ハゲマントが鎮守府に着任しました。   作:owata31

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遅くなり申し訳ございません。
12話更新はもう少しお待ちください。
番外編も不定期更新で続けていきます。



番外編
番外編 問題児 その1


テレレレッテテ〜

「げっ」

最近流の歌の着メロが携帯電話から流れてきた。

 

「ん?電話かね?できれば電源は切って欲しいのだが」

白い制服を着た海軍と思われる軍人が高圧的な態度で話しかけてくる。

 

「妹からの電話は無視できねーんだよ!!ちょっと出るぜ!」

忙しなくドアを締め部屋から出て行き、少年は着メロが鳴り止まない携帯電話を取り出し電話に出る。

 

「も、もしもしゼンコ、悪りぃけど今日は忙しいんだ。ピアノの発表会には行けそうにねぇ…今どこにいるかって?今日の任務は極秘情報で教えられねーんだよ。いや泣くなよ…あとで美味いもん買ってやるからよ…じゃーな、切るぞ。」

はぁ……少年はため息を吐く。いつもヒーロ協会は急な任務を理由も教えられずに押し付けてくる。今日も協会から指定された場所に行くとそこは海軍だった。

「電話長かったな。ではS級ヒーローの君に任せるよ。金属バット君。失敗したら私の名誉にも関わってくるし、私個人で買っているヒーロー協会の株を買うこともないからな」

海軍でも偉い地位にいる偉そうな小デブがパイプを吹かしながらそう言う。

 

「(てめーのキャリアや協会なんて知ったこちゃねーよ!殺すぞじじい)」

妹に泣かれ、1時間ぐらいよく分からない話を聞かされて、金属バットの堪忍袋は切れそうだった。上官の部屋のドアを乱暴に締めて部屋から出て行き、バットを肩に乗せて風を切りながら廊下を歩く。髪型は一目みて不良と分かるリーゼント。まさしく昔のヤンキーみたいな風貌だ。

 

「お、おい、あれ金属バットじゃねーか?」

 

「本当だ。S級ヒーローを生でみるの初めてだぜ」

 

「あんな髪型と、格好してて恥ずかしくないのか?」

 

「俺はこの前災害レベル鬼の怪人をしばき倒してたの見たぞ!」

すれ違う海兵からはヒソヒソとそんな声が聞こえてくるが、今はどうでもいい。金属バットは早く仕事を終わらせて妹に会いに行くことしか頭になかった。彼は妹に頭が上がらないのである。階段を下り、玄関をでると2人の海兵が敬礼をしながら出迎えてきた。

「金属バットさん、お待ちしていました。」

 

金属バットはめんどくさそうな顔をした。

「あー、たしか艦娘っていう少女の護送だよな。そんなもになんで俺が付いてかなきゃいけねーんだよ。」

 

 

「こいつは艦娘の中でも問題児でして…とにかく作戦を拒否したり上官に反抗したり懲罰房にいれても何度も脱房したりするのです。しかし、この娘は『正規空母』であり、深海棲艦撲滅の大変貴重な戦力でありますので護送は万全を期したいのです。最近は怪人も増えておりますので。」

すると海兵の1人が近くに駐車している護送車から1人の少女を引っ張りだしてくる。少女の手首と足首には小さい身体には見合わない手錠と足枷がかけられており、口にはテープまで巻かれている。

 

「おいおい、たかが女1人にそこまでするか?」

金属バットも流石にやり過ぎてはないかと口にする。それもそのはず少女の見た目は金属バットよりも年下に見えるからだ。

 

「いえ、この艦娘にはこれくらいが丁度いいのです。では我々はこれで失礼します。よろしく頼みますぞ。」

再度敬礼し、2人の海兵は立ち去って行った。

 

 

 

「………」

護送車に乗った後は暫く無言の時間が続いた。護送車の中には運転手と金属バット、それに少女の3人だけである。少女の横には矢筒に入った矢と弓よく分からない板が置いてあり、それを触ろうとしたらキッと睨みつけられた。ただの弓と矢にしか見えないのだがそんなに大切な物なのだろうか。

 

「あ〜あ〜暇だなぁおい…今頃妹のピアノ発表会も終わっちまってるぜ。」

藪から棒にそう言い放つと運転手に話し声が聞こえないことを確認して少女の口についているテープを剥がしてやる。テープを剥がされた少女は深呼吸をしながら金属バットを見つめていた。

「プハッ…なんで剥がしたのよ…」

 

少女の言葉にため息ながら金属バットはこう返す。

「あぁ、片道まだ2時間もあるんだぜ?話し相手くらいにはなると思ってよ。名前は?」

少女の声は年相応の物だった。見た目15、16くらい、黒髪を2つの白いリボンで結んだツインテール、そして神社で見かけるような巫女装束風の服を着ている。

「翔鶴型2番艦の瑞鶴って言うの。まぁうん…テープ剥がしてくれてありがと。」

 

「瑞鶴ぅ〜??変な名前だな。俺は金属バット。S級ヒーローやってんだよ。」

 

「よろしくね、金属バット。変な名前というか私達は元々艦だったからね。私なんてまだマシな方、もっと変な名前の艦娘なんて山ほどいるよ」

 

「おいおいマジかよ…いやまぁヒーローにも変な名前奴は沢山いるな。てか艦だと?船ってどういうことだよ」

任務のことは散々上官に聞かされたが、艦娘については何も聞かされなかったので金属バットは興味本位で聞いて見た。

 

「うーん、学校っていう所で習った第2次世界大戦ってあったでしょ?艦として造られた私達はこの国の為に戦ったのよ。私は正規空母として…結果はご覧の通りだけど…」

 

「い、いやにわかに信じられねぇぞ…第2次世界大戦って何十年前の話だよ…俺の爺ちゃんの爺ちゃんぐらいの…しかもお前が空母って、話がぶっ飛んでて意味が分からねーよ。」

自分から聞いてなんだが、瑞鶴の話を聞いたがさっぱり意味が分からない。空母ってゼンコにせがまれて見に行った海軍パレードに出てきたあの空母のことなのか?しかし砕けた口調ながらも時には真剣に語ったり、時には悲しい顔をする瑞鶴が嘘をついているとは思えなかった。そんな彼女の話に金属バットは飲み込まれていき、時間は刻々と潰れていく。

 

「ね、ねぇ金属バット、後ろの窓から怪しい黒い物体見えたんだけど見にいってくれない?」

話がひと段落し、ぼーとシートに寝転がっていた金属バットに声をかけた。

 

「あぁ?怪人か何かか?ちょっと見てくるぜ。」

バットを持ってズカズカと後ろの窓へと歩いていく。後ろへズカズカ歩いていく金属バットを見計らって瑞鶴は手錠と足枷を外し、音を立てないようにそっと椅子の上に置く。飛行甲板を装備し、矢筒を肩に掛け、弓を持ち、気付かれぬように抜き足差し足で金属バットに近づいていく。

 

 

 

 

あと4歩

(正直ここまで私の話しを聞いてくれ人間がいるなんて思いも寄らなかったわ)

 

 

3歩

(ありがとう金属バット、短い時間だったけど楽しかった…)

 

 

 

2歩

(でも…)

 

 

 

 

1歩

(私には戻ってやらなきゃいけないことがあるのよ!!!)

 

 

 

艦娘…特に正規空母や戦艦の力は人間とは比べ物にならないくらい力が強い。手加減しているとはいえ、瑞鶴の振り抜いた拳は大の男を2日寝かせるくらい威力が乗った拳をだった。しかし、その拳は肉体には当たらず、代わりに響いてきたのは鉄がぶつかるような鈍い音だった。

 

「!!!!!!」

 

「はぁ…今日はため息ばかり突く日だぜ。こういうのはよ、日頃怪人と戦ってるとそんな珍しいもんでもないんだぜ?」

 

瑞鶴の拳を、金属バットは何の他愛もなくバットで防御していた。瑞鶴は狼狽えながらも距離を取ろうとする。

 

「あ、あんた、最初分かってたの……!?」

 

「いや?そんことよりまし今出てきたお前は運が良いかもしれないぜ!」

そう言うと金属バットから離れようとする瑞鶴の袖を握り片手でバットを振りかざし窓を叩き割り、そのまま窓から外に飛び出した。

飛び降りた瞬間、地面がうねり声を上げたと思えばバスの下からコンクリートが割れ、溢れ出した土が一点に集まり硬直化し、瞬く間にバスを串刺しにする。遂にはバスは真っ二つ割れ、その場には土で固まった巨大な槍が突き出ていた。

 

「な、なによあれ!!土が固まった!!」

 

「出やがったか!お前は下がってな!!!」

 

すると土の槍が崩れて穴が空き、中から6本の腕と剣を持ち、ハニワのような怪人が現れる。

 

「我は真・地底王!!軟弱な前・地底王が軟弱な地上人にやられたが、今日こそこの地上は我々がいただく!!」

 

「ケッ!久々に気合いが入る戦いになりそうだぜ。」

唾を吐き、自慢のバットを握り、金属バットは臨戦態勢に入る。

 

「貴様はS級ヒーローの金属バット!!まずは貴様を殺せばこの地底王の名も上がるはずだ!!!」

 

「ああ!?俺の名前を知ってるてことは地底にもパソコンでもあんのかゴルァァァァァ!!!」

地底王は6本の巨大な剣を振りかざし、対する金属バットは細道をすり抜けるネズミの如く巨大な剣をかいくぐり一気に距離を詰める。

 

「オラァァァァ!ボディががら空きだぜぇぇぇぇえ!!!!」

地底王の懐に入り込みフルスイングで勝負を決めにいく。しかし、突然目の前から巨大な土の槍が行く手を阻み、金属バットの足元からも土の槍が何本も突き出てくる。

 

「チィ!!」

 

「フハハハハハハハ!!我が能力は土を操る能力!!そのまま串刺しになって埋葬されるがいい!」

土の槍が針山地獄のように何十本も襲ってくる。これには流石の金属バットも退くしかなかった。後ろにジャンプし、何本か襲ってくる槍を叩き壊しながら後退する。

 

「ちょっと!あれじゃあらちがあかないわ!!一旦退いて土のない所で戦うべきよ!」

 

「いいや!退かねえ!!!ここら辺には妹のピアノ教室もあるもんでな!!とっとと任務も終わらせて妹の迎えにいくぜ!!」

 

何十本も土の槍が束になってになって押し寄せる。金属バットはバットを遠心力にしてグルグル回り始める。それはやがて大きな竜巻になり、風がうねり声を上げた。

 

「気合い!!!野蛮トルネード!!!」

竜巻は土の槍を粉微塵に叩き割り、破竹の勢いで進んでいく。その圧倒的なパワーとスピードに瑞鶴は驚愕していた。

 

「バットを持っててふざけてるのかと思ったけど…信じられない、凄まじい威力だわ。」

 

「ク、我が土の槍をこうも打ち砕くとは!!流石はS級!!だが所詮貴様はバットで殴るだけの脳筋だ!!!!」

すると今度は土からたくさんの小さいハニワが一斉に飛び出し、空中に浮遊した。

 

「金属バット!!!このハニワの中にはガスが溜まっており触れた瞬間大爆発を起こす!!!!貴様に耐えられるかぁぁぁぁぁ!??」

 

「ああ!?上等だ!!どっからでも来やがれ土人形!!」

金属バットはさらに竜巻の威力を上げる。浮遊するハニワ達が一斉に金属バットに向けられた瞬間、何やら空からエンジン音が響き渡り、ハニワは獲物を捉えることなく空中で次々と爆散していく。

 

「あんたの戦いっぷりはめちゃくちゃね…負けることはないにせよ、危なっかしいから見てらんないってば」

空をかっ切り、白色の機体に日の丸が塗られた小さな戦闘機。その戦闘機からは放たれる機銃はまるで針穴に糸を通すが如くハニワに命中していき、美しい陣形を描きながら離脱していった。

 

「な、なんだあの小さい戦闘機!!!まさかあの正規空『ど こ み て ん だ よ』

 

地底王が見た最後は、基地外じみた威力で脳天向かって放たれる金属バットであった。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

瑞鶴は、肩につけている飛行甲板に戦闘機を着艦させ、矢に変えて矢筒に戻した。

 

「ほぉ〜魔法でも見てるようだぜ」

 

「分かったでしょ?私が正規空母だってこと」

 

「あぁ、よぉ〜く分かったぜ、お前が本物だってことは」

金属バットは壊れたバスの中から運転手を見つけ出し、道端に寝かせていた。気を失っており、骨の1、2本は折れてると思うが、幸いな事に命に別状はなかった。

 

「別にお前が誰であろうが俺には関係ねー。だがよ、任務は任務だ。お前を護送する任務は終わってねえ」

 

「……見逃してって言ったら?」

 

「悪りぃが任務だからな。今日はため息が続く日だぜ。」

ため息をつきながらバットを両腕に掛け瑞鶴を見つめる。べつ

 

「そう…あなたと話せてよかったと思うし、後ろから襲った挙句助けて貰ったことには感謝してるし、悪かったと思う。でもね、私にはどうしても戻ってやらなきゃいけない事があるの。」

一瞬、ほんの一瞬だけ、悲しい目になり、すぐに獲物を狙う鷹のような鋭い目を金属バットに浴びせる。金属バットの目の前にいるのは年頃の正直ではなく、命を奪う兵器であった。

 

「安心しろよ痛くしねーよーに気ぃ失わさせてやるからよ」

だが瑞鶴の目の前いるのも軍隊一つ分の戦闘力を持つS級ヒーロー。睨みつけられた程度で

 

「野外なら私の方が優位なんだけどね。こっちは殺す気で行くわよ」

 

一触即発、まさに殺し合いが始まる寸前の空気である。瑞鶴は矢を金属バット向け、金属バットはバット握りしめる。

 

 

 

 

 

 

「ああ!!おにーちゃん女の子を虐めてるぅ!!!!」

そんな突然の少女の声と共に殺し合いの空気が霧散していく。あまりの突然に瑞鶴は面を食らった表情になり、金属バットは苦虫を噛み潰したような顔になり、額には汗がびっしりついていた。

 

「おにーちゃん女の子は痛めつけないって約束したよね!?なんで破ってるの!?キャー暴力よ〜」

 

「ぜ、ぜ、ぜ、ぜ、ゼンコォォォォォ!!これには深いわけがあんだよ!」

悲鳴のような金属バットの声がこだました。無敵のS級ヒーローも今目の前にいる妹のゼンコには頭が上がらなかったのだ。

 

「ねぇ!バットおにーちゃんなんで女の子虐めるの!?女の子には暴力しないって言ってたよね?」

瑞鶴は唖然と二人のやり取りを見ていた。先程の勢いはどこへやら、参ったと言うような顔になり、立派な黒い学ランは小さく見える。さっきまで自分を倒そうとしていた強大な敵は、今目の前の小さな少女に倒されている。

 

「い、いやな?ゼンコ、これはパントマイムだぜ?ほ、ほら、初めて会ったからレクリエーション…みたいな奴だぜ、なぁ!?」

パッと金属バットは助けを求めに瑞鶴の方を向く、急にふっかけられた瑞鶴はえ?私?と焦りの表情を浮かべ、咄嗟に矢を仕舞う。

「そ、そうよ!ゼンコちゃん…だっけ?パントマイムよパントマイム!ちょっと演技みたいなもんよ」

うんうんと金属バットも同情する。

「そうだぜ。そうだぜ。ゼンコ、怪人倒したらパントマイムやりたくなるもんなんだよ」

 

「ふーん、『別にお前が誰であろうが俺には関係ねー。だがよ、任務は任務だ。お前を護送する任務は終わってねえ』『悪りぃが任務だからな。今日はため息が続く日だぜ。』とか言ってたくせに?」

 

「わ、分かった…もう勘弁してくれ…お前の好きなパフェ食べさせてやるから…」

 

「瑞鶴にもね!!!!」

そう言うとゼンコは瑞鶴に向かってウィンクする。大した子だ。S級ヒーローの戦闘に容赦なく割って入る度胸と気の強さ。自分の名前を短時間で覚えたり、兄の揚げ足を取る記憶力と判断力、瑞鶴は心底感心していた。

 

 

 

「うわぁー美味しそう!瑞鶴!食べよう!」

運転手を病院へ運んだ後、金属バット達は現場から少し離れたファミリーレストランに来ていた。

 

「えぇ…そうね。いただきます。」

横にいるゼンコは美味しそうにパフェを口に運んでいる。テーブルには瑞鶴の顔を隠してしまうほどのの二つの巨大なパフェが並んでいた。そのパフェの間から対面して座っている金属バットの顔を伺った。

 

「食えよ。今更頼んだ物残されても困る。」

そう言われるとパフェへと顔を向き直し、スプーンでアイスを割り、クリームのついたイチゴと一緒にスプーンに乗せ、口の中に入れる。

甘く冷たいバニラと甘酸っぱいイチゴが口いっぱいに広がり、言葉に表せない感動を覚える。その後は無我夢中で人目を気にせずパフェにがっついた。そんな二人の様子を金属バットはコーヒーを飲みながら二人の様子を黙って眺めていた。

 

「まー成り行きが成り行きだ。話は聞いてやる。」

パフェを食べ終えた瑞鶴に金属バットがティッシュをさしだしながらそう言った。横ではゼンコが口をティッシュで拭いて貰っている。

 

「あ、ありがとう。」

ティッシュを受け取り口にあてる。クリームがぽっぺにまでついており、初めて自分が無我夢中でパフェを食べていたことに気がついた。恥ずかしくなりながらもクリームを拭き取りティッシュを丸めてテーブルに置いたのだった。

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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