“まがいもの”の第四真祖   作:矢野優斗

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戦王の使者Ⅵ

 現在、絃神島でテロ行為を働いている黒死皇派とそれを扇動するクリストフ・ガルドシュ。彼らは今、絃神島の攻魔官によって追われている。となれば現状で彼らの情報を最も持っているのも必然的に攻魔官ということになる。

 そして古城たちにとって最も身近な攻魔官が誰かと言えば──

 

 

 ▼

 

 

 彩海学園高等部の職員室棟校舎。学園長室よりも上、建物の最上階にあたる位置に南宮那月の執務室はあった。

 学園施設の扉にしては重厚過ぎる目の前のドアを前に、古城はいつかのように準備運動をすることもなくノブに手を掛けた。

 

「那月先生。ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけど……」

 

 ドアを押し開いた先に広がっていたのはどこの王宮かと突っ込みたくなる程に豪奢な部屋だった。床は足首まで埋まりそうな分厚い絨毯で覆われ、カーテンは上質な天鵞絨製。調度品の大半が年代物のアンティークであり、何故かベッドは天蓋付き。明らかに執務室の度を超えた飾り付けである。

 しかし古城は特に驚くこともなくふかふかの絨毯の上を踏み歩く。既に何度か訪れた経験があるので今更驚かないのだ。だが初めての雪菜は部屋の様相に目を見開いていた。

 

「ノックもせずに何の用だ、暁古城。それと転校生」

 

 高そうなアンティークチェアに座り、何故か扇子を構えていた那月。恐らく古城がちゃん付けで呼んでいたならば容赦なく振り下ろしていたのだろう。残念ながら今日の古城は国家攻魔官である南宮那月と話に来たため、ちゃんではなく先生呼びであったが。

 少しつまらなげに鼻を鳴らして、那月は顎で座るように促す。なかなかに傲慢な態度ではあるが、彼女がすると妙なカリスマめいたものを感じてしまうため気分を害すことはない。

 古城は遠慮なく部屋の中央に置かれた二つのソファの一つに腰を下ろす。その隣に雪菜も少し驚きつつ座る。

 オシアナス・グレイヴのソファにも負けず劣らずの座り心地だ。少し体重を掛ければ体が沈んでいってしまう。比較的感性が庶民的な古城にとっては最初こそ慣れない感覚であったが、何度かここを訪れるうちにそれも薄れた。薄れる程にこの執務室に入り浸っているのもおかしな話だが。

 

「それで、何が聞きたい。ちなみに情報の内容によっておまえの働く時間が変わるぞ」

 

「可愛い教え子が困ってるんだから、そこは無償で教えてくれよ……」

 

「おまえ程に可愛げのない生徒を、私は知らないな」

 

「酷いなぁ……」

 

 傷ついたとばかりにわざとらしく胸を押さえる古城。そんな古城を冷ややかに睨みつけて那月は早く話せと無言で命令してくる。

 

「クリストフ・ガルドシュ。黒死皇派を操っている男の情報が欲しい」

 

「ほう、私はそこまで教えた覚えはないが、どこでその名前を知った?」

 

「ディミトリエ・ヴァトラー。今、絃神港に停泊している船の持ち主だよ」

 

「ちっ、あの蛇遣いか。また面倒な輩に目を付けられたな、暁古城」

 

 忌々しげに吐き捨てる那月に古城は重々しく頷く。ヴァトラーがある意味単純で、そして非常に厄介な性質(タチ)の吸血鬼であることはよく理解していた。

 

「ヤツは自分よりも格上の吸血鬼を既に二人も喰っている。最も真祖に近い存在だと言われている化け物だ」

 

「同族の吸血鬼を……喰らった……」

 

 古城の隣で雪菜が慄然と呟く。

 吸血鬼というのは基本的に真祖の血筋に近く、長い時を生きている者程強い。血の中に蓄えられる魔力の量が莫大だからだ。故に真祖の血筋から離れ、若い吸血鬼というのは比較的弱い。

 しかし、真祖の直系でなくまだまだ若い吸血鬼の全てが弱いかと言えばそうではない。彼らにも、強大な力を得る手段がある。それが“同族喰らい”。他の吸血鬼の“血”を喰らうことだ。

 だが同族喰らいというのは口で言う程に簡単なものではない。

 普通、己より力の強い者を喰らおうとすると、逆に相手に自分自身を喰われてしまうと言われている。故に常識的に考えて若い世代の吸血鬼が格上の吸血鬼を喰らうことは不可能だ。

 しかし那月曰く、ヴァトラーは己よりも格上の吸血鬼を喰ったという。それも二人。通常では考えられないことだ。

 ヴァトラーの底知れなさに雪菜が肩を震わせる。

 そんな雪菜を興味なさげに一瞥し、那月は古城の目を見据える。

 

「ヤツにとって、今のおまえは鴨が葱を背負っているようなものだ。せいぜい、喰われんように気をつけることだな」

 

「肝に銘じとくよ。それより、今はガルドシュのことを教えてくれ」

 

「教えてやってもいいが……知っておまえはどうする気だ?」

 

 軽く威圧混じりに問われて古城は少し戯けた口調で答える。

 

「特別なにかをするつもりはないよ。どうせ俺が動くまでもなく、特区警備隊(アイランド・ガード)と那月先生が捕まえるだろうからさ」

 

「え……」

 

 昨日とは間逆のことを言う古城に、隣に座る雪菜が思わず戸惑いの声を上げた。古城は今にも問い詰めてきそうな雪菜を手で制しつつ続ける。

 

「昨日はヴァトラーへの牽制を兼ねて啖呵を切るようなことは言ったけど、正直那月先生たちの手にかかれば今日か明日にでも片がつくはずだ」

 

「よく分かっているな、暁古城。その通りだ」

 

 得意げに胸を張って那月が答える。“空隙の魔女”とまで呼ばれ恐れられていた攻魔官の手にかかれば、テロリストの残党程度取るに足らないのだろう。それ程までに目の前の少女は規格外の存在なのだ。

 だからこそ、謎が残る。

 

「ガルドシュは欧州で有名なテロリストだ。そんなヤツが、この島に那月先生がいることを知らないはずがない。それなのに連中は絃神島にわざわざ来た。下手すれば全滅しかねないのにだ」

 

 かつて欧州で猛威を奮っていた南宮那月がいると分かっているこの絃神島に、何故ガルドシュ率いる黒死皇派は訪れたのか。魔族特区が標的ならば絃神島以外にもある。だからわざわざ極東の人工島にまで乗り込む意味はないはずだ。

 黒死皇派が多大なリスクを犯してまでこの島に来たのには必ず理由がある。古城はそれを懸念しているのだ。

 那月は察しの悪い人間ではない。古城の言動から言いたいことを先読みして、そして古城の懸念する何かに心当たりがあった。

 

「……“ナラクヴェーラ”か」

 

「ナラクヴェーラ?」

 

 聞き慣れない単語に雪菜が首を傾げる。那月は少し面倒くさげな顔をしながらも口を開いた。

 

「南アジア、第九メヘルガル遺跡から出土した先史文明の遺産だ。かつて存在した無数の都市や文明を滅ぼしたと言われる、神々の兵器だよ」

 

「それが連中の狙いか」

 

「恐らくな。だがそれも無用の心配だ。九千年も前のガラクタ、たとえ動かせても黒死皇派にはそれを制御する手立てがない。連中にとってはただの馬鹿でかい荷物でしかないんだよ」

 

 そう言い終えると那月は横合いから差し出されたカップを受け取り口をつける。古城と雪菜の前にも丁寧にカップが二つ置かれた。

 

「おう、ありがとなアスタルテ」

 

「ありがとうございます、アス……タルテ、さん……?」

 

 古城に続いてお茶を用意してくれた相手に礼を言おうとして、メイド服姿で盆を抱える見覚えのあり過ぎる藍色の髪の少女に雪菜が唖然とする。

 

「ど、どうしてアスタルテさんがここに……!?」

 

 人工生命体アスタルテ。彼女はオイスタッハ殲教師によって生み出された眷獣を身に宿す世にも珍しい人工生命体(ホムンクルス)だ。

 アスタルテは現在、三年の保護観察処分を受けている。そしてその身元引き受け人として選ばれたのが国家攻魔官として腕の立つ那月だった。

 那月はアスタルテを引き取るや自身の忠実なメイドになるよう命令。きちんと一人の人間として扱っているし、アスタルテ本人も満更でもなさそうなので古城も文句は言わない。ただ、時折眷獣の様子がどうか確認をするために既にアスタルテとも何度か会っている。

 なので古城はアスタルテの登場にも驚かない。それが雪菜の気にかかった。

 

「先輩は知ってたんですね」

 

「うん、まあな。眷獣がちゃんと大人しくしてるか気になって、経過観察がてら時々会ってたからな」

 

 少し前に経過を見た時と変わらぬアスタルテの姿に古城は満足げに頷く。少し眷獣が活発化しているが、それは恐らくここ数日で眷獣の召喚をしたからだろう。時期的に考えて戦闘の相手は黒死皇派と見て間違いない。

 

「一体いつの間に……」

 

 監視役である自分を差し置いてあっちこっちへ行動する古城を、雪菜が少し拗ねたように見上げる。別に古城としては雪菜の目を盗んでアスタルテに会っていたつもりはないのだが、そこは本人の感情的問題だろう。

 隣で若干不機嫌になっている監視役に首を傾げながら古城は少し顔を険しくして尋ねる。

 

「だけど、連中はその兵器を制御する手段を求めてこの島に来たんじゃないのか」

 

「確かにそうだが、ナラクヴェーラを制御する方法は石板に刻まれた呪文だか術式だかを解読しなければならない。世界中の言語学者たちが匙を投げた代物を、テロリストの残党風情がどうこうできるはずもない。昨日捕まえたカノウ・アルケミカル・インダストリー社の研究員も殆ど解析できていなかったからな」

 

 優雅に紅茶を啜りながら余裕の体を崩さない那月。黒死皇派には逆立ちしても制御コマンドの解析は不可能だと確信しているからこその余裕だろう。

 だがしかし、対面に座る古城の顔つきは険しいままだ。

 

「忘れてないか、那月先生。そういう暗号の類を暇潰しにパズル感覚で解いちまう存在が身近にいることを」

 

「……藍羽浅葱か」

 

 古城のクラスメイトであり那月にとっては教え子の一人、藍羽浅葱は世界最高レベルのプログラマーだ。本人に自覚は薄いが、彼女の腕は世界中の人間が認めている。それはつまり、裏の人間にも知られているということ。

 黒死皇派の狙いがナラクヴェーラの制御コマンドの解析であるのならば、浅葱に仕事を依頼する可能性は非常に高い。いや、むしろ連中の狙いは最初から浅葱に石板を解析させることだったのかもしれない。もしそうであるのならば、浅葱は現在進行形で黒死皇派に狙われているということになる。

 

「もしかしたらもう既に黒死皇派からなんらかの接触があったかもしれない。浅葱のほうは俺がそれとなく聞いてみるよ」

 

「仕方ないか。藍羽浅葱はおまえに任せる。だがくれぐれも無茶をするなよ。ここでおまえが暴れたら学園が消し飛びかねん」

 

「了解。那月先生も、気をつけてな」

 

「私を誰だと思っている」

 

 不敵な笑みを浮かべる那月に古城も気楽に笑う。目の前の少女が遅れを取るような相手などそうそういない。というか、那月を正面切って打ち倒すことができる敵など想像できない。だから古城も那月の心配は殆どしていない。

 アスタルテが淹れてくれた紅茶を飲み干して古城はソファを立つ。それに合わせて雪菜も立ち上がる。

 

「じゃあ、俺は教室に戻るよ」

 

「この借りは高くつくぞ、暁古城」

 

「頼むから、この前みたいなのは勘弁してくれよ……」

 

 この前というのは勿論、テロリストの相手をさせられたことだ。古城としては眷獣の制御の練習になるので嫌ではないのだが、如何せん雪菜の目を掻い潜るのが辛い。後々バレた時の反応も怖いし。

 しかし那月は古城の事情など知ったことかと取り合うこともなく、さっさと豪華な執務机に戻ってしまう。

 手厳しい担任教師に少しげんなりとしながら、古城は雪菜を伴って那月の執務室を後にした。

 

 

 ▼

 

 

「じゃあ、俺は今から浅葱に訊いてくるから。姫柊も教室に戻れ」

 

 那月の部屋を出てすぐにそう言って、古城は足早に教室へ向かおうする。しかしその手を雪菜が掴んだ。

 

「待ってください。わたしも一緒に行きます」

 

「いやでも、もうすぐ授業始まるぞ」

 

 今からダッシュで教室に向かったとしても時間は授業開始直前。いくら雪菜でもそこから走ったとしても授業には間に合わない。

 しかし雪菜は頑として手を離そうとしない。

 

「どうせまたわたしに内緒で勝手に動くおつもりでしょう?」

 

「そ、そんなことはないさ」

 

 と言いつつ古城は明後日のほうへと目を逸らす。雪菜の指摘通り、思いっきり単独行動する気満々だったのだ。まさかそれを予想されるとは思いもしなかったが。

 雪菜は手が掛かると言わんばかりに溜め息を吐くと、

 

「別になにかしらの行動を起こすことは構いません。でも、わたしの手が届かない所に一人で行くのはやめてください。もしも先輩が暴走した時、誰が止めるんですか」

 

 ぎゅっと古城の手を強く握りしめて雪菜は言った。その表情は置いてけぼりを食らった子供のように不安げだった。

 決して離さないとばかりに手を掴まれてしまっている以上、古城に雪菜を振り払う選択肢はない。少し困ったように頭を掻きながら、

 

「分かった。一緒についてきてくれるか?」

 

「勿論です。わたしは先輩の監視役ですから」

 

 ふっと柔らかに微笑んで雪菜は手を離した。

 意見が纏まったところで古城と雪菜は教室へと向かう。雪菜とのやり取りで少し時間を食ったせいか、二人が教室に辿り着いたのは授業開始の予鈴が鳴る直前だった。

 古城と雪菜は二人揃って教室に飛び込むと、これまた仲良く口を揃えて浅葱の名前を呼ぶ。

 

「浅葱はいるか?」

 

「藍羽先輩はいらっしゃいますか?」

 

 入ってくるや否や浅葱を呼び出す古城と雪菜に教室内は一瞬水を打ったかのように静かになるが、やがて騒然として呼ばれたクラスメイトに視線を集中させる。

 

「え、あたし……?」

 

 朝の一件で古城とどう顔を合わせればいいか悩んでいた浅葱は、突然の展開に目を白黒させていた。これがもしも古城だけだったならまた朝のことを言われるのかとも思えたが、隣には雪菜の姿もある。朝のやり取りは雪菜には知られていないはずだから、必然的に朝とは別件ということになる。

 古城と雪菜の二人に呼ばれる用事なんてあったか、と浅葱が頭を悩ませていると件の二人が浅葱の席に近づいてくる。

 

「悪い、浅葱。ちょっと話がある」

 

「ご同行願えますか、藍羽先輩」

 

「え、え?ちょっと、どいうことなのよ!?」

 

 古城と雪菜に両脇を抱えられて教室から連れ出される浅葱。その様子がまるで刑事に連行される容疑者のようで、残されたクラスメイトたちは笑えばいいのか反応に困った。

 その中の一人、矢瀬は他人事のように呟く。

 

「仲良いなー、あの三人」

 

 今の一連の一部始終を見てその感想はどうなのか。いや、確かに仲が悪いことはないだろうが。あれこれ入れ知恵した割に反応が素っ気ない矢瀬であった。

 一方、浅葱は古城と雪菜の手によって人気のない非常階段の踊り場へと連れてこられていた。

 

「悪いな、いきなり連れ出して」

 

「ほんとよ、もう……話って一体なんなのよ?」

 

 むすっとふて腐れながら浅葱が訊いてくる。微妙に古城と目を合わせようとしないのは今朝のことを引きずっているからだろう。

 古城は雪菜に目配せをすると、

 

「ナラクヴェーラ、カノウ・アルケミカル・インダストリー社。この二つに聞き覚えはあるか?」

 

「はあ?いきなりなんでそんなこと……」

 

「答えてくれ、浅葱」

 

 ずいっと真剣な表情で古城が迫る。その勢いに浅葱は少し気圧されながら首を縦に振った。

 

「えっと、昨日変なパズルみたいなのが送られてきて……それを……」

 

「解いたのか?」

 

「う、うん。ちょっとした暇潰しに丁度いいかな、なんて思って……」

 

「そんな……」

 

 浅葱の告白に雪菜が顔を青ざめさせる。恐れていた事態が起こってしまった。これでは神々の兵器と謳われるナラクヴェーラが起動されてしまう。そうなれば絃神島はただでは済まないだろう。

 深刻な表情をする雪菜に浅葱は猛烈な不安を覚えて古城を見上げる。

 

「ねえ、古城。あたしなんか不味いことしちゃったの?」

 

 問われた古城は答えようか答えまいか少し迷って、やがて意を決して口を開いた。

 

「浅葱が解読したのはある古代兵器を制御するために必要なコマンドだ。そしてそれが解析されてしまった以上、その兵器が動き出す」

 

「嘘……兵器って、冗談でしょ?」

 

 懇願するように見つめてくる浅葱に、しかし古城は無情にも首を横に振る。ここで嘘を吐いたところでいずれバレてしまうことだ。ならここで知っておいたほうがダメージが少なく済むだろう。

 

「そんな……あたしのせいで」

 

「藍羽先輩……」

 

 その場に崩れ落ちそうになる浅葱を雪菜が優しく支える。古城も浅葱の肩に優しく手を載せ、大丈夫だ、と呼びかける。

 

「浅葱は悪くない。自分を責めるな。悪いのは全部、黒死皇派の連中だ」

 

「黒死皇派……?」

 

「今、絃神島でテロ活動をしているテロリストだよ。でも連中もじきに捕まるさ」

 

 安心させるように古城が言うが浅葱の不安は拭えない。

 

「でも、その兵器のせいで危ないんじゃないの……?」

 

「それは分からない。俺たちも実物を見たことがあるわけじゃないんだ。だから、浅葱に頼みがある」

 

 非常階段の踊り場に座り込む浅葱に目線を合わせ、古城は頼み込む。

 

「カノウ・アルケミカル・インダストリー社に残っているだろうナラクヴェーラのデータを調べて欲しい」

 

「それは、どうして?」

 

「少しでも情報があれば、もしもナラクヴェーラが起動されても対抗できるからだ」

 

「対抗って、古城、あんたまさか戦うつもりなの!?」

 

 浅葱が物凄い勢いで顔を上げる。古城はあり得ないと首を横に振り、

 

「那月先生に情報を流すんだ。あの人ならきっとどうにかしてくれる」

 

「そっか、そうよね……」

 

 ほっと安堵に胸を撫で下ろす浅葱。そんな彼女に古城と雪菜は少し罪悪感を刺激されるが、それを表情に出すことはない。

 

「それで、やってくれるか?」

 

「……分かった、あたしに任せなさい!名誉挽回してやるわよ!」

 

 勢いよく立ち上がって浅葱は胸を張る。

 もう自分を責めている様子はなく、むしろ挽回してやるとばかりに意気込んでいる。今の浅葱程に頼もしい人間もいないだろう。

 

「そうと決まればさっさとやるわよ。今の時間帯で空いてるのは……生徒会室ね」

 

 言って浅葱はずんずん階段を上がっていく。

 完全にいつもの調子を取り戻した浅葱に、古城と雪菜は顔を見合わせるとほっと息を洩らした。

 

「二人も早く来て!」

 

「分かった分かった」

 

「すぐ行きます」

 

 階段の上から浅葱に急かされて、古城と雪菜もすぐに後を追った。

 

 


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