私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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言う資格なんてないけれど

 ジェノスさんの「一人で戦う」を聞き、私とお兄ちゃんはその辺の人たちに避難するように呼び掛けることに専念する。

 ジェノスさんの武器の特性上、周りに人がいない方が有利に働くはずだからこれくらいはせめてやらせてほしかった。

 

 けどお兄ちゃんは、何かチラチラとどこかを見て落ち着かない。

 戦ってるジェノスさんの方じゃなくて、むしろ全然別の方向をさっきから見てる。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「……いや、さっきキングっぽい奴が全然違う方向に走ってくのが見えたんだけど」

「はぁ!?」

 

 お兄ちゃんの答えに、思わず驚愕と非難めいた声が出た。

 え? ちょっ、まさかキングさん逃げたの!? 何で!?

 お兄ちゃんが見たのはまだ本人とは決まってないけど、今ジェノスさんが必死で戦ってるのに、たまたまこの場にいただけの無関係な彼に押し付けて逃げたと思い、私の中に怒りが満ちる。

 

 けれどお兄ちゃんの表情と呟きを聞いたら、その心のうちに満ちる感情が変化した。

「……強くなりすぎて、戦うのが嫌になったのかな?」

 どこか遠くを見るような目で、お兄ちゃんはそう呟いた。

 

 私には全く理解できない。でも、お兄ちゃんが虚しさを抱えていることだけは知っている。

 その虚しさが、誰にも共感してもらえないことを寂しがってることだって、隠してるつもりだろうけど、知っている。

 

「……お兄ちゃん、行っていいよ」

「は?」

 だから私は言った。

 小指を立てて、お兄ちゃんが安心して自分と同じものを抱えているかもしれない人の元に行けるように、約束する。

 

「今日はちゃんと大人しくするから。ジェノスさんが心配だし、今、テレポートで家に帰っちゃったら、ロボット倒した後でジェノスさんに心配かけるだろうからここにいるけど、余計なことはしないから。大人しく、ジェノスさんが勝つのを信じて待ってるから。

 だから、お兄ちゃんはキングさんのところに行ったらいいよ」

 

 お兄ちゃんはちょっとだけポカンとしてから、笑ってくれた。困ったような、私に自分の考えがばれてたことを少し恥ずかしがるような笑顔を浮かべて、私の小指に自分の指を絡めて約束する。

「ちょっと行ってくる。すぐに戻るから、マジで大人しくしてろよ」

 

 * * *

 

 お兄ちゃんがキングさんらしき人が逃げた方向に走って行ってすぐぐらいに、決着が着いた。

 身体の割には動きが俊敏だったけど、この狭い住宅地ではその身体の大きさやパワーを満足には生かせないで、ロボットはジェノスさんの動きに翻弄される。

 

 そしてジェノスさんがロボットの大ぶりな一撃を避けると同時に、ロボットの肩の後ろあたりに飛び乗って、うなじあたりに両掌の焼却砲をゼロ距離で放った。

 ロボットは内部から焼き尽くされて、関節部から火が噴き出して爆発し、すごい煙を上げる。

 

「ジェノスさん!」

 私はやった本人が爆発に巻き込まれたかと一瞬失礼な心配をしたけど、ジェノスさんはもちろんそんな間抜けな失敗はせずに焼却砲を放って即座に飛び上がっていたらしく、軽やかに着地して私に「大丈夫です」と言ってくれた。

 

 その顔にはヒビがあったけど、それ以外の被害は服ぐらいであることにホッとして、私はジェノスさんに駆け寄った。

 それを止めようとはしなかったという事は、ジェノスさん本人も戦いは終わったと認識していたんだと思う。

 

「ジェノスさん、あのロボットはもう大丈夫ですか」

「えぇ。内部構造を融解させたので、もう動けないでしょう。でかい身体がこちらには幸いでした」

 ジェノスさんの言う通り、煙がだいぶ薄れて見えたロボットは、炎が吹き上げた関節部からマグマみたいな液体がどろりと溢れ出ている。

 

 ……ジェノスさんの焼却砲の威力ってものすごいな、と改めて思う。

 そして今ほどは威力がなかったとしても、ジェノスさんの焼却砲の巻き添え喰らっても全裸になっただけなお兄ちゃんの規格外さも思い知る。

 どうしようお兄ちゃん。私、ちょっとお兄ちゃんを人間と呼べる自信がない。

 

 そんなことを考えてながらロボットを眺めていたら、ロボットは自分の上半身の重さに耐えきれず、下半身は立ったまま上半身が崩れ落ちた。

 それだけならもう完全に壊れたなーで終わった話なんだけど、その崩れたロボットから、その残骸の中から何かが動くのを確かに見た。

 

「! エヒメさん、下がってください!」

 ジェノスさんも同じものに気付き、私を背にやって叫ぶ。

 

 ロボットの中から出てきたのは、子供くらいの大きさで、壊れた外側と比べたらシンプルで可愛らしい、玩具じみた印象のあるロボット。

 どうやらこちらが本体で、外側のは見かけ通り鎧の役割でしかなかったらしい。

 

 私はジェノスさんの指示に従って、背を向けるのはむしろ危険そうだから後ろ向きに一歩、二歩と歩き出したけど、ロボットの行動の方が速かった。

 頭、肩、膝に当たる部分が上下にスライドして、中から砲門らしきものがいくつも見えた。

 それを見て、ジェノスさんは私にだけではなく周囲の人たちにも「離れろ!」と叫んだ。

 

 同時に、いくつものレーザーが全てジェノスさんに向かって発射された。

 他の人たちはともかく、自分に一番近くにいた私が光の速度からは逃げられないと思ったのか、ジェノスさんはとっさに私の腕を掴んで抱え込む。

 自分の身を盾にして守ってくれたのは、私がやろうとしたことにとっても好都合だった。

 

「……! いない!?」

 ロボットがレーザーの狙いであるジェノスさんがその場からいなくなったことに気付いて、声を上げる。

 とっさにロボットの後方に跳ぶのが、成功して良かった……。ジェノスさんが守ろうとしてくれたおかげで、私から抱き着いて驚かせてしまうとかもなかったし。

 私がホッとするのもつかの間、ジェノスさんは何かを悔やむように顔を若干歪めて、私から手を、体を離す。

 

「ありがとうございます。けど、エヒメさんはすぐに避難を!」

 そう言い捨てて、彼は大量のレーザーを携えたロボットに向って行った。

「ジェノスさん!」

 私の呼びかけに振り向いてはくれず、そのまま彼はレーザーに体を裂かれ、焼かれながらも突き進んでいった。

 

 何もできなかった。

 待っていてほしいと言われたのだから、その通り待っていれば良かったくせに、それでも私は何かしたかった。

 でも、何もできず私はただ、ジェノスさんの戦いをただ見ているだけだった。

 

 * * *

 

「「……はぁ」」

 同時についた溜息に、気まずい沈黙が数秒。

 

「……なに落ち込んでんだよ?」

「……お兄ちゃんの方こそ」

 家の中でそれぞれ、お兄ちゃんはゲーム、私は羊毛フェルトに針をプスプス刺しながら互いに溜息をついた理由を訊くけど、どっちも答えない。

 まぁ、聞かなくもお互いにやっぱりわかってるんだけどね。

 

 私たち兄妹の溜息の理由は、どっちも昨日の出来事が原因。

 お兄ちゃんはキングさんに対する期待外れ。

 詳しくはお兄ちゃんが話さなかったし私も訊いてないけど、どうもキングさんはそんなに強くなかったらしい。

 それもたぶんお兄ちゃん基準じゃなくて、世間で噂されてるような実力はもちろん、S級という階級も過大なレベルなんじゃないかな?

 

 そう思うのは、お兄ちゃんの反応が失望も強いけどなんか同情してるというか、困ってるようなそんな感じの反応が端々に見えたから。

 たぶん、キングさんは腕力じゃなくて知略を駆使して事前に計画を立てて敵に打ち勝つのか、もしかしたらものすごく運が良くて、その運のおかげで自分の実力以上の怪人に打ち勝てたのか。そんな感じで、今の実力に合っていない地位についちゃったんだろう。

 

 とにかく、一人でいきなりあんなロボットと素手で戦えと言われて戦える人じゃなかったから逃げ出してしまって、それを追いかけたお兄ちゃんにその秘密を知られたってところかな。

 逃げてジェノスさんに面倒事を押し付けたことに関しては思うことはあるけど、私の「逃げない」とキングさんの「逃げる」はベクトルが真逆なだけで、身勝手なのは一緒。

 

 私に責める権利はない。怒ってるのだって、巻き込まれたのがジェノスさんだからであって、これが他のよく知らないヒーローなら、そのヒーローさんは災難だなぁで終わるもん。

 

 だから私としては、お兄ちゃんの「あいつはあいつで、何か苦労してるっぽい」という言葉を信じて、許しは今のところ出来ないけど気にしないことにする。

 何だかんだでお兄ちゃんとキングさんは友達になったみたいだから、もうそれでいいや。

 金欠でここ最近全然できなかったゲームも貸してもらって、出来るようになってお兄ちゃん、嬉しそうだし。 

 結局、折り紙は連鶴が折れるようにはなったけど、趣味にはならなかったもんね。

 

 で、私の溜息の原因はというと、自分の無力さとかそういうのに落ち込んでるのと、ジェノスさんがまだ帰ってこなくて心配だから。

 

 拡散レーザー砲で遠距離から絶え間なく攻撃されて、ジェノスさんは焼却砲を放つことも、近づくことも出来ずに防戦に強いられていたけど、さすがはヒーローの試験に満点合格した人。

 どんなに強力でもレーザーは所詮、光の集合体。周囲に粉塵や煙、水蒸気で満ちてしまえば光そのものが拡散してそれは凶器ではなくただの生温い光に成り下がることに気付いて、彼は消火器を投げつけてロボットの射光口を一瞬塞いだ隙に、消防隊とかが使う消火用の採水口を力任せに開いて水をぶちまけた。

 

 その水がジェノスさんの焼却砲でまだドロドロに溶けていたロボットの鎧に当たった瞬間、周囲を真っ白に染め上げる水蒸気が発生してレーザーを封殺し、さらにあのロケットパンチで手首と腕を繋ぐワイヤーで拘束して、叩きのめして勝利した。

 

 うん、ここまではいい。ここまでなら、自分は本当に何もできない役立たずだったなーと凹む程度で終わる。その程度の凹み、もはやいつものこと。

 ……私が心ここにあらずで溜息連発するほどに心配なのは、その水蒸気の中から出てきたジェノスさん、ロボットに勝利したジェノスさんはまたしても半壊していたから。

 

 いや、初めて会った時とか深海王の時と比べたらだいぶマシで、半壊とまでは言わないかも。

 左腕がもげて、顔の右半分が怪我というか壊れていたぐらいだから、せいぜい1/4壊ってところ?

 

 ……でも、壊れた顔というか頭からは、彼の唯一の生体部品である脳が露出していた。

 それを見て焦って、ジェノスさんに大丈夫なのかを半泣きで問い詰め、今すぐに跳ぶから早く博士さんのところに行こうと急かしたのは、今思うとめちゃくちゃ恥ずかしい。

 怪我してるジェノスさんにものすごく心配させてしまったのも申し訳ないし。

 

 私が混乱したせいで、むしろジェノスさんが私を落ち着かせることに時間を割かせてしまったし、それに結局私はジェノスさんを博士さんの元に送ることすらできなかった。

 

 博士さんはいくつかラボを持っていて、前回私がジェノスさんを送って行ったラボは公にしてもいいというか若干囮的な意味合いが強いラボだったけど、たぶん今いるラボは特に重要で、よほど信頼してる相手にすら場所を教えてはいけない所らしい。

 ジェノスさんは私を信頼していない訳ではないという事を必死になって主張してくれたし、ジェノスさんの一存で決めて教えていいものじゃないことくらい初めからわかってるから、別のそこは全く何も気にしてない。

 ただ、タクシー代わりにもならなかった自分に、凹むだけ。

 

 そしてジェノスさんは大丈夫だってさんざん言ったし、その大丈夫の根拠も聞いた気がするけど、私はあの脳みそ露出のインパクトが強すぎて言われてもろくに聞いてなかったし、今も覚えてない。

 でも、私が駄々をこねてたらいつまでたってもジェノスさんが博士さんのところに行けず、治してもらえないからってことだけを理解して、送るのを諦めた。

 

 ジェノスさんは明日には全部治してもらって帰ってくるって言ってたけど、……もう夜だし晩御飯も食べちゃったのに、ジェノスさんはまだ帰ってこない。

 一応、ジェノスさんの分も作ったのになー。

 

「……はぁ」

「……大丈夫だっつーの。本人がそう言ったんだろ? ちょっと遅くなってるだけだ」

 私の溜息に、何も言ってなかったのにやっぱりお兄ちゃんは全部わかっていたらしく、誰がとは言わずに私を慰める。

 

「……うん、わかってる。……ありがと、お兄ちゃん」

 お兄ちゃんの気持ちは嬉しいけど、それでも私の心から不安は消えない。

 あの、脳が露出したジェノスさんの顔が頭から離れない。

 お願いだから、帰ってこれないのならせめて電話だけでもして。声だけでも聴かせて、もう一度「大丈夫」って言って欲しい。

 

 そう思いながら、自分のケータイに目を向けたタイミングでチャイムが鳴り、同時に声が聞こえた。

「エヒメさん。先生。夜分遅くにすみません」

 

 のちのお兄ちゃんが言うには、「テレポで移動したとき並みのスピードはあった」というくらい、私が玄関に向かうのは早かったらしい。

 

 * * *

 

「ジェノスさん!」

 玄関を開けてまず初めに、彼の顔を確かめた。

 あまりに早すぎる私の登場に面食らったジェノスさんの顔は、相変わらず黒い目の中の金の瞳と金髪が特徴的な、綺麗な顔。

 もちろん脳はもう露出してなくて、ヒビだってどこにも入っていない。黒い目さえ除けば、どこから見ても普通というにはちょっと整いすぎてるけど、人工的なものだとは思えない、人間の顔。

 私は完全に治ったその顔に、思わず手を伸ばして両手に頬を挟むようにして触れる。

 

「……良かった。ちゃんと治してもらったんですね」

「え……あ、は、はい……。……あの、エヒメさん……」

 ものすごく困惑した様子で遠慮がちに言われて自分が今、どんだけ馴れ馴れしいことをしてるかに気付き、私は慌てて手を離す。

 

「! ご、ごめんなさい、ジェノスさん!! いきなり失礼なことしちゃって!」

「いえ! 大丈夫です! 全然、気にしてませんから!!」

 謝る私に、ジェノスさんも焦ってフォローを入れてくれる。

 そのいつものやり取りに、私の中にさっきまでわだかまっていた不安が消えていくのを感じながら、ジェノスさんにフォローしてくれたお礼を言うと同時に、ふと気づく。

 ジェノスさんの腕が、前までとは明らかに違うものになっていることに。

 

 この人の腕はメインウェポンだから定期メンテのたびにマイナーチェンジしてたけど、今回はよく見なくても一目で今までとは違うことはわかった。

「腕の方も、治してもらったんですね」

「はい、G4のパーツを使って新しく、さらに強化してもらいました。

 ……その所為で思ったより時間がかかってしまい、迷惑かと思いましたがせめて帰って来たことだけでも伝えようかと」

 

 私はジェノスさんの言葉に、「気にしなくていいんですよ。お疲れ様です」と言ってから、ジェノスさんの言葉の中に、何か気になる単語があった事に気付く。

 ……G4のパーツ?

 G4って確か、ジェノスさんが戦ったあのロボットの事だよね?

 

「? エヒメさん?」

 急に黙った私を不思議に思い、ジェノスさんが声をかける。

 そんな彼に、私は問う。

 

「……ジェノスさん。その腕は、あなたが戦ったロボットのパーツを使ったんですか?」

「? えぇ。認めるのは癪ですが、奴は俺よりも機能はもちろんパーツ自体の質もよく、奴の内部構造をクセーノ博士に解明してもらい、なおかつそのパーツを使用したら、俺はさらに強化できるので……」

「すぐに博士さんのところに行くって言ったじゃないですか!!」

 

 気がついたら、叫んでた。

 ジェノスさんの言葉を途中で遮って、私は発作的に叫んだ。

「すぐに博士さんのところに行って治してもらうって、ジェノスさん言ったじゃないですか!! 何でロボットの部品を悠長に拾って持って帰ってるんですか!? 私を先に帰らせた後で、そんなことしてたんですか!?」

「え、エヒメさん?」

「ちょっ、お前らいきなり何してるんだ?」

 

 私のいきなりの剣幕にジェノスさんはついて行けずに困り果てて、お兄ちゃんもびっくりしてリビングから出てくるけど、私の言葉は止まらない。

 グチャグチャになった頭の中でグルグルと回る感情が全部、留まることなく発作的に溢れ出る。

 

「あんな怪我してるのに! 脳みそが出ちゃってたのに! どうしてすぐに博士さんの所に向かわなかったんですか!?

 ジェノスさんは脳さえも壊れたら機械にしちゃえばいいと思ってるんですか!? 本物のロボットになる気!? バカですか!?

 

 どうしてあなたはいつもいつも、自分が怪我することに頓着しないんですか!? 腕がもげても、顔が砕けてもケロッとした顔で『問題ない』って、こっちの心境がいつも大問題なんです!!

 あなたは、本当に言葉通り痛くもかゆくもないのかもしれませんけど、こっちが痛いんです!

 あなたが怪我をしたら、その怪我を代わってやりたいくらいに痛くて痛くて仕方ないのに……どうしてあなたは毎回毎回戦うたびに体の大部分が欠損するんですか!?」

 

 わずかに残った冷静な部分が、「お前が言うな」って言っている。

 わかってる、これは自分にも言えること。私がジェノスさんやお兄ちゃんに言われてもいいことを、自分を棚に上げて私は叫んでる。

 

 ……でも、それでも、私は我慢できなかった。言わないでおくなんて、出来なかった。

 

「腕や足なら、まだ我慢しますよ! 黙ってますよ! でも、今回はあなたが唯一残した人間の部分が露出してたんですよ! それは、パーツの交換で直るものじゃないんですよ!?

 それなのに、あなたは強くなるためにロボットの残骸集めを優先したんですか!? もし、その状態でまた同じくらい強い怪人が現れて、その露出した部分を狙われてたらどうしてたんですか!?」

「え、エヒメさん、すみません! 俺が悪かったです! だから落ち着いて……」

「落ち着いたって、あなたがすぐ博士さんの所に行ってくれなかった事に変わりはないでしょう!!」

 

 私の怒涛の言葉に何とか割り込んだジェノスさんの言葉を、理不尽な言い分でぶった切る。

 ジェノスさんが真っ直ぐに博士さんの所に向わなかったのが変わらないのなら、私が懸念した事態が起こらずに、無事彼は帰ってきてくれたのも事実。

 もしも話に意味はないと言いながら、私はその「もしも」に怯えて、ジェノスさんに当たり散らす。

 

「もう知らない! 知らない知らない知らない!! ジェノスさんなんか知らない!!」

 

 私のしていることは、自分の事を全て棚に上げた最低な八つ当たりだって事は分かっているのに、グチャグチャな頭と心は暴走し続けて、言葉が止まらない。

 私は泣きながら、何とか私を落ち着かせようとするジェノスさんもお兄ちゃんも無視して、大声で叫んで玄関を乱暴に閉めた。

 

「ジェノスさんなんて、大っ嫌い!!」

 





原作だとジェノスの損傷が、左腕と顔の右半分だけじゃなくて、右手首もレーザーで切断されてたんですが、博士のところにパーツを持っていったシーンで一コマですが、手首から先がちゃんとついてあったのが確認出来たのと、両手損傷してどうやってパーツ持って帰ったんや、こいつ?と、私が素で疑問だったので、ここでは手首は損傷せずとしております。

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