はい、大体これ↑の関係でイラスト描くやらツイート見るやらで、文章をする時間がどんどん…どんどん…
ともかく、最新話を何とか更新です。短めなのでご了承くださいませ。
「…何か用かよ」
意識して、低い声音で問う。
猫背で立つササミネ・コウスケへ、しかしこちらは無意識に睨むような視線を送った。
対して、彼は怒っているのか笑っているのか判別のできない――極端に表現するならば、威嚇のような――表情を浮かべる。吊り上げた口角から犬歯をちらつかせ、三白眼がこちらの視線と重なる。
ふとその視線が逸れると、こちらへ歩み寄ってきた。
思わず半歩下って身構えるが、彼はポケットから小銭を取り出し、自動販売機に投入する。
そして、炭酸飲料のボタンを押した。
(……ふぅ)
思わず安堵する。
ササミネ・コウスケが、どんな用事があって突然現れたのか。そのことを気にする余り、気分を張り詰めすぎていたようだ。
どうしたって、この男のことになると警戒してしまう。それは、単に去年の決勝戦で苦汁を飲まされたからだとか、"
もっと以前――ササミネ・コウスケが菱亜学園に入学する前、そして自分がミヤモト・ロウに師事を仰いだ当時より前――からの因縁が、原因なのだ。
ササミネ・コウスケは落ちてきた缶を取出口から拾い上げ、こちらへは目もくれずに踵を返して歩き去っていく。無言のままその猫背を見送るが、彼は歩みを止め、首だけで振り返った。
横目から、突き刺さるような視線。
「…待ってるぜェ、カトー」
それだけを言い残し、最後に猟奇的とも取れる凄絶な笑みを浮かべて階段を登っていった。
後に残ったのは、場を包む重苦しい空気。
ハッとして意識を周囲に戻すと、ホウカとジニアが不安そうな表情で怯えたように肩を寄せ合っていた。
「…悪い、変な空気にしちまった」
「い、いやぁ…そんなことないよ?ね、ホーカ?」
「え?えぇ…っと、うん」
取り繕っているのが見え見えだ。
「…はぁ、お詫びに奢ってやるから勘弁な」
「あ、ラッキー」
ジニアは途端に上機嫌になり、「じゃあねぇ」と自動販売機の前で吟味し始める。沈痛な空気が払われて安心するが、胸の内では葛藤でいっぱいいっぱいだった。
そう、ササミネ・コウスケに打ち勝つために、ここまでやってきたのだ。去年の地区予選で再戦を果たせたが、結局、その時だって何もできずに破れた。それどころか、シンイチとリクヤの足を引っ張ることになり、チームの敗北も招いてしまった(誰のせいでもない、と二人とも言ってくれたが)。
彼に勝ちたいが為にミヤモト・ロウに弟子入りをし、ガンプラの技術も磨いたのに、意固地になって意識した結果がそれなのだ。
今年こそは、そんな失態は犯したくない。その上、不肖にもチームリーダーなのだ。身勝手を振り撒いて二人を巻き込むことは、絶対に避けたかった。初戦通過を成し遂げたばかりでもあるし、チームの高まった士気を台無しにしてしまいかねないだろう。
(チャンスは、幾らでもある。何も、この地区予選で晴らす必要だってない。今は、チームのために頑張るべきだよな)
無理に装ってでも、チームを引っ張っていかないといけない。それがリーダーたる者の勤めだ。
ふと、選んでいるジニアの隣に目を移すと、ホウカと視線が重なった。そして慌てた様子で、自動販売機に視線を逸らす。
恐らく、心配してくれているのだろう。問い質さずにいてくれる優しさが、逆に自責の念を強くさせてしまう。ちくりと、胸を小さな針が刺した。
流派"花鳥風月"の稽古に顔を出さなくなった理由。それだって、ササミネ・コウスケに起因している。いつまでも黙ったままではいけないと思っているが、その糸口も見つからず、今一歩の勇気もない。
ホウカに全てを打ち明けられるとしたら――ササミネ・コウスケに雪辱を晴らせた時。
それまでは、チーム全体のことを念頭に、戦っていこう。
「う~~~ん……よし、これだ!」
「散々悩んで結局オレンジジュースかよ!!」
今は、自分の成すべきことを、成そう。
・・・・・・・・・・
全日本ガンプラバトル選手権の初日も終え、選手達や観客達が次々に会場となった県民体育館を後にしていく。
それを見送りながら、エントランスホールの大きなソファに腰掛けた。
「カンザキさん、初日第一戦目のご活躍、お見事でした」
足を組みつつ、話しかけられた方に視線を巡らせる。
「ありがとう。君も、明日の健闘ぶりは楽しみにしているぞ、ユヅキ」
「ふふ。ご期待に添えますよう、努力します」
そう朗らかに微笑みながら、編み込まれた白髪の美しい彼女――ユヅキ・ララは、自分の正面のソファに腰を下ろした。丁寧に朽葉色のスカートを折り、膝を揃えて座る。そのたおやかな所作は、セント樫葉女子学園における優等生の鏡と言える姿だろう。
しかし、それは単なる優等生と言うだけではなかった。本人から聞いた話だが、ユヅキはセント樫葉女子学園の理事長の血縁らしい。日本に留学したのもその縁ではあるが、こうして格式高いとされるガンプラバトルのチームに入れたのも、総身に備えたる淑やかさも、全て努力の賜物なのだ(決して彼女は自ら自慢などしないが、交流していれば自然と分かるのだ)。
互いにガンプラバトルの実力を認め合ってから、今大会で一年になる。
「キンジョウ・ホウカさん…いえ、チーム『スターブロッサム』は、どうやら今大会の台風の目になりそうですね」
「ユヅキもそう感じたか」
「ええ。ニュータイプの感応…というアレでしょうか?」
「ふ、そうだとしたら、人類の革新は展望に値するな」
冗談を言い合い、小さく笑い合う。
「それはそうと、だ。キンジョウ・ホウカのガンプラ…ガンダムラナンキュラスと言ったか、あのような姿になるとは。君から聞いた以上だ」
「私が以前交戦した時からも、印象が大きく変わりました」
自分がビッグリングで手合わせした時は、GP03ステイメンのファンネル試験機だったのを思い返す。それが、大胆に素体をガンダムAGE-FXとし、各種パーツを巧みにミキシングさせてステイメンのイメージも引き継いでいるように見えた。ガンプラのミキシングという点で、カトー・トモヒサが背後にいるのが分かるが、彼にはない
キンジョウ・ホウカが短期間で成長を見せているという見識に、相違はなかったようだ。
「彼女だけではない。漆黒の怪物を持ち出したカトー・トモヒサ…分離可変し、それを卓越した技量で操縦し得るジニア・ラインアリスの二名もいる」
「ハルジオンとヘリクリサム、でしたね。どちらも可愛らしい花なのに、その名を冠したガンプラの方は侮れません」
「スターブロッサム、か…言い得て妙だな」
防御面と中~遠距離戦は未知数だが、近接戦で瞬間のカウンターを撃ち込むインファイター。
大火力と重武装を備え、自律誘導可能なシールドで攻守共に隙がない後方支援型の機動弾薬庫。
高機動性能と自由な分離/可変機能、そして奔放かつ高い技量によって相手を翻弄する高機動アタッカー。
バランスが取れ、個々の能力も恐らく秀でているであろうこのチームは、ユヅキの言う通りに台風の目になることは必至だ。
(何と言う、面白さか)
そうだ。そうでなければ面白くない。
「あ、またその笑顔」
「ん?」
言われて、いつの間にか伏せていた目を開く。ユヅキが、何やら含んだような微笑を浮かべてこちらを見ていた。
そうして、気付く。
「いや、すまない」
「構いませんよ。むしろ、カンザキさんの
「からかうのはよせ、ユヅキ」
どうにも、彼女は人を困らせるのが得意だ。嫌味たらしくはなく、それが信頼を寄せられているからこその自然体であるとは理解しているが、居心地のいいものではないのが正直なところだ。
アンドウ・サダコともこの見地は一致しており、お互いに警戒すべきことと定めている。とはいえ、常に意識などできるはずもなく、その上にあの朗らかな笑みだ。うっかりすると、今のようになる。
(…まぁ、それもユヅキの強みなのだが、な)
人を困らせるのが得意。それは、裏を返せば"隙を突くのが得意"とも言える。彼女のバトルスタイルにも通ずる部分であろう。
「さて、私はそろそろ
「研究熱心なチームメンバーは、頼りになりますね」
「何を言う。『天照す閃光』にも、クラオカ・オリハがいるだろう?」
「ええ、頼りにさせてもらっています」
互いに含み笑いを交わして、椅子から立ち上がる。そして挨拶を残し、それぞれの帰途に着いた。
トーナメントのマッチングから考えて、英志学園とセント樫葉女子学園、両校のチームと干戈を交えることは叶わない。順調に勝ち残れば、我らチーム『ハウンドクロス』が準決勝で相対するのは、どちらか一方なのだ。
(いかんな、つい意識してしまう。こんなことでは、準決勝の前に足元を掬われてしまう)
かぶりを振って、欲を払い除ける。勝ち進んだ先のことを考えるより、当面の相手を打倒せねばならないのだ。この大会に情熱を注ぐのは、全てのチーム、全てのガンプラファイター達。
愛機たるガンダムAGE-2バンガード、そのドッズソードの重みを、拳を握って思い起こす。
(……
休憩席でタブレットを素早く叩いて情報を纏めているシバ・ニーナと、その横でうつらうつらと体を前後させて座るササミネ・コウスケを視界に
このチームで優勝し、全国へ行くのだ。
この三人で、押し通ってみせる。
・・・・・・・・・・
全日本ガンプラバトル選手権、地区予選の一日目を終えて英志学園に戻ると、盛大な拍手と喝采に迎えられた。
執務で会場に行けなかったというテライ・シンイチと、会場で観戦していたアズマ用務員が逐一情報を取り合っていたらしく、それを受けたナラサキ・フウランの取り計らいによって(大袈裟すぎる)祝賀パーティーが催されたのだ。
ちなみに、アサクラ教頭が昼間に奔走して材料等を調達し、翠風寮の給仕のおばちゃん達に協力を取り付けたのだと言う。
賑やかな寮の食堂棟で、小皿を持って立っているトモヒサが話しかけてきた。
「なぁ、俺たちって…優勝したんだっけ?」
「初戦通過…だね」
「これ、来週も絶対負けられねぇよな?」
「うん…期待は裏切れないよね」
「重圧が凄いんだけど…!?」
小皿に盛られたパスタにフォークを突き刺しながら、トモヒサの顔色が見る見る悪くなる。
ふと視線を泳がせると、何故かこちらを見ながら意味ありげな笑みを浮かべるアサクラ教頭とナラサキ・フウランを見付け(てしまっ)た。
「まさか、教頭の精神攻撃じゃ…!?」
「それは流石にないと…」
思いたい。
いや、信じるしかない。これは善意なのだと。
「二人とも~、全然食べてないじゃ~ん!巨大モッタイナイ生物が来ちゃうよ~!」
「そんなん来たらすぐMLRS撃ち込んでやるよ」
料理を総嘗めせんと息巻いていたジニアが、オレンジジュースを片手に駆け寄ってきた。
「またオレンジジュース飲んでる…」
「これはベルバラだからね!」
「ツッコミが追い付かないよ、ジニー…」
こちらのツッコミ(?)を意に介さず、ジニアはグラスを煽って「プハー!」と大袈裟にしてみせた。
「ラインアリスさんの言う通りだ。教頭先生とフウランの好意は、素直に受け取っておくべきと思う」
ジニアに続き、テライ・シンイチもこちらへ歩み寄ってきた。その手にはグラスが(ガルマ・ザビのような上手持ちで)持たれ、紫色の液体が波打っている。無論、ワインではなく葡萄ジュースである。
ややげんなりしたような表情で、トモヒサが返す。
「…つっても、これは盛大すぎやしないか」
「古い名言に、『宣伝にやりすぎということはない』というものがある。これは、そのまま祝賀パーティーにも当て嵌るとは思わないか?」
「キン〇コン〇対〇ジ〇の
二人が何の話をしているのか理解できず、ジニアと顔を見合わせて首を傾げた。
シンイチは、ふん…、と息を吐き、柔らかな表情で諭すように言う。
「兎も角、今は喜んでいい。何、緊張することはない。ここにいる
「あの、テライさん。このパーティーの費用って…?」
小さく挙手をし、気掛かりに感じていたことを尋ねてみた。
「ふむ、そのことか。アサクラ教頭先生の実費だそうだ」
「「「ええ!?」」」
鈴虫の鳴き声の如く、さらりと綺麗な声音でシンイチは告げた。
「これ…全部か!?」
「うわー…イガイとアメイジングなお金の使い方…」
「あ、有り難く食べよう…」
先程の教頭先生への疑念(とナラサキ・フウランに対しても)に内心で謝罪し、改めて片手で祈って命を糧とすることに感謝する。
小皿に盛られているパスタにフォークを刺し、くるくると巻き取って頬張った。
うん、とっても美味しい…。
・・・・・・・・・・
食堂棟の隅にある椅子に腰掛け、生徒達の喧騒から身を離す。
十分に腹は満たしたので、後は若者達へ譲るのが部外者である用務員らしい振る舞いだろう。そもそも、ここに居ること自体が特例なのだから。
腕を組み、今日の地区予選一日目のことを思う。
(悪くない初戦通過だが、やはり総じてレベルが高いと言える、か)
各チームを観戦し、その実力の高さを実感している。片田舎の地区予選と言えど、中々に侮れないようだ。
チーム『スターブロッサム』の戦績は、十分に渡り合えるものだと素直に認めている。当初は、カトーのガンプラがギリギリで調整を終えたことで懸案していたのだが、それも杞憂に終わった。
ラインアリスもキンジョウも、申し分のない成果を見せていた。特筆すべきは、ラインアリスのハルジオン・フェイクである。高次元の完成度に仕上がっており、分離可変機能と言う、一歩間違えれば即座に敗北に繋がるようなシステムさえ、危なくなく使いこなしていたのだ。
(ふ、本当にあ奴の力量は測れんな)
ガンプラバトルのセンスは目を見張るが、今でも彼女については評価が難しい。特別、有効な粒子変容能力があるわけでもなく、ガンプラの兵装に関しても最低限のものだ。
彼女に似たスタイルで名を馳せたガンプラファイターがいることを、ふと思い出す。
二年前、ヨーロッパ・レディース・チャンピオンの栄冠を手にした古い弟子の一人、レジーナ・ディオンである。
彼女のバトルスタイルは、コントロールスフィアをも暴れさせるほどの高速機動、そして、用途によって使い分ける実体剣と粒子刃。この二種の要素のみ。
装備を削減し、ただ一点のみを精錬し鍛え上げ、勝ち取ったスタイル。故にこそ、他の追随を許さない。
ラインアリスがこれと同じ…とは結論を出すには早計だが、かつてのレジーナ・ディオンを思い返すと、似た部分があるのも事実だ。
それを、今日の試合で感じ取ることができた。
(一方で、カトーは今後どうするつもりか、見極めねばな)
論点を、カトー・トモヒサに移す。
ぶっつけ本番であのような超重のガンプラを持ち出したのは、あまり褒められたものではない。事前に情報交換も為されておらず、作戦を立案せざるを得ない状況になった場合、支障をきたす恐れも出てくるのだ。幸い、ほとんど被弾せずに勝利を勝ち取ったのだが、結果論に過ぎない。
ここは、後でカトーに指摘すべき点だろう。
(ガンダムヘリクリサム、か…)
傾注すべきは、ガンダムヘリクリサムである。こちらの主観ではあるが、後方支援だけなく、恐らく注目を集める役目も担っているだろう。ただでさえ威圧的なガンダムサレナを、さらに巨大化させることによって、相手チームは何らかの対策を迫られることになるのだ。絶対に無視はできない存在になるのは、間違いない。
とはいえ、あの状態を全環境下で運用できるかと言えば、それは有り得ない。総出力が如何程かは未知数(これも後で訊こう)だが、重力下では相当な粒子消費を余儀なくされる上、ただの的になる可能性すらある。それは、火を見るより明らかだろう。
推測ではあるが、装備を適宜換装できるのではないか、と見る。
以前、カトーは「サレナには柔軟な武装互換性がある」と言っていた。幾つかの武装プランを用意し、ベストな組み合わせを構築しているのだろう。それらを全て積載したのが超重の機体、と言えるかもしれない(単純にロマンを追い求めて、仲間と相手を驚かせようと思っていた節はありそうだが)。
(カトーらしいと言えば、らしいな)
思わず溢れそうになった笑いを、押し殺した。
ふと顔を上げ、視線を巡らせる。カトーとラインアリス、テライ・シンイチ達と楽しげに談笑しているキンジョウ・ホウカを目に留めた。
その大人しげな姿からは、以前見せたガンダムラナンキュラスとの人機一体と言える様は、想像できない。
彼女の過去は知る由もないし、追求もしないが、古武道とガンプラバトルの双方にある"力強さ"に起因する何かがあるのだろう。
そういえば、自分がコーチを承けた時に、シマ・マリコから言われたことがあった。
曰く、「キンジョウは、体が強い方ではないんだよ。あまり扱かないでやっておくれ」と。それ以来、一つ事に真剣になりすぎる彼女を、時々諌めてやっているのだ。特に、早朝のランニングには気を使っている(そもそも扱くつもりなど毛頭ないのだが)。
今のところ、シマの言うような体の不調というのは見られない。緊張にも強い方であるらしく、それほど心配は要らないのでは、とも感じているのだが…。
ともあれ、今は彼女の自主性を尊重し、頼まれればとことん付き合ってやろうと思っている。
(弟子の…いや、子供の成長というのは、いくつになっても楽しいものだ)
息子達は、既に自立してそれぞれに家族もある。今では自宅に時々遊びに来るだけで、妻と二人暮らしだ。勿論、寂しくなどはないのだが、やはり教師という仕事を全うしてきた身としては、物足りないのが正直な気持ちだ。
(こういうところも、いくつになっても変わらんのだな)
やや自嘲気味に、笑みを浮かべた。
「さて…ワシも、もう少し御相伴に与ろうか」
再び立ち上がり、若人達の輪へ入る。
彼らの近くにいると、老いも忘れるようだ。
・・・・・・・・・・
鉄骨やモビルスーツの残骸など、スクラップの山に降り立つ機影が一つ。
これら大量のスクラップは掻き集められたジャンク品であり、積み重ねられたことで小規模の山脈のように連なっていた。
ここは、宇宙世紀において史上初のシリンダー型スペースコロニーとして建造された1バンチコロニー、「シャングリラ」である。
その名前とは似つかわしくない荒れ果てたコロニーの内部を、一筋の粒子の奔流が貫いた。
「へへっ、こいつでやられちまいな!」
長射程を誇る砲身を担ぐように構える機体が、足場であるスクラップの山を踏み込む。
その機体のファイターが、項で纏めた髪を揺らしながら掠れた声で快哉を上げた。
「おいおい、そんな足場でまともに狙えるのかよ」
攻撃の対象となっている大型のモビルスーツが、空中で回避行動を取る。コントロールスフィアを切ったファイターが、枯れたような独特の声で返した。
そして、右手に握っている大型のビームライフル(ダブルビームライフルに酷似している)を構えて狙いを付ける。
「これさえありゃ、どんなガンプラも火に焼いて食ってやる!」
二つの銃口が轟き、高出力のビームが吐き出された。
しかし、それは相手を貫くことなく、スクラップの小山を吹き飛ばしただけだった。
「そっちこそ甘いんだよ!行くぜ、クロスエックス!」
X時を描く機体――ガンダムクロスエックスが飛び上がり、ビームサーベルを引き抜いて相手へと飛びかかった。
「パワーがダンチってこと、ツヴァイゼータで教えてやる!」
対する大型の機体――ツヴァイゼータガンダムもビームサーベルを抜き放ち、真っ向から肉薄していく。
そして、二機が切り結…
「え?」
「へ?」
…ぼうとしたが、互いの機体が突如として暴発し、逸れた機動のままスクラップの山に頭から突っ込んだ。
『BATTE ABORTED!』
バトルが中断され、プラフスキー粒子が分解していく。ガンダムクロスエックスとツヴァイゼータガンダムは、突っ込んだ無様な格好のまま取り残された。
「…アシヤ、ガドウ、もう忘れたのか。機体の出力を抑えてやれと言ったのに…あれでは子供の遊びと同義だぞ」
バトルシステムのコンソールに立っている生徒が、呆れた様子で二人――アシヤ・シュウトとガドウ・ランへと冷ややかな視線を向ける。その生徒はやや小柄な印象を受け、整った中性的な顔立ちは性別を間違えそうなほどに美しい。黒い学生服の上に、口元を隠すように長いマフラーを巻いているのも、特徴的である。
あまり見ていられない姿のガンプラを回収した二人は、後ろめたそうにしながらも抗議の声を(弱々しく)上げた。
「うぅ~でもよう、楽しいしさ…」
「そ、そうだぜ。勘弁してくれよ、せっちゃん先輩…」
瞬間、せっちゃん先輩と呼ばれた生徒――オオゾラ・ユキナリの堪忍袋の緒が切れた。
「…せっちゃん先輩って呼ぶなって言ってるだろ!!!」
この三人こそ、
英志学園チーム『スターブロッサム』の、次の対戦相手である。
Act.16『遭逢、睥睨、地区予選Ⅲ』END
●登場ガンプラ紹介
・XM-X1C クロスボーンガンダム・クローザー
ササミネ・コウスケのガンプラ。
クロスボーン・ガンダムX1を素体とし、茜色に染め上げられている。
今大会に出場する際に持ち出してきたABCマントは、昨年の全国大会でのみ使用が確認されていたものであり、如何に彼が本気を出して望んでいるかが分かる。
また、頻繁に行う排熱行為は、原典機より高い出力を持つ骨十字スラスターが発生させている余剰熱を排出するためである。
・兵装
ビームザンバー×1
バスターガン×1
シザーアンカー×2
ビームサーベル×2
ABCマント
・XM-02T デナン・ゲー・ツィーレン
シバ・ニーナのガンプラ。
デナン・ゲーの重火器装備型であり、過剰とも言える火器積載と迷彩色に塗装されている。
特徴的なデナン・ゲーのブレードアンテナは左側が大型化しており、さらにケルディムガンダムのものに似たバイザーが装着される。
巨大なメガ・ビーム・キャノンを二つ背中にマウントし、更に両脚外側に10連ミサイルポッドが追加されている。メガ・ビーム・キャノンは逆手に持たれ、莫大な粒子量を一気に撃ち放ち、射線上にあるものを瞬時に蒸発させる程の破壊力を誇る。その際には足裏からアンカーが突出し、地面に食い込んで機体を固定する。
小型機だが、火器の積載によって重量が大幅に増している。元来からある推進器は、反動を軽減し姿勢を安定させる方向へ用途が変わっている。
サーチファンネルが搭載されており、これをフィールドにバラ撒くことで敵の動きを把握し、そしてそれによって得た情報で戦略が組まれ、ニーナの立てた作戦の下に僚機が動く。
・兵装
腕部ビームガン×1
肩部3連グレネードラック×1
ビームサーベル×2
ビームシールド
メガ・ビーム・キャノン×2
脚部10連ミサイルポッド×2
サーチファンネル複数
・ゼク・アイン
クロスボーンガンダム・クローザーの餌食になった。
・バーザム改
ガンダムAGE-2バンガードのワザマエ!
・FAZZ
デナン・ゲー・ツィーレンによって蒸発。
・イージスガンダム
ハルジオン・フェイクと激しい攻防を繰り広げた。
・ソードカラミティ
ガンダムラナンキュラスと刃を交えたが、ほとんどの武装を披露せずに敗北してしまった。
・ブレイズザクファントム
最後まで諦めない不屈の闘志を見せ付けた。
・ガンダムクロスエックス
ガドウ・ランのガンプラ。ガンダムダブルエックスにGファルコンを装備させた姿をコンパクトにしたように見えるが、実際は全くの別物である。
詳細は不明。
・ツヴァイゼータガンダム
アシヤ・シュウトのガンプラ。
ダブルゼータガンダムに酷似しているが、やはりこちらも全くの別物。
詳細は不明。
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「カトー先輩、あの…お願いがあるんですけど…」
人は、惹かれ合うものなのだろうか。
未だ恋を知らない二人にとって、それに気付くこと自体がないのかもしれない。
しかし、想いに気付いた時、人は変わらずにはいられない。
「ホウカさん。この後、時間をもらえるだろうか?」
次回、ガンダムビルドファイターズF
Act.17『恋は思案の外』
恋せよ、ガンプラファイター。
「おっと、これは面白くなりそうだね…!?」