“まがいもの”の第四真祖   作:矢野優斗

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ちょっと強引かもしれない……


戦王の使者Ⅳ

「ああ、そうだ。煌坂さんだったか、少し話をしたいんだけど、いいかな」

 

 古城とヴァトラーによる一種の対談が終わりを迎え、時間もいい頃合いになり学生陣が帰ろうとしたところで、古城がそう切り出した。

 名指しされた紗矢華は露骨に警戒した目つきで古城を睨みつける。だがさすがにヴァトラーと雪菜の目があり、襲いかかってまではこなかった。

 

「ふゥん?ボクは構わないよ。なんなら席も外そうか」

 

「そうしてくれると助かる。姫柊も、少し外してくれるか?」

 

「え……でも……」

 

 雪菜は不安げに古城と紗矢華の間で視線を彷徨わせる。先のフォークでの襲撃と紗矢華の抱える個人的な事情を考えると、二人きりにするのはあまりに不安が大きい。なにより、さっきから古城に除け者にされているような気がして嫌だった。

 しかし古城は、そんな雪菜の心情を知ってか知らずかいつもと変わらぬ穏やかな笑みで言った。

 

「心配するな、本当に話をするだけだから。それに話をしている間、ヴァトラーの監視がいなくなるのは不味いだろ?代わりに姫柊が付いていてくれ」

 

「なら、ボクは彼女のエスコートを請け負おう。古城の血の伴侶候補となるのなら、ボクの立派な恋敵だからね」

 

「こ、恋敵……」

 

 予想外の相手からの不意打ちを受けて雪菜が動揺を見せる。その反応を見て紗矢華がまた殺気立つ。非常に嬉しくない循環だ。

 

「では、ボクたちは行こうか。同じ吸血鬼(ヒト)を愛する者同士で語らおうじゃないか」

 

「え、あ……でも……分かりました」

 

 雪菜が背を押されて応接室を出て行く。この場に留まりたくともヴァトラーに強く逆らうわけにもいかない。それに古城が言う通り、彼を一人にするのも問題だ。結局、済し崩し的に雪菜は席を外すことになった。

 静かにドアが閉じられ、応接室は古城と紗矢華の二人きりになる。するとくわっと紗矢華が古城に向き直り、

 

「どういうつもり。私と二人きりになるだなんて、そんなに暗殺してほしいのかしら?」

 

「悪いけど、殺される気はないよ。まあ、殺せるなら殺してみてほしいけどさ」

 

 第四真祖の不死性はそこいらの吸血鬼とは格が違う。心臓を潰されようが時間の巻き戻しのように復活してしまう。それはオイスタッハ殲教師の一件でも証明された。そんな古城を殺すなど、並大抵の人間では為し得ない。

 しかし獅子王機関が舞威媛こと煌坂紗矢華にとってその発言は挑発でしかなかった。

 

「大した自信ね。でも、あまり私を舐めないでくれる」

 

 そう言って肩に担いでいた楽器ケースに手をかけようとする紗矢華。しかし彼女が武器を抜く前に古城が両手を上げる。

 

「待て待て、俺は戦いたいわけじゃないんだ。ただ話がしたいだけだ」

 

「私にはあなたと話をする義理も筋合いもないんだけど」

 

「話の内容は姫柊のことなんだが」

 

 雪菜が引き合いに出された瞬間、紗矢華は片眉を僅かに吊り上げた。やはり大切な雪菜のこととなると勝手が違うようだ。

 

「とりあえず、座ってくれ。立ちっぱなしも話辛いし」

 

 未だ立ち続けていた紗矢華に、古城は向かいのソファに座るよう促す。

 紗矢華はあからさまに眉を顰めながらもソファに座った。一応は古城と話をしてくれるらしい。そのことに一先ず安堵して古城は少女を真っ向から見据える。

 

「それで、話の内容はなに?」

 

 一切の前置きはいらぬと紗矢華が単刀直入に訊いてくる。古城は真摯な表情で相対する。

 

「九月の始めに起きた殲教師の聖遺物奪還未遂事件。そこでなにが起きたか、掻い摘んで説明する。きっと文句やら手やら出したくなると思うけど、最後まで聞いてくれ」

 

「…………」

 

 紗矢華から返事はない。ただ無言の眼差しで話せと命じてくる。それに古城は頷いて口を開く。

 事件の仔細を全て話していては時間が足りない。よって古城が語ったのは事件そのものよりも、事件の中で自身と雪菜の身に起きたことに焦点を合わせた。

 倉庫街での戦闘から始まり、研究所での敗北。そこで互いに覚悟を改め、キーストーンゲートの決戦。

 特に雪菜がオイスタッハの言葉によって非常に不安定になっていたこと、そして自分が眷獣の制御ができていなかったことに関しては詳しく説明した。

 十五分程かけて古城の説明は終わった。

 話を聞いている間、紗矢華は黙って耳を傾けていた。オイスタッハによる容赦ない言葉や吸血に至った件の時には、拳を握り締めたり手を楽器ケースに伸ばしていたが、それでも最後まで暴れることはなかった。

 紗矢華は瞼を固く閉ざして眉間に皺を寄せる。古城の話を吟味しよく考えているのだろう。今の彼女の内心では一体どんな葛藤が飛び交っているのか、古城には分からなかった。

 一分か二分か経った頃合いで、紗矢華に動きがあった。これまで溜め込んだ感情を全て吐き出すように深々と溜め息を漏らし、その双眸をゆっくり開く。

 

「一応の事情は理解したわ。でも、だからなに?自分は悪くないって言いたいわけ?」

 

 ぎろりと紗矢華が睨んでくる。どうやら今の古城の話を責任逃れと捉えたようだ。心なしか視線の温度が先よりも下がっているように感じられる。

 激しい怒りから冷静な怒りへとシフトした紗矢華に、古城はゆっくりと首を横に振った。

 

「この話をした理由の一つは、姫柊が姉同然に慕っていて、姫柊を実の妹のように大切に思っている煌坂さんには知っていて欲しかったから。あの事件で姫柊がどんな覚悟を決めて、今を生きているのか。それを理解して欲しかった」

 

 道具としてではなく、自分の意志を持った一人の人間として雪菜は今を生きている。それを紗矢華には知っていて欲しかった。それが一つの理由。

 そしてもう一つの理由は、

 

「二つ目の理由は、煌坂さんには俺を糾弾する権利があるから。事情をきちんと知っておくべきだと考えたからだ」

 

「は?」

 

 古城の言葉がイマイチ飲み込めず、紗矢華は顔をきょとんとさせる。

 

「どんな理由や事情があったとしても、煌坂さんにとって大切な存在である姫柊を傷つけたことに変わりはない。吸血したことを後悔しているわけではないけど、それでも通すべき筋はあると思った」

 

 一瞬たりとも目を逸らすことなく見据えて、古城は滔々と続ける。

 

「姫柊にとって最も近しい人だろう煌坂さんから糾弾を受けること。それも通すべき筋の一つだと、俺は思っている。身勝手な自己満足でしかないかもしれないけど、俺は不義理な人間にだけはなりたくないんだ」

 

 だから、と言って古城はソファから立ち上がり目の前の少女に頭を下げた。

 

「姫柊を傷つけたこと、本当にすまなかった」

 

「…………」

 

 目の前で頭を下げる少年を呆然と見つめて、紗矢華は内心で激しく当惑していた。

 目の前の少年は世界最強の吸血鬼と謳われる第四真祖だ。その危険度は先のヴァトラーとの衝突からもよく窺い知れる。そんな危険人物が、まるで普通の人間のように自らの咎を認め、あまつさえ他人からの糾弾を甘んじて受けようとしているのだ。混乱するのも無理はない。

 それ以上に、目の前の男は今まで出会ってきたどんな男とも違う。それが紗矢華の心を激しく揺さぶっていた。

 紗矢華は極端なまでに男を毛嫌いしている。だがその実態は、嫌いなのではなく苦手。幼少期に父親から受けた虐待の恐怖の裏返しだ。

 雪菜はそれを知っていたから、古城と紗矢華を二人きりにするのを避けたかった。古城に限って万が一はないと思うが、それでも心配せずにはいられなかったのだ。

 紗矢華にとって男なんてどいつもこいつも同じ。自分勝手で暴力的で粗暴。だから心底嫌いで、それ以上に怖かった。

 だが目の前の男はどうだろうか。自分勝手な面はあるだろう。しかしその筋を通そうとする誠実さは評価に値する。この男なら、きっと雪菜を悪いようには扱わない。それだけは確信できた。

 今一度頭を下げる古城を見やって、紗矢華は少し語気を弱めて言った。

 

「私はあなたを許さないわ、暁古城……でも、あなたの行いを否定はしない」

 

 紗矢華の思わぬ言葉に古城が顔を上げる。その表情は分かりやすく驚きに染まっていた。

 それに紗矢華は少しだけ気分を良くして続ける。

 

「あなたの行いを否定したら、それは雪菜の覚悟も否定しちゃうもの。私があの子の覚悟を否定なんてできるわけないじゃない」

 

「そうか……」

 

 小さく噛みしめるように呟いて、古城は心の底から安心したように微笑を洩らした。

 

「ありがとう」

 

「別にあなたを許したわけじゃないから、勘違いしないでよね」

 

「分かってるさ。姫柊に、煌坂さんみたいな優しい友人がいてよかったよ」

 

「……煌坂でいいわよ。歳は変わらないし、無理にさんを付けられるのは返って気持ち悪いから」

 

「バレてたか……」

 

 ふっと疲れたような笑みを浮かべて古城はソファに身を沈めた。古城なりに色々と緊張していたのか、顔色には疲労が滲んでいる。

 穏やかな沈黙が流れる。紗矢華からは最初の頃に放たれていた殺意や殺気もない。和やかとまでは言えないが、初期の張り詰めたピアノ線のような空気はもうなくなっていた。

 

「なあ、煌坂。今回の滞在中、もし暇があったら姫柊の家に行ってやってくれよ。きっと喜ぶからさ」

 

「あなたに言われなくても、行くわよ。私はあの子の親友なんだから」

 

 古城と紗矢華は互いに顔を見合わせると、二人揃って穏やかな笑みを浮かべた。

 もう紗矢華に古城を殺す気はないだろう。第四真祖の監視といざという時の抹殺は彼女ではなく雪菜の任務だ。それを邪魔するのは、紗矢華の望むところではない。

 まあ、抹殺する日が訪れるかは不明であるが。

 

「さて、そろそろ戻るか。あんまり待たせると姫柊が臍を曲げかねないからな」

 

「ああ、そうだった!今、雪菜はアルデアル公と二人きりじゃない!早く戻らないと」

 

 慌てて立ち上がって部屋を飛び出ようとする紗矢華。しかしそんな彼女を古城が呼び止めた。

 

「待った、煌坂。一つ頼みがあるんだ」

 

「なによ、私は早く雪菜のもとへ行くんだから手短に……」

 

 ドアノブに手を掛けたまま振り返った紗矢華は途中で言葉を切る。自分を見る古城の顔が真剣そのものだったからだ。

 ドアノブに掛けた手を離し、紗矢華は古城に向き直る。

 

「なにかしら、頼みって」

 

 紗矢華に問われて、古城は静かに口を開く。

 

「実は──」

 

 

 ▼

 

 

 古城たちがアルデアル公主催のパーティーに招かれていたその頃、藍羽浅葱は自宅のベッドの上でごろごろと寝転びながら、幼馴染の少年と電話をしていた。

 少年の名前は矢瀬基樹。付き合いが長いせいで恋愛感情は欠片もないが、腹を割って話せる数少ない男子だ。今日は教室で痴態を晒したことへの八つ当たりをするために電話をかけたのだが、いつの間にやら会話の内容は色恋に変わっていた。勿論、彼が意図的に逸らしたのは言うまでもない。

 

『ほーん、それでその手紙はラブレターでもなんでもなかったのか』

 

「古城が言ってたし、姫柊さんも違うって否定してたしね」

 

 電話口から聞こえてくる不満げな声に浅葱はきっぱりと断じた。

 古城が持っていた手紙の正体は分からずじまいだった。だが雪菜からのラブレターでないことだけは確かだ。当の本人が否定したというのも大きいが、よくよく思い返してみるとラブレターにしては手紙自体があまりにも豪奢過ぎた。それこそラブレターというよりも、夜会やパーティーの招待状と言われたほうがしっくりくる。

 しかし、浅葱が知る限り古城は普通の高校生だ。パーティーに招待されるような人間ではない。結局、古城の手紙の正体は謎に包まれたままだった。

 

『そうかそうか……それで、バドミントンの練習は楽しめましたかな?』

 

 茶化すような口調で矢瀬が言う。浅葱は少し気恥ずかしさを覚えながらも答える。

 

「そ、そうね。案外、楽しめたわ。古城も思ったより上手かったし」

 

『それだけ?もっとこう、なんかないのかね?ハプニング的な展開とかさあ』

 

「あるわけないでしょ。古城なんだから」

 

『や、まあそうだけどよ。そこはもう少し積極的に押して押しつけて押し倒して』

 

「あんたはなに言ってんのよ!?」

 

 思わず電話口に怒鳴ってしまう浅葱。矢瀬のからかいが頭にきたのか、それとも恥ずかしかったのかその顔は耳まで真っ赤だ。

 浅葱の叫びに耳をやられたのか呻き声が聞こえてくる。しかしそれもパタリと止み、打って変わって少し真面目な声が飛んでくる。

 

『でもな、浅葱。このままだとあの姫柊って子に古城を取られかねないんだぜ。そこんとこ、分かってんのか?』

 

「それは……」

 

 矢瀬の指摘に思い当たる節があって、浅葱は言葉を詰まらす。

 姫柊雪菜。彼女との出会いは偶然といえば偶然だ。暁家の隣に引っ越してきた関係で古城から紹介され、歓迎会という名の鍋パーティでそれなりに親睦を深めた仲である。少し人見知りのきらいはあったが、これで案外面倒見の良い浅葱との相性は悪くなかった。

 浅葱にとって雪菜は仲の良い後輩だ。時折古城とこそこそ何かをしているのが気にはなるが、それでも浅葱にとって雪菜は友人の一人なのだ。

 浅葱は恋する乙女の勘か、雪菜が恐らく古城のことを憎からず思っているのを察していた。この短い期間でそこまで親密になれる古城にも驚きだが、浅葱にとって重要なことはそこではない。

 これまでに、古城に告白やラブレターを渡す女子というのはいなかったわけではない。しかし古城は頑なに恋人関係になることを避けた。告白もラブレターも丁寧に一人ずつ断っていたのだ。その理由を以前浅葱が尋ねると、今はそんな余裕がない、と古城は答えた。

 確かに、中学の頃の古城は今とは少し違った。紳士的なのは同じであったが、今よりもどこか切羽詰まった感じがした。

 当時の浅葱はその答えを聞いて落ち込んだものだ。今では苦い思い出として彼女の胸の中に仕舞ってあるが。ちなみに矢瀬はその時の浅葱の落ち込みぶりを知っていたりする。

 だからこそ、幼馴染である少年はお節介を焼く。

 

『一歩、踏み込んでみたらどうだ?たとえば寝ている古城の布団に潜り込んで起こすとか』

 

「それのどこが一歩よ!完全に踏み外しちゃってるじゃない」

 

『大丈夫だって。古城のことだから、笑って流してくれるさ』

 

「それはそれで傷つくんだけど……」

 

 実際、そういう状況に陥ったとしても古城はいつものように苦笑いで流しそうだから笑えない。それが古城クオリティ、“彩海学園の紳士”の名は伊達ではない。

 はあ、と溜め息を吐いて浅葱は枕に頬を押し付ける。

 

『まあ、色々と悩む気持ちも分からんでもないが、たまには後先考えず突っ走るのも悪くないと思うぜ。俺たちまだまだ若いんだからよ』

 

「後先考えず……か」

 

 確かに、自分はあれこれ悩んでは尻込みしてしまうことが多かった。だから、たまには体当たりしてみるのもいいかもしれない。

 

「うん、そうね。たまにはぶつかってみるのも、ありよね……」

 

 もしこの場に古城がいたのなら、全力で否定しただろう。突っ走るのと体当たりは違うと声を大にして指摘したはずだ。しかしここに古城はおらず、代わりにいるのは悪ノリには定評のある矢瀬基樹。

 矢瀬はむしろ嬉々として浅葱にゴーサインを出す。

 

『よし、だったら後で耳寄りの情報を送ってやるよ。じゃあ、俺はそろそろ切るわ。このあとは緋稲さんと電話する時間だからよ』

 

 緋稲さんとは矢瀬の年上の彼女だ。あの矢瀬が熱烈なアタックを繰り返した末に、夏休み前から付き合い始めた相手だ。

 

「彼女持ちはいいご身分よね」

 

『羨ましかったらきっちり古城を落としてこいよ』

 

 そう激励を送って矢瀬は通話を切った。

 浅葱は通話の切れたスマホをベッドに放り投げ、ごろごろと転がり始める。

 矢瀬はなにやら耳寄りの情報を送ると言っていた。どうせ碌でもない代物だとは思うが、受け取っておくに越したことはない。なにせ相手はあの古城なのだ。中途半端なアタックでは苦笑いで流されてしまう。そうなったら浅葱は一週間引き篭もる自信がある。

 しかし、矢瀬はしばらく彼女との電話で時間を取られるだろう。その間、浅葱は手持ち無沙汰になる。

 仕方ないので浅葱は以前に受けたバイトの依頼を終わらせようと机に向かう。

 浅葱の部屋は一般的な女の子らしく可愛いらしい人形や雑貨が置かれていたりする。だがその中でも机周りだけは女の子らしさの欠片もない、大量のディスプレイとコンピュータで埋め尽くされていた。

 ちょっとしたIT企業並みのコンピュータの数々は浅葱の仕事道具。彼女の特技はコンピュータープログラミングで、その腕は他の追随を許さないレベルだ。そんな彼女に仕事を依頼する企業や組織は少なくない。

 適当に終わらせていこうとコンピュータを立ち上げて、浅葱は新着メールの存在に気づいた。

 発信者のアドレスはカノウ・アルケミカル・インダストリー社。浅葱も何度か依頼を引き受けたことのある絃神島の大手企業である。

 また新しい依頼かとメールを開いて浅葱は首を傾げる。どうにも仕事の依頼とは違うらしい。メッセージの内容は一言だけで、データが一つ添付されていた。

 

『解読希望──』

 

「なにかしら、これ?スパムってわけじゃなさそうだし……」

 

 イマイチ意図が読めないまま、浅葱は添付されていたデータを展開する。

 データの内容は見たこともない奇怪な文字の羅列だった。異常なまでに複雑な言語体系(システム)。まるで秩序のない論理配列(アレンジ)。地球上に存在するどの言語とも毛色を異なる。しかし魔術や呪術で用いられる呪言とも違う。どれほどの言語学者や魔術師を集めても、これを解読するのは不可能に近いだろう。

 だがここにいるのは天才プログラマー藍羽浅葱。その能力は卓越しており、“電子の女帝”などという異名を持つハッカーなのだ。それがプログラムである限り、彼女に解析できぬ道理はない。

 

「パズルかしら。まあ、暇潰しには丁度いいわね」

 

 暇潰し感覚で目の前の超難解プログラムを解析する浅葱。全く意味の分からない文字の羅列が解体され、並べ替えられ、翻訳されていく。そして浮かび上がってくる意味をなす文字の数々。

 その中の一つに目を留めて浅葱が何気なく呟いた。

 

「“ナラクヴェーラ”……?」

 

 

 

 




古城と紗矢華のやり取りが夫婦喧嘩に見えてきた自分はもうダメかもしれない……

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