ガンダムビルドファイターズF   作:滝つぼキリコ

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Act.11 『スターブロッサムの長い一日Ⅲ』

 

 

 ――武者頑駄無(ムシャガンダム)

 所謂、"リアル頭身"と呼ばれるデザインを大胆に二頭身、或いは三頭身にアレンジしたものがSD(=スーパーデフォルメ)ガンダムであり、その一ジャンルに含まれている武者頑駄無の主流タイトルでもある。

 その歴史は、時代の波に翻弄された紆余曲折を辿る。

 本来、武者頑駄無は伝説的漫画作品「プラモ狂四郎」の主人公が、劇中で作り上げたプラモデル――「武者ガンダム」を始祖としている。

 現在でこそ「武者と言えばSD」というのは一般的な認識だが、その始祖である武者ガンダムはリアル頭身だった。

 それもそのはずであり、SDガンダムとして展開していくことは当時想定されていなかったのだから、当然であろう(そもそも、ガンダム自体が鎧武者をモチーフにしており、ガンダム×武者の発想はここに由来する)。

 付け足しておくと、かの三代目メイジン・カワグチの「アメイジング・レッドウォーリア」とレディ・カワグチの「紅武者アメイジング」の原点も、「プラモ狂四郎」なのだ。

 兎も角、これ以降の武者頑駄無はSD体型の商品展開にシフトしていく。その間、プラモデルの説明書に掲載される漫画などで、本家ガンダムシリーズとは違った独特の世界観を広げていくことになるが、それをさらに昇華した、武者を主役とするストーリーラインのある作品として「SD戦国伝」が誕生した。

 この流れを汲み、「武者七人衆編」などの様々なストーリー展開を経て、武者頑駄無はSDガンダムから独立していくのだ。

 そして、21世紀が明けた頃に登場した、一つのシリーズがある。

 ある児童雑誌で連載された、「SD戦国伝」以後で最も長寿シリーズとなる、「SD頑駄無 武者(マル)伝」である。

 このシリーズは、過去に登場した武者を再登場させつつ、人間の子供との交流や新設定、過去シリーズから一線を画すコミカルな作風などを盛り込んだ、全く新しいシリーズとなった。

 昨今、各メディアを何かと賑やかしているガンプラ心形流鉄機派のイブキ・アラタも、この作品に魅せられた一人である。

 何を隠そう彼の愛機こそ、武者〇伝シリーズ初代主人公にして歴代で一番フヌけた軽装形態を持つ、関西弁でたこ焼き大好きな「武ちゃ丸」こと「武者丸」なのだ。

 

 

 ガンプラマフィア軍団、恐るるに足らず!

 

 

 

     ・・・・・・・・・・

 

 

 

「まっさか、コイツを持ち出すことになるなんてな…」

 

 コントロールスフィアを握り込みながら、トモヒサはランダム設定された都市の開けた路上に機体を降着させた。

 その機体は、海軍色を思わせる濃紺に包まれた巨躯を直立させ、カメラユニットを保護するクリアオレンジのバイザーに注ぐ陽光を反射させる。

 紛うことなき、「RGM-96X ジェスタ」だ。

 いや、ジェスタなのだが、異なるシルエットを形成している。

 バックパックの右側には大型ビームライフル、左側には円盤レドーム。ただでさえ巨大化のピークに達していた最後期アナハイム製らしい巨躯が、一回りも大きく見える。

 その名も、「ジェスタ試作0号機」。

 去年、暇に任せてリクヤと一緒に笑いながらネタを出し合い、「ジェスタ開発計画」なるシリーズが生まれたのだった。詰まるところ、ネタガンプラである。

 本家と同じく、スタートは「ガンダム試作0号機 ブロッサム」をモチーフにし、それらしくパーツを拾って割と丁寧に完成させた。が、4号機まで作るのかとか、ユニコーンガンダムの露払いのために開発されたのに主役出る幕ないじゃんとか、冷静になってみると根本的なツッコミがどんどん出てきた。

 そんな理由から一気に冷めてしまい、0号機のみロールアウトしてジェスタ開発計画は終了してしまったのだった。

 

(出せるガンプラがアデルとドラド、そしてこいつだったんだが…この中で一番性能がいいのはこいつって、何て言うか)

 

 ようやくジェスタ試作0号機が報われた、と言うべきか。

 コントロールスフィアを操作し、ジェスタの挙動をチェックする。長く棚の奥で凍結されていたが、無論ガンプラなので関節が錆び付いているわけではない。気分というものだ。

 

『なんやそれ?ジェスタ・キャノン…っぽいけどちゃうな…なんやそれ?』

 

 疑問を反芻した関西弁と共に、接近する機体。

 

「言葉を返すけどな、なんだよそれ…」

 

 ジェスタのカメラで見上げる先、都市に大きな影を落とす弾薬庫の如きそれを見た。

 右手に長大なメガ・ビーム砲、左手に巨大なIフィールド・ジェネレーター。おまけに、頭上には四基のドでかいコンテナを乗っけている。

 しかし、それら武装類の中心に陣取っているのは、ステイメンでもフリーダムガンダムでもガンダムバルバトスでもなかった。

 真紅のSDガンダムである。

 

「デンドロビウム…?」

 

 ヘックスユニットの外で観戦しているホウカが呟いた。

 

『ん~、ホウカちゃん惜しい!ちとちゃうな!これは…』

「ウェポンシステムだろ?」

『オォイ台詞を取ンなや!!』

 

 イブキが声を荒げる。

 ホウカの指摘は、当たり半分間違い半分、といったところだ。

 確かに、デンドロビウムを構成する巨大ユニット「オーキス」によく似ているが、中心にステイメンが収まるパーツがなく、真紅のSDガンダムが小さな五体を露出している。装甲類もかなり削減されており、加えて武装の間は隙間が多く、可動範囲が確保されていた。

 知る人ぞ知るGP03のバリエーション、簡易版オーキスとも言える「ウェポンシステム」がその正体である。

 

『これこそ、ワイの武者魂の結晶!「武者〇秘将軍 最善門武装形態(アーマーモード)」やァッ!!!』

「…ハッ!? そうか、最善門!!」

『おお!?アンタ分かるンか!?』

 

 通信回線越しに、イブキの嬉々とした声。

 彼の言う「最善門」とは、オーキスをモチーフにした「武者〇伝Ⅲ」に登場する文字通りの"門"である。よく見れば、ウェポンシステムには原作に似た城門を思わせる意匠が施されていた。

 そして、中心に座する真紅のSDガンダムは「武者〇秘将軍」。イブキ・アラタが「BB戦士 武者丸」を好んで使用しているのは知っていたが、「赤備えの鎧」を装着したパターンで来るとは思いもしなかった。

 最善門武装形態…つまり、ガンプラバトルで再現するため、ウェポンシステムの要素を取り入れて追加装備にしたのだろう。敵を迎撃するため、武者〇秘将軍が最善門を起動させていたことから、分かる人には分かる納得のコンセプトだった。

 そう、偶然にも自分は分かる人種なのだ。

 

「そりゃあ、昔から好きな漫画だからな」

『くぅ~!ガンプラバトルは一期一会やなぁ!前言撤回、アンタとは仲良くなれそうや!』

「そ、それは良かった…」

 

 よくもまぁ、ややこしいコンセプトのガンプラが揃ったものだ。

 もっとじっくり観察していたいが、今はバトルフィールドの上である。コンソールのチェックを終えて、スフィアを再度握り込んだ。

 ジェスタのバイザーが輝き、腰を落として臨戦態勢を取る。

 

『そっちのガンプラのネタばらしは後で聞かせてもらうで。とりあえず今は…』

 

 武装に包まれる武者○秘将軍が、眼帯のない左の緑眼をギラつかせて右手のメガ・ビーム砲のグリップを掴んだ。

 デフォルメサイズに落とし込まれたにも関わらず、1/144ガンプラの身長ほどもある砲身が唸りを上げ、砲口に光が充填された。

 

『お嬢さん達に、ええトコ見せたるでぇッ!!』

「そっちかよ!?」

 

 イブキの大声と自分のツッコミの直後、メガ・ビーム砲から凄まじい質量の粒子塊が吐き出された。

 

「頼むぜ、ジェスタ試作0号機…!」

 

 球体操縦桿を切り、濃紺の機体を走らせる。T字路を左に滑り、ビルの影に隠れてメガ・ビーム砲による攻撃を躱そうとした。

 

 

――ビュオオオオオオオ!!!

 

 

 ついさっきまで立っていた場所に粒子の瀑布が雪崩込み、周囲のビル群を閃光が照らす。

 その場のノリで誕生したガンプラだが、制作には一切手を抜いていない。その機動性は原典機を再現するに足りている(この場合どちらのことを言えばいいのか)と、リクヤ共々自負していた。

 それに間違いはなく、ジェスタは思い通りのレスポンスを見せてくる。スケール感を狂わせるような大爆発が起こり、吹き飛ぶT字路の余波から逃れることに成功した。

 

『なんやぁ!逃げの一手かいな!』

 

 だが、イブキは休みなく連続攻撃を仕掛けてくる。

 

「遠慮なしに撃っておいて…!」

 

 まだビームの残滓が残る内、立て続けに次の砲撃が襲ってきた。

 ジェスタの脚を止めずに道路上を走らせると、こちらを追いかけるようにメガ・ビーム砲がビルを撃ち抜き、背後で爆発を咲かせる。

 バックパックに装備した索敵レドームが相手の位置を明確に捉え、それに従ってジェスタを飛び上がらせた。

 

「そら!」

 

 ビルの影から上半身を見せ、右肩から銃口を覗かせている大型ビームライフルの照準を合わせて撃ち込む。

 しかし、真紅の将軍はその場から動かず、回避する素振りも見せない。

 直撃するかと思った瞬間、ビームの光軸が直前で弾け飛んでしまった。武者〇秘将軍は泰然と構えたまま、微動だにしない。

 

『そんなヘナチョコ攻撃、ビクともせんで!』

「ちぃ!やっぱIフィールドかよ!」

 

 これは、大体予想していた。巨大なジェネレーターを備えている以上、デンドロビウムと最善門同様のバリア能力があるのは当然である。その辺りにも抜かりはないようだった。

 では何故攻撃したのかと言えば、最善門がビームを弾くのを見てみたかったから、である。

 とは言え決して無駄ではない。どれほどの出力があるのか、範囲はどのくらいなのかなど、推量するには必要なことだ。

 その結果として分かったことは、デンドロビウムとほぼ同程度の出力を誇っていることだったが。

 

『アズマのおっちゃんから聞いた話じゃあ、ホウカちゃんのガンプラもIフィールド・バリアを使うらしいやん!これはもう運命やで!デスティニーやで!』

「デスティニーはネガティブな意味だがな」

 

 イブキのお喋りに、アズマからの穏やかなツッコミが飛ぶ。

 

「えっと…あはは…」

「ホーカ、ファンは大事にしないとだよ!」

「煽らんでいい!」

 

 照れ笑いするホウカと、妙な熱気を声に込めたジニア。バトルフィールド越しでも突っ込まざるを得ない(アズマに対抗したわけではない、断じて)。

 

『なんて言ってる内にロックオンできたで!』

 

 その声に、ハッとして見上げる。

 武者〇秘将軍の頭上に鎮座するウェポンコンテナが重厚な門扉を開き、内部から四つの武器スロットが前へ迫り出した。

 

『持ってけ泥棒ッ!!』

 

 そこから、無数のマイクロミサイルが一斉に発射される。

 

 

――ドドドドドドドドド!!!

 

 

 その発射音は、最早、爆発音。

 直後に、ヒュウウウという飛来音を伴って弾幕が襲いかかってきた。コンソールには確認し切れないほどの警報が表示されている。

 

「くっそぉ!」

 

 躊躇うことなく、バーニアを全開にしてジェスタをその場から退避させた。ビルに機体を近づけて盾にし、ギリギリの間隔を維持しながら全力で逃げる。

 怒涛のように押し寄せるマイクロミサイルの大群がビルに着弾し、背後で爆発した。コンクリートが弾け飛び、窓硝子が道路上に降り注ぐ。まるでドミノ倒しのように、通り過ぎたビルが時間差を置いて倒壊していった。

 

「デンドロが無重力専用で本当に良かったな…!」

『何言うとんのや?最善門は地上やったやんか』

 

 撃った本人が冷静に突っ込むな!と言いかけたが、ツッコミをしてばっかりではボケの思うツボである。口を噤んでそれを押し殺した。

 とは言え、この隙が好機。

 大火力を一気に吐き出したことで、必ずあの弾薬庫は動きが止まるはずだ。

 

(一気に距離を詰めて、バリアの内側に潜り込む!)

 

 未だ砂埃が漂う場所から飛び上がり、大型ビームライフルと素体になったジェスタ・キャノンのビームライフルを連射しながら、ビルの上を蹴って迫撃を仕掛けた。

 

『そんなヘナチョコ攻撃は効かん言うたやろ!』

 

 やはりIフィールド・バリアが展開されて、射撃が悉く打ち消されていく。

 それでいい。

 絶対防御に掛かりっきりになってもらおう。

 

『…なる、懐に飛び込んで最善門を破壊する算段やな!』

「だったらなんだ!」

『甘いわァッ!!』

 

 イブキが叫んだ。

 と同時に、最善門の中心に座する武者〇秘将軍が両腕を前へ掲げる。

 

『行け!突来四連打(ツライシレンダ)ッ!!』

「なっ!?」

 

 両肩に装備されているバインダー(シナンジュの脹脛部フレキシブル・スラスターを彷彿とさせるのは何の因果か)から、鳥のような四つのユニットが分離してこちらへ向かってきた。

 小羽根が生えた本体から、鋭いビームが発射される。

 急制動をかけ、コンクリートジャングルの上を蹴りながら後退した。小刻みな回避行動で射撃を躱していく。

 

「…このっ!うるさいっ…カトンボめっ!」

『ホラホラ!カトンボなら落としてみぃや!』

 

 イブキの煽りは無視だ。

 チュインチュインと、漫画通りの効果音と共に絶え間なく射撃が襲ってくる。その間も、コンソール上の地図をちらちらと確認した。

 

(――それか!)

 

 柄にもなく策を講じてみる。

 恐らく、都市の公園といったところだろう。コンクリートジャングルの中にぽっかりと空いた、緑の茂る場所へ着地した。

 そして、脹脛のハンドグレネードを左手で握る。

 思った通り、ビルの上から飛来してきた突来四連打が一斉に仕掛けてきた。それと同時にハンドグレネードを投擲し、ビームライフルで起爆。

 ガスのような煙幕が、空中で弾けた。

 

『ビーム攪乱幕!?』

 

 ご明察!と心の中で答え、射撃が掻き消えたのと同時に一気にバーニアを噴射する。左腰にマウントされているビームサーベルを取り出し、粒子の刃を発生させた。

 煙幕を破り、ロックオン対象を見失っていた突来四連打の一つに向かってビームサーベルを振り被る。

 

「どぉぉぉぉりゃあッ!!」

 

 真っ赤な小鳥に粒子刃が叩き付けられ、爆散した破片が公園に降り注ぐ。

 あっさりと撃墜に成功し、バーニアを噴射して反転、ビームライフルで直近の突来四連打も撃ち抜いた。

 やはりオートロック式なのだろう。無線遠隔兵器に対象を再認識させるには、アンテナ類の加工や兵装自体の工作も必要とされる(Pファンネルのようなマルチロック式、ガンダムジエンドの手動ファングなどもそれなりの手間があってこそだ)。

 心形流と言えど、遠隔武器の理解と技術はこちらの方が上手のようだ。

 ついでにもう二基の突来四連打も撃墜しようとしたが、既に後退している。本体の頑駄無に帰投し、右肩のバインダーに接続された。

 

『やるなアンタ!楽しくなってきおったで!』

「へっ、「赤備えの鎧」を使いこなすにはまだまだだな!」

『言ってくれるやないかぁ!』

 

 イブキは叫びながら、堂々と浮いていた最善門を前へ押し出した。背面に、巨大なバーニアの噴射の光が爆光の如く輝いている。

 

「ありがてぇ、真っ向ぶつかった方が楽しくなるってもんだ!」

『ワイかてコッチの方が本分やでぇ!』

 

 言いつつ、メガ・ビーム砲から砲撃を迸らせた。

 ジェスタを機敏に回避させ、緑の茂った公園に粒子の塊が着弾した。余波だけで、木々のオブジェクトが吹き飛ぶ。もしここがアニメのコロニー内だったら、とんでもない非人道的な被害が出たことだろう。バナージだって怒るわけだ。

 などと、無駄な思考が浮かぶ内に、最善門が再びコンテナを展開させてマイクロミサイルの雨を降らせてくる。

 やはり逃げるしかない。こんなものを迎撃できるほどジェスタ試作0号機に武装は積んでいないし、サイコ・フィールドを出せるわけでもないのだ。

 道路上を駆け抜け、一区画を出たところでまばゆい爆光が輝く。既にコロニーでも落ちたのかと思うほどの被害が、このフィールドで起こっている。

 

(何食らったって、一撃でお陀仏かよ!)

 

 さすがに戦々恐々とするが、行動はもう起こしている。

 そうだ、向かってきてくれたことが、最大の好機だった。高出力を誇るジェスタのバーニアをフル稼働させ、レドームでしっかりと位置を捉えて最善門の下に潜り込む。先程は距離が空いていたためにできなかったが、それが縮まった今、チャンスが訪れていた。

 

『――ん!?どこ行ったんや!?』

 

 やはり、大量のミサイルで発生した爆煙により、こちらを見失っているようだ。

 二つのビームライフルを直上へ向け、トリガーを絞る。最善門から落ちる影の中でビームの閃光が輝き、Iフィールド・ジェネレーターとメガ・ビーム砲に風穴を穿っていった。

 

『下ッ!?くぅ…分離や!』

 

 イブキが気付いた時には、既に最善門の下から炎上が起こり始めている。狙いは両側の脅威だったため、無傷の武者〇秘将軍を残してしまっていた。案の定、イブキは最善門を捨てて退避する。

 最大の脅威を排除できたのだ、本体とは後で決着をつければいい!

 

「うわわわ危ねぇ!」

 

 制御を失った最善門が、あちこちを爆発させながら落下してきた。慌ててその場からジェスタを退去させ、高層ビルの影に身を滑り込ませる。

 直後、コロニー落としもかくやという轟音と爆発が巻き起こった。

 

『ようやってくれたなァ…』

 

 最善門が落下した場所にジェスタの首を巡らせた。都市の半分が壊滅的な被害を受け、炎が燃え盛り火災旋風が立ち昇っている中を見る。

 そこにいたのは、真紅のSD武者。

 

 

 

――ブワッ!!

 

 

 

 火災旋風が弾け飛び、炎が形となって真紅の武者を取り巻いた。

 まるで翼を広げるかのように見えるのは、不死鳥(フェニックス)

 

「ま、まさか…鳳凰…」

 

 トモヒサが思い出したのは、信念を貫き通した者に現れるという天宮(アーク)の聖獣。

 圧倒的な熱量の只中に居ても、武者〇秘将軍は燃えず、崩れず、屹立する。

 

『せやけど…いや、せやからアンタに見せたるわ…ワイの武者魂と、プラモ(スピリッツ)をッ!!』

 

 両肩のバインダーから炎を噴き上げ、イブキの武者魂が温度上昇(ヒートアップ)するのを感じ取る。

 本来ならば、何故燃えないのか、不死鳥とはどういう原理で形になっているのか、色々と疑問が湧いてくるところであろう。

 だが、今のトモヒサの思考は、完全に武者の世界へ旅立っていた。

 

『武者不死鳥覚醒!超王武者〇秘将軍ッ!!』

 

 鳳凰の翼が左右に広がり、背中の鞘から抜刀する炎を纏った武者頑駄無。

 原作漫画には、こんな形態はなかったはずだ。セオリーから大きく逸れ、しかしどこまでも自由に…。

 これが、ガンプラ心形流。

 

「ば、バカな!これほどの炎に包まれて平然としている!?熱くないのか!?」

『熱い!!だが熱くない!!』

「どっちなんだ!?」

『例え地獄の業火だろうと…熱くないと思えば熱くない!!』

「んなムチャな!?」

 

 無駄だと分かっていながらも、攻撃を仕掛ける。ジェスタ試作0号機の武装という武装を、全て使い果たさんとばかりに。

 二つのビームライフルの同時射撃、そして投擲するハンドグレネード。

 しかし、武者〇秘将軍はあえて突っ込んできた。ビームの光軸をSD体型からは想像できない機動性で躱し、ハンドグレネードを刀で斬り伏せて見せる。

 そして、今になって分かった。最善門はあくまで前座であり、こちらが本領。それどころか、最善門を破壊したことで全力を引き出してしまったのかもしれない。

 

(こいつ…とんでもねぇ!?ノリじゃなく、マジだ!)

 

 そのまま炎の尾を引きながら、武者〇秘将軍は左腕で背中のもう一本の柄を掴む。

 そして、抜刀。

 

出任勢運知大(デマカセウンシダイ)!…ハズレや!』

「ぶっ!」

 

 そこまで再現するのか!

 引き抜かれた刀は、刀身がなくアイスの棒のようになっており、でかでかと「ハズレ」と書かれている。

 

「あ、侮りやがって!刀身もなく戦えるか!!」

 

 こちらのツッコミを合図としたかのように、ハズレの刀がヴヴ…と音を鳴らして燐光を放ち始めた。

 

『刀があると思えば…』

 

 横振りにハズレ刀を薙ぐ。

 バシュ!と、棒から粒子が溢れ出てビームソードを形成した。

 

『あるッ!!』

「んなムチャなッ!?」

 

 一気に距離を詰められ(安全地帯はほとんどフィールドの隅だった)、刀とビームソードを構えた武者〇秘将軍に間合いへと入られる。

 左手に握っているビームサーベルで牽制しようとするが、神懸かり的な速さで振り抜かれた刀により、左腕を根元から斬り飛ばされた。

 真紅の武者は炎を引きながら回転し、ハズレのビームソードを抜刀居合のように下段から突き出す。

 

『頑駄無流秘奥義!!』

 

 あまりの剣技に全く反応できず、トモヒサは断末魔の台詞を考えてしまう。

 突き出されたビームソードがゴゥ!と炎を噴き出し、ジェスタ試作0号機の胴体を斬り裂いた。

 

 

〇秘無刀斬(マルヒムトウザン)・紅蓮ッ!!!』

 

 

 炎がジェスタを包み込み、傷口から内部に引火する。

 大きく火柱を上げながら、濃紺の機体が爆発した。

 

「シャ…(シャ)ナル()()ーーーン!!!」

 

 断末魔の叫びを思わず上げ、爆発を背景に武者〇秘将軍がアタリとハズレの刀を交叉させる。

 

『ビスト財団、恐るるに足らず!!』

『BATTLE END!』

 

 眼帯で隠されていない右の緑眼が、燃えるように輝いた。

 

 

 

     ・・・・・・・・・・

 

 

 

「トモにぃ、ノリノリだったよね?」

「特撮番組じゃないんだからぁ」

「う……返す言葉もねぇ……」

 

 本当に、返す言葉もない。

 ホウカとジニアの溢れんばかりの不信感を一身に受け、小さくなる。本当に身長が低くなった気さえする。

 

「まぁまぁ二人共、トモヒサだって頑張ったんだし。その辺にしといてやれよ、なぁ?」

 

 親友の有難いフォローに、ぶんぶんと首を縦に振った。

 じと…とした目でこちらを見ていた二人だが、互いに顔を見合わせて表情を崩す。

 

「まー、見ていて面白かったからヨシ!」

 

 ニコッと笑うジニアと小さく頷くホウカ。

 しかし、

 

「甘いでジブンら!甘ちゃんや!」

 

 ビシ!とこちらを指差すのは、イブキだ。その後ろでは、腕を組んで険しい表情になっているアズマが立つ(かなり怖い)。

 チームメンバーには許されたが、本命の対戦相手だったイブキの指摘には思わず身構えてしまう。

 

「アンタには足りひんモンがある!それが何か分かるか?」

「…生憎と」

「そーかいそーかい…そんなら教えたるわ…」

 

 両目を伏せて腕を組み、3秒ほど黙る。

 そして、くわっと見開いた。

 

「それは、非モテ男の気持ち…むっぢゃ!?」

 

 背後からの拳骨に悲鳴を上げるイブキ。「せやから痛いっちゅ~に…」と零しながら頭を撫でた。

 

「オッホン!それはな、"遊び方"や!」

「遊び方…だと?」

「アンタのガンプラは、確かに面白うできとる。出来もええし性能も申し分ない。せやけど、忠実になる余り、なんやガンプラ自体の遊び方も固いっちゅーか…もっと型をぶっ壊すべきやと思うで」

 

 遊び方が、固い…?

 さすがにその指摘には、疑念を抱く。

 

「分からねぇ。もっと具体的に言ってほしい」

「あ~~ん、分からんか?じゃあハッキリ言うで……中途半端なんや!」

 

 イブキはざんばら髪を掻きながら、言葉を選ぶようにゆっくり話し始めた。

 

「見させてもろたで、ガンダムサレナの映像。セオリー通りのサイサリス改造に、ダブルバレットの採用とかもオモロイ。せやけどな、イマイチハミ出し切れん気持ちが伝わってきよる。それが操縦自体にも表出してしまっとる」

「俺は、そこまでハミ出すつもりは…」

 

 イブキはぶんぶんとかぶりを振り、嘆息する。

 

「それに気付けん限り、ガンプラバトルで昇華することはでけへんで」

 

 鋭い視線が、前髪の向こうで光ったように感じた。

 と思うと、床に置いていたショルダーバッグを開いて筆箱サイズのケースを取り出す。スキップするかのように軽快な足取りで、ホウカへ歩み寄った。

 

「さてさて、本題の品物や。ホウカちゃんのためにワイが丹精込めて…」

「はいはーい、これ以上の接近はご遠慮願うよー」

「あぁんいけず~」

 

 隣で賑やかになる三人だが、そんな声も耳に入ってこない。

 ガンプラバトルで昇華できない…どういうことなのか。

 静かに、拳を握り締めながらイブキの言葉を胸に刻み込んだ。

 

 

 

「大漁です…ふふふ…書き切れないほどのネタが…ふふふ…」

 

 アノウ・ココネの赤い癖毛が、触覚のように揺れた。

 

 

 

   Act.11『スターブロッサムの長い一日Ⅲ』END




 
 
●登場ガンプラ紹介

・ジェスタ試作0号機
 トモヒサとリクヤが考えたネタガンプラ。0号機を作った時点で冷めてしまい、後のシリーズは考えてもいない。
 性能面はそれなりであり、ガンダムサレナの改造やガイアガンダム・ロア改造の土台にもなっており、案外無視できないガンプラである。
 ・兵装
 頭部バルカン
 ビームライフル×1
 大型ビームライフル×1
 円盤サーチレドーム×1
 ビームサーベル×1
 ハンドグレネード各種


・武者〇秘将軍 最善門武装形態<アーマーモード>
 イブキ・アラタが持ち出した武者ガンプラ。
 最善門はウェポンシステムを取り入れているためコンパクト化されており、武者との組み合わせを考慮した武装構成。
 本体の武者〇秘将軍もオリジナルの改造が施されており、背面に鳳凰を意識した武者號斗丸のパーツが流用されている。関節はLBB規格に準じているため、広い可動範囲を誇っている。
 勿論、バックパックのたこ焼きもしっかり塗装されている。
・兵装(最善門)
 メガ・ビーム砲×1
 Iフィールド・ジェネレーター×1
 マイクロミサイルコンテナ×4
・兵装(武者〇秘将軍)
 出任勢運知大 アタリ/ハズレ×1
 突来四連打×4


・XM-X1C クロスボーンガンダム・クローザー
 ササミネ・コウスケのガンプラ。昨年の全国大会で猛威を振るった。
 原典機より排熱行為を頻繁に行うが、詳細は不明。
・兵装
 ビームザンバー×1
 シザーアンカー×2
 ビームサーベル×2


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次回、ガンダムビルドファイターズF
Act.12『画竜点睛Ⅰ』

「若造に最後の試練を与えてやろう!」
 
 

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