私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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童帝視点です。




真面目なところ悪いが、違う。そうじゃない。

《お前も気を付けろ。隣にいる人間を信用するな。

 正義を為すなら、自分一人で足りる。そのくらいまで力を蓄えて……温存しておけ。童帝》

 

 メタルナイトことボフォイ博士は、相変わらず長々と「自分は何もしない」事に対する屁理屈をこねて通話を一方的に切る。

 本当に何年たとうが状況がどうであれマイペースというか自己中心的で、自分の発明や実験にしか興味がないくせに正義がどうのこうのと自分が行動に移さない理由だけはご立派な人だ。

 

「はぁ……。時間の無駄だった……。早くアジトを見つけないと……」

 

 予想通りの返答だったけど、どうしても元助手という立場というか感傷というか……、僕は博士に対する期待や信頼を捨てられない。元助手だからこそ、あんなことを訊いても答えてくれず時間の無駄だってことはわかってたのにね。

 だからこの愚痴こそが本当の時間の無駄。それに博士はアジトの場所は教えてくれなかったけど、メタルナイトの機体を破壊した「怪人王オロチ」という存在の情報が知れただけまだマシだ。

 そう僕は自分に言い聞かせて、糖分取って脳に深呼吸させながら再びアジト割り出しに戻る。

 

 けど、その前に気を取り直したことでふと思い出した。

 アジトの正確な位置はわかってないけど、協会職員に寄生して伝言して来た怪人によってアジトはZ市のゴーストタウンにある事だけは確定している。

 

 そして、何故かその危険度S級のゴーストタウン在住の人たちを僕は知っている。

 その人たちの存在を思い出し、もしかしたら何か知っている事、アジトの心当たりとかあるんじゃないかと思って僕は、ちょうど人払いさせていたからついでと思ってケータイを取り出して連絡を取る。

 

 取りつつ、思い返す。つい先ほど言われたばかりの一応は恩師である博士の言葉を。

 

『お前も気を付けろ。隣にいる人間を信用するな』

 

 自分勝手でダメな大人だとは思っているけど、僕は何だかんだであの人を尊敬している。

「教えないことで人質を見殺すか、教えることで人質のみならずお前達の死をも招くかだ。俺は正義に基づいた上で、合理的に考え、選択する」という言葉には反感しか湧かないけど、こっちはちょっとだけ僕のことを心配しつつ期待してくれているのかな? と思えて受け入れられる。

 

 だから、きっとあの人がいなければ、あの人と親しくなければ僕は連絡なんか取らなかった。

 何か情報があるとかそんな期待はせず、疑心暗鬼になっていただろうね。

 

 ボフォイ博士。僕は何だかんだであなたを尊敬して、期待して、信じているよ。

 

「あ、鬼サイボーグさんこんにちは。

 時間がないので単刀直入に訊きますけど、怪人協会のアジトの心当たりってありますか? なんか、Z市のゴーストタウンにあることは間違いないんですよ」

《……本当に単刀直入だな。ちょっと待ってろ》

 

 挨拶だけしてそのまますぐに本題に入った僕に、鬼サイボーグさんは呆れたような声で感想を呟くけど話は早い。

 どうやらおねえさんが一緒にいたみたいで、電話の向こうからエヒメおねえさんに少し席を外すことを告げるやり取りが聞こえる。

 

 ……本来なら、Z市のゴーストタウンに籍を置いているなんて怪しすぎるよね。博士の言葉がなくても、信用なんかできない。

 特に鬼サイボーグさんは新参だし、結構派手な活躍はしてるけど信頼出来る程の実績はやっぱりS級どころかプロヒーローになった日も浅すぎて皆無に等しい。

 

 頼りにするより、スパイかと疑う方が自然だ。

 けど、博士。僕はこの人を、この隣人を疑うことは出来ないよ。

 

《エヒメさん、少し席を外しますのでお好きにくつろ……げるような部屋ではないですね。すみません……、座布団すらない、まさしく物置兼寝る為だけの部屋で》

《い、いえ! 大丈夫です! あの、確かに別の意味でくつろげませんけど、ものすごく緊張してますけど、役得というか悶えそうなほど嬉しいというか……》

 

 ……こんなやり取りを聞かされても、「あぁ、またいつもの爆発案件か」としか思わないぐらいに、僕にとって鬼サイボーグさんは隣人だ。友達ではないけど、ただの同僚やS級ヒーローとしての後輩でもない。

 なんて言えばいいのかわからない関係だけど、僕にとって貴方が怪人協会のスパイな訳ないって信頼の実績はとっくの昔に山積みだ。

 

《あの、ジェノスさん。せっかくですから、童帝君に伝言をお願いしてもいいですか?

 ミラージュのSNSの件でのお詫びとお礼を》

 

 もちろん貴女もね、おねえさん。というか、貴女の存在あってこその信頼だけど。

 

 * * *

 

 部屋を出たようなドアを閉める音の直後、「童帝」と鬼サイボーグさんが僕を呼びかけたので、やっぱり僕は前置き抜きで話し始める。

 

「鬼サイボーグさん、おねえさんと自宅デートですか? ついにそこまで関係が進んだなんて、お二人の進展を見守っていた僕は感慨深いですよ」

《時間がないんじゃなかったのか? 切るぞ》

 

 二人のやり取りからして、どうもエヒメおねえさんが鬼サイボーグさんの家にいるっぽかったので、ついつい僕はいつもの調子で軽口を挟んでしまい、鬼サイボーグさんに軽くキレられた。

 

「すみません、後手に回ってイライラする事ばかり積み重なっていたので、つい日常を求めてしまいました。

 で、話を戻しますけど鬼サイボーグさん、アジトの心当たりはありますか?」

《悪いがない。俺がここに住み出した頃から、既に毎日怪人が現れるのが日常だった。怪人協会のアジトがあると言われて納得したくらいだ》

「……鬼サイボーグさん、よくそんな所におねえさんを住ませていますね?」

 

 僕の期待がもう一度空ぶったことに対する落胆よりも、鬼サイボーグさんの返答によって改めて知ったZ市ゴーストタウンの危険性と、そこに何故か住むおねえさんとのギャップに思わず呆れて素で訊いた。

 

 って言うか実は前々から疑問だった。

 おねえさんは少々訳ありなのと、逃げることに特化したテレポーターだからか危機感がちょっと……いやだいぶ欠けている所があるから、頭が痛くなるけどそこにのほほんと住んでるのはまだ理解できる。

 でもおねえさんが大好きすぎて、地獄のフブキに対するタツマキちゃんみたいに過保護な鬼サイボーグさんが無理やりにでもおねえさんをもっと安全な地区に引っ越しさせない理由が、僕には全く想像できない。

 

《先生がいるから問題ない》

 

 僕の想像できなかった理由は、あっさりシンプルに即答。

 あ、そういえばいたね。おねえさんにはヒーローやってる実のお兄さんのおじさんが。えーと、ヒーローネームはハゲマントだっけ?

 

 あの人、あまり自己主張しないし言っちゃなんだけど存在感というかオーラ的なものがないからヒーローどころか一般人扱いしちゃうけど、よく考えなくてもこの結構傍若無人な鬼サイボーグさんが敬意を持って師事して、そしてあのキングさんと親しい時点で全然ただものじゃないよね。

 

 あと、オカメちゃんでの肉体強度も「測定不能」って出てたっけ。ついつい僕は低すぎって意味で解釈しちゃったけど、おねえさんがあの鬼レベルの怪人を倒したのはおじさんだって言ってたから、あれはキングさんと同じ意味での測定不能だったんだろうな。

 まぁ、流石にキングさんと同レベルってのはあり得ないだろうけど。測定の上限が9999だったから、1万も1兆も同じく「測定不能」って出るからね。

 

 ……改めて考えたらあのおじさん、むしろなんでC級最下位からヒーローになったの? 何でまだB級なの?

 S級になれなかったのはあのオーラなさすぎが災いしてアマイマスクの眼鏡に適わなかったんだろうけど、鬼サイボーグさんとキングさん、そしてシルバーファングさんにも確か認められている実力者なのにC級スタートって……むしろどうやったらそうなるの? 何? 筆記が合格最低ラインだった?

 

 まぁ、それは横に置いといて……アジトの心当たりがないのは残念だけど、あのおじさんが戦力になるという情報は僥倖だ。鬼サイボーグさん経由で協力を要請しよう。

 というか、おじさんより正直言って僕はおねえさんが人質救出作戦に協力してほしい。切実に。

 

 僕がおねえさんを慕っているのは、あまり関係ない。僕のかっこいい所を見せたいとは思うけど、そんな余裕ない相手であることはわかっているからね。

 けどおねえさんはテレポーターとして優秀だから、人質救出には欲しい人材なんだよなぁ~。

 

 それにおねえさんがいたら、絶対にS級たちへの指示が楽になる。同じ指示でも僕が出すのとおねえさんからのお願いって形で出すのとじゃ、絶対に皆のやる気が違う。特にタツマキちゃん。

 

 絶対にタツマキちゃん本人は認めないだろうけど、地獄のフブキに対してと同じくらいタツマキちゃんはおねえさんを気に入ってるから、おねえさんがいたらタツマキちゃんのやる気を出すカンフル剤になると同時に、面倒くさいからってZ市の地盤ごとひっくり返しかねないタツマキちゃんを止めるストッパーにもなってくれるんだよね。

 あと、ケンカ腰になりがちなタツマキちゃんと他のヒーローたちとの緩衝材にもなってくれるし……あ、どうしよう。むしろテレポートいらない、タツマキちゃんのお守りだけで十分すぎるかも。

 

 けど……救出作戦のメンバーがS級だけならおねえさん参入は喜ぶ連中が多いけど、……サポートメンバーにアマイマスクがいるんだよなぁ~。

 っていうか、あの人は絶対素直にサポートに甘んじてくれない。S級(ぼくたち)と一緒にアジト突入するって言って聞かなそう。

 

 ハゲマントのおじさんをメンバーに入れるのは、プロヒーローだし今はB級の上位らしいから別に文句は言わないだろうけど、あの人とおねえさんをまた会わせるって……アジト突入前にアマイマスク対S級(エヒメおねえさんファンクラブ要員)の死闘が始まるよ……。少なくともタツマキちゃんが間違いなく、殺しにかかる。

 

《……童帝。時間がない所悪いが、少しいいか? 話しておきたいことがある》

 

 僕がどうやって、アマイマスクを丸め込む……のは無理だろうから、彼におねえさんの存在を隠して参入してもらえるかを悩んでいたら、鬼サイボーグさんがちょっと躊躇いがちに訊いてきた。

 こういう時じゃなくても他愛のない雑談をするような仲じゃないし、ぶっちゃけ鬼サイボーグさんは空気が全く読めない人だけど、僕が怪人協会のアジト割り出しの役目を担っていることがわからない程バカじゃない。まず間違いなく、何らかの関係がある事だとわかっていたから、僕は「なるべく手短、簡潔にお願いします」と続きを促す。

 

 けど、聞かされた話で僕の口から真っ先に出た言葉こそ話の本筋に全く関係のない、僕個人の感想だった。

 

「エヒメおねえさんの人間関係、どうなってるの?」

 

 人間怪人ガロウと友達って、マジですかおねえさん?

 

 * * *

 

《それは俺も思わなくはないが、ただの偶然だ》

 

 僕の感想に同意しつつ、鬼サイボーグさんはさっさと話を本筋に戻す。

 

《とにかく俺の個人的な印象に過ぎないが、奴……ガロウの本質は善良だ。罪はあっても悪ではない。……出している被害が被害だ。信じてくれとは言えんが……》

「いえ、信じますよ。僕はもう手一杯なので直接調べることは出来ませんが、他の方に頼んで病院に運ばれた、そのガロウを襲撃したヒーロー達から話を聞いてみましょう。

 確証は得られなくとも、ガロウの『子供がいた』発言に信憑性があるかないかくらいはわかるはずです。そして信憑性があるのなら、怪人協会にいるであろうガロウの保護を他のメンバーもしてくれるかもしれませんし、少なくとも怪我で動けない状態を『チャンスだ』と思ってトドメを刺す可能性を下げることは出来ます」

 

 僕が即座に信じるという宣言だけではなく、鬼サイボーグさん……というかエヒメおねえさんが望むであろう答えを告げれば、電話の向こうで鬼サイボーグさんは呆気に取られているのか言葉を失う。

 

 そんなに意外? 確かに甘い対応だとは思うけど僕も、そして他の皆も「ヒーロー」ですよ。

 貴方の言う通り罪はあっても悪ではないのなら、和解できる余地があるのなら傷つけたくないと思うのは普通でしょ?

 

 ……まぁ、もちろん例外もいるけどね。イケメン仮面とか、アマイマスクとか……。

 

「っていうかぶっちゃけた話、ガロウの相手をする余裕なんてないんですよ、こっちには。

 だから相手する必要がないのならしませんし、むしろ一緒に怪人協会と戦ってくれるのなら諸手を挙げて歓迎しますよ」

 

 ついでに僕がヒーローとしての倫理以外の理由、かなり打算的だけど切実な方の理由を本当にぶっちゃけると鬼サイボーグさんは「あぁ」と納得したような声音を上げる。

 

《……それを望むのなら提案なんだが、……怪人協会のアジトに突入する作戦にエヒメさんを参加させてることは出来ないか?》

 

 納得した声音の後、鬼サイボーグさんは少し悩むように間を置いてからしてきた提案に今度は僕が言葉を失う。

 え? その提案、鬼サイボーグさんがするの? いつもの過保護っぷりはどうしたの?

 

《ガロウの本質は善良でも、おそらく奴を説得して暴走を止められるのはエヒメさんだけだ。それに、エヒメさんはガロウを思うあまりにかなり思い詰めている。このままだと彼女一人でガロウを探し、助け出そうと行動しかねない》

「あぁ……。確かにおねえさんならそうなるでしょうね。うん、それなら最初から側にいてもらった方が何かと好都合ですよね」

 

 僕が絶句してる理由を察したのか、やや憮然とした声音で鬼サイボーグさんはある意味いつも通り過保護だった理由を語って僕も納得。

 っていうか、エヒメおねえさんが他の男をそこまで心配しているのに嫉妬せず、むしろ庇っているし助けようとしている鬼サイボーグさんが凄く新鮮。これは、「ガロウの本質は善良」という鬼サイボーグさんの印象に説得力が増すな。

 

 けど、言われてみれば「人間怪人ガロウ」は確かに、実力はともかくやっていること自体は怪人どころか悪人とは言いづらい。

 ……かなり今更だけど、気付いた。

 ガロウの被害に、死人は出ていない。

 

 奴が出したヒーローに対する被害は、洒落にならない。特に最初の被害者の一人、A級6位のブルーファイアなんて腕を捥がれたけど、逆に言えば一番ひどくてそれぐらいだ。

 かなりの重傷なのは間違いないけど、それでも今後のヒーロー活動を諦める必要はない。サイボーグ技術による義手でも作れば、十分に取り返しのつく程度って言ってもいい。

 

 っていうか、ガロウの出した被害を思い返せば思い返すほど、奴が「怪人」を自称することを疑問に思う。

 だって最初の被害からして、ガロウがかなりの危険思想を主張したとはいえ、シッチさんがヒーロー達に「つまみ出せ」って指示したからこそ起こったことだ。ガロウから手を出したわけじゃない。なんだかんだでガロウは、ヒーローに先手を許してる。

 そして、ガロウはヒーロー達を全滅させた後、シッチさんが集めたチンピラたちも、「お前らは人間側。俺は怪人側」と言って全員ボコボコにしたらしいけど、シッチさんには手出ししてない。

 

 向かってこなかったから、弱すぎて相手にする気にもならなかったから、自分の凶行の生き証人が欲しかったから。シッチさんを襲わなかった理由はいくらでも考えられるけど、「お前らは人間側。俺は怪人側」と言ってたのにチンピラたちも殺していないことを考えたら、奴の主張に反して結果が甘すぎる。

 

 そもそもガロウはシルバーファングの一番弟子、……流水岩砕拳の使い手って時点で奴の自称に疑問を持つべきだった。

 シルバーファングさんが強すぎて忘れるけど、あれって敵を倒すことよりも自分や周りの身を守ることに特化してる護身術が主の武術だよ。ガロウの主張や願望が言葉通りなら、その武術は一番目的に合ってないよ。

 

 更にエヒメおねえさんと友達で、イジメから助けてもらっておねえさんのことを未だに敬愛してて………………え? 待って。マジでガロウ、何で怪人になりたがってんの?

 

 鬼サイボーグさんの印象に僕が納得すればするほど、今度はガロウ自身の主張が謎を増して一瞬僕は混乱する。

 何だこいつ? 主張と行動が実はかなり矛盾してるぞ?

 

 ……矛盾。ヒーローを倒したいけど、殺したくない。

 ……いや、そうじゃないのかも。ガロウの主張と行動が矛盾してるんじゃなくて、そもそもガロウの主張も行動も本意ではない、本意なのは「殺したくない」という部分だけだとしたら…………。

 

《? 童帝? どうした?》

 

 納得した後にまた黙り込んだ僕を、鬼サイボーグさんはいぶかしげに呼びかける。

 その呼びかけに僕は一瞬の混乱から浮かんだ、僕の疑問に説明がつく仮説から意識をこちらに呼び戻した。

 

「……すみません、ちょっと今後の事を考えてました」

 

 僕は嘘ではないけど本当のことでもない言い訳で誤魔化す。

 そして本当ではないけど嘘ではない証拠に、鬼サイボーグさんの提案に対して答えた。

 

 僕の仮説は、教えない。

 ガロウは怪人協会におねえさんを人質に取られているからこそ、あんな主張とヒーロー狩りなんて凶行をしているという仮説は教えない。

 

 だって、この仮説が正しければ…………鬼サイボーグさんすらも本意ではないけど、今も進行形で僕たちを裏切っているのかもしれないから。

 

 そしてそれを責める気にはなれないからこそ、僕は鬼サイボーグさんの提案に提案し返した。

 

「おねえさんをアジト突入に参加してもらうのは僕も賛成です。

 だけど、鬼サイボーグさん。貴方は参加しないでください。表向きは。非公式でおねえさんとハゲマント、そしてシルバーファングと突入してください」

 

 * * *

 

《? 何だそれは? お前達が囮で俺達の方を本命にするつもりか?》

「その意図もありますが、単純にアマイマスクもこの突入作戦に関わっているんです。だから僕としてはおねえさんの参加はかなり嬉しくてぜひ! と言いたいくらいなんですが、おねえさんを公式に参加させると、突入前にひと悶着どころか戦争が起こります」

《あぁ。とりあえず俺とタツマキがあいつを殺すな。間違いなく》

 

 僕の提案にもちろん鬼サイボーグさんは訳が分からないと言いたげに質問してきたけど、僕の答えにすんなり納得してくれた。

 これも嘘じゃない、本当の理由だけど僕の提案の理由としては1割程度の割合。

 そしてまたさらに僕は、決して嘘じゃないけど割合としては低い部分を語って、サイボーグさんが何か疑問に思う余地をなくす。

 

「それと、僕はあり得ないのをわかってますけど傍から見たら怪人出現のホットスポットであるZ市のゴーストタウンに住む貴方達は、怪人協会のアジトがそこだとわかった今ではかなり怪しいんです。あと、シルバーファングもガロウと交戦して取り逃がしたのは、弟子に対する甘さと取られるでしょうね。

 そこもまたアマイマスクにいちゃもんを付けられそうですから、それなら彼と顔合わせなんかしない方が全員にとってモチベも下がらなくていいでしょう?」

 

 僕のさらに重ねた理由にサイボーグさんも「確かに」と納得を重ねてくれた。

 あまりのあっさり納得具合に、もしかしたら僕の真の意図に気付いているのかもしれないと思ったけど、それは別に何の支障にもならない、むしろ好都合なので僕はそのままどうやって突入作戦の時刻や突入場所の指定をするかの打ち合わせを始めた。

 

 この人は、現在進行形で僕たちを裏切っているのかもしれない。これは僕からヒーロー協会の作戦を、情報を抜くスパイ行為なのかもしれない。

 けれど、それが本意でないことを僕は疑わない。

 

 この人が裏切っているのだとしたら、それはエヒメおねえさんを人質に取られているから。

 それ以外にあの人を助ける選択肢がないからだ。

 

 さっき普通にお家デートしてるような声が聞こえていたから、怪人に攫われてた訳ではないのは確実。けれど怪人協会がヒーロー協会に送ったメッセージ……、協会の職員に怪人が寄生していたという事態を考えたら、あの人がそこにいるというのは安心できる理由にはならない。

 

 場所が場所だ。鬼サイボーグさんや実兄のハゲマントさんだって四六時中おねえさんの側を警戒して離れない訳じゃないのだから、おねえさんがそういう怪人に寄生されて体内に爆弾を抱えている状態に陥ってしまうのは十分にあり得る。

 

 ただ、あの電話の向こうの声の感じからして、少なくとも自覚ないだろうけど。っていうかその自覚があって自由意思が少しでも残されているのなら、あのおねえさんは間違いなく自分が誰かの重荷になるくらいなら、躊躇なく自分で自分の命を絶つ。

 

 ……そう考えると、ガロウのやけに矛盾してると思えた言動にも説明がすんなりつく。

 

 ガロウは何らかの拍子で怪人協会に目を付けられ、そしておねえさんを敬愛していることまで知られてしまい、おねえさんを人質に取られた。だから本意じゃないヒーロー狩りをしていた。

 きっと今の状況……、怪人協会が本格活動する為の前準備としてヒーロー協会の戦力を削れと命令された。だからあんな「自分は怪人だ」と主張して、ヒーロー狩りをしているのに一番取り返しのつかない結果は……、ヒーローを殺すことはなかった。

 

 この仮説なら、鬼サイボーグさんがガロウを庇って、シルバーファングさんも自分の非を認めて謝ったのに、ガロウは説得にも和解にも応じず更に暴れた事にも説明がつく。

 おねえさんを思い、おねえさんを助けたかったからこそ、ガロウは自分を救おうとしてくれた人たちの手を振り払うしかなかったんだ。

 

 そして、鬼サイボーグさんが怪人協会がガロウを攫ったとしか言ってなかったけど、この時に鬼サイボーグさんたちもおねえさんの身体に、爆弾の役割を持つ怪人が寄生している事を知らされたのなら……。

 

 この仮説が正しいのなら、僕だってきっと怪人協会の脅迫に逆らえない。

 だから、ガロウも鬼サイボーグさんも責めやしない。

 

 だけど、ガロウはともかく鬼サイボーグさんは信じているから、この信頼を裏切らないでくださいよ。

 

 貴方はおねえさんを人質に取られたからと言って、相手に唯々諾々と従う人でない。むしろ絶対に相手を許さないからこそ、虎視眈々とおねえさんを救う方法を探し、それがどんなに困難でも実行する気しかないことを僕は信じてます。

 

 その為におねえさんから離れず、怪人協会からの指示に逆らってないけど貴方が本意ではない裏切り行為をしなくて済むように状況を整えてあげます。

 おねえさんを守る協力者として、シルバーファングさんも付けます。状況的に、シルバーファングも同じ脅迫を受けている可能性が高いし。

 

 だから、貴方達が僕らと一緒にではないけど、怪人協会に突入する言い訳のお膳立てはしたんですから、おねえさんに寄生している怪人をどうやったらおねえさんが傷つかずに排除できるか、必ず見つけ出してください。

 

 どうか絶対に、おねえさんを助けてくださいよ。





原作と違ってうちのジェノスと童帝は割と親しく仲も良好なので、原作通り別行動か原作と展開を変えようか悩みましたが、ジェノスが童帝の希望通り「手短に」話した結果、原作と違う理由で原作に近い展開にできました。

ただし代わりに、シリアスだからこそ脱力もののアンジャッシュが起こった。

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