新・外史 銀河英雄伝説   作:山桜

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遅くなって申し訳ない&就活ってキツいね、山桜です。

企業説明会とか人多くてキツいです、でも行きたいところに行くにはこういった活動を頑張らなきゃならないんだよなぁ。

そんなことはさて置いて、どうぞ!


第九話 決闘者と調停者

帝国暦483年(宇宙暦792年)

1月20日

銀河帝国帝都・オーディン

喫茶・シュヴァルツヴァルト

 

-side エーレンフリート-

 

 オフレッサー大将とリューネブルク准将の二人との面会した秋が過ぎ去り、今は新年明けて数日と経っていない。オーディンの街は既に新年気分がすっかり抜けきり、以前と同じ十人十色な生活のリズムが刻まれている。

 

 俺も面会後は領地に戻ったが、陛下への新年のご挨拶と新年を祝うパーティなどでオーディンにとんぼ返りしていた。当初、侯爵家嫡子とはいえ、成人もしていない者が行っても致し方ないと行くつもりではなかった。だがちょうどイゼルローン要塞からラインハルトとキルヒアイスが任務を終えて戻ってきたこともあってオーディンへと舞い戻ったのだった。

 

「そんなパーティなどがようやく終わって今に至るわけだが、問題は山積みだ。仮にラインハルトがリヒテンラーデ侯――銀河帝国の国務尚書。宰相が存在しないフリードリヒ四世の治世において事実上の政治のトップ――と並ぶほどの派閥を持ち得たとしても、軍だけでは数において門閥貴族の私兵に劣る上に内乱が大規模なものになる。それでは国が荒廃するおそれがある」

「ならば荒廃する前に速やかに殲滅すればよいのではないか?」

「ラインハルト、それでは帝国の私兵の大半を占める奴隷たちの犠牲が馬鹿にならない。奴隷階級を廃止しようとしても、そもそも奴隷自体がいなくなってしまえば意味はない。その為にも民を想える貴族が必要になる」

 

 俺はそう言ってテーブルの上に分厚い資料を広げた。これは各貴族についての様々な統計データを記したものであり、人口や富裕層と貧困層の割合などといった本来であれば門外不出のデータ群であった。

 

「これは父上が集めていたものをコピーしたものだ。目安はこれでわかるだろう」

「……やはりほとんどの貴族領では民が貧困に喘いでいるのだな」

「見てくださいラインハルト様。この貴族領には富裕層が少ないにも関わらず、取り立てている税が……」

「酷いものだな」

 

 憤りを感じている目の前の二人に、俺はとあるページを開いた。

 

「吾がベルクヴァイン侯爵家と私的に仲のよい貴族がいる。マリーンドルフ伯爵家とキュンメル男爵家、そしてランズベルク伯爵家の三家だ」

「この三家の領土経営は安定しているようだな」

「それはマリーンドルフ伯爵家は元々民衆寄りの人物で、残りの二家は父上が代行することが多いからだ」

 

 「代行」という言葉にラインハルトの整った眉の片方が上がる。

 ベルクヴァイン侯爵家は“政務顧問”という役職に就いているが領土経営能力、あるいは興味すら持たない貴族たちの領土経営を代行することもある。これによって貴族たちは何もせずに豪遊の限りを尽くせ、父上はその分、民衆のための領土改革に打ち込めていた。ラインハルトたちに見せているこの資料もその際に作られたものだ。

 

「なぜベルクヴァイン侯はそのようなことをするんだ?」

「俺も知らないが……。多分父上は、父上のやり方で帝国を変えたいのかもしれない」

「……ベルクヴァイン侯のやり方、ですか」

 

 俺の推測が正しければ父上のやり方はおそらく、俺やラインハルトが目指すやり方よりもはるかに穏便なやり方だ。この推測には一応、根拠もある。父上は領土経営を代行する貴族たちの子弟に対し、たまにではあるが教育担当も任せられたりしている。彼らへの教育が、後の善政を行う貴族へと成長してくれれば、という目論見があるのではないか。

 当人には言えないがその手腕、そして貴族と渡り合うだけの胆力を持ち合わせている父上を、俺は尊敬していた。それでも違う道を選んだのは、ラインハルトの存在が大きい。彼を担ぎ、そして帝国を土台ごと打ち壊して新たに再建できれば、この帝国はまた息を吹き返す。俺はその夢をラインハルトに託していた。

 

 話はそこから移り変わり、ラインハルトたちの新たな任地の話になった。今の彼らの任地は軍務省、つまりは内地勤務だ。俺としては少なくとも戦死の可能性がなくなっただけにホッとしたが、当の本人は退屈だという。それでも真面目に勤務していたが、物資の横流しという不正の可能性を上申しても相手にされなかったという。

 

「大方、『必要経費だ』だとか『必要悪だ』などと言われたんじゃないか?」

「その通りだ!まったく、早くこの帝国を変えてやらねばならないな!」

 

 思い出してまた腸を煮え繰り返しているラインハルトを見て苦笑する。苦笑してはいるが、俺も同じ想いなのだ。時と共に停滞するものだからといって、そのまま歩を止めれば間違いなく腐敗の道につながる。

 

「それで、その愚痴は先日行ったグリューネワルト伯爵夫人にも言ったのか?たしかヴェストパーレ男爵夫人とシャフハウゼン子爵夫人も一緒だったと聞いているが」

「……そのような言い方をしなくともいいだろう」

 

 ヴェストパーレ男爵夫人――マグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ。男爵家当主――は帝国の男尊女卑の中で気勢の強い人柄で、多くの貴族から睨まれているが欠片も気にしていない辺り、恐ろしく肝の据わった女性である。逆にシャフハウゼン子爵夫人――ドロテーア・フォン・シャフハウゼン。子爵の妻――は元々平民出身で、シャフハウゼン子爵は彼女と結婚するために典礼省などに対して謝礼金や工作金を贈り、財産を半減させたと云われている。

 両者共に平民や奴隷に対して重労働や重税を課すような経営は行っておらず、ベルクヴァイン侯爵家として、両家とは友好関係にあった。特にシャフハウゼン子爵は長年行ってきた鉱山採掘を行っているという話もそこそこ有名であった。ただ現在、この鉱山採掘で一波乱が起こっていたことを俺は知っていた。

 

「そういえばシャフハウゼン子爵といえば、鉱山採掘でヘルクスハイマー伯爵と揉めていたな。たしか、決闘で片をつけるとか」

 

 シャフハウゼン子爵家が事業として投資していた鉱山で天然ハイドロメタルの鉱脈が発掘され、その採掘権を掠めとろうとする盗人根性を隠しもせず、ヘルクスハイマー伯の行いは憤りを感じさせるのに足るものがあった。民事裁判では明らかに敗訴する要因しか持たないヘルクスハイマー伯は、“決闘”という形で決着を望んだ。これは当人同士ではなく、代理人を立てることもできたが、シャフハウゼン子爵側には決闘の代理人など来ないことを、俺は予見していた。

 故に「ああ、そのことだが……」と、どこか言い淀んだラインハルトに嫌な予感がしつつ首を傾げると、その理由をキルヒアイスが説明し始めた。

 

「実はその決闘なんですが、シャフハウゼン子爵の代理人としてラインハルト様が立候補しまして……」

「……は?」

 

 おそるおそるといった語調で紡がれた言葉に思わず耳を疑った。血気盛んなところがあることは幼年学校の頃から重々承知していたが、よもや貴族同士の争いに首を突っ込むほどとは思っていなかったのだ。

 

「おい、どういうつもりだラインハルト?」

「代理人は代わってやらんぞ?」

「いやそうじゃない。お前はヘルクスハイマー伯爵の背後に誰がいるか知っているだろう?」

 

 ヘルクスハイマー伯の背後にはリッテンハイム侯がついており、侯によってシャフハウゼン子爵側に代理人が来ないように図られていた。ならば父上が介入すれば、この決闘騒ぎを穏便に片づけられると踏んでいた。

 

(それがまさか、ラインハルトが代理人となるとは。内地勤務で鬱憤を晴らしたいんだろう)

 

 何故止めなかった、とキルヒアイスをぎろりと睨むが、当人の眼は私は止めたのですが、とばかりに意気消沈しており、俺は嘆息するしかなかった。

 

「知っている。だが俺は勝ち続けるとお前たちと約束したのだ。ここでも勝ってみせる」

「無理に戦いに挑む必要は皆無なんだが」

 

 平時に乱を起こさないだけマシだが、火種を見れば薪を焚べて火を放つような男だ。もう止めても無駄だ、と俺はとにかくラインハルトが生きて 帰ってくるようにとまた願う羽目となった。

 

◇ ◇ ◇

 

同年

1月25日

銀河帝国帝都・オーディン郊外

決闘場

 

 決闘当日。

 会場は楕円形のスタジアムのような形である。観客席はそれほど多くは収容できないが、これは一定階級以上の貴族か有力者しか入ることを許されない場所であるからだ。俺が座っている席はキルヒアイスのいる介添人席ではなく、観客席である。理由は言うまでもないが、それならばここに来ないほうがいい。だがそれでも来たのは心配でならないことも言うまでもないことだろう。観衆は熱気に包まれていた。一割がシャフハウゼン子爵の応援を、四割がリッテンハイム侯爵側の人間で、残りはこの決闘の勝者が誰かという賭けをしている、いわば野次馬である。

 一言文句を言ってやってもよかったが正直、ラインハルトのせいで胃痛が酷くてそれどころじゃない。この上ここで死なれると今までの全てが無駄になる。そう思うだけで頭がくらくらする。

 

故に、一計を案じさせてもらった。

 

 シャフハウゼン子爵家の代理決闘者であるラインハルトと、ヘルクスハイマー伯爵家の代理決闘者の黒マントの男が背中合わせの位置につく。

 今回の決闘のルールは簡単。互いに弱装弾ーー意図的に貫通力を抑えた銃弾ーーを込めた旧式火薬銃を二挺持ち、先に相手を決闘不能状態にしたほうが勝利となる。この時身体のどこを狙ってもいいが、貴族間の常識として決闘相手を殺害することは罪にはならないが、嘲笑に値される行為であり、たとえ代理人の手腕によるものであろうと関係はない。よって頭部や胴体部分ではなく手足部分を狙うのが普通であり、決闘不能とするには銃を持つ利き腕やそれを支える肩などを狙う。

 だが相手はリッテンハイム侯爵家という虎の威を借るヘルクスハイマー伯爵家である。ヘルクスハイマー伯の代理人は明らかに表の人間ではなく、殺し屋の類だ。改めて一計を案じておいてよかったと安堵した半面、いつこの計が成るかがわからず、未だに緊張感は拭えない。

 決闘が始まる。Ein《アイン》・Zwei《ツヴァイ》・Drei《ドライ》と主審の口から数が数えられるごとに、一歩一歩お互いに離れていく。射撃練習を行った後に話した時は不安の色はなく、堂々と勝ってみせると言ってみせていたが、俺には不安の要素ばかりである。

 そんな俺の不安をよそに、ついにZhen《ツェーン》の声が合図となって彼らは互いに振り返った。男は慣れたようにパッと振り返ってみせてすぐさま銃を構えた。だがラインハルトは横に飛び、転がりながらも撃った。これは相手が被る帽子を掠めて当たりはしなかった。意表を突かれた男は受け身をとって転がるラインハルトを撃つがこれも当たらない。ラインハルトは起き上がると、先ほどコルネリアス・ルッツという帝国軍少佐に教わったという、左腕で銃を撃つ右手を支える撃ち方で狙いを定める。男も外れたと分かるやいなやすぐさまもう一挺の銃で狙いを定めた。

 二発の銃声が鳴り響いた。数瞬早く撃ったラインハルトの銃弾は男の右肩を、それに遅れて男の銃弾はラインハルトの左腕に当たった。

 

「当たった!?」

 

 思わず叫んでしまい、ハッとなって周囲を見回したが訝しむ者はいなかった。いや訝しむような暇な者はいなかった。皆この決闘がラインハルトの勝利であることを、この時理解したからだ。

 ラインハルトが勝った!と歓喜したが、すぐさまラインハルトの怪我は大丈夫だろうか……?と不安になってきた。遠目からでは傷の具合までは見えないが、旧式の火薬銃ではそう深い傷ではないはず。それを理解していながら、この目で、耳でその事実を聞かないことには納得できなかった。

 介添人として負傷の応急手当をしているキルヒアイスはこちらをちらりと見て頷いた。それを見て、俺は胸をなでおろして尻餅をつくように座った。案じておいた一計は無駄になりそうだが、これでなんとか終わった。

そう思った矢先だった。

 

「待ったぁ!」

 

 突如黒いマント靡かせ、男は決闘場に大音声を響かせた。

 

「剣による立ち会いを所望!」

 

 男の言葉が観衆の耳朶を震わせた瞬間、冷めかけていた観衆の熱気が決闘場全体を再度包み込んだ。

 火薬銃での決闘で結果に不服である時、これに異を唱えて剣での決闘を主審に願い出ることができる。この場合の勝ち負けは先ほどと同じルールであるが、普通、決闘に負けたということは、利き腕を負傷しているということである。この期に及んでそのような不利な状況で剣での決闘を挑む者はほとんどおらず、大抵は銃での決闘で決着するはずであった。

 

(まさか剣での決闘に入るとは、なにがなんでも殺す気か……!)

 

 この場からでは手出しはできない。だがこの時、俺の一計がついに花開いたのだ。

 

「双方、控えよ」

 

 主審の後ろから一人の男が現れた。肥満体型に後退の始まっている髪、しかし威厳と風格を伴った顔立ち。その男の姿を双眸に認めた瞬間、決闘場は静寂に包まれた。男の正体を知らないラインハルトとキルヒアイスは何事かと辺りを見回していた。

 

「この決闘、そして天然ハイドロメタルの鉱脈の採掘権は、皇帝陛下の命によりシャフハウゼン子爵家のものとする。これ以上の闘技は不要である」

「なっ……!?」

「そんな……!?」

 

 男の口から出た言葉に、貴族たちは言葉を失った。だが男が言う以上は事実であろう。何故なら男は国務尚書リヒテンラーデ侯と同じく、皇帝陛下の信任厚き男であるから。しかし、その言葉は俺の待っていたものとはいささか違っていた。

 

「待ってくれ!そのようなことは認められん!この決闘の規定は、ルドルフ大帝陛下がお決めになったものである!如何に皇帝陛下の命であろうと、そう簡単に頷けるわけがなかろう!」

 

 ヘルクスハイマー伯がVIP席から決闘場に躍り出て喚き散らすが、男は表情をぴくりとも変えなかった。

 

「ではそのルドルフ大帝陛下がお決めになった法によって、民事裁判で決着されるのはいかがか?尤も、そんな公明正大な真似が出来ぬからこのようなことをしているのだろうがな。それに、“神聖にして不可侵”たる皇帝陛下がそのように仰せ奉られたのである。卿がそれを認められぬのであれば、私は帝国の藩屏として卿を反乱分子としてこの場で処刑せねばならぬ。ここは控えたほうが身の為だ」

 

男は澄ました顔でそう宣うとヘルクスハイマー伯を退かせ、観衆に聞こえるように声を張り上げた。

 

「お集まりいただいた諸君!卿らには申し訳ないが、決闘の結果如何に関わらず、この場は神聖にして不可侵なる皇帝フリードリヒ四世陛下の名の下に、この場は解散とする!」

 

そこには俺の一計にしてーー部分的に予定外であるがーー、吾が父である“ベルクヴァイン侯爵クラウディウス”が堂々と場を制していた。




いかがでしたか?

書き終わってから伏線とかいろんなものを放り出していたことに気づいた今日この頃。あたしって、ほんとバカ。こうなったらエーレンフリート君に苦労してもらうしかないね(他人事)

弁当作り大好きさん、評価ありがとうございます!ついででいいから感想もオナシャス!
そしてついにお気に入り数が300を超えました!ひとえに皆様のお陰です!

さて次回は就活とか説明会とかあるんで来週までに投稿できるかわかりません。再来週(3月17日)までに2話くらいは上げたいんですが、どうなるか本当にわからんとです。申し訳ありません!

次回“新・外史 銀河英雄伝説”第一〇話

主従と友と

守るべきものは、誇りか、夢か、それとも愛か。

18/5/11付追記
お久しぶりです、山桜です。
九話をお披露目して既に二年と二ヶ月が経ちました。
本当に申し訳ないです。
読者の韓信さんより「はよ書け(うがった解釈)」と言われましたので、今月中にはあげたいなぁと思っています。
こんな作者でもよければ、どうかお付き合いくださいませ。

P.S.
新作の銀英伝?初見の方にはいいんじゃないですかね。
OVAを見た後だとやれあれが違う、ここのセリフがない、とか不満たらたらになる方が多いと思われます。
私も本編の最初のラインハルトとキルヒアイスのセリフで
金髪「何事にも動じず、いつも同じ場所で瞬き続け私たちを見守ってくれている」
赤髪「はい。あの星々に比べれば、我々の戦いは小さなものなのかもしれません」
という個人的に好きなセリフがないやん!となったので、気持ちはわかります。
ですが、やっぱり原作がいいのでお話としては面白いです。毛嫌いせずに視聴者が増えてファンが増えれば、私もファンの端くれとして大変嬉しく思います。

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