませて呟いた。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

「申し訳ない!」

 

 続行かと思われたが、バトルは中止。背の高い男性と髪を結っている男性を率いて、癖毛が目立つ黒髪の人物が頭を下げて謝罪を示してきた。

 

「お前達も頭を下げろ」

「う、うん…」

「ごめんなさい…」

「よ、よしてくれよ。別に何かされたわけでもないんだし…」

 

 トモヒサが落ち着かない様子で言うと、黒髪の男性(最初は女性のようにも見えた)は顔を上げて表情をきつくした。

 

「いや、はっきりと聞こえていた。リア充だのトーシロだの、相手を尊重しない態度もな」

「「ゔ…」」

 

 口籠る二人。

 少し視線を横の二人に流すと、男性は表情を柔らかくした。

 

「自己紹介がまだだったな。もう知ってることと思うが、ぼくはオオゾラ・ユキナリ。チーム『アンダブル』のリーダーを務めさせてもらっている」

「こりゃ、ご丁寧にどうも。こっちも知ってると思うが、チーム『スターブロッサム』のリーダー、カトー・トモヒサだ」

「ああ、よろしく。さて…お前達は自己紹介をしたのか?」

 

 じろりと、オオゾラ・ユキナリが鋭く視線を流す。

 

「ガドウ・ラン!紗寺学園中等部2年です!」

「ア、アシヤ・シュウト!同じく中等部2年です!」

 

 弾かれたように背筋を伸ばし、朗々と名乗る二人。

 それに対し、ミソラと顔を見合わせて頷いた。

 

「私は、チーム『スターブロッサム』のキンジョウ・ホウカです」

「えーと、その同級生のカネダ・ミソラです」

「あれ?そういやジニアの奴はどこだ?」

「そういえば…」

 

 いつからなのか、ジニアがいなくなっていた。何処にいるのかと視線を店内に巡らせると、小走りに駆けてくるジニアを見つけた。

 

「え?なになにどしたの?ケンカ?」

「こいつが『スターブロッサム』の三人目、ジニア・ラインアリスだ」

 

 トモヒサは即座に順応し、経緯を省略する。

 

「よく分かんないけど、よろしく?」

 

 頭に?マークを浮かべるジニア。

 

「ジニー、この人達が次の相手みたいだよ」

「え?チーム『アンダブル』?どうして?」

「話すとちょっと長くなるかな…」

 

 色々あって、説明が難しかった。

 その後、隣のバトルシステムで共闘していたツツジとシンイチまで合流し、よりややこしくなってしまう。一先ず、この場は収拾をつけるとして、チーム『アンダブル』の三人は去っていった。

 そして、夕方。

 ツツジとは駅で別れ、帰る電車の中でトモヒサが尋ねてくる。

 

「なぁ、ちょっと訊いていいか?」

「何?」

「ミソラって…俺をどう思ってるか分かるか…?」

「え…気づいてないの…?」

 

 何を利かれるのかと思えば、それは想像していなかった。

 

「あ、いや…やっぱりそうだよな…悪い」

 

 何故か謝られた。

 どうやら、今まで本当に気付いていなかったようだ。今日のことで、ようやくミソラの気持ちに勘付いたということか。

 ちらりと、ジニアと話しているミソラを盗み見た。

 

(ミソラさん、頑張って)

 

 この鈍感男は、ちゃんと言わないと多分気付いてくれない。

 しかし、自分はそれに関わるべきではないし、必要以上に口を出すのは迷惑だと思う。

 

(でも…あんまりトモにぃのことは言えないかも)

 

 トモヒサの隣に座り、スマートフォンをタップしているシンイチを見る。相手は、恐らくナラサキ・フウランだろう。何故か直感めいた確信を抱く。

 度々、彼に感じている感情の正体。それは、未だに答えが出ていないのだ。

 

(好きって…どんな気持ちなんだろうな…)

 

 ミソラがトモヒサに抱いている感情は、そういうことなのだろうと理解しているつもりだ。アズマの太鼓判だってある。しかし、自分のことになるとまるで分からない。

 この気持ちの、シンイチに対して抱く気持ちの正体をはっきりと理解するには、もう少し時間が必要かもしれない。

 

 

 複雑な気持ちを考えているうちに、電車の揺れで眠りに落ちてしまった。

 

 

 

   Act.19『恋は思案の外Ⅲ』END




●登場ガンプラ紹介

・ヴァルヴァロ・ヴァイス
 地区予選に出現した白亜のMA。
 HGサイズのヴァルヴァロは存在しないため、スクラッチビルドと思われる。
 今大会のダークホースとも噂され、リクヤの指摘から"ワンマン・コンツェルト"との関係が示唆されている。

・ノイエ・ジール
海外のバトルロワイヤル大会に現れたMA。"ワンマン・コンツェルト"オリガ・ブルーメンフェルトのガンプラであり、その圧倒的ながらテンポのいい攻撃パターンで全てを破壊し尽くす。

・アメイジング・レッドウォーリア
 言わずと知れた、"三代目メイジン・カワグチ"のガンプラ。
 アズマのガンダムAGE-1フルグランサと激闘を繰り広げるが、タイムアップという結果に終わってしまった。

・ガナーザクウォーリア
 以前にトモヒサが制作した完成見本。
 陳列品としてビッグリングに飾られているが、性能は実戦級に仕上げられている。
 カラーリングが高機動型ザクⅡを意識しているのは、トモヒサの拘り。

・ガンダムクロスエックス
 ガドウ・ランのガンプラ。地区予選にも使用した機体であり、その性能は高い。
 どうやらガンダムDXに似せているようだが、本体には一切原典機のパーツは使われていない。

・ツヴァイゼータガンダム
 アシヤ・シュウトのガンプラ。大柄の機体。
 こちらも原典機はダブルゼータガンダムのようだが、本体はガンダムAGE-3を使用しており、両足はガンダムヴァーチェに交換されている。

・ダブルゼロガンダム
 オオゾラ・ユキナリのガンプラ。
 GN系列の機体のようだが、ほとんどのパーツが別のガンプラからコンバートされている。

・ガンダムAGE-1トールギス
 テライ・シンイチのガンプラ。
 昨年の地区予選にも使用されており、カンザキ・ツツジと決勝戦でぶつかり合った。


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「"ダブルゼロシステム"、解放!」

 火花散らす、地区予選。
 本来追い求めていた目標とは違っていても、賭ける情熱は変わらない。
 仲間の勝利を願い、彼は秘めたるものを解放する。

「これが、私の――本気ですッ!!」

 立ち向かう彼女も、全力をもって機体を押し出す。

 次回、ガンダムビルドファイターズF
 Act.20 『涓滴岩を穿つ』

 マイクロウェーブが…来ない?

「マイクロウェーブ…来、来……来いよォ!!」

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