私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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ソニック視点です。

タイトルでわかると思いますが、エヒメさんの受難回(笑)です。


彼女の災難、男どもの役得

 クソ生意気で気に入らないから、サイタマより先に排除してやろうと思っただけだ。

 エヒメを連れまわすのは、サイタマを逃がさないための保険であると同時に、あまりに分かりやすく青臭いあのサイボーグの反応が面白かっただけだ。

 

 それ以外の意味などない。

 それ以外の意図なんか、ない。

 

 ……ないが、さすがにこの反応はムカつくな。

 エヒメ、お前は何で俺の腕の中でさっきからずっと無言で遠い目をしてるんだ!? もう少し何か反応はないのか!?

 キャーキャー騒がれるのはごめんだが、何でこいつはこんなにも他人事なんだ!?

 

 この腕の中の女のあまりにも大人しいと言うより、俺たちに対して呆れ果てて、ただじっとして嵐が過ぎ去るのを待っている反応にムカついていたら、耳元にサイボーグがブーストか何かで飛ばした拳がかすめる。

「ちっ!」

 サイボーグがワイヤーで自分の拳を回収して、惜しいと言わんばかりに舌を打ったことに、こっちも舌打ちする。

 

 遊んでやってる俺のスピードに追い付けているくらいで、良い気になるなクソガキが!

「そんなにこいつが大事なら、しっかり受け取れよポンコツ!!」

「え!? ちょっ!? ソニックさんの人でなしぃぃっ!!」

「エヒメさん!」

 

 ビルから工場らしき建物に飛び移っている最中、エヒメを宙に放り出してやると、さすがにエヒメも目を見開いて俺を睨みつけ、サイボーグは俺のことなど忘れてエヒメを受け止めようと、肩のブーストを起動させた。

 サイボーグがエヒメを受け止めた瞬間、爆裂手裏剣でも投げつけてエヒメごと排除しても良かったが、それだと俺の気が済まんから、サイボーグがエヒメを抱き留める直前に、エヒメを奪ってついでに奴の頭を踏みつけてやる。

 

 俺のスピードがあの程度だと思われるのが無性に気に入らないから、速さを見せつけてやった。

 ついでに、何も守れない「ヒーロー」の無能さも思い知っただろう。

 

 お前は何も守れない。

 お前が「命を懸けても守る」ものも、「命に代えても貫く」ことも、お前の手の中にはない。

 工場の敷地内に着地した俺は、それを奴に見せつける。

 俺の腕の中に納まるエヒメを見せつけた。

 

「どうした? いらんのか?」

「……し、死ぬかと思った……」

 

 エヒメの恐怖と驚愕でバクバク言ってる心臓の鼓動を無視して同じく着地したサイボーグに尋ねてやると、奴は顔を上げて睨み付け……そのまま一瞬目を見開いて固まった。

 あまりに隙だらけだが予想外の反応に俺も一瞬戸惑うが、奴が硬直したのはほんの刹那。

 次の瞬間には、殺気が先ほどまでとは比べ物にならないほどに膨れ上がり、両手をこっちに向けて突き出し、ガシャガシャと音を立てて変形させ、俺に向かって叫んだ。

 

「その手を今すぐに離せ変質者! いや、性犯罪者!!」

「はぁ!?」

 変質者というだけでも身に覚えのない中傷だと言うのに、さらにレベルが上がったことに怒りを覚えたが、俺の腕の中でエヒメが「あ」といきなり気の抜ける声を上げた。

 

「あ……あの……ソニックさん……手……」

「はぁ? 手? ……あ」

 そしてそのまま急に、妙にしおらしい態度というか声音になって、「手」と言うので、そのまま自分の手を見てやっと、俺の右手が今現在、エヒメのどこをしっかりつかんでるかを自覚し、同じような声を上げた。

 

 あぁ、こいつの鼓動がそりゃはっきり伝わるわけだ。

 俺の右手は後ろから回り込むようにしっかりがっつり、エヒメの胸をわし掴んでいた。

 今日は今までと同じく露出はないのに、今までとは違って乳のでかさを強調する格好だから、しっかりと掴む指で形が変わる柔らかさもよく見える。なかなか、視覚の暴力というにふさわしい光景だった。

 

「何で指摘されてからわし掴むんですかーっ!!」

「うおっ!?」

 

 エヒメが叫びながら身をねじって振り向きざまに放ったビンタを、間一髪で避ける。

 正直、若干の混乱と本能の暴走で油断していたとはいえ、あいつのビンタにはかなり本気で避けた。くそっ、なんだかんだでさすがはサイタマの妹と認めざる得ないな。

 

 俺が避けてエヒメから手を離したことで、あいつはテレポートで俺から離れて、サイボーグの横に出現した。

「エヒメさん!!」

 砲門だったらしい腕を元の腕に戻して、トマトみたいな顔になって自分の胸を隠すように両手で抱いてるエヒメを自分の方に庇うように抱き寄せる。

 ……俺から逃げ出しておいて、そいつに抱き寄せられるのはいいってか。

 

 ……あぁ。無性に気に入らない。

 俺から奪い返すことなどできなかったくせに、俺に追いつくことなどできなかったくせに、俺に一発も攻撃を当てれなかったくせに、自分が守ってやってるという面をしてそいつに触れるクソガキが、無性に気に入らない。

 

 そんなクソガキの元に、真っ先に向って行ったあいつが気に入らない!!

 

「エヒメさん! 大丈夫ですか!? 少しだけ待っていてください! 今すぐにあの性犯罪者を消し炭、いえ、蒸発させますから!!」

「そこまでは望んでません!! アフロぐらいでお願いします!」

「地味に厭な注文を付けるな! そもそもそんなもんをぶら下げてるお前が悪い!!」

「どんな逆ギレ!?」

 

 サイボーグが俺に向かってまた腕を向けてきたのを、止めてるんだか嫌がらせの注文何だかよくわからんことをエヒメが叫んだから、思わず逆ギレしてしまった。

 逆ギレだとは自覚してるが、謝る気はさらさらない。

 あんなもん、手の内にあれば揉むわ。

 

「そもそもなんだ、今更になってうぶい反応しやがって。散々、抱き着いて押し付けてきたのはそっちだろうが」

 俺がついでにテレポートの時に躊躇なく抱き着かれたことを暴露してやると、サイボーグが青臭い嫉妬と憎悪でさらに殺気を増幅させる。

 が、エヒメの方はただでさえ赤い顔をさらに赤くさせて、「そんなことして……」と何故か途中で言葉が止まって、固まった。

 

 ……ちょっ、お前、まさか……

 

「………………え? あ、当たってたん、ですか?」

「嘘だろお前!?」

「嘘でしょうエヒメさん!?」

 

 サイボーグと叫びが重なったが、そんなことはどうでもいい!

 気にしてなかったんじゃなくて、自覚がなかったのか!?

 ド貧乳ならともかく、そのサイズで!? 嘘だろ!?

 

 エヒメは自分のテレポートでしてきたことを鮮明に思い出したのか、頭から湯気が出そうなぐらいに赤くなって、涙目でサイボーグに縋って訊いた。

「え? あ、当たってたんですか? ずっと?」

「えっ!? あ……そ、その……すみません!!」

 

 狼狽えつつも、さすがに嘘ついても慰めにはならんからかサイボーグが認めると、エヒメは「何で言ってくれなかったんですか!?」と逆ギレしだした。

 男がそんな美味しい状況で言う訳ないだろ。

 っていうか、そのサイボーグにそんなにしょっちゅう引っ付いて、テレポートしてたのかお前は。

 

 俺の中でまたふつふつと、怒りとも苛立ちとも言い表すには微妙な感情が沸き上がる。

 だが、俺がその感情をどちらかにぶつける前に、エヒメの逆ギレに対してサイボーグが目を泳がせたことでエヒメは全てを悟ったのか、顔の赤みが少しだが治まった代わりに軽蔑するようなジト目になって、まず一歩サイボーグから身を引いて、そのまま10メートルほど後方にテレポートした。

「エヒメさん!?」

「あーははははははははっ!!」

 

 エヒメの対応と、それに焦るクソガキの反応に俺の中に湧き上がっていたものが吹き飛んで、思わず腹を抱えて笑った。

 今の俺の心境を、端的に表すと「ざまぁwwwwww」だろう。

 

 そのことが気に食わなかったのか、エヒメの無自覚発覚で思わず忘れて薄めてしまっていた殺気を復活させて、俺に掌を向けてきた。

 そこにある砲門が光る。レーザーか何かかを撃ち出す気か。

 どちらにしろ、真っ直ぐに正面から撃ち出す前にその腕を落としてやろうと、俺が構えた瞬間、心理的にも物理的にも引いて距離を取っていたエヒメがまた、テレポートで俺と奴の間に現れて叫んだ。

 

「ジェノスさん! やめて!」

 一瞬、エヒメの言葉にサイボーグの方は迷うが、俺は気にせずにそのまま奴の腕、ついでに頭も落としてやろうかと刀に手をかけ、それに気づいたのかサイボーグの方も砲門の光をさらに強める。

 

 しかし、エヒメの言葉で俺たちは戦いを止めざるをえなくなった。

 こいつ、俺の事を心配したわけじゃなかった。

 

「ここ、元化学工場です! 火はやめて!!」

「「なっ!?」」

 

 言われても既に止められなかったからか、サイボーグは腕を上げて上空に火砲をぶっ放し、俺の方もすでに走り出していたので止められず、暴発されても厄介なので、刀を振るわずそのままエヒメとサイボーグの横を通り過ぎて止まった。

 

 ……通り過ぎた際、まだまだ本気じゃなかったとはいえ俺のスピードがなかなかに強力な風を生んだ。

 その風が、まぁ、あれだ。うん。サイボーグが火砲を上空に撃ち出した所為で、熱かったのとまぶしかったから両手で頭や目を庇ったのも、あいつにとっては災難だったな。

 

 ぶわりと、風を含んでめくれ上がり、それが元通りになってもしばらく、俺たちは無言だった。

 エヒメは今更、元通りになってからスカートを押さえつけて、また湯気でも出しそうな顔になって、俺たちに訊いた。

 

「……み、見ましたか?」

「ガキ臭い水玉の事か?」

「放っておいてください!!」

 

 正直に答えたら、キレられた。

 見ましたかってお前、スカートの中に入れてるシャツの裾もへそも見える勢いでめくれ上がったのに、わざわざ聞くな。

 

「というか、俺よりそこの木偶の方が至近距離で見てるだろうが」

 そのことを指摘すると、腕を上空にあげた体勢のまま固まっていたサイボーグが、ハッと現状に気が付きどもりながら、エヒメに言った。

 

「だ、大丈夫です、エヒメさん!! 可愛かったです!!」

「感想なんて聞いてない!!」

 

 敬語もなくして、エヒメがブチ切れた。

 当たり前だ。何を言ってるんだあのガキは。パニくりすぎだろ。いや、喜びすぎなのか?

 

「もう知らない! ジェノスさんもソニックさんも変態!!」

「エヒメさん!!」

「俺ごと変態扱いするな!!」

「お前はどう考えても変態だろうが! 露出狂の性犯罪者が!!」

 

 怒りと羞恥でテレポートを使えることを忘れてるのか、それとも怒りと羞恥で集中できないから使えないのか、エヒメは走ってどっかに行き、サイボーグがそれを追いかける。

 

 別に俺としては、あいつらの事は放っておいてサイタマの所に向っても良かったのだが、俺はサイボーグに攻撃を仕掛けながら、エヒメを追った。

 住所を掴み、いつでも勝負を挑めるサイタマよりも、今はこいつらを引き離したくて仕方がなかった。

 

 守れもしないくせに、俺より弱いくせに、あの光に、薄闇の近くにいることが気に食わない。

 

 こいつのような無能の所為で、薄闇が完全な闇になることが、あの日のようにあの目から光が喪われることが気に食わなくて仕方がなかった。

 

 その光を消すのは俺だ。

 その女を壊すのも、泣かせるのも、絶望させるのも、困らせるのも、拗ねさせるのも、笑わせるのも、か細い光を、薄闇を守る役割も、お前のようなガキには絶対に譲らない。

 

 お前のものになっても、譲らない!

 




ジェノスがむっつりなら、ソニックはオープンというほど積極的ではないけど、目の前にあれば堂々とセクハラかますタイプだと信じて疑わなかった結果がこれ。
なんていうか、もう本当にごめんなさい。
でも書いててやっぱり楽しかったです。

完全な余談ですが、この回のエヒメの服装はフェイトの青セイバー私服か、だがしかしの蛍さんの服装イメージ。
まぁ、あれだ。童貞を殺す服だ。

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