いろはす短編   作:ちゃんぽんハット

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後編と言ったな、あれはうそだ。
はいすみません、予想以上に長くなりそうで。
気長にお付き合い願います。
そして今回はいろはの出番が少ないです。
それではどうぞ。


一色はまがりなりにもマネージャーである。 中編

一周500メートルほどの校庭を走り終えた俺は、荒い呼吸を整えながらゆっくりと一色達の居るところへと向かう。

 

さて、今からマネバトルが始まるわけだが……

 

三人のところまで辿り着くと、一色と由比ヶ浜がスススッと後ろに下がり雪ノ下が一歩前へ出る。

どうやらトップバッターはこいつのようだ。

 

勝負と言われたら黙って要られない飢えた狼である彼女が、一体どのようなマネージャーぶりを発揮するのだろうか。

非常に興味深い。

 

「お疲れ様比企谷君」

 

「おう」

 

「これで汗を拭くといいわ」

 

そう言ってタオルを差し出してくる雪ノ下。

ふむ、案外普通だ。

序盤はまあ様子見といったところだろうか。

 

「おお、すまん」

 

礼を言いつつタオルを受けとる。

どこのタオルなのかは不明だが、とても柔らかくいい匂いがした。

うわぁー、お日様の香りがするー。

こんな素敵なタオルには、八幡八万点あげちゃう☆

…………久々に走ったからだろう。

だいぶ疲れているようだ。

 

すると雪ノ下も俺の疲労を感じとったのか、ニコリと微笑んで労いの言葉をかけてくれる。

 

「この程度で音をあげるだなんて、引き籠り谷君の体力はミジンコ並なのね?」

 

前言撤回。

どこにも労いはなかった。

あるのは人を小馬鹿にした態度だけである。

 

「うるせえ、走るなんて滅多にしないから仕方ないだろ。あとミジンコは余計だ」

 

「そうね、貴方の雀の涙ほどしかない体力と同じだなんてミジンコさんに失礼よね。ごめんなさいミジ谷君」

 

おいそれどういうことだ。

てか全然ミジンコさんに謝れてないぞ。

なんなら俺とミジンコさん合体しちゃってるし。

 

「お前だって人のこと言えた口かよ」

 

「私はいいのよ。今の私はマネージャーなのだから」

 

「ならもう少しマネージャーらしく選手を応援してくれ。今のままじゃどっちかっつうと、OGみたいだぞ」

 

それも嫌みばっか言うやつ。

俺達のころはこうだったとか自慢げに話して。

あれ本当にやんなっちゃうよな。

まあ運動部にいたことないんで分からないんですけどね。

 

「それもそうね。では比企谷君、そこのマットに横になってちょうだい」

 

「…………え?」

 

「聞こえなかったかしら?マットに横になってと言ったのだけれど」

 

「いやそれは聞こえたが……」

 

見ると、すぐそこの木の下に一枚のマットが敷いてある。

……これはまさか……

 

「……一応聞いておくが、何をするつもりだ?」

 

「見て分かるでしょう?マッサージよ」

 

そんなこともわからないのと言いたげな顔を向ける雪ノ下。

マジかー、マジかよー、いきなりマッサージとかハードル高すぎんだろ。

彼女の勝ちたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。

こやつ、本気でござるな!

 

「いつまでそこに突っ立っているのかしら?早く寝てちょうだい」

 

「ひゃ、ひゃい!今行きまひゅ!」

 

緊張のあまりカミカミになってしまった。

しかしそれも仕方がない。

今から学校でもトップクラスの美少女である雪ノ下にマッサージをされるのだ。しかも外で。

緊張するなという方が無理な話である。

 

体がガチガチなりながら、ゆっくりとマットの上にうつ伏せになる。

それを見て雪ノ下も俺の横に膝立ちで座る。

 

「それでは始めるわね?」

 

「お、お願いしまする」

 

問いかけに応答をすると、程なくして背中に心地よい重さが伝わってきた。

ぐーっと手の平を押し付けて、背中全体をほぐすようにマッサージがされていく。

ふぁ~、気持ちいいんじゃ~。

程よい力加減に体から力が抜ける。

疲労の塊を的確に揉みほぐしていく手つきは、まさにプロのそれのように感じた。

 

「どうかしら比企谷、痛くない?」

 

「あぁー、大丈夫だ。めちゃくちゃ気持ちいい」

 

「そう、それはよかったわ」

 

「お前マッサージ上手いんだな。経験でもあるのか?」

 

「昔姉さんに嫌というほどさせられたわ。思い出すだけで腹立たしいけれど」

 

「あー、なんとなく想像つくわ」

 

「でも今こうしてあなたに喜んで貰えてるのなら、あの日々は無駄ではなかったのね」

 

そう言って優しく微笑む雪ノ下。

ふん、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。

赤くなった頬を見られないように顔をマットに押し付ける。

あんなストレートな言葉、さすがに恥ずかしいですしおすし。

 

まあだいぶマネージャーらしさも感じられるようになってきたし、これは雪ノ下の勝ちで決まりだろうか。

 

心も体もリラックスして呑気にそんな事を考えていると、背中から手がゆっくりと離れた。

おや、もう終わりか。

少し名残惜しいが疲れはだいぶとれた。

お礼を言おうと開きかけた俺の口は、しかし雪ノ下の言葉によって塞がれた。

 

「それでは比企谷君、次はその……足をマッサージしていくわね?」

 

「…………へ?」

 

一瞬訪れる気まずい沈黙。

 

今、なんとおっしゃったのかな?

足……をマッサージ……揉むだと?

いや、それはさすがにその……

 

「雪ノ下、そこまでやる必要はないんじゃないか?もう十分疲れもとれたし」

 

「ダメよ。やるからには完璧にしたいの。それにあなたは走ってきたのだから一番疲れているのは足に決まっているじゃない。その足の疲れを癒さずして終わりにだなんて私にはできないわ」

 

少し早口に捲し立てるように話す雪ノ下。

 

「お前の言うことは最もなんだが、その……さすがに恥ずかしいというか……」

 

「あら、運動部員の体をマネージャーがマッサージして何か変なことがあるのかしら?それとも比企谷君はこの程度の事で興奮してしまうおサルさんなの?」

 

ぐっ!そ、そんなんことは決してない。

ないのだが……

 

「つべこべ言ってないでさっさと済ませるわよ」

 

そう言って体をぐいっと下に押し付けられる。

あなた、どこからそんな力が。

 

俺はたいした抵抗をすることもできず動きを封じられてしまった。

コクりと小さく息を飲む音が聞こえる。

意を決した雪ノ下がゆっくりと手を伸ばしてきた。

すらりとした五本の指が、俺の足……もとい太股の裏を揉みしだこうとしたその時……

 

「ピッピッピー!雪ノ下先輩そこまでです!!」

 

サッと後ろから現れた一色がナイスなタイミングで止めに入る。

 

突然現れた一色に邪魔されて不満を露にする雪ノ下。

 

「一色さん?私のマッサージはまだ終わっていないのだけれど?」

 

「残念ですが雪ノ下先輩、時間切れです!あと、あまりに過度なボディタッチはルール違反です!」

 

ポケットからイエローカードを取り出してビシッと前に突き出す一色。

それどこから持ってきたんだよ。

 

「ゆきのん!あんまりその、そういうのはよくないと思うな!」

 

そして少し顔を赤らめながらメッとしかる由比ヶ浜。

おやおや純情ですなーガハマさんは。

まあ俺もついさっきまでドキドキしっぱなしだっけど。

 

雪ノ下も二人からNGをもらい、渋々だが引き下がっていった。

 

危ない危ない。

もう少しでちょっとエッチな展開になるところだった。

え?太股触るくらいで何がエッチだって?

バッカお前、だったらちょっとイマジネーション足りてねえよよく考えてみなさい!

主に童貞の気持ちを!

 

 

 

何だかんだとあったがこれで雪ノ下のマネ力披露は終わりのようだ。

 

さて、次は誰が出てくるか……

 

「じゃあ次は私だね!」

 

手を真っ直ぐと挙げ前に進み出る由比ヶ浜。

次はこいつか……

三人の中では一番包容力がありそうだが、果たして何をしてくるか。

 

「由比ヶ浜さん頑張って」

 

「結衣先輩ファイトです!」

 

励ましの言葉が二人から投げ掛けられる。

勝負事とはいえやはり仲のいい女子三人組。

こういうところは見てて素直に好感が持てる。

何故か後ろの二人が少し悪い顔をしている気がしなくもないが、まあ気のせいだろう。

 

「それじゃあヒッキー、悪いんだけどもう一周走ってきてくれない?」

 

「は?嫌だけど、普通にめんどい」

 

「そこをなんとか!お願い!そうしてくれた方が効果てきめんだから!」

 

由比ヶ浜は手を合わせて頭下げる。

 

はあ、仕方がない。

何が効果てきめんなのかは知らんが、頭を下げらたのに断るのは悪い気がする。

それにさっきのマッサージで疲れもだいぶとれたしな。

あと一周くらいどうってことないだろう。

 

「ったくしゃあね。ちょっと待ってろ」

 

「ありがとうヒッキー!」

 

ぱあっと太陽のような笑顔を向けてお礼を言う彼女に見送られながら、俺は校庭を再び走り出した。

 




あと2、3話続きそうです。

更新は出来るだけ早くしようと思いますが、諸事情によりゆっくりになるかもです。

繰り返しになりますが、気長にお付き合い願います。

それでは今日はこの辺で。

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