私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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ヒーローになれるかな?

 

 お兄ちゃんとソニックさんがものすごく嫌なきっかけでライバルになっちゃったせいで、私はお兄ちゃんにキレるわ、ジェノスさんには迷惑をかけてなんかすごく気を遣わせてしまったわでグダグダになったのが、何とか少しは落ち着いた。

 

 落ち着いたけど、ジェノスさんは私を心配して慰めるためとはいえソニックさんをかなり悪く言ってしまったことをまだ凹んでいるから、ちょっと気まずい。

 なのにお兄ちゃんはもちろんそんな空気は読まず、「てゆーか、何でお前はいるんだよ? 帰れよ、他人なんだから」と辛辣な言葉を投げつけた。

 

 っていうか、お兄ちゃんにとってジェノスさんはまだ弟子どころか知人ですらなかったんだ。

 

「お兄ちゃん!」

「先生! 俺は強くならなければ「うるせええええええ!」

 

 私の注意とジェノスさんの言葉に被せて、お兄ちゃんが怒鳴る。

「エヒメの恩人の事で忘れかけてたけど、俺は重大な問題に気付いてショックを受けてる最中だ!

 今日は帰ってくれ! 頼むから!」

 

 怒鳴った後にそう言ったお兄ちゃんの顔は珍しく真剣に焦ってて、本当にショックを受けてるみたい。

「重大な問題?」

 ジェノスさんが首を傾げ、お兄ちゃんにその思い悩む問題を教えてくれと頼み、私もお兄ちゃんがここまでショックを受けそうなことあったっけ? と、お兄ちゃんの話を思い返してみた。

 

 ……ん?

 もしかして、お兄ちゃん。

 

「お兄ちゃん、もしかしてソニックさんに『お前など知らん』って言われたのを気にしてる?」

 

 記憶を掘り返し、お兄ちゃんが語ったソニックさんとのやり取りをダメもとで上げてみたら、お兄ちゃんはゲンドウのポーズでしばらく黙った後、「うん」って呟いた。

 ……当たっちゃったよ。

 やめてよ、ジェノスさん。そんな「さすがはエヒメさん!!」って目で見ないで。

 

 思い悩んでいたことをあっさり当てられたことで開き直ったのか、お兄ちゃんは現状の不満を淡々と死んだ目で語り始めた。

 言い方は抑揚なく淡白で、目も死んでるくせになんか鬼気迫るオーラが溢れ出てた。

 ……ストレス溜まってたんだね、お兄ちゃん。

 

 今日もテロリストに間違えられるわ、ソニックさんに「知らん」って即答されるわ、前にも怪人を倒したのに誰も自分の事を覚えていないわと、愚痴と不満を垂れ流し、私は今日はお兄ちゃんの好物でも作って愚痴をひたすら聞いてあげようと覚悟したタイミングで、ジェノスさんは膝立ちになって叫んだ。

 

「……まさか、趣味でヒーローとは……

 先生! ヒーロー名簿に登録はしてないんですか?」

「え? はい、お兄ちゃんはしてませんよ。趣味ですから」

「え? 何それ?」

 

 ……私たち兄妹は、お互いの答えに驚愕の視線を向けて向き合い、ジェノスさんはもう完全にフリーズしてた。

 

 お兄ちゃん。何か信じられないセリフが聞こえたんですけど?

 

 * * *

 

「知ってたなら教えろよ!」

「むしろ私が、お兄ちゃんがプロヒーローの存在を知らなかった理由を知りたいよ! 20文字以内で簡潔に説明して!!」

 

 私とジェノスさんからプロヒーローの存在を教えてもらって、一通り凹んで項垂れてから、逆ギレしやがったよこの兄は。

 まぁ、私も「趣味」という言葉を鵜呑みして何も教えなかったのは悪かったけどさ。

 だって、プロヒーローの制度はたぶんお兄ちゃんの肌には合わないし、お兄ちゃんが夢見た「ヒーロー」とは違うものだったから。

 

 そのことを一応伝えてみたけど、お兄ちゃんはもう長い話は面倒状態に入ってしまって、ランキング制度とかは完全に話半分でプロヒーローを目指すことを決めてしまった。

 

 ……ま、いいか。

 お兄ちゃんは自分が一度決めたことのなら、きっかけはどんなにバカバカしいことでも貫き通すし、他人に褒められるのは素直に喜ぶけどバカにされても気にしないのは、反省しないっていう欠点でもあると同時にランキングとか順位付けの世界だといい武器だし。

 

 ……私と違って、挫けて潰れて立ち上がれなくなることなんてない。

 そう思うから、私は素直に応援しよう。

 

「お兄ちゃんなら実績があるんだから、合格は確実だよ!」

「そうだよな! そういや、ジェノスは登録してんのか?」

「いえ、俺はいいです」

 

 お兄ちゃんの質問に、ジェノスさんは否定とこれからもする気はないと意思表示する。

 確かに、ジェノスさんは認めた人に対しては息苦しいくらいに礼儀正しくてこちらを立ててくれるけど、そうじゃなきゃ結構傍若無人で上下関係なんて気にしない人だから、お兄ちゃんとは違う意味で向いてないよね。

 

 なのに、一人で試験は不安なのかお兄ちゃんはジェノスさんもプロヒーローになることを誘う。

「登録しようぜ!

 一緒に登録してくれたら、弟子にしてやるから!」

 あんたはトイレに誘う女子中学生か。

 

「いきましょう!」

 そして即答か。単純すぎませんかね、ジェノスさん!

 

 なんか私、実力関係ない部分で心配になってきたんですけど!?

 


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