“まがいもの”の第四真祖   作:矢野優斗

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戦王の使者XII

 霊的能力を有する子供というのは、幼い頃よりしばしば実の両親から疎まれ虐待の憂き目をみることがある。それは別段珍しい話ではなく、事実獅子王機関の攻魔師にも数多くそういった過去を持つ者がいる。

 煌坂紗矢華もまた、その多くの一人だった。

 紗矢華の唯一の肉親である父親は、彼女を頻繁に虐待していた。その父親は紗矢華が小学生になる前に死亡し、彼女自身は獅子王機関に引き取られた。

 父親から恒常的に暴力を振るわれていた紗矢華。しかし最初から暴力を振るわれていたわけではなかったはずだ。紗矢華も、確かに望まれてこの世に生を授かったはずなのだから。

 産んでくれた母親がいた。まだ優しかった父親がいた。霊能力の存在を知られていなかった時はまだ愛されていたはずだ。しかしそれはあまりにも幼く物心つく前だったため、紗矢華はその頃のことを殆ど覚えていない。

 だが記憶になくとも心が覚えている。あの優しく温かい声音を、温もりを。心の奥深くに染み込んだ親の情愛を、彼女の心は忘れることができなかった。

 

 

 ▼

 

 

 ゆさゆさと揺られる感覚と柔らかな温もりに煌坂紗矢華の意識はゆっくりと浮上を始める。あまり馴染みがない感覚であり、意識が茫洋としているのもあって紗矢華は自分が誰かに背負われていることに気づくのが遅れた。

 一体誰が、と薄く瞼を開くと飛び込んできたのは男の横顔。ここ最近で見慣れた雪菜の監視対象である第四真祖、暁古城が紗矢華を背負って歩いていた。

 男に背負われているという事実を認識した途端、一瞬恐怖に支配されかけるが体は特に強張ることもなく、それどころかこのままずっと背負われていたいという欲求が湧き上がる。この大きく広い背中に身を預けていたいと思ってしまった。

 そんな思考をしている自分に紗矢華は大いに驚き、動揺する。今までなら問答無用で突き飛ばし、有無を言わさず斬りかかっていたことだろう。だが今の紗矢華にそんな気は微塵もなかった。

 どうしてそんな思いを抱くのか。紗矢華は自分自身がよく分からなくなった。ただ、今はこのまま背負われていたい。そう思ったのだった。

 だがその思いも、改めて古城の横顔を見直したことで吹き飛んだ。

 死人のように白い顔色。瞳は焦点を結んでおらず、光すら灯っていない。呼吸は荒く、よく見れば足取りも酷く覚束ない。紗矢華を背負っていることを加味したとしてもあまりにも不安定が過ぎる。

 明らかに正常な状態を逸した古城に、紗矢華が悲鳴にも近い声を上げた。

 

「どうしたの!?暁古城!?」

 

「ん、ああ。目が覚めたのか、煌坂……」

 

 耳元で叫ばれたというのに古城の反応は薄い。まるで遥か彼方から聞こえてきた声に応えるような鈍さだ。

 古城は弱々しげな笑みを浮かべながら、少し申し訳なさそうに言う。

 

「悪いな、煌坂。緊急事態とはいえ勝手に背負ったりして」

 

「そんなことどうでもいいわよ。それより、何よその顔は?今にも死にそうなんだけど!?」

 

「ああ、これか……」

 

 問われた古城は少し言い辛そうに顔を背けながら口を開く。

 

「どうやら少し無茶をしすぎたらしい。いくら死んでも蘇るって言っても、こうも短時間に三回も死んだのはまずかったみたいだ」

 

「三回……?」

 

 古城の死亡回数に紗矢華は首を傾げる。彼女の記憶している限りでは、古城が死んだのは学園での二回だけ。ガルドシュに胸を撃たれた時と、ヴァトラーの横槍で眷獣が暴走した時の二回だ。それ以外で古城が命を落とす要因など──

 

「あ、まさか……」

 

 あった。もう一つ、古城が死ぬ要因に紗矢華は非常に心当たりがあった。

 女王ナラクヴェーラからの爆撃を受けた時、紗矢華は小型ナラクヴェーラのレーザーやら斬撃を防ぐことで手一杯だった。そのため襲い来る爆発や爆風から身を守ることができなかったはずだ。

 しかし紗矢華の肉体は五体満足、多少打撲やら擦り傷がある程度だ。それは偏に、古城が彼女を庇ったがためである。

 爆弾が爆発した瞬間、古城は紗矢華を覆い被さるように庇っていた。そのおかげで紗矢華は直接的な爆発を受けることなく済んだ。更に言えば落下の衝撃も古城が下敷きになることで防がれた。今紗矢華がほぼ無傷でいられるのは全て古城が身を呈して守ったからなのだ。

 その代償として、古城は本日三度目の死を味わった。そしていつものように復活を遂げたわけだが、その状態が芳しくなかった。

 意識は定まらず、常に体が怠さを訴えてくる。気を抜けば膝から崩れてしまいそうな程の精神的な疲労。肉体も一応活動はできているが、完全回復に至る程の余裕がないのか太刀傷や肩の傷は未だ完治していない。

 満身創痍を体現したような状態で、しかし古城は休むこともなく歩みを進めている。まるでなにかに取り憑かれたかのように、死に体の体に鞭を打ちただただ上を目指して。

 ──異常。

 古城の精神状態を表すのにこれ以上の言葉はないだろう。普通の精神性ならば折れていて然るべきであろうに、古城はその両足を以ってして瓦礫を踏み越え、只管に地上へと続く道を歩んでいる。普通の学生には到底真似できないことだ。

 理解できない。何がそこまで古城を駆り立てるのか、紗矢華には全く分からなかった。だから、思わず口に出して訊いてしまう。

 

「どうして……そんなボロボロになってまで戦うのよ……」

 

「…………」

 

 無言で古城が徐に歩みを止め、視線だけで紗矢華の表情を窺う。紗矢華は痛ましげな表情で古城をじっと見つめていた。男と息がかかる程の距離にいるというのに、彼女に恐怖の類はない。

 古城はゆっくりと天井を振り仰ぎ、儚げな笑みを湛えて答える。

 

「護らないといけないんだ。何一つ失うことなく、その時が来るまで。俺は折れることも逃げることも許されない」

 

 紗矢華への答えであるはずなのに、その言葉はまるで自身に向けられた独白のようだった。

 ぼんやりと灰色の天井を見上げる古城に、紗矢華は言い知れぬ不安を覚えた。

 ふとした拍子に、この男は消えてしまいそうな儚さがある。この背中も、温もりも、全てが夢だったと、自分たちの前から居なくなってしまいそうな気がしてならなかった。

 根拠もなにもないが、強ち的外れではないと紗矢華は確信していた。だからこそ、彼女はより古城と密着するように腕に力を込める。

 

「ダメよ、そんなの絶対ダメだから」

 

「煌坂……?」

 

 紗矢華の行動に古城は少し驚いたように目を瞬かせる。男嫌いの彼女が自分から密着してきたことに驚いているのだ。

 

「あなたが居なくなったら、雪菜が悲しむわ。そんなの絶対に許さないんだからね!」

 

「別にいなくなるなんて言ってないんだけどなぁ……」

 

 そう呟く古城だが、内心では驚愕していた。

 確かに居なくなる的なニュアンスを含んだ言い回しであったかもしれないが、ここまで的確に指摘されたのは初めてだった。故に笑みの下に隠していた本音が出そうになってしまった。

 そこへまるで狙ったかのような囁きが聞こえてくる。

 

「──私も、あなたがいなくなるのは、嫌よ……」

 

 紗矢華本人としては無意識の呟きだったのだろう。しかし耳元でそんなことを言われた古城としては堪ったものではない。

 今までずっと笑顔でひた隠し押し殺してきた本音が洩れそうになる。

 誰にも話せず、一人罪悪感に耐えていた心が緩みそうになる。

 違う、と古城は自身に言い聞かせる。紗矢華の言葉は暁古城に向けられたものであって、“まがいもの”に向けられたものではない。

 勘違いするな。己が“まがいもの”であることを忘れるな。古城は自身に何度も言い聞かせた。そうしなければ気が狂ってしまいそうだったから。

 だが、一度崩れかけた楼閣は容易く崩壊してしまうものだ。

 ほろりと、虚ろな古城の瞳から一粒の雫が零れ落ちた。

 

「──え?」

 

 声を洩らしたのはどちらだったのか。次の瞬間には、古城は膝から崩れ落ちて冷たい床の上に倒れ伏していた。背負われていた紗矢華も一緒に倒れ込む形となったが、そんなことよりも彼女にとっては古城の心配が先だった。

 

「ちょっと、どうしたのよ?なにがあったの?暁古城!」

 

 必死に呼び掛ける紗矢華の声に、しかし古城からの返事はない。完全に意識を失っているようだ。それも致し方ないだろう。

 本来ならば落下した場所から一歩も動けない状態であった。ここまで歩いて来れたのは偏にその異常な精神性が意識を繋ぎ留めていたからだ。しかしその精神に綻びが生じてしまった。

 生まれた綻びは古城の意識を手放す要因となってしまった。図らずして、紗矢華は古城の心を軽く折ってしまったのだ。

 だが紗矢華にはそんなこと分かるはずもなく、彼女は古城の体に異常がないか触診する。

 

「体の至る所がボロボロ。内臓も、幾つか潰れてる。多分落ちた時ね。どうしてこんな状態で歩けたのよ……」

 

 呆れと驚愕を交えた相を浮かべる紗矢華。こんなボロボロな状態で背負われていたと思うと、途端に申し訳なくなる。

 

「こんな場所じゃ治療なんてできないし、鍼でもこれじゃ手の施しようがない……」

 

 獅子王機関の舞威媛は呪詛と暗殺を生業としている。故に人体構造には非常に精通しており、そこから派生して鍼による治療などもできるのだが、さすがに内臓の再生はでき得ない。

 そもそもがどうして再生しないのか。学園では一分と置かず蘇っていたはずだ。眷獣が暴走した時も、多少時間は要したが尋常ならざる速度で回復していた。

 だがしかし、今の古城からは再生する気配がない。文字通りの瀕死体だ。

 可能性としては古城自身が述べていた。短時間に死にすぎたこと。恐らくこれが原因だろう。

 第四真祖は不死の呪いを受けている。死にたくとも死ねない体なのだ。

 だがそれにも限度はある。死ねば精神的なダメージは残るし、復活の際には魔力を消費する。連続で死ねば復活に掛かる時間も増加するだろう。

 不死の呪いはあくまで不死であって即復活の能力ではないのだ。

 古城の再生が始まらないのは一時的な魔力枯渇が原因だ。ならば、外部から魔力を得ることができれば問題ない。普通の人間にはそんなこと不可能だが、吸血鬼である古城には外部から魔力を得る方法がある。

 吸血行為による魔力補給。吸血鬼は他人の血に蓄えられた魔力を己のものにすることができる。つまり吸血して魔力を回復させることができるのだ。

 だがそれには問題が二つある。一つは吸血する相手。これに関しては、緊急事態ということで紗矢華が務める他ないだろう。

 問題は二つ目。古城に意識がないことだ。

 古城に意識がないのでは吸血行為に及べない。魔力の回復も肉体の再生も不可能だ。だからどうにか古城に意識を取り戻してもらわないと困るのだが、心身ともにズタボロの古城が目を覚ます気配は一向にない。

 他に手段はないのかと紗矢華は模索して、ふと思い出す。

 吸血鬼の吸血衝動というのは性欲、性的興奮が引き金(トリガー)となって引き起こされるものだというのを耳にしたことがあった。ならば、外部から強引にでも刺激を与えれば意識がなくとも血を求める本能が目覚めるのではないのか。

 確証はないが、今は時間が惜しい。現に古城が倒れてから上のほうから伝わってくる振動が大きくなっている。恐らくいなくなった古城と紗矢華の代わりに誰かが戦っているのだ。加減も配慮も知らんとばかりに勝手気儘に。

 そんなことをする人物に、紗矢華は一人しか心当たりがない。間違いなく、今ナラクヴェーラと戦っているのはヴァトラーだ。古城が消えたのを良いことに好き勝手暴れているのだろう。

 このままヴァトラーを野放しにしていればいずれこの増設人工島(サブフロート)は沈む。いや、それだけに留まらず本島のほうにも危害が及びかねない。そしてなにより、雪菜の身が危険だ。

 一刻も早く戦線に復帰しなければならない以上、可能性があるならば賭けるしかない。紗矢華は着ていたサマーベストを少し躊躇いながらも脱ぎ捨てる。

 ブラウスのボタンを幾つか外し、襟元から胸元まで見えるようにする。すると白磁のように白くきめ細かい柔肌と健康的な鎖骨から豊かな膨らみまでが露わになった。

 古城に意識があったならこんな大胆な行動はできなかっただろう。だが今は急を要するため、紗矢華の中で色々と感覚が狂っていた。俗に言う勢いというやつだ。

 しかしいくら勢いがあっても紗矢華は生娘。どうすれば吸血鬼の本能を呼び醒ませるかなど、知る由もない。

 

「こ、ここからどうすれば……」

 

 とりあえず、うつ伏せに倒れ伏す古城の体を仰向けにする。顔色はよくない、表情も苦痛に襲われているかのように苦しげだ。

 胴体には肩から腰にかけてまでの太刀傷。右肩はレーザーによって抉られている。出血こそ止まっているが、どちらの傷も未だ濃い血臭を漂わせていた。

 

「血……そうか、血!」

 

 紗矢華は持ち前の剣で人差し指に軽く切り傷を作る。ぷくっと血が流れ出し、指先に紅い宝石のような雫が生じた。

 紗矢華は血が流れる指先を躊躇しながらも古城の口腔に突き入れる。

 生温かい感触に背筋がぞわぞわする。古城の様子を窺ってみるが反応はない。どうやら与える血液量と刺激が足りていないようだ。

 

「うっ……仕方ない、仕方ないのよ!これは人工呼吸だから、救命措置なんだからね!?」

 

 誰かに言い訳するように喚きつつ紗矢華は愛剣で自らの手首を浅く斬り、溢れ出す血を口に含む。一定量の血液を口に蓄えたところで簡易的な呪術で傷口を止血。そのまま横たわる古城にそっと覆い被さった。

 今までずっと怖れていた男。だが不思議と目の前の少年からは恐怖を感じない。弱り果てているからか、守ってくれたからか。それともまた別の感情があるのか。自分のことでありながら紗矢華はイマイチ理解できていなかった。

 それでもただ一つ、確かな想いがある。

 傷つきながら大切なものを守ろうとするこの一匹狼のような少年を、少しでもいいから助けたい。支えることはきっと自分にはできないだろう。その役目は大切な妹分のものだから。自分はせいぜい、手助けするくらいだ。

 それでいい、それで十分だ。紗矢華はそう思う。そう思うことにした。だから──

 

「──ごめんね、雪菜」

 

 ここにはいない実の妹同然の少女に謝ってから、紗矢華は古城の唇に己の唇を重ねた。

 

 

 ▼

 

 自身の何倍もある兵器相手に、銀の槍一本で雪菜はよく戦っていた。

 持ち前の霊視能力で攻撃を先読みして躱し、避けられないものは雪霞狼で防ぐ。苛烈な古代兵器の攻めにも怯まず、雪菜は果敢に食らいついていた。

 だが如何に雪菜といえど相手が悪い。既にナラクヴェーラは雪菜の槍技を学習し、対応し始めている。じきに雪菜の技も通用しなくなるだろう。その時が雪菜の敗北の時だ。

 雪菜も自身の不利を十二分に理解している。だが退くわけにはいかない。雪菜が退けば背に庇う絃神島に被害が及んでしまう。それだけは避けなければならない。

 しかし状況はあまりにも不利極まる。

 那月は女王ナラクヴェーラの火輪と爆弾を撃ち落とすのに掛かりきり。ヴァトラーに至っては開戦数十秒で一機をスクラップにして、それ以降は残った一機で遊んでいる始末だ。助力を願うのは、前者は無理で後者は余計に被害を拡大させかねないので期待できない。

 徐々に追い詰められ余裕を失くしていく雪菜。獅子王機関の剣巫といえど雪菜はまだまだ未熟。一人で神々の兵器を相手取るのは荷が重すぎた。

 敗北の気配が色濃くなり雪菜が焦燥を募らせ始めた時、馬の嘶きにも似た咆哮と爆発的な魔力の波動が増設人工島(サブフロート)地下から伝わってきた。

 

「なっ!?これは……!?」

 

 覚えのある魔力の気配に雪菜は驚愕に動きを止めてしまう。致命的な隙を晒す雪菜だが、しかしナラクヴェーラからの追撃はない。ナラクヴェーラもまた、雪菜と同様に動きを止めて備えているのだ。自身に害をなす外敵の登場に。

 ズンッ!と突き上げるような衝撃が浮き島を襲う。体重の軽い雪菜はその衝撃に立っていられずその場にへたり込んでしまう。だが衝撃は止むことなく、まるで怪物の胎動の如く何度も何度続くも。その度に人工の島の至る所が軋み悲鳴を上げる。

 徐々に衝撃の発生源が地上に近づいているのか、揺れが大きくなっていく。もはや人工島の揺れは人が立っていられる限界を超えていた。

 しかしその激しい揺れが、唐突にピタリと止んだ。

 耳が痛い程の静寂が戦場を支配する。那月もヴァトラーも、生き残っているナラクヴェーラでさえも攻撃の手を止めて彼の者の登場を静かに待つ。

 十秒か二十秒か、ややあってから再び魔力の波動が巻き起こった。発生源は雪菜が相手していたナラクヴェーラ直下だった。

 次の瞬間、間欠泉の如く噴き上げた衝撃波の一撃がナラクヴェーラの機体を冗談のように打ち上げた。

 

「……は?」

 

 パチンコ玉のように吹っ飛んでいくナラクヴェーラにさすがの雪菜も驚きを隠せない。ポカーンと口を半開きにして上を見上げる様は少しばかり間抜けだった。

 その表情も、立ち昇る粉塵の中に揺らめき立った二つの人影を認めた途端に安堵と歓喜に打って変わる。

 

「……あぁ、最悪だ。あり得ない、いくら意識がないからってあれはない。情けないことこの上ない」

 

 ぶつくさと聞き慣れた声が聞こえてくる。なにやら妙に覇気がないというか、物凄く気落ちしている感のある声音だが。確かに生気の籠った少年の声だ。

 

「……さっきまで死にかけていたっていうのに頭はスッキリしているし。身体はビックリするくらい魔力が漲っていて、今ならナラクヴェーラぐらいサクッと倒せそうだ。体の傷も跡形もなく治ったし、しかも新たな眷獣まで制御できてる始末。つまり──」

 

 一帯を覆っていた塵煙が凄まじい爆圧によって彼方まで散らされ、地下から這い上ってきた二人の少年少女の姿が照りつける日差しの下に晒された。

 殆ど布切れ同然の制服のシャツを引っ掛けた少年──暁古城が、どこか皮肉混じりの笑みで言う。

 

「──ベストコンディションだ」

 

 呆れ顔の紗矢華を伴って、舞台から落ちた主役(古城)が若干妙なテンションで地上に這い上がってきたのだった。

 

 




古城くん気絶の経緯を簡潔に説明。
フルマラソンを走っていてあと1キロというところで、「もういいよ、よく頑張ったよ」と恋人に囁かれたようなものです。フルマラソンとかしたことないし彼女もいませんが、そんな感じですよ、多分ね笑。

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