キャラ崩壊注意のカオス回です。
メールでS級の招集を通知された時は、ジェノスに行く気はなかった。
それは以前の隕石のような一刻を争うものではなく、「地球がヤバい」という予言の対策会議の為だったから。
正直、ジェノスはメールを見た瞬間、協会にはバカしかいないと呆れたものだ。
前回の集会は、ある意味で幸運だった。
A市はS級がほぼ全員そろっている状態でも何もできないほどの一瞬で、完全崩壊してしまったのは確かだが、もしあの宇宙船が攻撃したのが他の都市なら、ヒーロー協会がA市ではなく他の都市だったなら、確実に被害は都市一つでは済まなかっただろう。
S級を一か所に集めるという事は、その都市以外を危険に晒すという事。
災害レベル「竜」が現れても、駆けつけられるS級がいないという最悪の事態に陥る可能性を全く考慮せず、予言の具体的な内容もいつごろ起こるかもわかっていないことについて対策会議など愚行以外の何物でもない。
だから当初は行くつもりなど全くなかったが、ふとジェノスは一人の人物と彼の言葉を思い出し、その言葉の意味を問い詰める為だけに今日、メタルナイトが造り上げ、要塞と化した協会本部に足を運んだ。
そして運よく、会議室へと続く廊下で目当ての人物を見つけて、声をかける。
「駆動騎士」
「! ……ジェノス君か」
「メタルナイトはお前の敵だ」と自分に告げた、サイボーグかロボットなのかもよくわからないヒーローは、モノアイで一度ジェノスの姿を確かめてから、すぐにそらす。
その動きだけで、自分が話しかけてきた理由を察しつつ答える気はないこともジェノスは理解するが、それで引くくらいなら初めからここには来ない。
だから駆動騎士のモノアイの動きは無視して、彼は廊下でそのまま問い詰める。
「……あれはどういう意味だ? 貴様は俺の何を知り、どういう意味で『敵』と言ったんだ?」
「……言っただろ? そのうちわかると」
「そのうちとはいつの事だ? 今は奴に近づくなとも言ったな? なら訊くが、いつなら近づいてもいいんだ?
貴様は、この要塞を見て何も思わないのか? これほどの規模の建造物を七日で竣工する科学力を持つ奴に時間を与えるという事は、奴に更なる力を与えることと同義だろ?」
ジェノスの言葉に、駆動騎士は答えない。ジェノスと違って頭部は人の造形をほとんどしておらず仮面じみているので表情を読み取ることも出来ず、彼は話すべきかを悩んでいるのか話すつもりが毛頭ないのかすらわからない。
ただどちらにしても、ジェノス自身に引く気はない。
「奴が俺の敵かどうかはともかく、何かを企んでいるのなら早急に手を打つべきだろう。
貴様はあのA市崩壊のように、またしても後手に回って多くの被害を出すつもりか?」
ジェノスの言葉に、駆動騎士がもう一度モノアイをジェノスに向ける。
何を言うつもりだったのかは、ジェノスにはわからない。
「ちょっとそこのポンコツサイボーグ!!」
甲高い罵倒と本人が言葉通り飛んで来て、ジェノスと駆動騎士の間に割り込んできたからだ。
会話に物理的に割り込んできたタツマキに、思わずジェノスは顔を歪ませて睨み付けるが、彼が文句をつける前にタツマキのよく回る舌が、ジェノスに割り込む隙を与えずにマシンガントークを掃射し始めた。
「エヒメがあんたとデート中にストーカーに襲われかけたってのは本当なの!?
何やってんのよ役立たず! ちゃんとそのストーカーはぶっ殺したんでしょうね!? 殺せなくても、もう二度とエヒメに近づけないように身も心も再起不能にしたんでしょうね!?
っていうか、私の許可も得ずに何エヒメとデートしてんのよこのむっつりサイボーグ! エヒメに変なことしたらひねりつぶすわよ!」
「何故お前の許可が必要なんだ!?」
「ジェノス君、それは正論だけどツッコミどころとしては何か間違えている」
何とかジェノスが口を挟むが、いきなり怒涛の文句に混乱しているのか、割とどうでもいい部分に突っ込みを入れて、駆動騎士がやんわりとそのことを指摘する。
が、そんな突っ込みと指摘で二人が冷静さを取り戻すわけがなかった。
「必要に決まってんでしょ! あの子、危機感ってもんが完璧にないでしょ! 狼から子羊を守るのは、ヒーロー以前に人として当然よ! 特にあんたにはセクハラの前科があるんだから、エヒメの半径30キロ以内に近づくんじゃないわよ!!」
「前半は概ね同意するが、後半は言いがかりだろうが!」
やはりジェノスのツッコミは、正論ではあるが何か間違えている。これはもう混乱ではなく、逆に真面目にタツマキの言葉を全部聞いたうえで抗議しているのだなと駆動騎士はいらんことに気付いて、ただ二人の子供のような舌戦を眺める。
止めようにも口を挟む余地がまったくなかったからだ。
このただでさえ収拾のつかない二人の言い争いが、さらなる混乱を招き寄せる。
「ジェノス君がエヒメ嬢とデートしたとは本当か!?」
「サイボーグさん、『付き合ってください』って言ったの!? デートは『どちらにですか?』ってボケられた結果!?」
「貴様らどこから湧いた!?」
まさかのS級最年長と最年少が、会議室からわざわざダッシュしてこちらにやって来て、ジェノスにエヒメとのデートについて問い詰めた。
そして問い詰められる本人はキレた。
信じられないことにこのジジガキコンビ、S級の中ではまとめ役で常識人ポジションだったりする。
そんな常識人が実に楽しそうにジェノスにエヒメとのデート、具体的にはどこまで関係が発展したのかを根掘り葉掘り質問攻めにし、さらにその二人の言葉に被せるようにタツマキが、「こんな融通効かないクソ生意気なポンコツは認めない!」と、お前はエヒメの姉どころか父親か? なことを言い出し、まさに廊下はカオスの有様。
ジェノスが、そろそろ焼却砲でこいつら一掃しようと決心したタイミングで、彼の思い切りのよすぎる決断に気付いたのか、妙に硬い音が二回なった。
駆動騎士が両手を叩き、とりあえず全員の注目を自分に集めたところで、彼は穏やかに言う。
「はいはい。周りの迷惑だから、もうこれ以上騒ぐのはやめろ」
実にシンプルな諫めの言葉にバングと童帝は気まずげに笑い、タツマキもまだ不満そうだがさすがに黙った。
ジェノスもやや疲れた顔で「……あぁ、そうだな」と同意した所で、駆動騎士は続けて言う。
「こういう話は立ち話じゃなくて、椅子に座って飲み物でも用意してじっくり聞くのが一番いいだろ? 会議の開始予定時間まであと30分もあることだしな」
「お前もか、駆動騎士!!」
まさかの事態に共和制ローマの独裁者のようなセリフを、思わずジェノスは叫んだ。
ジェノスの叫びは、駆動騎士の言葉で「味方を得たり!」とばかりに目を輝かせたバングと童帝に黙殺され、彼はバングと童帝のアームに連行され、そのまま会議室へ。
駆動騎士のこの場のノリは、ジェノスからの質問を誤魔化すためだったのか、それとも本心だったのかは本人しか知りえない。
* * *
会議室の席に着き、ジェノスは頭を抱えて思う。
……どうしてこうなった? と。
「……すまん。金属バットがまだ来ていなかったから、話しても別にトラブルにはならんと思ったのだが……タツマキがちょっと……」
「……もういい、タンクトップマスター。次からは気をつけろ」
項垂れるジェノスに現況の原因と言える、エヒメとのデートとそのトラブルに関わり、それを話してしまったタンクトップマスターの謝罪をいい加減に流す。
タンクトップマスターとぷりぷりプリズナーとゾンビマンの同情の目線も、やけに目を輝かせて自分とエヒメとのデートを聞きたがるバングと童帝も、二人ほどではないが面白がってこちらを眺めているアトミック侍とクロビカリも、何を考えてるかわからない駆動騎士も、バカバカしいと言わんばかりに無視しているキングもキングで不快この上ないが、こいつよりはマシだと思いながら、ジェノスは頭を上げて睨み付ける。
ジェノスの視線をものともせず、娘の結婚相手を見るような眼力で逆にタツマキは睨み返し、相変わらず甲高い声で吠える。
「あんたは何の為に全身機械にしてんのよ!? 変態にエヒメが触れられる前に排除出来ないんなら、センサーも武器も意味ないでしょ!?
あー、本当にポンコツね、ポンコツ! おもちゃのロボットの方が可愛らしいだけあんたよりマシよ!!
っていうか、童帝! あんたも何とかしなさい!」
「え!? 僕!?」
怒涛の勢いでジェノスを責めたてるタツマキに、ジェノスが反論、元凶のタンクトップマスターが責任を感じてフォローをしようとするが、彼女の口は高速で回り、そして矛先も急速に変化して誰もついて行けない。
いきなり話を振られた童帝が、食べていた飴を落としそうになりながらも尋ね返すと、タツマキは彼を指さして命令する。
「あんた、あの警戒心のないバカの為に今すぐ防犯グッズ作りなさい!
具体的に言うと自動的に相手を去勢するようなのを!!」
『気持ちはわかるがそれは処刑具だ!!』
タツマキ以外の男勢、つまりはその場にいるS級ほぼ全ての、生身の奴らはもちろんどう見ても生身じゃないジェノスと駆動騎士まで一瞬内股になって叫んだ。
おそらくこの場にいない者もいたら、同じ反応をして同じことを叫んでいただろう。それは普段はまとまりがまったくない、個性爆発、単独主義の集まりであるS級が男だけとはいえ心が一つになった実にいらない奇跡の瞬間だった。
「……さすがにその防犯グッズの域を超えた処刑具はどうかと思うが、タツマキちゃんの心配もわかるな。
あの子はどうも、警戒心がないというより自分に向けられる好意に鈍い。その好意が良識を持った善良なものなら……相手がご愁傷さまですむが、今回のような劣情が元のものすら気付かない可能性が高いからな。
ジェノスちゃん、これからも気を付けてやってくれ」
「……言われるまでもない」
プリズナーの言葉に若干「お前が言うな」と思いつつ、ジェノスは心に決めていた誓いを口にする。ちなみにジェノスは「ご愁傷さま」のあたりで、プリズナーにやたらと同情の視線を向けられていたことに気付いていない。
「何が『言われるまでもない』よ。実際はのうのうと近づかせちゃったくせに。あー、これだから無能は嫌ね。私だったら、エヒメの周囲1キロ以内に絶対に近づけないで、ミンチにしてやれるのに」
「黙れ。手加減を知らないクソガキが。あの人はあんな汚物の方が再利用できてマシな存在すら、俺が非難されるのを嫌がって排除を止めた人だ。そんな彼女に罪悪感を無駄に背負わせる気か?」
タツマキの嫌味をご丁寧に反応して反論するジェノス。そしてそれをこちらもご丁寧に反応して憤慨するタツマキにバンクは苦笑して、軽口を叩く。
「もういっそ、エヒメ嬢を交代制で守ってやった方が良さそうじゃな」
バングとしては軽い冗句のつもりだったが、タツマキと童帝が、「その手があったか!」と言わんばかりの顔をして、バングは自分の失言に気が付いた。
この二人、本気である。
「そっか、おねえさんを守るのはサイボーグさんの専売特許じゃないですもんね! 僕、火・水・金は塾があるからそれ以外担当で!」
「……いつ出動要請が来るかわかんないけど、放っておくより手元に置いて連れまわした方が安心よね」
「貴様ら勝手に決めるな! バングも余計なことを言うな!!」
本気で当番制を検討し始めた二人にジェノスはツッコミ、バングにもキレる。
「すまん、本気にするとは思わなんだ」
割と本気でバングは謝ったが、その謝罪で許せるほどジェノスの怒りは小さくなく、ついでに二人はガチで本気だった。
「いいじゃないですかー! 恋人ポジションはサイボーグさんか金属バットさんに譲りますから、僕はおねえさんの弟ポジションにつきたいんですよ!」
「わ、私はどうしてもというんなら、姉代わりになってあげてもいいだけなんだからね!」
「金属バットには譲るな! あとタツマキ、頼んでないから帰れ!!」
もはやツッコミではなく私的な要求を叫びつつ、ツンデレというものが理解できていないジェノスはタツマキのセリフをそのまま受け取り、辛辣に言い捨てる。
意外に「頼んでないから帰れ」という言葉にショックを受けて、タツマキが言い返さなかったが、この隙と言わんばかりに他の者が悪ノリを口にしだして、カオスは続行。
「ははっ! 童帝が弟で、タツマキが嬢ちゃんの姉なら、俺は兄貴にでも立候補しようかね」
先ほどからクロビカリに「若ぇってのはいいもんだ」と言いながら、このカオスなやり取りを眺めていただけのアトミック侍がそんな軽口を叩いたが、くそ真面目なジェノスが淡々と言い返した。
「既に素晴らしい実兄がいる。そして、貴様なら父親が妥当だろうが」
「俺はまだ37だっつーの! 俺の娘なら10代の時の子になるじゃねーか!」
アトミック侍がジェノスの言葉にキレて反論するが、返されたのは他のS級から、「お前老けてるから問題ねぇよ」だの「図々しいわ」だの至極当然だが本人的には予想外だったらしく、本気で凹みだした。
その凹みを励ます者はクロビカリくらいしかおらず、他の者はまだ悪ノリを続け、ジェノスのツッコミが終わらない。
「そうか、実兄がいるのならやはり俺が狙うのは姉ポジションか。タツマキちゃんがライバルなんて、恐ろしいが少し楽しみ気もするな」
「どちらのポジションもあり得ないから、諦めろ!」
「……別に兄が一人じゃなきゃダメなわけでもないだろう」
「キング、お前も参戦するな!」
「……困ったのう。こんなに孫はわしもいらんのじゃけど」
「何を自然にエヒメさんを孫認定してるんだクソジジィ!!」
怒涛の突っ込みをよそに、ボケまくるS級達。もはや本気なのか、ジェノスをからかっているだけなのかは、おそらく本人たちもよくわかっていない。
「あー良かった。年下は僕だけだから、弟ポジションのライバルはいないや」
「……金属バットは17だぞ? 彼女はジェノスと同い年らしいが?」
童帝の呟きに、もはや収拾がつかない事態に頭を悩ませてたタンクトップマスターが何気なく口出すと、童帝は本気でショックを受けた。
「え!? 金属バットさん、ガチで高校生だったの!?」
「お前はあの学ランをなんだと思ってた?」
「キャラ付け」
身も蓋もないことを言い出し、天才少年は金属バットがジェノスに恋人ポジションを譲って、弟ポジションを狙ってきた場合の勝率を計算しだしたタイミングで、その本人が会議室に現れた。
「おう、結構集まってんな」
「金属バットさん、僕が弟ポジションを確立するまで無駄だと思うけどサイボーグさんと恋人ポジション争い頑張って!!」
「いきなりなんだクソガキ!! 無駄とはなんだ無駄とは!!」
部屋に入ってきた瞬間、出会い頭に喧嘩を売られてもちろん金属バットはキレて、そのまま流れでカオスは続く。
同時にやって来た閃光のフラッシュのみがそのカオスに対応できず、困惑したまま同じくカオスに対応できず項垂れていたゾンビマンにどういう状況なのかを尋ねた。
死ねない男ゾンビマンは、死んだ目で答えた。
「……協調性がない奴らに協調できそうなきっかけが出来たのはいいが、そのきっかけが原因で戦争中だ」
「意味が分からんわ」
ちなみにこのカオス、会議開始予定の3時間後まで続いて、結局「地球がヤバい」の対策会議などできやしなかった。
こんなにツッコミ入れてるジェノスは、初めて書きました。
っていうか、原作でも二次創作でも、こんなにツッコミ入れてるジェノスは見たことない。
そしてジェノスがあんなに頑張ったのにボケが飽和してるカオス。
とりあえず、作者は書いてて楽しかったです。
次回で10ヒーローズ編は終了です。
さて、10人目は誰でしょう?