私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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ガロウ視点です。


絶対に認めない

 ……どうやって、一体いつねぐらにしている小屋に帰ってきたのかは覚えていない。

 気が付いたらここで寝ていた。

 思い出せる直前の記憶は、あの子の……あの人のことだけ。

 

「……変わってなさすぎだろ。ひぃちゃん」

 

 ぼろいソファーの上に横たわって、思わず素の感想が口から零れた。

 あぁ、マジであの子は、あの人は、ひぃちゃんは変わってなかった。

 外見こそはそりゃ大人になってたけど、それも俺の記憶の中のひぃちゃんをそのまま大人にした美人になってただけで、良くも悪くも意外性なんかなかった。

 変わってなかった。ひぃちゃんは何もかもが、俺の記憶通りだった。

 

『ガロウ君! どうしたのその怪我!?』

 

 会って真っ先にしたことが、俺の心配だった。

 俺の怪我でパニックを起こしてどうしようどうしようって泣きそうになるわ、文字通り俺の傍まで跳んで来て手当の為に何の躊躇もなく自分の履いてるスカートを包帯代わりに破こうとするわ、テレポートで俺を病院まで運ぼうとするわ……、相変わらずお人好しすぎるだろ。

 ……っていうか、ひぃちゃん。テレポートって何? 何でンなもん使えるようになってんだ、あの人は。

 

 今更になってひぃちゃんの特技? が気になるが、それはすぐに「どうして?」という他の疑問に押し潰されて消える。

 

 ……何で、あんたは変わってないんだ。どうして、あんなにも昔のままなんだよ。

 

 何で自分のハンカチや服が俺の血で汚れても一切気にせず、俺の手当てをしようとするんだよ。

 足にギブスが必要な怪我してるのに、絶対にすっげーキレイだったはずの手に火傷の痕が、色が変わるどころか皮が引き攣れて柔らかいのにガサガサした感触になって、年寄りみたいな皺が出来てるってのに、何が「大丈夫」だよ。

 何が……何が……「私も、ガロウ君の事が大好きだから!」だ。

 

 ……何で、どうしてあんなことを言えるんだ?

 

『え、えっと、ガロウ君。久しぶり』

 

 なぁ、ひぃちゃん……。あんたは俺がヒーロー狩りをしてることも、ヒーロー協会から「人間怪人」って俺が呼ばれてることも知ってたんだろ?

 どういう経緯で知り合って具体的にどういう関係かはさっぱりだが、あんたはよりにもよってキングと親しげだった。

 ……俺のことを何も知らなかった訳じゃないんだろ?

 

 だから、なんかグダグダになってたところをキングのとりなしで仕切り直した時、あんな顔をしたんだろ。

 ……俺の怪我なんかよりも酷い傷を負っているような、痛そうで辛そうなのに、それを必死で隠して、俺に心配をかけないように笑ってたんだろ?

 

 なのに……なのに……どうしてあんたは……君は……。

 

『ガロウ君、病院に行って手当てしてもらおう?』

 

 何で君はあんな辛そうな笑顔をしてたのに、俺なんかが未だ女々しく君のことを好きなままであることを知ってあんなに嬉しそうに笑って、手を差し伸べるんだよ。

 

『……違うよ、ガロウ君』

 

 自分はそうやって「大丈夫」って言い張り続けるくせに、何で俺の「大丈夫」にはあんなにも寂しそうな顔をするんだよ。

 

『私があなたを心配するのも、助けたいと思うのも、あなたが弱いからじゃない。ただ単に私があなたの事が好きで、痛い目に遭って欲しくなくて、悲しい思いなんかしてほしくないから助けるの』

 

 何で、俺にまた「助けて」って言葉を与えようとするんだよ。

 

 ……ひぃちゃんが何であんなことをしたのか、俺にはわからない。

 けど、ひぃちゃんが何を思って俺に手を差し伸べてくれたのはわかる。わかってしまう。ひぃちゃんがあまりに変わってなかった、俺の記憶通り過ぎた所為で俺の勝手な期待じゃないってことを確信してしまう。

 

 ひぃちゃんは俺がヒーロー狩りじゃない事を期待した訳でも、俺が人間怪人じゃないと信じた訳でもない。

 あの人は、俺が怪人でも俺のことを好きだと言ってくれた。俺が怪人でも、ヒーロー狩りでも、俺を助けようとしてくれた。

 昔のように、俺の間違っている所、悪い所を「ダメだよ」と叱るけど、その前に俺がどうしてそんなことをしたのかを訊こうとしてくれたんだ。

 俺の悪くない所を、悪いことをしても守りたかったもの、訴えたかったものを知ろうとしてくれたんだ。

 

 俺の話を、聴いてくれたんだ。

 

「……何でプロヒーローよりも、ひぃちゃんが一番ヒーローらしいんだよ」

 

 一体いつ用意したのも覚えていない濡れタオルで額の汗をぬぐいながら、俺は当たり前のことをぼやく。

 そう。当たり前だ。あの人が、ひぃちゃんが一番ヒーローらしいのは当たり前のことだ。

 俺のヒーローの定義は、あの人だから。ひぃちゃんこそが俺のヒーローだから。

 

 ヒーローなんか嫌いで怪人に憧れていた俺が唯一好きになった、憧れた、正しいと思えたヒーローだから。

 

 ……だからこそ、俺は怪人になった。

 彼女こそがヒーローだから。

 彼女だけがヒーローだから。

 

 

 

 だから、だから俺は怪人に――――――ならなくちゃいけねぇんだよ。

 

 

 

 ……あぁ、ヤバいかもな今の俺は。

 熱が引かない所為か、思考がおかしい。

 この思考から離れたい、あの人のことを忘れたいからこそ何も考えずにいられる戦いをしたいのに、熱の所為で体がろくに動かないっていう悪循環に陥ってる。

 

 ……いっそ、あの人との再会も熱の所為で見た夢、俺の妄想だったらいいのに。

 そんなことを考えながら、俺が体を起こしたタイミングで誰かが小屋に入って来た。

 このタイミングで、追っ手か!? とさすがに焦ったが、暗くてよく見えねぇけどそれは明らかに子供だった。

 

 何だ? 真っ昼間から肝試しか?

 

「ここで何してる?」

 

 訊くと言うより脅して追い払うつもりで言えば、ガキは逃げずに答えた。というか、ビビりすぎてむしろ腰が抜けて逃げ出せねぇみたいだな。

 

「こ……ここ……この小屋は……ぼ、僕たちの……秘密基地で……」

 

 追い払いたいのに俺のしたことは逆効果でどうすっかと考えていたら、答えた声に聞き覚えがあることに気付く。

 ついでに眼も慣れて、ガキの顔が見える。

 そのガキはここ最近では見覚えがありすぎるガキだった。

 

「おい、お前。公園のベンチで『ヒーロー名鑑』読んでたガキじゃねぇか」

「え? ……あ!」

 

 やたらと特徴のあるブサイクなガキだから確かめる必要はないと思ったが一応訊いてみると、ガキの方も気づいてビビりまくってた様子が一気に気安くなった。

 

「怪人好きなおじさん!」

 

 おじさんじゃねーって何度言わす気だ、クソガキ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……クソッ! 昨日、ひぃちゃんと再会してからここに帰って来るまでの記憶がねぇから、たぶんどっかで見つかってつけられたんだろうな。

 

 ガキから借りたヒーロー名鑑で名前や階級を確認しながら、俺はひたすらこの状況を打破する方法を考える。

 人数は多いがS級はいねぇし、一番高くてA級8位だからいつもなら余裕だが、流石に連戦に次ぐ連戦で満身創痍、認めるのはこの上なく癪だが今の俺では不利すぎる状況だ。

 

 まぁ、不幸中の幸いかこのガキがヒーロー名鑑を今日も持ってたことと、どいつもこいつも目立ちたがり屋で自分の必殺技やら戦闘スタイルを一般人でも手に入る名鑑に公開してるから、ここから対策を立てていくか……。

 

「!?」

「ひえっ!? 何の音……!?」

 

 そんな風に考えながら、改めて外にいる連中のデータを読もうとしたタイミングで、外からドルルルルと低い音が響く。

 たぶん、マシンガンだとかガトリングみてーな連射式の銃火器の音だ。ってことは、デスガトリングの仕業か。

 

「さっさと出て来い、ヒーロー狩り! 気付いてるはずだ! そんな小屋では籠城するには心許ないだろう!!」

 

 ちっ! 時間がねぇ!!

 っていうか、さっきガキが戸を開けようとした時の殺気といい、今の発言といい、あいつらこのガキが小屋の中にいるってこと気付いてねーのかよ!?

 昨日のうちに俺とこの小屋を見つけたってことは、そのまま俺が出て行かないように見張ってたはずだよな? なら何で気付いてねーんだよ!! つーか止めろよ、入るのを!!

 

 気付いてるなら、威嚇してる余裕なんかねぇだろ! 俺を怪人だろうが凶悪犯だろうがとにかく危険視してるんなら、ガキの心配しやがれ!

 それとも俺がガキ相手に、周りにバカにされないアドバイスをしてやるとは思ってねーのか? ガキなんか小屋に入った時点で俺に殺されてるだろうから、気を使わなくていいってか?

 

 ……そうだとしたら、お前らマジでヒーロー名乗る資格ねぇぞ。ヒーローじゃねぇなら狩る気も起きねぇよ。

 ある意味、お前らこそが怪人だの悪役だのに相応しいわ、屑どもが。

 

「……ガキ、お前は床に伏せてろ」

 

 このままこいつを真正面からはもちろん、小屋の裏手側の壁に穴でもあけて逃がしてもあいつらは俺が逃げ出したと勘違いしてこのガキに攻撃しかねないから、俺がガキに命じて最低限の情報を詰め込んだヒーロー名鑑を投げ捨てる。

 スティンガーみてーにリーチが長いとはいえ接近専門なら、まだ勘違いで攻撃を仕掛けても直前に止めることができるだろうが、飛び道具メインのデスガトリング達はもちろん、鎖ガマとスマイルマンも途中で止められるような武器じゃねぇ。

 

 このままテメーはじっとしてろ。ガキ。

 丁度いい。実践してやるよ。「周りにバカにされない方法」をな。

 

「……頼む。小屋は撃たないでくれ」

 

 ……そう思って小屋から出たのに、俺の口から出たのは命乞いにも取れるような言葉だった。

 暗い小屋の中から外に出て、眼がくらみそうな光を見たことで思い出してしまったからつい、言ってしまった。

 

『助けて欲しい時は、「助けて」って叫んで』

 

 口にすれば、その先を聴いてくれるのではないかと期待してしまった。

 

「素直じゃんか。降参か?」

 

 けど、俺の期待はやっぱり無駄だった。どいつもこいつも、俺自身ではなく小屋を撃つなという言葉の意味を考えない。

 マジで小屋に入ったのを見逃してるのか、それとも俺を捕まえるなり倒すなりに必要な犠牲だと思ってんのか、何で小屋を撃って欲しくないのかを訊かない。ガキの事を何も訊かない。

 

「馬鹿言え。お前らを狩った後で気持ちよく寝る為の寝床がないと困るからな」

 

 だから俺は諦めた。ガキのことは俺も話さねぇ。

 どうせ、話してもこいつらは信じない。下手に俺が小屋に固執したら、それこそ俺が勝っても嫌がらせの最後っ屁で小屋に攻撃しかねないから、これ以上小屋について注文を付けるのはやめる。

 

 こいつらに……ヒーローに期待するだけ無駄だ。

 今までの全員がそうだった。どいつもこいつも、こっちの話なんか聴きやしねぇで自分の言い分ばっかりべらべらしゃべる。

 

「顔色が悪いぞ。やはり弱っているようだな」

 

 怪我して弱ってる相手を見ても、チャンスだと思って喜ぶだけで心配なんかしねぇ。

 自分も俺ほどじゃないとはいえ怪我してるっつーのに、パニック起こして泣きそうなぐらい心配して、手当てしながら病院に行こうなんて言わねぇ。

 

「生け捕りにして、協会に連行する。

 犯行動機やお前と通謀する存在の有無など、絞りあげて吐かせる」

 

 俺を理解する為じゃねぇ。

 俺の何が間違ってて何を正したら俺がもうそんなことしないのかを考えて、俺を思って、俺を助ける為に俺の「理由」を知りたがるんじゃねぇ。

 むしろ俺を「理解できない異常者」として排除したいからこそ知りたいんだろ?

 

 俺の言い分を、俺の訴えをバカにして嗤う為に訊くんだろ!!

 あいつらのように!!

 

「流石はヒーロー様だ。殺さないでくれるとは、お優しいこった」

 

 俺の皮肉をただの強がりと受け取ってデスガトリングは「助かったと思うなよ」と、なーんにもわかってねぇ発言をのうのうとかます。

 お前らさぁ、マジでヒーロー名乗ってて恥ずかしくないのか?

 ワイルドホーン、「ただの粋がった若者が怪人なんか名乗ったことを後悔するんだな」とか言ってるけど、お前らがしてる事って何なんだよ?

 

 見殺す気じゃなくてマジで気付いてないとしても、てめーらの怠慢でただのガキが小屋に入り込んだんだぞ?

 しかも、あのガキの話じゃ他のガキに「中に入って出て行けって言ってこい」って言われて入ったんだぞ?

 なら、近くにそんな命令したガキがいたはずだ。

 

 そいつらにも気づいてないのか? そいつらは帰したけど、中のガキには気付いてないのか?

 気付かなかったのか?

 中にもう一人、子供がいるってことを黙ってる卑怯なガキの嘘に。

 そんな発想もない程、平和ボケした世界しかお前らは知らないのか?

 

 友達だと思ってた奴に、嫌がらせをしたら面白い反応を返すオモチャ扱いされて、危ない目に遭わされる子供なんかお前らの世界には存在しないっていうのかよヒーロー!!

 

 お前らの仕事に、そういう子供に気付いて助けることは含まれてねぇってか!!

 

「てめぇらこそ、ヒーロー名乗ったツケは大きいぜ。

 ――――――今にわかる」

 

 お前達にヒーローと名乗る資格はねぇけど、だからと言って見逃すにはお前は屑すぎた。

 あの子と、あの人と、「本物」とは違い過ぎた。

 お前らの存在は、あの「本物」に対して侮辱にも程がある。

 

 俺はひとまず小屋の上に飛び上がって、銃口や矢の狙いを小屋から離して宣言する。

 お前らをカウントなんかしたくないけどな、よくよく考えたら俺が今まで狩ってきた奴も全部「偽物」だった。

「本物」はいなかった。昔も今も、たったの一人だけだった。

 

 だから光栄に思え。てめぇらなんか絶対に絶対に絶対に認めねぇけど、カウントしてやるよ。

 

 

 

「ヒーロー狩り! お前らで100人突破だ!!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 気分悪ぃ。

 

 8人相手に、思った以上に自分たちの戦闘スタイルの相性を考えて俺の対策を練って厄介だった相手に、俺もさすがに一人も倒せてねぇ内に毒矢をくらって囲まれた時は諦めかけた奴らを全滅出来たって言うのに、達成感は何も得られない。

 

 当たり前だ。やっぱりこいつらはヒーローじゃなかった。

 カウントする価値どころか、「偽物」扱いだってもったいないくらいだ。

 

 俺を確実に倒すために精鋭を集めたと言いながら、S級がいなかった理由はただの嫉妬。

 なんかグダグダ長ったらしく語ってたが、結局のところは協会内で立場や扱いが破格で世間からもキャーキャー言われて大人気なS級がうらやましかっただけだろ?

 

 何が「S級以外にも優秀なヒーローは存在することを世間に知らしめてやる」だ。

 ガキが小屋に入ったことも、そのことを黙って逃げたガキの嘘も見逃し続けたお前らのどこが優秀なヒーローだ。

 

 お前は、お前達は俺がしている事が許せないから、俺が悪だから、俺から誰かを、何かを守るために俺を倒したいんじゃなかったんだな。

 俺にとってお前らは俺が本物の怪人になる為の階段であったように、俺はお前たちにとって「倒さねばならない悪」じゃなくて、ただの道具か。

 自分たちの見栄の為の道具でしかなかった。自分の見栄の為に、何かゴチャゴチャやってる怪人協会とかいうのは後回しか。

 

 人質がいるってのに、それよりも自分がチヤホヤされる為の功績を優先する奴のどこがヒーローだクソッタレ!!

 

 ……達成感どころか胸糞悪いのは、あいつらがクソ以下の自称ヒーローだったからだ。

 強かったのは認めるが、テメェらを倒して得た経験値なんて糞と一緒にひねり出してしまいたいくらいだ。

 

 ………………あのガキは、関係ない。

 

 初めから関係ない。ただ、あの屑どもが怠慢でバカだったせいであのガキが死んだら、それは俺の所為になる。

「小屋にガキがいる」と言っても、やっぱり信じないで何の躊躇もなくガトリングを連射して来たバカだ。

 最後まで、何かを守る為でも助ける為でもねぇ、ただただS級に嫉妬して張り合おうとしてただけの奴等が、ガキが死んで素直に自分の怠慢を、バカだったことを認める期待なんか出来ねぇ。

 

 絶対にあいつらは自分の保身で俺に全部の罪を擦り付ける。俺が殺したことになる。

 そうなれば俺が目指す絶対的な恐怖を万人に与える怪人ではなく、あの屑どもの所為で弱っちいガキを殺して満足する変態に成り下がる。

 

 それだけはごめんだったから、生かして逃がしたかっただけだ。

 ただそれだけ。あとは何も関係ない。

 

 俺を見て泣いて逃げた事なんか、喜ぶことだろ。

 あのガキの恐怖が、俺を怪人にする。

 俺の今のテンションは全部、あの屑どもの所為だ。

 

 ただ、流石に疲れ果てたのと毒の所為で頭がクラクラするから、余計にテンションがダダ下がるだけだ。

 

「……とりあえず……手当てを…………。

 み……水……、その前に……水を一口…………」

 

 だからガキの事なんか忘れて、逃げたガキなんか放っておいて、まずは肩に刺さったままの毒矢を引き抜き、俺はフラフラしながらこの体を休ませることを考える。

 今の俺じゃ、それこそジジイの道場に残ったあの弟弟子にすら負けるかもしれない程にズタボロの限界だ。

 まずは手当てと休憩だ。とにかく、少しは休んで体力を回復させねぇとC級の雑魚相手でも逃げることは…………

 

「!?」

 

 ドン! と地面を揺らしてあたりに土煙が舞い上がる派手な衝撃と音が俺のすぐ背後からした。

 

 最悪だ。もう応援がきやがった。

 しかも、この派手な登場の仕方からして一般人に毛が生えた程度のC級とかじゃねぇ。

 

「応援要請の信号を確認したので来た。発信源は……、あいつの端末か」

 

 淡々と、俺の背後でそいつは言う。

 キュインキュインとかなんかモーター音みてーな音がしてるから、十中八九サイボークだとはわかっていたが……このタイミングでお前が来るのかよ。

 

 金髪に嫌味なくらいにおキレイな顔、白目部分が黒い眼。

 ヒーロー名鑑に目を通さなくても、こいつはわかる。

 S級の新人でありながら順位を順調に上げていってる鬼サイボーグだ。

 

 そいつは気絶する直前か、それとも動けないが未だ意識はかろうじてあるのかもしれない、自分を呼んだであろうジャージ眼鏡を一瞥してから、俺になんかレーザーでも出しそうな砲門がある掌を向けて言った。

 

「見たところ、例のヒーロー狩りか」

 

 そいつの言ってる事なんか頭に入らなかった。さすがにこの状況でS級が釣れたことは喜べねぇ。

 情けねぇが、この時の俺の思考は逃げの一手だった。

 

 ……だけど、その思考すら吹き飛ばされた。

 忘れたかった。頭の中から消し去りたかったから、何も考えずにいられる戦いがしたかったのに、胸糞悪い結果だがある意味ではその願いは叶っていたのに、忘れられるわけがなかったものがこじ開けられて溢れ出す。

 

 

 

「……お前がヒーロー狩り、……『ガロウ』なら一つ訊きたい。

 ――――『エヒメ』という人を知ってるか?」

 

 

 

 ……何で、お前の口からその名前が出てくる。

 キングといいこいつといい、ひぃちゃん、一体何があってどうやって知り合ったんだよ?

 

 そんなことをつい思いながら、答える。

 

「……知らねぇよ」

 

 知らない。あの子を、あの人を知ってるのは「ガロウ君」であって俺じゃない。ヒーロー狩りの、怪人の俺はあの人の事なんか知らない。

 だから、もう守らなくていいんだ。助けなくていいんだ。俺は絶対に言わないから。

 助けてなんて言わないから。

 

 だから……今更になって俺の話を聴こうとするな。

 

 あの子にだって言わなかったことを、お前らに話す訳ねぇだろ偽物どもが!!






原作を普通に読んでいる時は、ガロウの事情も知ってるけどヒーロー側がガロウの事情を知らないのも知ってるし、特にメガネは番外編で何度か彼の心情や苦労、努力を描かれているので、どっちにも感情移入して両者の戦いは痛々しいものでしたが……ガロウ視点で書くとデスガトリングがどうしようもなく屑すぎるな……と思いながら書きました。

ごめん、デスガトリング。お前があそこまでS級に対抗意識を燃やしてた事情は知ってるし、ガロウに言ってたことだけが本心ではないと思ってるけど、それでもヒーロー名乗っといてガロウを倒す理由に「俺達の存在価値を示す為」は言っちゃダメだろ……。

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