新・外史 銀河英雄伝説   作:山桜

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よろしい、本懐である。

おはこんにちこんばんは、山桜です。

この一週間はいろんな意味で怒涛のような一週間でした。ランキングに入っているのを見てしばらく放心状態でした。そして次には、「あ、ドッキリかなにかかな?」とか考えていました。応援してくださった皆さん、申し訳ありません。

さて今回ですが、友人からのアドバイスを頼りに書き方を少し変えてみました。読みやすくなっていれば幸いです。

それではどうぞ!


第五話 二人と一人の邂逅

 帝国暦四七九年、宇宙暦七八八年。

 一〇数年後に、一五〇年以上にも及んだ自由惑星同盟と銀河帝国との戦争に終止符が打たれることになるのだが、この時期の人々は誰一人、そのような予兆を感じ取ってはいなかった。しかし後世の人々の目から見れば、この年にこそ、その予兆とも言うべき二つの事象が人類史に刻まれているようにしか見えなかった。

 

 その二つの事象とは、同盟と帝国のそれぞれで起こっていた。

 ヤン・ウェンリーとローラン・ルクレールの二人による『エル・ファシル脱出行』と、ラインハルト・フォン・ローエングラム――当時はラインハルト・フォン・ミューゼル――とその親友であるジークフリード・キルヒアイスの二人が、当時帝国の門閥貴族だったエーレンフリート・フォン・ベルクヴァインとの邂逅を果たした『学び舎の友誼』である。

 

 後に故事にもなるこの『学び舎の友誼』によって、ラインハルト・フォン・ローエングラムは誰もが認める神聖にして不可侵の皇帝へと君臨するための覇道を歩むことになる。

 

◇ ◇ ◇

 

帝国暦477年(宇宙暦786年)

12月14日

銀河帝国帝都・オーディン

国立幼年学校

 

-side エーレンフリート-

 

 俺の鼓動の高鳴りはようやく落ち着いてきたが、徹夜で作業を行っていたせいか、先ほどとは別種の高揚感のようなものを感じる。ついに完成した机上の書類をまとめていると、学生寮を照らす朝日に目が眩みそうになった。

 

「これで完成だ」

 

 心中のみならず、声に出していたその一言には吾ながら万感の想いが込められていたと実感した。この書類には父であり、ベルクヴァイン侯爵家当主であり、“政務顧問”という俗な言い方で喩えれば“帝国政務の御意見番”のような役目に就いている、クラウディウス・フォン・ベルクヴァインから常々聞いていた帝国の闇の一端と自分なりにまとめた改革案が記されている。といっても、改革案自体は一〇枚くらいであるし、闇の一端をまとめただけでも手を大きく広げなければ持てないほど分厚い紙の束になるのだから帝国の腐敗具合は相当のものだろう。

 俺はこれを手土産に、とある人物に会おうというのだ。その人物は野心に溢れ、俺にはない大器と才気に満ち満ちている。

 

――あの人物にならこの帝国の未来を託せる。

 

 俺は本気でそう確信していた。確信した理由というのは昨日の晩にあった。

 

◇ ◇ ◇

 

昨夜

帝都オーディン・裏通り

 

 幼年学校の休日は外出の許可が出る日でもあり、それもあって生徒である貴族の子弟や上流市民の息子などを問わず、歓迎される日である。しかしこの日の俺はそんな休日を満喫することは叶わず、父から頼まれたおつかいを済ませることに費やしていた。幼年学校の門限は厳しいが門閥貴族には甘い。だからといって堂々と遅れるほど恥知らずではないと自負している俺は、近道になる裏通りを走っていた。一二月も中頃となるとオーディンには雪が降り積もるが、表通りと違い、裏通りはなかなか整備されない。そんな道を俺はざくざくと踏みしめ走っていた。

偶然だった。

 幼年学校の近くにある公園に差し掛かった。ここまで来れば間に合うだろう、と残りの道のりを歩いて行こうとした時に、なんとなく公園内に目を向けた。

 その公園には銀河帝国を興した大帝ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの像が建てられており、その近くに二人の少年がなにやら話しているようだった。歳は二人とも俺と同じくらいだが、街灯の明かりによって煌めくその金髪と赤毛の二人少年に、俺は見覚えがあった。

 

(たしか……。そう、金髪のほうが“ラインハルト・フォン・ミューゼル”で、赤毛のほうが“ジークフリード・キルヒアイス”であったか)

 

 二人は学校では有名な存在だった。ミューゼルの姉が皇帝の寵姫となり、後宮へ納められたことがその知名度の理由だったが、帝国騎士《ライスリヒッター》という貴族の中でも底辺の家の息子であるミューゼルは、門閥貴族相手でも物怖じ一つしないということが、良くも悪くも名を上げることにつながっていた。そしてそれに付き従うキルヒアイスも同様だった。

 もう一つ付け加えるなら、ミューゼルは“絶世の”と文頭に付けてもいいくらいの美男子であったことも理由の一つと言えた。日光を頭部に巻きつけたような華麗な黄金の髪、氷に閉ざされた青玉《サファイア》を思わせるような蒼氷色《アイス・ブルー》の瞳の持ち主であるミューゼルは、皇帝の寵姫やその門閥貴族を恐れぬ豪胆さを除いても、十二分に目立つ存在だったのだ。キルヒアイスもミューゼルほどではないが、燃えたつような赤毛に人のよさがにじみ出たような優しげな顔だちは充分に秀でた容姿の所有者であった。

 

(そんな二人が、ここで一体なにを……?)

 

 興味惹かれた俺は、彼らの話が聞こえる位置までそっと近づいていった。

 

「――こう考えたことはないか、キルヒアイス?ゴールデンバウム王朝は人類の発生とともに存在してきたわけじゃない。あのルドルフがつくってからたかが五〇〇年だ」

 

 聞こえてきた会話は、明らかな帝国への叛意と取れる言動だった。だが帝国の藩屏たる侯爵家の嫡子である俺は、面前に立ってこれを糾弾しようとは思わなかった。俺個人としても、思うところは多々あったからだ。

 一五〇年以上も続く自由惑星同盟と名乗る叛乱軍と銀河帝国の戦いは、双方の国力消耗を強いられ、泥沼と化していた。これによって最も苦しい思いをしてきたのは他でもない民衆だった。

 銀河帝国が興る前の、人類を導く国家が銀河連邦という名であった頃、四〇〇〇億人いた人々は帝国が興ってからその十分の一ほどの四〇〇億人にまで減っているという、とある学者が出した統計は既に知られている事実である。この民衆も、帝国領内では平民と奴隷とに分けられるが、奴隷の扱いは酷いものだった。人として扱われていないことは明白であり、待遇がよいところも何千とある貴族領の中でもほんのひと握りだ。

 俺はそんな帝国を変えたかった。それこそゴールデンバウム王朝を打倒してでも。

 そのような想いもあって、この同年代らしき金髪の少年と赤毛の少年の話を俺は聞き入っていた。

 

「その前は皇帝などおらず、ゴールデンバウム家もただの一市民に過ぎなかったってことだ。もともとルドルフは成り上がりの野心家に過ぎなかった。それが神聖不可侵の皇帝などになりおおせたんだ」

「ラインハルト様……」

 

 俺の鼓動は高まっていく。先ほど走ったせいではない。これはミューゼルのせいだ。ミューゼルの言葉に俺は興奮を隠せなかったのだ。ラインハルトはキルヒアイスの双眸を見つめて言った。

 

「ルドルフに可能だったことが、おれに不可能だと思うか?」

 

 キルヒアイスは周囲をたしかめるように見渡した。

 

「大丈夫、他に誰もいない」

「ラインハルト様、そのようなことを口にされては……」

「大丈夫だ。キルヒアイス、お前だけだ。

――どうだ、不可能だと思うか?」

 

 ミューゼルは立ち上がってキルヒアイスに再度問いかけ、手を差し出した。

 

「一緒に来い、キルヒアイス。二人で宇宙を手に入れるんだ」

 

 俺は無意識に生唾を飲み込み、彼らに見入っていた。キルヒアイスはゆっくりとミューゼルの手を取って立ち上がった。

 

「宇宙を、手にお入れください。ラインハルト様。

……そして――」

 

 そこから続く言葉が何かはわからなかったが、とにかく俺の身体はかつてないほどの熱を持った。ラインハルト・フォン・ミューゼル、彼ならやれるかもしれない。俺はほとんど直感だったがそのように感じ取った。

 

◇ ◇ ◇

 

現在

帝都オーディン・幼年学校

 

 それからそう帰ったかは憶えていない。帰ってからすぐに俺は机に向かった。ミューゼルを頂点とした、新しい銀河帝国。その構想を練り上げ、キルヒアイスのように彼の傍に加えて欲しかった。一晩中資料とにらめっこをして書いては捨てを繰り返して考え続け、ようやくそれができあがった。それを持って放課後、俺はミューゼルたちの部屋を訪ねた。

 

「なんの用だ?」

 

 傲岸不遜といった面持ちでミューゼルは椅子に座っていた。キルヒアイスも侍従のように傍らに侍っている。

 

「単刀直入に話させてもらおう。昨夜、公園で二人がしていた話を聞いたのだ」

 

 そう言った瞬間、2人は一瞬だけ驚いたような顔つきになった。しかしその表情が消えると今度は訝しげな表情に変わった。

 

「あれを聞いて何故おれたちのところへ来た?」

 

 どうやら告げ口をせずにここへ来たことが理解できないらしかった。キルヒアイスも困惑した表情を隠さない。貴族を目の敵にしている二人からすれば、俺も腐敗した貴族も同レベルだと思われていたようだ。

 

「これを見てくれ」

 

 俺は一晩中書き殴った紙の束を彼らに渡した。おもむろに受け取り、ミューゼルは読み始める。キルヒアイスはこちらをじっと見つめている。見張られているようだ。ひとしきり読んだ様子のミューゼルは目を点にした状態で顔を上げた。

 

「これはどういうことだ?」

「どうと言われても、見たままだ」

 

 ミューゼルは紙をキルヒアイスに渡した。すると程なくしてキルヒアイスも最初とは違うベクトルで困惑した顔になった。

 改革案にはミューゼルを皇帝、キルヒアイスを副帝として、軍務尚書や内務尚書といった文官や統帥本部総長や司令長官などの武官の内情、帝国全土の内情や改革案などが書かれてある。これは“政務顧問”と呼ばれる役職に従事している父上が手に入れた情報の一端が含まれている。

 “政務顧問”を改めて説明すると、政務における助言や諫言を行う役職であり、顧問である以上決定権はないが帝国政府に対する発言力と影響力を持っていた。他にも領土経営が行き詰まった貴族に対しての助言や、貴族間の財産や利権関係といった揉め事に対する仲裁を頼まれることも多い。

 そのため多くの貴族たちから全幅の信頼を受けており、父上が支配するベルクヴァイン領を中心とした平民や奴隷階級の者たちからも慕われていた。なにせ父上は奴隷の解放や平民の利権拡大などを行いつつも、貴族の収入も増やすという神業のような領土改革をことごとく成功させてきたのだ。

 父上が当世一の政務家であることは誰の目にも疑いなく、その手腕により、大貴族であるブラウンシュバイク公爵やリッテンハイム侯爵、そして国務尚書であるリヒテンラーデ侯爵からの信頼も厚く、“困ったときはベルクヴァイン侯爵に聴け”と言われるほどだった。

 彼らからすれば、そのような卓越した政務家の嫡子が目前におり、しかもゴールデンバウム王朝を打倒するための材料を提供しているのだ。驚くのも仕方ないと、内心苦笑した。

 

「俺はこの帝国を変えたいと常々思ってきた。ゆくゆくは父上のような政務家となって、帝国を内側から変えていきたいと。幼年学校に入ったのも志を同じくする者がおれば、ともに来てほしいと思ったからだ」

 

 二人は黙って俺を見ていた。

 

「しかしここの生徒は、やれあの奴隷を弄んだぞやれあの平民の妻を奪ったなど、虫唾の走るような屑が多すぎる!帝国という家の土台が完全に腐りきっていると痛感したのだ。ゴールデンバウム王朝という土台が。こんな腐った土台は一度完膚なきまでに叩き壊すしかない。だがそれは叛乱を起こすことと同義であり、叛乱となると戦うことになる。俺には戦争の才能がない。俺ではどうしようもできぬのだ

……そんな時にお前たちの話を聞いた」

 

 俺はミューゼルとキルヒアイスの二人を交互に見つめ、頭を下げた。

 

「どうか、お前の覇業を手伝わせてくれ。お前になら、いやお前にしかこの覇業は成し得ない」

「……ここに入学してまだ一年も経っていない。その上、お前の言葉から察すればのにそんなことがわかるのか?」

「わかる。お前には天賦の才がある。誰にもないような、宇宙を手に入れられるような無尽の才が」

 

 頭を上げてミューゼルを見た。その顔には驚いたような顔はなく、覇者の持つ覇気のようなものが現れていた。

 

「おれの覇業、か……」

 

 ミューゼルがぼそりと呟いた。頬がやや紅潮しているように見える。立ち上がって俺に手を差し出した。まるで昨夜の出来事のように。

 

「おれにできるか、ルドルフと同じことが」

 

 俺は昨夜のキルヒアイスと同じようにその手を取った。

 

「お前なら、ルドルフを超えることができる

――ラインハルト・フォン・ミューゼルになら、必ず」

 

 俺はこの日を、この時の光景を、生涯忘れることはないだろう。学生寮の一室で夕陽が傾いていく。俺が顔を上げれば、その夕陽が覇者となろうとする新たな友に後光のように差し込んでいた。




いかがでしたか?

本作を新たに評価して下さった
neko1031さん、syu_satouさん、ホシノブさん、ケモノさん、カリームさん、黙阿弥さん
評価していただき、ありがとうございます!ついでに一言でいいので感想をいただけると作者は悶え喜びますので、そちらもよろしくです!これだけたくさんの方に応援していただくと下手なものは書けませんね、気合が入ります!

次の投稿も1週間以内(2月11日木曜まで)にしますので、お楽しみに!
※遅れて申し訳ないです!できるだけ早めに上げるんでもう少しお待ちください!(2月12日付)

次回、第六話 白銀の谷、その裏で

友よ、憶えているか、あの戦いの日々を。

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