「うめぇ…うますぎるよカレー…ウグッウグ…」
涙を流して顔をクシャクシャにしながらカレーを食べる黒い精。その向かいに座る鈴谷がカレーを一口食べてから話しかける。
「イヤ…普通は吹雪が感動するところでしょ…」
「は!?ここに来るまでずっと飯はドッグフードだったんだぞ!!酷すぎるだろ!犬と同じだぞ!?何度メシの改善を要求してきたか…」
「そこまで酷かったのか…」
そんな2人のやり取りを全く気にせず吹雪に話しかけるサイタマ。
「吹雪、うまいか?」
吹雪が元気いっぱいに答える。
「はい!!とっても美味しいです!こんなに美味しい食べ物生まれて初めて食べました!!ありがとうございます!サイタマさん!!間宮さん!!」
「おう、別に呼び捨てでもいいぞ。」
「お粗末さまです。」
サイタマと間宮が答える。吹雪はすっかり元気を取り戻しており、明るく真面目な少女に戻っていた。
そこからは各自黙々とカレーを口に運ぶことだけに集中していた。スプーンが止まらない。うますぎる!!
「「「「「ごちそうさまでした!!」」」」」
「はぁ…食べた食べた…間宮さんの料理美味しすぎ」
鈴谷が満足気に語る。
「お前何杯食ってんだよ。太るぞ」
サイタマがアイスの棒を咥えながら鈴谷を見る。
「は!?レディに太るなんて失礼ね!!そーゆーサイタマだってガリガリ君4本目じゃん!!腹壊すよ!!しかもソーダばっかり!!」
鈴谷が言い返す。
「コーンポタージュの美味しさがサッパリわからねえんだよ!俺はソーダ一筋だ。」
サイタマもムキになって言い返す。
「コーンポタージュの良さも分からないなんてアホすぎ!!」
「まあまあお二人共…とりあえず吹雪さんにこの鎮守府を案内したらどうですか?」
くだらない口喧嘩を見て間宮が呆れ声で言う。
「そうね…じゃあ私と一緒に行こうか吹雪、いろいろ教えてあげるよ!」
吹雪を見つめて元気良く笑う鈴谷。
「はい!よろしくお願いします!!」
同じく元気良く笑う吹雪。
「よし、俺もついていくぜ。」
5本目のガリガリ君を咥えながら席を立つサイタマ。
「あら、サイタマさんは午後の業務が残っていますよ?早く司令室にも戻ってくださいな」
何故だろうか、間宮自身は天使のような笑顔で話しかけているのに、背後からドス黒いオーラを放っているような気がする。
サイタマの背筋が凍る。恐怖、不安、焦り、怪人との戦いでは味わうことのない緊張感が走る。できればこの緊張は怪人と戦う時に走って欲しい。サイタマはそう思った。
「い、いや…食後の運動に…それに俺、提督だし。」
「そういって昨日も一昨日もサボっていましたよね?書類が夏休みの宿題のように溜まってますよ」
さらにドス黒いオーラが強くなる。オーラや雰囲気は災害レベル龍を余裕に超えているのかもしれない。心なしか間宮の顔が引きつり、さらには額の血管が浮き出ているような気がする。
マジでやべぇ、サイタマの頭から脂汗が噴き出てくる。脂汗が反射して頭が光る。
「あ、あとd「仕 事 し ろ」」
「クソったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
間宮にTシャツの天巾を掴まれながら引きずられ、ハゲ頭の提督は司令室へと消えていった。
「あーあ旦那…ご愁傷様です…」
「間宮さんを怒らせたらいけないよ?ああなっちゃうからね」
「善処します…」
黒い精子、鈴谷、吹雪の一同は大きな渡り廊下を歩いていた。
この廊下は中央A館からB館を繋ぐ物である。この鎮守府には大きくABCの3つ館に分かれている。
3つ館は共に3階建てであり、A館は1階に食堂、2階に会議室と司令室がある。3階はまだ手付かずのままだ。
B館には工廠と入渠や倉庫、研究室がある。
C館はサイタマや艦娘達の寮である。
レンガ造りの美しい外見とは打って変わり、B館の内部は部屋というより工場になっている。鉄工で組み立てられた柱やコンクリートの床が先程とはまるで違った空間を生み出しており、あたりには鉄と油の匂いが立ち込めていた。
吹雪は口を大きく開きながら驚いていた。
「外見やA館はあんなに綺麗なのに…すごいですね。」
鈴谷が苦笑いしながら言う。
「ここが工廠よ。この前視察しにきた海軍の偉い人もそういってたよ。まぁこのギャップにはみんな驚くよね。」
黒い精子が鼻をつまむ。
「くっさ、早く出て行きたい…」
良く分からない機械や工具のジャングルを潜り抜けて、一同は、【装備開発室】と手書きで書かれたと思われる紙が貼られている扉の前までやってきた。
「たっく、なんでこんなに散らかってるのよ!おーい明石!!いるの!?生きてる?」
イライラしながらガンガン扉を叩く鈴谷。
10秒遅れて扉が開かれる
「はいはい…生きてるっつーの…ん?ピクミンとあなたは誰かな?」
出てきたのは黄色の赤のタンクトップに水色の作業ズボンを履いた、オシャレとはかけ離れた格好をした鈴谷と同い年くらいの少女だった。しかし、綺麗なピンクの髪は、横髪が左右両方結ばれパッツリ切られていて、後ろ髪は少女の腰ぐらいまで届いている。顔にはススがついているが、とてもかわいい少女だ。
「あ、あの!特型駆逐艦1番艦吹雪です!今日からここに配属されることになりました!よろしくお願いします!」
元気よく敬礼しながら挨拶する吹雪。
「あー特型駆逐艦ねぇ…私は工作艦明石。戦闘はしないけどここで装備の開発だったり修理をやってるわ。よろしくね。」
笑顔で挨拶を返す明石。笑顔も綺麗だ。そして胸もでかい。女子なら嫉妬し、男子なら目が釘付けになるような谷間がタンクトップから露出していた。
(絶対負けません!私だって大人になったら……)
こぶしを握り締め新たに決意する吹雪。そんなことなどつゆ知らず、明石が話しかける。
「まぁ新人の吹雪ちゃん連れてここに来たってことはここの案内だよね?」
鈴谷が鼻をつまみながら答える。
「まあそうね。好きでこんなとこいるのはアンタぐらいよ。」
レンチをクルクル指で回しながら明石が得意げに説明した。
「ここは工廠(こうしょう)よ。主に艦娘の武器の開発だったり修理、艤装(ぎそう)の燃料補充をやってるわ。それに艦娘の『建造』もね。その名の通り艦娘を『作る』ことよ」
「あ、あの、どうやって艦娘を建造しているのですか?」
建造ということは艦娘は人間に作られた物なのか?吹雪が
生まれた時は海にいた。船ではなく人の姿をして海で『生まれた』のだ。それを海軍が保護(正確には捕獲)されて今に至る。
「あーもしかして吹雪ちゃんはドロップ艦ってやつかな?鈴谷はこの鎮守府で建造されたんだけどね。艦娘が生まれれる方法は二種類あるのよ。一つは海で突然艦娘が出現するいわば『ドロップ艦』っていうやつね。その理由を海軍とヒーロー協会が必死こいて調べてるらしいけど全く不明らしいね。2つ目は…」
すると明石の作業ズボンのポケットから小さい小人が顔を覗かせていた。
「あー出てきちゃった、あんまり人には顔をださないんだけどね。この子たちは『妖精』と言ってね、私の作業を手伝ったり、艦娘の建造をしたりしているわ。普段は武器の開発だったり修理を手伝ってくれたりしてくれるんだけど、何故か建造だけは私にも教えてくれないし、建造の仕方も分からないのよね。資材を渡すだけで艦娘を建造しちゃう不思議な子達よ。」
よく見ると女性の手のひらぐらいのサイズの小さい妖精達が明石の足元に集まってきた。艦娘と似ている制服を着ていて、顔はもちろんのこと、髪型や髪の色も一人一人違っており、個性豊かでとても可愛らしい。
吹雪が妖精達に手を差し伸べると、我先にと争うように妖精達が手に乗っかって来た。
「ほへ〜かわいいですね。この子達は喋れるのですか?」
「いや、残念ながら喋れないのよね〜表情は豊かだけど。」
明石は妖精に手に置いて頭を撫でていた。
「ホント不思議だよなこいつら」
鈴谷が叫び上がる。
「うギャァァァハゲ頭いつの間に!!!」
「誰がハゲ頭だコラァァァァァァ!!お前も苔色頭じゃねーか!!」
「お前に決まってんだろクソハゲ!!そんでもって誰が苔色頭じゃァァァァァァァァァァ!!エメラルドグリーンと呼べ!!」
「提督、仕事はどうされたのですか…」
「おう吹雪、面倒だからサボってきた。」
後が怖くないのかこの人は…。
いつから来てたのかサイタマも妖精達と遊んでいた。
「あ、提督、3DS修理しときましたよ。」
明石がサイタマに3DSを手渡す。
「おーサンキュー明石、実はこれキングのなんだよな。」
「あーモンハンくっそ強いですよね。キングさん。」
「大体俺と鈴谷が3落ちして負けちまうんだけどな」
「あんたの方が死んでる回数は多いんだけどね〜下手くそハンマーさん」
「はぁ!?いつもクーラードリンクとホットドリンク間違えてんの誰だよ!?この太刀野郎!!」
「明石はオールラウンダーですよ〜」
「あっしは弓矢ですな。」
「何を話をしているのでしょうか?」
聞き慣れない言葉に頭を傾げる吹雪であった。
その後モンハン談話に花を咲かせ、吹雪に無理矢理モンハンをプレイさせた後、昼飯を食べに行く明石と別れ、サイタマも含む一同はB館2階の入渠にいた。
「えーと…『入渠(にゅうきょ)』は艦娘達の怪我や疲労を回復せるための施設であり、人間で言えば風呂みたいなものである。お風呂のお湯は妖精さんにしか分からない成分が含まれており、現時点の科学では皆目見当もつかないお湯である。」
明石に貰った紙を読み上げる鈴谷。
入渠と呼ばれる艦娘達の風呂場は大浴場みたいに広く、お湯の色は紫や青色など色とりどりである。ちゃんとシャワーやシャンプーなど必需品は揃っており、幼い駆逐艦のためなのか、子供用シャンプーや水に浮かべて遊ぶアヒルもある。
もちろんだが今入渠するわけではないので、皆服を着て裸足で入渠にいる。
サイタマがアヒルを浮かばせて遊んでいる。
「風呂に入ったら怪我治るってスゲーよな」
「そーね、例え全身大火傷だろうが骨が折れようが風呂入れば治るものね。化け物と言われてもあながち間違ってないのよね艦娘って。」
風呂場を眺めながら鈴谷が苦笑いして、なんだか悲しげに聞こえるような声で言った。
だがそんな声をサイタマは気にするはずがない。
「いや?風呂で怪我が治るってスゲー羨ましいぜ。化け物なんてお前らを知らない奴が言ってることだろ?気にすんなよ。」
鈴谷も吹雪もこのハゲの言葉を聞いてなんだかホッとした。別に漫画やアニメに出てくようなかっこいい名言ではないが嬉しかった。こんな優しさがあるから笑いあったり、口喧嘩ができるのかもしれない。
「まあ怪我の具合や艦娘の種類によっては風呂に浸かっている時間が長くなるんだけどね。」
「ふーん。長くても風呂では寝るなよ。」
そして一同は移動してC館の居住エリアに来ていた。
艦娘達が好きな時間に使えるように、卓球台やマッサージ機、自販機はもちろんのこと、畳の休憩所もあり、とても大きいテレビも置いてあった。
艦娘の部屋は1人1部屋個室があたる。何十人ここに住んでも大丈夫だろう。もちろんサイタマの部屋もある。
「じゃあ俺の部屋で吹雪のイャンクック装備揃えようぜ。」
「オッケー1分で狩ってやるわ」
「なんかゲーム機とカセットも頂いちゃいました…頑張ります!!」
「なんかあっしの存在が空気だったような気がする…」
後でサイタマが間宮にボコボコにされたのは語るまでもない。
ーーーーーーーーその夜
「ギャァァァァァァ」
夜の街のとある路地裏で男の悲鳴が響き渡る。
「その髪…まさか…!!」
「クソ!!化け物め!!銃が効かねえ!!」
「ハァ…ハァ…やめてくれ…俺たちが悪かった!!」
吹き飛ばされてゴミと共に埋もれている仲間を横目で見ながら3人の男達はそれぞれ苦悶の言葉を吐き出していた。
「はぁ…今更豆鉄砲撃ちながら命乞いですか…」
綺麗な声をした少女がコツコツと音を立てながら男達に近ずいている。少女が歩く度に男達は血の気が消えていく。
「ヒグゥ!!」
奇妙な声をあげる一人の男。
男は彼女に胸倉を掴まれて持ち上げられている。普通ドラマや映画なら立場は逆だろう。だが、少女が普通ではないから立場が逆なのだ。
少女の背中には2つの巨大な砲塔が装備されており、砲塔の先からは2本ずつ主砲が男を左右から睨みつけていた。肩には背中の装備の一回り小さい砲塔がまるで水筒を肩にかけて持ち運ぶ子供のようにかけられている。
「てめぇ…陸じゃ艤装も艦娘の力も使えないはずじゃ…」
胸倉を掴まれながらも声を振り絞る男。
「そんなことはどうでもいいのです。鎮守府が崩壊して以来、生き残った艦娘はどこに行ったのですか?早く答えてください。あ、拒否権はありませんよ?」
淡々とした口調で喋る少女。氷のように冷たく冷徹である。
「し、知らねーよ!!」
「答えてください。」
「知らないと言ってるだろ!!」
「答えてください。」
顔の表情と口調は全く変わらないが、今度は男の胸倉ではなく首を掴む少女。これで男の命は少女の手の中に移ってしまった。その気になればいつでも殺せる。
「答えてください。」
男はもがき苦しみながら辛うじて答える。
「カハッ…アァ…その…髪型とその…制服みたいな服…お前が海軍を裏切った艦娘だろ………一部の艦娘…はお前みたいに……逃走しちまったよ…俺たち下っ端が今血なまこ…で探してる…残った奴は…グフ…カハッ…」
「残った奴は?」
ここで初めて語気を強める少女。
「ハァ…ハァ…全部ヒー…協…って奴ら…引き取っちま…よ…また鎮守……作…ために…ゴフ…」
仕方がない…少女は男の首を離した。男の目は充血し、息は絶え絶えで、足は恐怖で固まっていたが、なんとか意識だけは残っていた。
息を整えながら男が喋り出す。
「ハァハァ….ヒーロー協会が残った艦娘を引き取って新たに鎮守府を設立したんだよ!!まだ海軍にも少しいるらしいが…本当だ!!信じてくれ!」
少女の眉がひそめた。ヒーロー?そんな物があっても私達を救ってくれないではないですか。所詮人間、信じることなどできない。今度こそ私がみんなを救うのだ、そう決めた。
「場所はどこですか?」
少女の目つきが更に鋭くなる。殺気と怒りに満ち溢れた目で男を睨らみつける。
男は腰を抜かしてビクビク震えながら話す。
「ヒィ……場所は教える!!嘘はつかねえ!!たまたま今日の昼にその鎮守府に艦娘を連行した後だったんだ!!特型駆逐の一番艦だよ!!お前も知ってるだろ!?」
吹雪さんのことか…顔はみたことなかったのですが貴方も艦娘に…
「お前は明らかに他の艦娘とは違う。S級ヒーローと互角以上の深海棲艦をも倒せるんだしよぉ!!なんたって1人で鎮守府壊滅させちまった!化け物以上の化け物だ!!だがなぁ…」
全ての艦娘を救うために…そして艦娘を苦しめる『悪』を殺すために。
「あの鎮守府にはお前よりもーーー…」
鈍い音と共に吹き飛ばされ壁にめり込む男。他の3人も恐怖のあまり失禁して気絶していた。
少女の脳裏には艦だったころの苦い記憶が焼きついている。
今度こそ絶対に助ける。救う。私は絶対沈まない。死なない。
「まあ海軍の人間ならメモ帳ぐらい持ってますよね。場所は分かりましたのでいきましょうか。鎮守府潰しに。」
己の正義のために1人の少女が闇の中へと消えていった。
誤字、脱字報告はご遠慮なくご報告ください。
後半部分が個人的には納得していないのでもしかしたら改訂版を出すかもしれません。
艦娘やヒーローの登場を予想するような感想はご遠慮ください。
当たってると書きづらいので…