ガンダムビルドファイターズF   作:滝つぼキリコ

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※前話の最後を改編し、カレンダーを赤にして無理矢理休日にしました。ご了承ください。

 


Act.18 『恋は思案の外Ⅱ』

  

 

(一体どういう風の吹き回しなんだ…?)

 

 タタンタタン、と規則性のある音と揺れを感じる。

 休日のため、火曜日の午前中にも関わらず電車を利用する人は多かった。小学生から高校生、そして老夫婦などもちらほら見かける。都会(地区予選会場のある街だ)へ遊びに行くつもりだろう。

 その中にあって、自分から見ても微妙な距離感があるのが分かる二人組が座っていた。

 

「…先輩、少し意見を聞いてもいいですか?」

「……へ?な、何だ?」

 

 英志学園高等部二年、カトー・トモヒサ。

 英志学園高等部一年、カネダ・ミソラ。

 常の学生服ではなく、私服に身を包んだ二人組だった。

 

「今度、またガンプラを買おうと思ってるんですが、何かオススメとかありますか?」

「んー、オススメか…俺の感性はあまり役に立たないしな…。自分に合ったのを選ぶといいと思うぞ。ミソラは、ストライクルージュを持ってるんだったよな?」

「はい、この前ホウカさんにちょっと教えてもらって作ったのが」

「ホウカがねぇ…。何でリクヤに教えてもらわなかったんだ?」

「え?兄ですか?えっと…それは、ですね…」

 

 アハハ…と、何やらはぐらかすミソラ。

 こうして余人を介さず二人で会話をする機会はほとんどなかったが、礼儀正しい口調には少し驚いた(兄のリクヤに対してはキツい印象が強かっただけに)。

 何故、今こうして二人で電車に揺られているのかと言うと、昨日の部活動終了後に遡る。

 リクヤから古武道部に顔を出すよう言われ、その通りに5号館の道場へ赴いた。白の胴衣に紺の袴を着ていたミソラから、「明日、ガンプラショップに行きませんか?」と全く想定外の誘いを受けたのだ。

 僅かばかり面を食らったが、どうせやることもない上に旧知の仲なので断る理由もない。どうせなら他の面子も…と提案してみたが、何故かそれは拒否された。

 向かう場所は趣味人の世界だが、男女二人で出掛けるという事態は、さすがに経験のない自分でも"あのカタカナ三文字"が過る。これではまるで…

 

(デート、だよな…)

 

 それを裏付けるかのように、時々車内の男どもの鋭く刺さる視線を感じた。

 ミソラの私服は、スポーティなパンツルックに桃のブラウス、そしてコーディネートによく似合う茶髪のショートカットという出で立ち。隣に座っているだけなのに、妙に誇らしいほどだ。

 一方自分はと言えば、二枚襟の特にデザイン性があるわけでもないシャツと普通のデニム。服装にかける金など、ありはしない。

 とはいえ、こんな組み合わせのカップルというのも、いないわけではない。

 

(違う、違うぞ…俺たちはこれからガンプラショップに行くんだ…)

 

 何故か、抗議したくなった。

 

「…先輩?」

「あ、ああ、何だ?」

「この、フリーダムガンダム?って言うのが気になるんですけど」

「フリーダムか。ちょっと上級者向けな機体だが、作って飾る分にはいいガンプラだ。バトルでは、追々慣れていけば問題ないだろ」

 

 向けられたスマートフォンの画面には、通販サイトの「HGCE フリーダムガンダム」の完成見本が表示されていた。

 

「後、塗装なんかもやってみたいなぁ…なんて。ストライクルージュの色が気に入ってるので、このガンプラも近い色にできたら」

「赤いフリーダムか?…"炎トライのツバサ"を思い出すな」

「誰ですか?」

「ああ、悪ぃ。ちょっと思い出しただけだ」

 

 人呼んで、"炎トライのツバサ"。派手な赤いフリーダムガンダムを愛機とする、界隈では有名なガンプラファイターだ。三年前から様々な大会で活躍し、その度に名勝負を繰り広げることで人気を集めている。

 お隣の埼玉に在住らしいが、これは余談だ。

 ふと、イブキ・アラタから提供された「ドッズトンファー」が、このガンプラの武装を元に作られているのを思い出す。

 

「とりあえず、今日は色々やってみようぜ。ビッグリングなら馴染みの人もいるから、話も沢山聞けるはずだ」

「はい!」

 

 そんな、青春らしさを微塵も感じさせない会話をしつつ、電車に揺られながら目的地へと向かった。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

――トモヒサとミソラが電車に乗ってから、やや時間を置く。

 

 

 

「ちょっと、薄着すぎるかな…?」

 

 キンジョウ・ホウカは翠風寮の自室から出て、再度身形を確認する。

 今日は湿度も低く、さっぱりした天気という予報だったため、薄着のコーディネートを試してみた。胸元に花のレースをあしらった群青色のノースリーブに、ゆったりした白黒のチェック柄ブルームスカート。

 ここ一ヶ月近くは色々と立て込んでいたため、服を買いに行く時間が取れなかった。入学前に買っておいた私服が役に立って、内心でほっとする。

 

(…うん。悪くない、はず)

 

 別に、身形に無頓着というほどでもないが、"今日のような日"に着ていく私服というものを意識したことがないのだ。

 常であれば気にすることもないのだが、一緒に学園の外に出る人物が人物だけに、妙に気負ってしまう。

 いい加減なところで踏ん切りを付け、寮の玄関へ歩を進めた。

 その間、ダイニングルームを抜ける時に数人のクラスメイトに目撃され、「あれ?どっか行くの?」や「ちょっと気合い入ってない?」と言われたが、全てに「うん。ちょっとね」と誤魔化しつつ返した。

 

「まさか、カトー先輩と…!?」

「いや、違うね。あれは違う。きっと元会長だよ…!」

「信じてたのに…!」

 

 足早にその場を過ぎ去る。

 クラスメイトの勢力圏から脱し、すぐに玄関に辿り着いた。上履きから靴に履き替えて外に出ると、上がり始めた太陽の光を受けて輝く銀髪を揺らし、美しい鼻梁が目立つ端正な顔がこちらを向く。

 

「来たか」

 

 そして、たった一言を発しただけなのに、映画のワンシーンのような完璧な映像となった。

 思わず、一瞬呆然とする。

 

「……あ!お待たせして、済みません」

「いや。私も、つい今しがた来たところだ」

 

 これほど美男子という言葉が似合う、テライ・シンイチのような人間が他にいるのだろうか。そんなことを頭の片隅で思いつつ、彼の側へ駆け寄った。

 彼の私服は、意外にもシックな印象で纏められていた。脚の長さを存分に活かした黒のパンツに、白のインナーの上に着る暗めの赤いカーディガン。赤、という辺りに拘りを感じつつ、派手ではなかった。

 僅か衣服に意識が向く間に、シンイチもこちらへ視線を流す。一瞬目を丸くしたかと思うと、微笑を浮かべた。

 

「ほう、中々可愛らしい私服だ。似合っている」

「…っ!?」

 

 面食らったのも無理はない。

 

(…………はっ!?)

 

 あまりに直球すぎる言葉に、先程のようにまた呆然としてしまった。

 

「あ、ああ、あの……ありがとうございます…」

 

 我ながら、何とうぶな反応なんだろう。

 今まで、近くにいた男性と言えば父親と師匠、そしてトモヒサ。何れも誉める部分がずれているため、シンイチのような"異性として"の誉め言葉をかけられたのは、産まれて初めてのことだ。

 

(わぁぁぁ…は、恥ずかしい…)

 

 自分でも顔が紅潮していくのがはっきりと分かる。慌てて、気付かれまいとシンイチの前に出た。

 

「い、行きましょうか、テライ先輩!」

「ん?ああ、そうだな。では、行こうか」

 

 何故か自分が率先してリードしながら、その後をシンイチが歩くという、奇妙な距離感。

 アーチ状に天を覆う木々の木漏れ日の中を歩きながら、ふと思い出した。

 

(あれ?そういえば、何処に行くんだろう…?)

 

 まぁ、それは後で聞けばいいか。

 今は、あまり顔を見られたくないから。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 さて、ようやく着いたか。

 電車で一時間近くかかるこの場所にわざわざ出向かなければならないのも、地元にプラモデルショップがないせいだ。

 とはいえ、通販を利用すると時間もかかる上、思っていたものと違う商品を購入してしまう場合もある。やはり、実際に店頭で吟味した方がいい。

 

「あぁ~…ねみ…」

「てゆーかよ、うちでガンプラ作りたい」

 

 駅のホームに降り立つ自分の後ろに続き、後輩の二人も降りてきた。

 何やら文句をぶつぶつ言いながら。

 

「はぁ…。仮にも選手権の代表なんだから、もっと自覚を持て」

 

 常のようにため息を吐きつつ、チームリーダーとして二人に喝を入れる。

 

「へ~い…あぁやっぱねみ」

 

 気の抜けた返事をしながら目尻に溜まった涙をこするのは、項で長い髪を一束に結うガドウ・ラン。ガンプラバトルでは、最強と信じて疑わない愛機「ガンダムクロスエックス」を駆る。

 

「つってもよぉ、わざわざ三人で買い出しに行く必要あるのかぁ?」

 

 こちらは、癖のある茶髪とやや大人じみた体格が目立つ、アシヤ・シュウト。愛機は、中距離戦を得意とする重量型の「ツヴァイゼータガンダム」。

 しゃっきりせず実に頼りないが、共に戦うチームメンバーだ。

 

「お前達がそういう態度だから、こうして自覚を持たせるために連れてきたんだろう」

「へいへい」

「わーってるよ、せっちゃん先輩」

「その呼び方はやめろ…!」

 

 本当に分かっているんだか…。

 自分のフルネームはオオゾラ・ユキナリなのだが、名前の「雪成」をもじって「せっちゃん」らしい。甚だ不本意な渾名だ。

 自分のガンプラが機動戦士ガンダム00系列で、さらにダブルオーガンダムを意識しているのは確かだが、自分まで刹那・F・セイエイに似ているとは言いがかりもいいところである。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

 そうして、二人を伴ってホームから改札を抜け、小ぢんまりとした駅舎から外に出る。スマートフォンで地図を確認し、ガンプラショップ「ビッグリング」までの道程を再確認した。

 

「ここから近いな。歩いて行こう」

「えぇ~!タクシーにしようぜぇ~」

「今日は陽射しも強いしさ、そうしようぜ?」

「電車代は余分にあるが、無駄遣いはできないだろう?文句ばかり言ってないで歩くぞ」

「「ドケチ!」」

「うるさい!」

 

 そんなやり取りをしながら、人の往来もまばらな歩道を歩き始めた。

 ふと、この町について思いを巡らせる。

 それほど活気のある所ではないのは以前から知っているが、最近では話題の絶えない町になっていた。元々、英志学園という名門校が所在することで有名ではあるが、特にガンプラ界隈では、昨年にその学園が送り出したチーム『スターブレイカーズ』が、初出場ながらに準決勝まで勝ち進んだことで話題を呼んだのだ。

 そして今年は、剣道だったか空手だったかよく覚えていないが、栄えある賞を授与された一人の女子中学生(当時)が英志学園に入学し、新生したチーム『スターブロッサム』のエースとなった。

 話題にならない方が不思議というものだ。

 

(初めてこの目で見たが、確かにエース足り得る腕を持っていたな)

 

 先日の地区予選。"黒い悪夢"ことカトー・トモヒサのガンプラ・ガンダムヘリクリサムも目を見張ったが、新参の二人の戦いぶりも看過できないものだった。

 そのチームが次の相手だと言うのだから、こちらも気を引き締めて臨まねばならない。

 

(…だというのに、この二人は…)

 

 歩きながら背後でふざけ合っているチームメンバー二人からは、緊張感の欠片も感じられなかった。

 

「…纏め上げることができるのか、自信がなくなりそうだ」

「ん?せっちゃん先輩何か言った?」

「いいや。というかせっちゃん先輩はやめろ」

 

 こちらの不安など何処吹く風とばかりに、ガドウの掠れ声。

 いくら悩んでも仕方がない。自分でチーム『アンダブル』のリーダーを引き受けたのだ。今更それを違えることはできない。

 自分にできることを、精一杯やるだけだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

「ん?ホウカさんはもう選んだか?」

「い、いえ…まだです」

「決めかねているようなら、私が三品ほど推奨するが?」

「だ、大丈夫です。自分で選びますから…」

 

 少し早めの、昼食。

 以前、ビッグリングでレートマッチに参加した時にも利用したファミリーレストランを、"三人で"訪れている。

 

「私は、食後に抹茶パフェを頼もうかな」

「相変わらず日本の食に拘るのだな、ツツジ」

「ふふ。君こそ、ファミレスで雑炊とは外見に似合わず質素だぞ?」

「己が味覚による確かな判断だ」

 

 自分の真向かいの席に腰かけているのは、菱亜学園チーム『ハウンドクロス』の先手大将、人呼んで"キャプテン・アゼリア"ことカンザキ・ツツジ。

 その出で立ちは鮮烈な深紅の学生服ではなく、落ち着いたブラックのとろみシャツに下はカーキ色のスカーチョ。まるで大学生かと見間違うような、エレガントな大人の雰囲気だ。

 お品書きを顔に被せるようにし、こっそり二人を盗み見る。

 どういうことなのか、簡単に纏めるとこうだ。

 どうやら、シンイチは昨晩のメールにカンザキ・ツツジも同伴する旨を書いていたものと勘違いしていたようだ。そのため、電車を降りて彼女に会うまで、そのことは一切知らなかった。曰く「粒子の中だけでなく、公私においても親睦を深めてほしい」とのこと。

 だからと言って何か不都合があるわけでもないし、それどころかシンイチと二人きりという状態が解かれ、普段のツツジの姿をこうして垣間見ることができて良かったとすら思っている。

 しかし…こうして仲の良さそうにしている姿を見ていると、胸の奥で何かが騒いだ。ツツジに対する、シンイチの学園では見たことのないような屈託ない笑みは、どういった感情からだろう。

 

「あのぅ…」

「む、何かな?」

 

 その長い銀髪に包まれた顔が、こちらを向く。

 

「前から気になっていたんですが…お二人のご関係は、どういう…?」

「ああ、済まない。まだ言っていなかったな。関係というほどのこともないが、言うなれば戦友か」

「戦友、ですか?」

「分かりにくいだろう?言い回しがくどいからな、シンイチは。そこから先は私が話すとして、まず注文してからにしようか」

 

 そう言って、ツツジは店員を呼んだ。慌てて自分も早々に決め、注文を取り付ける。

 

「実は、私は帰国子女でな。中学校までイタリアに住んでいたんだよ」

「イタリア…あ」

「ふふ、察しが良くて助かる。シンイチが英志学園へ留学する前の年だ、知り合ったのは。当時私は14歳、シンイチは15歳だ」

「すると…4年前ですよね」

「うん、そうだ」

 

 シンイチがイタリアの留学生だったという話は、トモヒサから聞かされている。だが、ツツジも同郷とは意外だ。

 帰国子女ということは、産まれは日本なのだろう。しかし、口調が二人共少し(かなりかもしれない)特殊なのは以前から気になっていた。何か関係があるのかもしれない。

 ツツジは、肩に降りてきた菫色のポニーテールをかき上げながら続ける。

 

「その時、イタリアではタッグバトルトーナメントが開催されていて、私は出場するために相棒(バディ)を探した。そして出会ったのが、この男テライ・シンイチというわけだ」

「もう遠い昔の話のようだな。今では、良き友に巡り会えたと感じている」

 

 シンイチが、目を伏せながら感慨深げに頷く。

 

「あの頃は意見が分かれ、衝突することもあったが、な?」

 

 横目でシンイチを一瞥しながら、ツツジが悪戯っぽく笑った。それに苦笑いを浮かべ、シンイチはグラスの水を煽る。

 

「すると…お二人はライバルでもあり、仲間でもあった、と?」

「うん、そういうことになるな」

「なんだか…そういうのって、素敵だと思います」

 

 ふと、口を突いて出た言葉に正面の二人がきょとん、とする。

 

「私、そういう風に熱くなれるようなライバルがいませんでしたから…トモにぃは、ちょっと違いますし」

「古武術の方でいなかったのか?」

「はい。そもそも、一般的なスポーツとは違って、対抗する競技ではありませんし」

「なるほど。言う通りかもしれないな」

 

 気取っているのではなく、演武大会は技の評価のみであるため、自然と対抗する意識は低い。無論、そういうこともあるだろうが、自分にはついぞ意識する相手は現れなかった。

 

「だが…今は違う。そうだろう?」

 

 こちらを、真っ直ぐに真摯に見詰めてくる、ツツジの鋭い視線。

 

「はい…はい、今は違います。ガンプラ部に入って、チームを組んで、それから出会ったファイター達はみんな強くて、本気で楽しんでいて…。だからこそ、私ももっと強くなりたい、もっとガンプラのこと、ラナンキュラスを知りたいと思いました」

 

「そのファイターの中に、私も含まれていると思って相違はないかな?」

 

 尚も真っ直ぐに見詰めてくる青い相貌に、臆せず力強く視線を返す。

 

「勿論です」

 

 それだけを言った。

 すると、暫し目を伏せたツツジが静かに笑う。

 

「そうか…ふふ。あの時感じた"もの"は本物だったか…ふ、ふふ」

「えっと、あの…カンザキ、さん?」

「ああ、この女は、少しおかしくてね。気にしな…痛ッ!?」

 

 突然跳ね上がるシンイチ。大方、ツツジの踵にでも踏まれたのだろう。

 二人の意外な面を次々と知り、少し遠くに感じていた印象が、ゆっくりと溶けていくのを感じた。

 

(そうだよね。だって、ガンプラが好きなだけの人達だもんね)

 

 手の届かない次元にいるのではないか、自分では覆すことなど不可能なのではないか。強いビルドファイターに出会う度、そんな考えを募らせていたことをようやく自覚した。

 しかし、それはもっと単純で簡単なことだったのだ。みんな同じ、何も変わらない人間。ツツジに対して、狭い見識しか持っていなかった自分を心の中で叱咤した。

 ガンプラが好き。だからこそ、強くなれる。

 

「…ゴホン。それはそうと、午後のことだが」

 

 居住まいを正し、咳払いをしてから切り出すシンイチ。

 

「ビッグリングへ赴こうと考えている」

「ほう?それは何故だ?」

「特別なことはない。ガンプラで繋がる親睦は、ガンプラで深めるのが最良と判断したまでだ」

「些か芸がないとは思わないのか…女子を二人も侍らせておいて」

「大きな世話だと、あえて言わせてもらおうか」

 

 先程の熱くなった気持ちで忘れていたが、現実を直視すると人生の一大事を体感しているのではないだろうか(トモヒサとジニアと同じ構図であるが、ワケが違う)。

 意識すると、やはり気になって仕方がない。

 

「ホウカさんは、それで承知してくれるか」

「は、はい。大丈夫です」

「それは良かった」

 

 にこりと、シンイチが優しげに笑う。

 

「これだから、いつまで経ってもナラサキさんの気持ちには気付かないのだな…」

 

 小声で、ツツジは呆れていた。

 

 

 

   Act.19『恋は思案の外Ⅲ』へ続く


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