「吹雪、準備はいい?」
「はい!いつでも大丈夫です!」
宝石のような青い海、どこまでもフワフワ飛んでいきそうな白い雲、今日も優しく生命を見守る太陽、この景色の向こうにあの深海棲艦がいるとはとても思えないぐらいだ。
この日は吹雪の初めての任務だ。これまでは鈴谷とサイタマの2人で任務をこなしていたのだが、吹雪が配属されたことによって、サイタマは提督の仕事とヒーロー活動に専念するために出撃することはなくなった。
「魚雷OK、主砲も異常無し、砲弾も入ってる、艤装も異常無し、あとは手に「人」を書いて飲み込む…」
「ホイ」
「フニャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
ふらふらよろけてぺたんと地面に座り込む吹雪。
「アハハ!吹雪緊張しすぎww装備確認もこれで10回目でしょ?」
緊張でガッチガチの吹雪に膝カックンをくらわせた鈴谷。吹雪が予想以上にかわいいリアクションだったたので、鈴谷は心の中でガッツポーズしていた。
「鈴谷の言うとおりだぜ、リラックスしろよ吹雪。」
「うふふ、帰ってきたらごちそうを用意しますね。」
「ワンワン!」
(お、パンツ見えた。白か…)
「装備はバッチリ整備しておいたから大丈夫よ!」
サイタマ、間宮、ポチ、黒い精子、明石が見送りをするために集まっている。
「は、はい!昨日は10時間寝たので大丈夫です!頑張ります!」
「真面目だねぇ…」
「真面目だなお前」
鈴谷とサイタマが苦笑いする。
「まあとりあえず今日は鎮守府近海の警備だな。えっと……」
なんだったっけ?サイタマが頭を掻く。任務内容を綺麗サッパリ忘れたハゲを見て呆れた明石が説明する。
「最近深海がよく出現するポイントを端末のマップにマークしてあるからそこを回って帰ってきてね。見つけたら倒すのが望ましいけど深追いは禁物よ。」
鈴谷と吹雪が手首につけられた端末を見る。
端末には現在地の座標と目的地の座標とマップが表示されてあり、波の高さや気温や方角、天気や風向きや風速まで表示されていた。
「スマホみたいな腕時計で自分と仲間の位置まで分かるなんてすごいわね〜」
鈴谷が関心する。
「私と妖精さんの技術ならこれぐらい余裕よ!!………と言いたいけどね、デザインのセンスは皆無だからそのままiPhone6を参考にさせてもらったわ…いえ、もろ丸パクりね。訴えられたら終わりよ。」
創造力豊かになりたい…とため息をつく明石。ポケットには妖精が顔を出していた。
「よしそれじゃあいきましょーか。」
海に着水する鈴谷。足に装備してある艤装のお陰で沈むことはない。吹雪もあとに続く。
「お二人ともお気をつけて!!」
「早く帰ってきてゲームしようぜ!!」
「がーんばってーー!!!」
「ワンワン!ワオーン!!」
大きな声で見送ってくれる3人と一匹。
そして
「おい、鈴谷 吹雪」
「もし自分の命がヤバイと思ったらすぐに逃げて帰って来い。絶対死ぬなよ。」
「うん!」
「はい!」
1人のヒーローの声に元気よく返事をして、2人の艦娘は出撃したのであった。
ーーーーーーー
「ここも異常無しと…」
拍子抜けするほど平和な海が続き、端末に表示されているポイントはあと一つだった。
「あと一つで任務完了ですね。」
「そうね、でも油断はできないわ」
周囲を警戒しながら最後のポイントに向かう吹雪と鈴谷。
15分ほど移動して最後ポイントまで到着した。
「ここは…」
「異常無し………ではないね…」
鈴谷が腕に装備している主砲を構える。
「吹雪!!私が囮になるから、コイツの横腹に魚雷をぶち込んでしまいなさい!!」
「はい!了解しました!」
鈴谷の主砲を構える方角から突進してくる黒い物体、まぎれもなく深海棲艦だ。
吹雪は深海棲艦と距離が離れているうちに大きく回避行動をとる。
鈴谷はそのまま主砲を構えたままだ。
ツノに松明をつけられた牛のごとく突進してくる深海棲艦。だが敵を闘牛に例えるなら、鈴谷は牛を華麗にかわす美しい女闘牛士である。
「よっと」
頭は冷静に。敵をギリギリまで観察し、常に筋肉はリラックスさせる。
黒い牛が巨大な口を開けた瞬間に一瞬で体の重心を移動させ体をひねる。
そして紙一重で黒い牛をヒラリとかわす。
「今よ!吹雪!!」
「はい!」
(日頃の訓練の成果を見せないと…)
吹雪が深海棲艦の側面に回り込み魚雷を発射する。
てっきり鈴谷を捕らえた気でいる深海棲艦の横腹に魚雷が命中した。
そのままあっけなく深海棲艦は黒い煙をあげながら海に沈んでいった。
「鈴谷さんケガはありませんか!?」
沈んでいく深海棲艦の光景を眺めていた鈴谷に吹雪が話しかけた。
「うん無傷だよ。それにしてもナイス吹雪、いい偏差射撃だったよ。」
「はい!ありがとうございます!」
笑顔で返事をする吹雪。
命中率が決して高くない魚雷で敵の動きを先読みしながら見事に命中させられた判断力と集中力。魚雷発射のタイミングもばっちりだった。きっと鎮守府に配属される前から練習していたのだろう。
もしかしたら将来旗艦も任せられるんじゃね?と思う鈴谷。
「とりあえず任務は完了したし戻ろうか。」
「はい!みんなが待っています!」
吹雪の初めての任務は無事完了したのであった。
ーーーーーーー任務完了1時間前
「あー暇だな。」
立派な机に足を置き、いかにも偉い人が座るような椅子にもたれかかるサイタマ。しかし、半分ぐらい食べられたバター醤油味のポテトチップスの横にはまるでエベレストような書類が置いてある。暇ではなくサボりなのだ。
「間宮とピクミンとポチは買い物に行ったし、明石も工具買いに出かけちまったな。」
ちらっと書類のエベレストを見る。サイタマの背筋がヒヤリと凍る。こんなのを間宮に見られたらひとたまりもない。
「しょうがない…やるか…」
書類に手を伸ばそうとするサイタマ。すると何気なくつけていたテレビが騒がしいことに気がついた。
『えーただいまRJ市では超巨大怪人がーー……』
それはいつもテレビで目にする緊急の怪人災害のニュースであった。いつもサイタマはこのニュースを見て現場に駆けつけているため、いつも怪人退治には遅れてやってくる。
「おっ、ちょうどいいや、いくーー…………」
バゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!
台風のように暴れる砂埃、何かが爆破するよう轟音が鼓膜をつん刺した。砂埃が止むと、辺りは書類のエベレストではなく瓦礫のエベレストであった。
「ん?………………」
突如起こった大爆発によりサイタマは瓦礫の下敷きになり、顔だけ瓦礫の隙間から顔を出した状態になっていた。
美しいレンガ作りの鎮守府は跡形もなくなり、青い空が広がっていた。
サイタマの状況把握が追いついていない内に、カツン、カツン、と何やら鉄の靴を履いて歩いているような音がして、誰かがサイタマの目の前までやってきた。
そこには主砲をサイタマに突きつける、ピンクの髪をした綺麗な少女が立っていた。
「艦娘達の仇…………死ね」
いきなり周りの瓦礫が粉々になり何十発も轟音が響き渡る。
少女は主砲を突きつけ何十発も0距離射撃でサイタマの顔面に撃ち続けていた。
少女は顔を色一つ変えない。
コイツの顔をグチャグチャに
絶対殺す
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
ひたすら砲撃を受け続けるサイタマ。
「お……い………お…前……………やべ…………………マ…………ジで…………や……………べぇ…………………」
殺意と復讐心に満ちた少女に、サイタマの声など聞こえるはずがなかった。
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