いろはす短編   作:ちゃんぽんハット

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いろはす短編2作目です!

タイトルほど大したことはしません。暖かい目で見てやってください。

今回は高校2年生の八幡と生徒会長に就任してしばらくたってからのいろはの話です。


なんでもする先輩となんでもしてもらう後輩

昼休み、いつものベストプレイスで購買のパンを食べていると、目の前に我が校の生徒会長こと一色いろはが姿を現した。

腕を組み仁王立ちして不適な笑みを浮かべる様は、まるで主人公を待つライバルキャラのようだった。

なに、今から決闘始まっちゃうの?

主人公はどこの誰だろうか。

……辺りを見渡すと俺以外には誰もいなかった。

 

仕方がない、やるしかないか。

のそりと立ち上がり目の前の一色を睨み付ける。

……しばしの沈黙。

お互いタイミングを計っているようだ。

そして、先に動き出したのは俺だった。

 

体をすっと右にずらしそのまま右向け右をする。

そこから全力ダッシュ!八幡は逃げるを選択した。

フッハッハー!逃げるが勝ちだよ~ん☆

 

しかしそれは、シュバッと伸びてきた一色の手が俺の襟首を掴むことによりなんなく阻止される。

彼女は一歩たりとも動いていない。

 

なん、だと?こいつ、今の動きを完全に見切っていたのか……化け物め!

 

一色は俺をぐいっと引き寄せ、勢いのまま腰に抱き着いてきた。

や、やばい、完全に動きを封じられた!一体何をされるんだ!?

……てかそんなことより近い、すっごく近いし柔らかいしいい匂いするし近いし柔らかいしいい匂いするし。

なにこれどんな状況?

 

突然の行動に頭がパニックになっている俺のことは露知らず、一色はそのまま話し掛けてきた。

 

「せーんぱい、どうして逃げようとするんですかあ?」

 

「へ!?べ、別に逃げようとなんかしてないじょ?これはあれだじょ、戦略的撤退ってやつだじょ」

 

「それを逃げてるってゆーんです。というよりなんですかその語尾普通に気持ち悪いです」

 

ゴミを見るような上目遣いに俺のライフは瞬時に0へと削られる。

それにしてもゴミを見るような上目遣いとはまた新しいですな。流行りそうですね、いや流行らんか。

つーかいいじゃねえかこの語尾、可愛いだろうが。東場強そうだし。あとタコスとか超好きそう。

 

「っておい、いつまで抱き着いてんだ。早く離れろ」

 

「えー、先輩こうして捕まえてないと逃げちゃうじゃないですかー」

 

「逃げないから、逃げないから離して下さいお願いします何でもしますからお願いします早く離して」

 

このまま抱きつかれていてはヤバい。

何がヤバいのかといいうと、それはもう色々とヤバい。

 

すると一色は、腰に回していた手をパッと外し俺から離れた。

 

ふー、なんとか最大の危機から逃れられたぜ。

あぶないあぶない、もう少しで八幡のリー棒が役満リーチをかけちゃうところだったじょ!あ、語尾が治らない。

 

ほのかに残る甘い香りと温もりにいまだドギマギしながらも、なんとか冷静さを取り戻す。

さて、こいつはどういった用件で来たのだろうか。

まさかまた生徒会の雑用ではないだろうな。

俺は役員ではないのに、全く人使いの荒い会長様だこと。

甘やかしすぎって叱られるのは私なのだけれど、ほどほどにしてくれないかしら。

え?誰にって?皆まで言わすな察しろ。

 

理由を尋ねようと振り返ると、そこにはとっても素敵な……もとい悪魔のような笑顔でこちらを見ている女の子がいた。

口が女子高生としてあっちゃいけないくらいつり上がってるだけど、大丈夫、一色さん?

 

「せーんーぱーいー、今何でもするって言いましたね?」

 

……あれ、俺そんなこと言ったっけ?そ、そんな軽々しいことを、エリートぼっちのこの僕が言うわけがないじゃないか!いやバッチリ言ってましたね、はい。

 

「むふふふふー、なんでも……先輩が、な、ん、で、も!してくれるんですかそうですかー」

 

おいちょっとその笑顔やめてくれる。

いつもと違って全然あざとくないんだけど。

それいつものお前を知ってるやつが見たらドン引きするぞ、マジで。

 

「それじゃあー先輩!とりあえず放課後になったら生徒会室に来て下さい!それでは!」

 

ビシッと敬礼をして去っていく一色。

今のはいつも通りあざとかった、ちょっと安心。

 

…………ってそうじゃねえ!

あまりにも予想外の展開に反論するのを忘れてしまった。

ちくしょー、不味いことになったぞ。

これは絶対に面倒なことだ。八幡センサーが警戒音を発している。めちゃくちゃ行きたくねー。

 

よし、逃げよう。

そう心に誓って残りのパンを食べるべく腰を下ろすと、少し遠くまで歩いていた一色がくるりとこちらを振り返った。

 

「あそうだ、もしも逃げたりしたら雪の下先輩に言いつけますからねー。ではではー」

 

そう言ってヒラヒラと手を降り再び歩き出す。

 

言うこと聞いても怒られるし聞かなくても怒られるし、なにこの無理ゲー。

 

ガクリと肩を落としていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

あ、パン食べきれなかった……

 

 

☆☆☆

 

 

そして時は放課後へと移る。

帰りのホームルームが終わると、重たい足を引きずって生徒会室までやって来た。

ちなみに、奉仕部には今日は休むと伝えてある。

理由は適当に風邪ということにしておいた。

嘘をつくのは少々心が痛むが、本当のことを言うと戦場の槍がごとく罵声を浴びせられるのでやむを得ない。

安全第一、争いは起こらないに限る。

争いというか、一方的な蹂躙なんですけどね。

 

これから起こるであろうことにかなりの不安を抱きながらも、生徒会の扉を恐る恐る開ける。

すでに一色が、生徒会長の席に座っていた。

 

「先輩おっそーいー!」

 

「うるせえ、これでも急いだ方だ」

 

「まあいいです。ちゃんと来てくれましたから」

 

「…………あの一色さん、昼休みの発言はなかったことになったりは……」

 

「はあ?何言ってるんですかそんなわけないじゃないですかふざけてるんですか怒りますよ?」

 

「調子乗ってすみませんでした!」

 

地面に頭が付きそうなほど腰を曲げて謝罪する。

いや、今のいろはす怖すぎ。

悪魔なんてもんじゃねえ、こりゃ魔王だ。

逆らったら命は無いだろう。

 

「全く先輩はダメダメですねー。仕方ありません、ここは総武高校の生徒会長兼みんなのアイドルいろはちゃんが、先輩を調きょ……更正してあげちゃいます!」

 

恐ろしい単語が聞こえた気がしたがまあ気のせいだろう。

流石の一色も調教とか言うわけないしな、うん、気のせい気のせい。気のせいじゃねえよちゃんと聞こえたわ。

あと更正もなんか違くない?俺別にヤンキーじゃないんだけど。

 

「それでは先輩、私の肩を揉んで下さい!」

 

「……え、そんなことでいいのか?」

 

「はい!ですから早くお願いします!」

 

なんだ、なんでもとか言うからてっきりもっと凄いことをお願いされるのかと思っていたが、案外楽勝のようだ。

一色意外と優しいのね。

 

「わかった。じゃあその、揉むぞ?」

 

「はい、お願いします。」

 

そう言って一色の後ろに回り込む。

どうでもいいけど、さっきの会話だけ見ると妙にエロく感じますね。もちろん、わざとじゃないですよ?ええ。

 

そっと一色の肩に手を乗せる。

その瞬間彼女は少しだけ肩をピクリと震わせた。小動物みたいでちょっと可愛いなーとか呑気なことを考えながら、強くなり過ぎないよう加減して肩を揉む。

お、意外とこってんなこいつ。

生徒会長というのは、やはり疲労がたまるものなのだろうか。

 

「力加減どうだー?」

 

「ちょうどいいですよー、せんぱい。うぁ~、極楽極楽」

 

「そいつはよかった」

 

「せんぱい肩もみお上手ですね~。あ、そこ気持ちいいです~」

 

「昔から妹にやらされたからな」

 

「な~るほど~、それで上手いんですか。納得です」

 

心底気持ち良さそうにする一色。

体の力が段々と抜けてきている。

この一色はあれだ、小町にそっくりだ。

小町も肩もみをするといつもこのようにダルんダルんになる。

俺の肩もみはそんなに気持ちいいのだろうか?

 

「にしてもお前、結構こってるんだな」

 

「こう見えて、生徒会の仕事は大変ですからね~そりゃ肩の一つや二つくらいこりますよ~」

 

「そうか。お前も頑張ってんだな生徒会。見直したぞ」

 

「なんですか~先輩口説いてるんですか~肩もみされてリラックスしきった後輩につけこんで~さりげなくハートを射止めるつもりですか~肩もみ上手いくらいで調子に乗らないでください~口説くならもう少し肩もみしてからにしてください~ごめんなさい~」

 

力が抜けきっている一色にはいつもの勢いなど全くなく、はっきりと内容が聞こえてしまった。

もう少し肩もんだらオッケーなの?なにそれうっかり惚れちゃいそうなんだけど。

まあ今のはあんまり考えずに言ったのだろうから、気にしないことにしよう。

 

それからしばらく肩もみを続け、俺の手が疲れたので終わることにした。

 

「いやー、ありがとうございました!とっても気持ちよかったです!」

 

「なに気にするな。俺のことは今度からゴッドフィンガーハッチーとでも呼んでくれ」

 

「うわー、それはさすがに痛いです」

 

なんだよ、今のネタ伝わらなかったのか?

コレがジェネレーションギャップってやつか。

いや、伝わったらそれはそれで大問題なんですけどね。

 

「よし、んじゃー俺の役目は終わったことだし帰るわ」

 

「はい先輩!今日は本当にありがとうございました!明日からもまたお願いしますね!」

 

「…………明日からも?あーなんだ、肩もみのことか。毎日って訳にはいかないが、まあたまにならしてやるよ」

 

「肩もみもそうですけどー、他にも色々と!ですよ?」

 

「………………え?」

 

「だって先輩、なんでもするって言ったじゃないですかー」

 

「いや、だからそれはさっき肩もみをすることで終わったんじゃ……」

 

「誰が、お願いは一つだけって言ったんですか?」

 

「……なん、だと?」

 

「へへーん!という訳で、明日からまたよろしくですせーんぱい☆」

 

そう言ってバチコンと音がなりそうなほどあざとくウインクをする。

いや、え、なに?これそういうことなの?言葉のトラップ的な?騙されちゃった感じ?せこい!いろはすせこい!

 

ムフフーと笑う一色とは対照的に、俺はげんなりとして肩を大きく落とした。

クソ、もう二度となんでもするなんて言わない!絶対言わないんだから!

 

「先輩ってばもー、そんな嫌そうな顔しないでくださいよー…………その…………たまにはわたしが…………先輩になんでもしてあげてもいいんですよ?……」

 

少し頬を赤らめながら上目遣いでそう言ってくる一色。え、それは、その、そういうこと?

 

「……マジで?」

 

「……はい。別に先輩が必要ないって言うならしなくてもいいですけ」

 

「よろしくお願いします!」

 

「即答ですか!?」

 

もう先輩の変態!助平!そう言って顔を真っ赤にして罵ってくる一色。

うるせえ、自分が言ってきたんだろうが!

俺は何にも悪くない!

 

とりあえず明日の放課後も生徒会室に来る約束をして、俺は部屋を後にする。

中から「ああー!わたしなんであんな恥ずかしいことをぉぉ!!」と悶える声が聞こえた気がしたが多分気のせいだろう。そうに違いない。

 

 

 

まったく、めんどくさいことになっちまった。今後は自分の発言にもっと責任を持つように気を付けねば。

 

 

 

 

 

 

それにしても……まあ……たまにはこういうのも、案外悪くないのかもしれない。




いかがだったでしょうか。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

この続きなんかもいつか描きたいと思います。

それでは今日はこの辺で。お付き合いありがとうございました。

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