シズ・デルタに恋をしたナザリックの機動兵器   作:t-eureca

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第59話 月夜に誘う

ナザリックに帰還した俺達はあの機械系異形種を『機械の楽園』に拘束して連行した後、モモンガさんの下に行き、事の経緯を説明する。

 

「……」

 

「……以上で報告終わりです」

 

報告が終わった後、俺は空気を重く感じていた。

シズを傷つけた彼奴に本気でキレてしまい、大破寸前まで叩きのめしたのだ。

謎の改造人間集団とは違う機械系異形種であり貴重な情報源になるであろう存在を危うく破壊してしまうところだったのだ…。

 

「…………マシンナーさん」

 

「わかってます、例の奴ですよね…」

 

「はい…」

 

「大破寸前までぶちのめしたのは申し訳ありませんでした…しかし……どうしても…」

 

わかってるよ……わかってる、でもどうしても我慢が出来なかった……!シズを傷つけた彼奴に対する怒りが精神効果無効の力を撥ね退ける程あの時の俺の中には奴に対する殺意と怒りで満ち溢れていた…。

 

「……マシンナーさん、俺はマシンナーさんを責める気はありません。俺が同じ場所にいたとしても多分止めなかったと思います」

 

叱責を受けるのを覚悟していたがそれとは反対の言葉に驚くも、モモンガさんがこのナザリックをどれだけ愛していることを知っている俺はすぐに納得もした。

 

「……モモンガさん」

 

「それにマシンナーさんが回収してきた奴は再生機能が付いていると聞きましたし今もそれが正常に動いてるのも聞きました、それなら何の心配もありませんよ。それよりシズの傷は…?」

 

「はい、リペアキットを使って応急処置をした後に俺が修復しました。ジャガーノートのお陰でなんとか軽症で済みました…」

 

「そうですか、それはよかった…」

 

シズの安否を聞いたモモンガさんの顔はガイコツなので表情を変えることはできないが、笑っているように俺は感じた。

 

「はい…」

 

「それで、ザイトルクワエとかいうモンスターにナノメタルが入っていたと聞いたのですが…」

 

「はい、ディアボロスが調べたところ元々内部に破片が休止状態で埋まっていたらしく。俺達との戦闘の影響で活性化しザイトルクワエを取り込んだじゃないかと言ってました」

 

「ふむ、となるとそのザイトルクワエ自体はナノメタルのモンスターでは無かったという事ですか…じゃああの機械系異形種は?」

 

「はい、調べたところ再生機能はナノスキンによるものですがナノメタルは使われていませんでした…」

 

拘束し、応急処置を施して少し経った後、奴の体は徐々に自動修復していた。ナノメタルによるものか調べたが、機体構造そのものにナノメタルは組み込まれていなかったのだ…。

 

「そうですか…ザイトルクワエに残っているナノメタルは?」

 

「先程ディアボロスが抽出したんですが結構残っておりました」

 

ディアボロスの眷属になったザイトルクワエの身体の中にまだ余っていたナノメタルを抽出すると、全長10m程の金属の塊がある程度できる程の量が出たのだ。

 

「そう言えば依頼でナノメタルを採取するのがありましたよね?あれはどうするんですか?」

 

「あれはちょっと大きめの破片を渡そうと考えてます」

 

「大丈夫ですか?連中アレの恐ろしさをあまり知らなさそうでしたけど…」

 

「まあ武器を強化する金属程度の使い道しか知らないぽかったですし、それ以上の使い方はしないと思います、もし何かやばい事に使おうとしたらその前に盗むつもりです」

 

仮になんかしようと考えていても、アレを増やしたり他の方法で利用するには専用の道具や融合炉がいる。

王国にはそんな技術や場所は無い。その為、強化以外に使用用途を見出せないし、仮に見出せたとしてもこれを増殖させる知識も無いので余り問題視していなかった(念の為監視は付かせるが…)

 

「わかりました」

 

「あ、後スレイン法国の六色聖典らしき連中が来てたので排除しました」

 

撤収する際、スレイン法国の部隊が森に侵入するのを確認したビーハウスの機械蜂の知らせを聞き、機械蜂達に排除を命令し、全員を毒殺してくれた。

 

「そう言えば報告で近々森に捜索しに行くと聞きましたね。確か滅びの竜王…ん?」

 

「どうしました?」

 

「偶然か…?」

 

モモンガさんは何かに引っかかったのか、顎に手を添えて何かを考えている…。

 

「何がですか?」

 

「いえ、確かザイトルクワエは《滅びの魔樹》と呼ばれてたんですよね?」

 

「そうですが……あ!?」

 

「もしかして滅びの竜王ってザイトルクワエの事だったんじゃ…」

 

確かにザイトルクワエは《滅びの魔樹》と呼ばれていたし法国は《滅びの竜王》というのを恐れており、わざわざ切り札の一つである漆黒聖典をあの森に差し向けていた、関係が無いとは完全に言い切れない…!

 

「…ありえますねこの世界の住人からすればLv80のモンスターも充分世界滅ぼせる存在だし」

 

まあ部下の眷属になって貰ったけどな!!

 

「俺達サラッと世界救っちゃいましたね?」

 

「征服する側なのにですね?」

 

『ハハハハ…』と互いに笑う。いやまさかね…可能性も十分ありそうだけど…

 

「そういえばあのピニスンとかいうドリアードはどうするんですか?」

 

「ナザリックの第六階層に住んでもらうことにしました」

 

ザイトルクワエをぶっ倒した後、終始ポカンとしていたピニスンだったが暫く立った後最初に合った時のように早口で話し始めた(すぐに治まったけど…)そして治まった後に俺達の事を知ったので、ナザリックにピニスンの条件付きで移ってもらうことにした。

 

「わかりました、では何かあったらすぐに言ってくださいね?」

 

「了解です」

 

俺は円卓の間から退出し、シズの様子見に向かう事にした。

 

 

 

 

マシンナーの部屋で修理をしてもらい、アインズの報告後に改めて状態を確認するため一旦部屋で待機するように命じられたシズは目の前の修理用のスペースに置かれている損傷したジャガーノートに触れる。

 

「………」

 

(マシンナー様……怒って…た…)

 

未だ嘗てあの御方があそこまで怒りの感情を顕にしたことはあるだろうか?少なくとも自分にはその記憶はない、アルティマ達隊長達も冷や汗を掻くほどであった…。

 

「ジャガー…ノー……ト…」

 

自分の問いに弱々しくも光を放ちシズに応えるジャガーノート。それを見てシズはある事を思う…。

 

(私が……壊した…から…?)

 

その瞬間、シズは自分の身体の僅かな変化に気付く。

手が…僅かに震えていたからだ。

 

「私…震え……て…る…?」

 

シズがそう言ったその時、「ガチャ」っと扉が開く音がした。

シズの様子を見に来たマシンナーであった。

 

「シズ」

 

「!……マシンナー…様…」

 

すぐに傍によろうとするがシズの身体の心配をしたマシンナーがそれを止める。

 

「ああいや、動かなくて良い。怪我の方はどうだ?」

 

「大…丈夫……支障…無し……」

 

「そうか、良かった…」

 

それを聞いてマシンナーは安堵する。

修理をした際には特に異常らしきものは無かったがそれでもどこか不安だった為だ。

 

「……」

 

「ご…」

 

「ん?」

 

「ジャガーノー…ト……壊し…て……ごめん……な…さい……」

 

損傷したジャガーノートの事で頭を下げるシズ。

予想外の謝罪とそれを見たマシンナーは慌ててそれを止める。

 

「な、何を言ってる!シズが謝る事じゃ無い!」

 

「…え?」

 

「…ジャガーノートはシズを守るために作った装備だ。シズを守って壊れたんなら別に…いや守れてなかったな…謝るのは俺の方だ…すまない……」

 

「!」

 

そう言って今度はマシンナーが頭を下げる。マシンナーの言う通り〈ジャガーノート〉はシズを守る為の盾であり鎧でもあった。結果的に最悪な事態は免れたが、シズを負傷させてしまった事に変わりはない…。

 

「やめ…て……お願…い、頭…下げない……で…」

 

シズはマシンナーの頭を上げさせようとする、だがシズの力ではビクともしない。

そしてシズは自分の謝った理由を話す。

 

「だが…」

 

「マシンナー様……怒ったの…それが…原因…かと……思って…」

 

それを聞いたマシンナーは頭を掻きながら顔を上げる。

 

「……それで怒ったんじゃねぇよ」

 

「あの野郎が……シズを傷つけた事が…許せなかった……!」

 

その言葉の後に一瞬だけ怒りの感情を示すかのように全身に赤いラインが入る。

それを見たシズは思わず一歩後ずさってしまう…。

 

「っ……」

 

それを見たマシンナーは一瞬だけ己に自己嫌悪を抱くが、気を取り直して言葉を続ける。

 

「…悪い、だがジャガーノートの事は気にするな、いくらでも直してやる。けど…」

 

「…?」

 

「多少の無茶はまだ良いが…無理だけはしないでくれ…」

 

「お前にもしもの事があったら、あの人に顔向けができない…」

 

これはマシンナーの本心からの言葉だった、実際シズが吹っ飛ばされた時マシンナーの頭の中は彼女を心配することで一杯だった。もしもシズが最悪の場合になっていたら、例の機械系異形種どころか世界ごと破壊しかねなかっただろう…。

 

「……」

 

それを聞き、少し俯くシズ。だがマシンナーは言葉を続けた。

 

「だが…あの時庇ってくれてありがとう……シズ」

 

「!……ん」

 

マシンナーからの礼の言葉を聞いてシズは顔を上げ頷く。マシンナーの優しさは元より知っていたがそれでも嬉しかった…。

 

「あ、そうだいっその事ジャガーノートを大改造するか?」

 

マシンナーはジャガーノートの方に指を指す。勿論直せない事も無いがいっそのこと今までのデータを参考にシズに最適な装備になるよう改造するのだ。

 

「……うん、強くして……欲し…い」

 

「そうか、なら今度改造するときシズも立ち会ってくれないか?使ってくれる奴の言葉があればより最適な改造ができる…」

 

「……立ち…会…う」

 

「よし、任せろ!更に強化したジャガーノートを仕上げて見せよう!!」

 

「ん…」

 

マシンナーはガン!と豪快に己の胸板を叩き「任せとけ」と言う。

それにシズがこくりと頷く。するとその後マシンナーにアルティマからの〈伝言/メッセージ〉が来る。

 

「ん?<メッセージ>?……どうした?ああ、そうだったな。すぐに向かう」

 

「どうした…の…?」

 

「定例会議、なんかあったら呼べ、すぐに来る」

 

「……待っ…て」

 

シズの制止にマシンナーは振り返り「どうした?」とシズに問いかける。

 

「もう…動ける……」

 

「おい余り無理は…」

 

「大丈……」

 

「夫」と言いかけるが運悪く少しふらつき倒れそうになるがマシンナーが咄嗟に受け止める。

 

「!…っと!だから無理するなって…」

 

「ごめん、でも大…丈夫……」

 

「わかった、けど無理はするなよ?」

 

「了…解……けど…」

 

「うん?」

 

「顔が…ちょっと……近い……」

 

「ゑ?」

 

シズを受け止めるとき、受け止めたのは良いが互いの顔の距離が後少し近ければ…の距離まで近づいていたのは思ってもいなかった。

 

「す、すまん…!」

 

「ん……」

 

マシンナーはすぐにシズを立たせて、自分も離れる。

「おほん」とわざとらしく咳をして気を取り直し、シズを連れて定例会議の場所にまで行く。

 

「じゃ、じゃあ…行くか?」

 

「……ん」

 

 

 

 

定例会議を終えて最後に捕獲した機械系異形種に何らかの動きがあれば即座に報告をするようマシンナーが言い、会議は解散する。そこにアルティマが例の機械系異形種の状態について報告をする。

 

「マシンナー様…」

 

「ん?どうした?」

 

「はっ、例の機械系異形種ですが身体は完全に再生しました」

 

「そうか…それで目覚めたのか?」

 

「いえ、まだ…」

 

その報告を聞き、マシンナーは顎に手を添える。再生自体は先刻の戦闘で知っていたのでそれ自体は驚かなかったが、目覚めてないというのを聞きこのまま監視するのと、目が覚めてまた暴れ出したらすぐに自分を呼ぶように伝える。

 

「そうか、目が覚めたらすぐに呼べ。場合によっては俺が直接取り押さえる…!」

 

「はっ!」

 

「それと、森の方の見張りを強化させておけ。恐らく法国が改めて調査隊を差し向けてくるだろう、引き続き些細な事でも報告するように伝えろ」

 

トブの大森林にはビーハウスや他の獣型機械系異形種が待機しているが念には念を入れ、アルティマにそう指示を出す。

 

「はっ!」

 

マシンナーはシズを連れて会議室を出る。2人が出たのを確認すると残ったアルティマ達はマシンナーの事について話し合っていた。

 

「……マシンナー様の様子、思ってたより落ち着いてたな」

 

「ナザリックに帰還後、すぐにシズの修復作業に入った時の気迫は真に凄まじかった…」

 

「仕方ないよ、奴はよりによってマシンナー様の逆鱗そのもの言っても過言じゃないシズに傷を付けたんだから…」

 

『アノ時ノマシンナー様ノ御姿ハ正ニ破壊ノ神ソノモノデアッタ…』

 

ユグドラシル時代からマシンナーと戦ってきたディアボロスとアンヘルを除いた隊長達はあそこまで激昂したマシンナーを見たことも無かった。

 

「再生機能を持っている俺でもあの時のマシンナー様に相対すれば死を覚悟する…」

 

「しかし禍々しくも神々しくもありましたね…」

 

再生能力を持ち、隊長達の中では一番の継戦能力を持つディアボロスもあの時のマシンナーには恐怖を覚えた。

空気が少し重くなっていくのを察したバレットローグは例の機械系異形種の処遇について話す。

 

「……一応聞くが奴の処遇はどうなる?」

 

「わからないよ、情報源として使うかそれとも戦力として使うか…」

 

襲撃してきたが自分達の創造主を手古摺らせた実力は本物だ。マキナ全体から見ても充分一線級の戦力に足りえる存在だ。しかしこちらの軍門に下るかもわからないし、更に自分達の主の思い人を傷を負わせた奴でもある。

 

『従ワヌ場合ハ…?』

 

「頭を弄るかディアボロスの眷属にして隷属させようと思う」

 

「最悪の場合だけど」と肩をすくめながら自分の考えを話す。現時点ではそれが最善な判断だろうと他の隊長達も納得する。

 

「……現状ではそれが最善だな」

 

「む…」

 

「了解だ!」

 

『承知…』

 

「応…!」

 

「それが妥当ですね」

 

そう言った後に隊長達も解散し、それぞれの仕事に戻って行った。

 

 

 

 

会議室を出た俺とシズ、シズはこれからプレアデスの定例会議があるので向かおうとするシズに俺は引き止める。

 

「あ、そのシズ…」

 

「ん……?」

 

「その…夜空いてるか?」

 

「?……う…ん」

 

「……その今日満月見に行かないか?ナザリックの外で」

 

「……え?」

 

元々、トブの大森林の件を終えた後に誘う予定だった。予想によると今日は雲一つ無い、星空と満月になる事を聞いたのでこれはチャンスなのではないかと思ったが完治はしているとはいえシズの体調の心配もあるので半ば駄目元だが…

 

「ああいや、無理なら『…良い』んだ……え?」

 

「行く…」

 

え?今なんて言った?行くって言った?行くって言った?

 

「……良いのか?」

 

「ん…」

 

「わかった、じゃあ後で迎えに行く」

 

「……わかっ…た」

 

そう言うとシズは軽くお辞儀をしてプレアデスの会議室に向かっていた。

一方俺はというと…。

 

「………」

 

「……………」

 

周囲に誰もいない事を確認し俺は歓喜の声を上げる。

だって嬉しいんだもの…!

 

「いよっしゃあああああああ!!」

 

『ヒヒーン(おまわりさんこいつです)』

 

その後急に出てきて余計な事を言ったトロンべをピコハンでしばいたのは言うまでもない…。

 

 

 

 

プレアデスの定例会着を終えたシズはマシンナーの部屋に向かっている途中、守護者統括のアルベドが居たので軽く会釈する。

 

「………」

 

「あら、シズ奇遇ね…?」

 

どこか怪しいアルベドの様子に不意に警戒するものの、アルベドは構わずシズに歩み寄る。

近づいて来たアルベドは自分の顔をシズに近づけるとこう話しかける。

 

「アルベド…様……?」

 

「ちょっと場所を変えましょう、話があるの…」

 

「……?」

 

「妃候補で自分の派閥に入って欲しいとか言うのでないだろうか」と考えつつも場所を移動する。

暫く歩いた後アルベドの部屋に到着し、部屋に入る。周囲にはアインズのぬいぐるみやら抱き枕などがあり、若干「うわぁ…」と内心思ってしまったが顔はいつものポーカーフェイスなのは流石である。

 

「ねぇ、シズちょっと聞きたいことあるのだけれど…良いかしら?」

 

「……?…良…い」

 

「貴方好きな御方居る?」

 

思ってもいなかった予想外の質問に一瞬目を瞠るがすぐにいつもの調子に戻りアルベドの問いに答えようとする。

 

「!……それ…は…『マシンナー様でしょ?』……!!」

 

その問いには流石に驚いたのか顔も少し驚愕するような表情になる。

流石にそこまで知っているなら隠し通せるわけもないし、どうやって知ったのかもシズは気になった。

 

「……何…故…知っ…て……?」

 

「それはね…」

 

「……」

 

少しの間が起こりアルベドがその理由を話す。

 

「女の勘よ!!!!!」

 

「…!!」

 

そんな馬鹿なと一瞬思ってしまうがアルベドが言うと妙な説得力もあるのでシズは納得する。

 

(本当はルプスレギナとナーベラルから聞き出したけど…この際黙ってましょ!)

 

「……何か…問題…でも……?」

 

「ん?ああ、そんなに警戒しないで、私は貴方の恋路を邪魔する気はないわよ?むしろ応援したいのよ…」

 

もしや反対されるのでは…?と身構えるが予想の反対の言葉を聞き、思わず呆気に取られるシズ。

そしてアルベドは自分の胸中を語り出す。

 

「……え?」

 

「私だってアインズ様に恋をしているのよ。だから貴方の恋路に苦言を呈する資格なんてないわ」

 

「……」

 

「…貴方はマシンナー様と結ばれたい?」

 

「……う…ん」

 

アルベドの問いにシズは迷いなく、アルベドの目を見てこくりと頷く。

その問いの後にアルベドはシズに手を伸ばす。

 

「なら…手を組まない…?」

 

「……え?」

 

「貴方はマシンナー様、私はアインズ様。共に至高の御方に恋をする者同士、つまり志を同じくする同志という事、そうでしょう?」

 

「……」

 

アルベドの誘いにシズは少し考え込む。アルベドの誘いが単純な善意だけではない事は理解していた。

アルベドと同じく守護者のシャルティアは苛烈なアインズの妃争いをしている。既にプレアデスの何名かはそれぞれの派閥にいる。(因みにシズは中立)

 

(恐ら…く……これは…私を…派閥に……組み込…む狙…い…)

 

しかもつい最近シャルティアは世界級アイテム『傾城傾国』を入手し、現在ナザリックで敵国として認定されているスレイン法国の最精鋭である漆黒聖典を殲滅するという活躍をし、アインズ直々に褒美を授与された。

恐らくこの誘いは危機感を覚えたアルベドがシズを自分の派閥に組み込み、尚且つマシンナーと結ばれればシズは勿論マシンナーもアルベドの後押しをしてくれる可能性も少なくはない。

 

(断るのは…可……能…で…も……)

 

今から自分がしようとしていることは未知の領域、だが同じ至高の御方の一人でもあるアインズを振り向かせようと日々奮闘しているアルベドの知恵を力を借りられるのはメリットが大きい。

 

(メリット…の……方が…大き…すぎ…る)

 

シズはアルベドの手を取り、こう語る。

 

「……組…む…」

 

「ええ、よろしく頼むわねシズ!」

 

「ん……!」

 

 

 

 

提出されていた書類を片付け潜伏している仲間からの報告を全て聞いたりして夜になったが、結局あの機械系異形種は目覚めなかった。できれば早く情報収集したかったのだが、目覚めなかったのは仕方がない、そんなこんなで約束の時間が来た。俺は待ち合わせの場所に五分前に着いたが、同じタイミングでシズも来ていた。

 

「じゃあ行くかシズ?」

 

「……ん」

 

俺達は外に出てナザリックから少し離れた所に座り、月見団子を出して夜空を見上げる。

空には雲一つなく空には数多の星々と満月が輝いてる。

 

「やっぱり、雲一つない夜景は良いもんだ…」

 

「ん…」

 

「満月もある…今日は付いてるな…」

 

そう言って俺は月見団子を一つ食べる。その後にシズも食べ始めた。

前の世界では月がこんなに綺麗なものだなんて考えたことすら無かったな…。

 

「マシンナー…様……」

 

「なんだ?」

 

そうセンチメンタルに浸っていると不意にシズが話しかけてきたのでシズの方を向くとシズは質問をしてきた。

 

「月に……兎が…いる…って……本当…?」

 

「え?……いやぁ…いないと思うがそうも言いきれん…」

 

「?…なん……で…?」

 

「俺が居た世界はいないがこの世界の月はわからん……もしかしたらいるかもしれん」

 

元居た世界ならいざ知らず、この世界ならば月に兎がいる可能性もある。

尤もその兎が宇宙服着て生活しているのを想像してしまうとちょっとシュールな光景だな…(御大将とか出たらどうしよう)

 

「お餅…突いてる……かな…?」

 

「どうだろうなぁ…」

 

シズの次の質問に苦笑しながら答える。果たして無重力で餅突きが出来るんだろうか?仮にしてたらその兎結構ヤバいな…。

 

「……」

 

「どうした?」

 

そう考えているとシズは星空を見つめている。

冒険者として行動するときはあるが本物の星空をこんなに見るのは初めてなのだろうか?

 

「マシンナー様達…は……この…星……空を…宝…箱…言ってた……って…デミウルゴス様から…聞い…た」

 

「確かに言ってたな、あれは本当に宝箱だよ。ブループラネットが見たらどんな反応するだろうなぁ…」

 

ナザリックの自然や星空の大部分を作ったのはブループラネットさんだ、その拘り様には同じく何かを作ることに楽しみを見出す俺も脱帽せざるを得ない程だった。

 

「……」

 

「見てみるか?」

 

「……え…?」

 

「大空でこの星々を見てみないか?」

 

「!…見たい…けど……ジャガー…ノート……無い」

 

「あ…」

 

そうだった、忘れていた…どうすれば良いかと俺は考える。その時俺はある事を思い付く…断られる可能性もあるけど…。

 

「その…シズ」

 

「ん…?」

 

「ああ、その…なら、俺につかまるのどうだ?大丈夫だ、絶対に落とさん!」

 

「え…?」

 

(……で捕まってくれたのはいいんだけど…)

 

(なんでお姫様抱っこしてるんだ俺…!!)

 

いや、よくよく考えれば捕まるってことは俺も抱えなきゃいけないって事だから、どう考えても似た体勢しか思いつかない。下手な抱え方したらそれこそ駄目だ。(そしてシズをお姫様抱っこしている事に喜んでいる残念な俺がいる)

 

(駄目だ…どう考えてもこれしかない)

 

「……そのシズ、嫌なら他の方法でも」

 

「……良い………それ…より…」

 

「うん?」

 

「重く……ない…?」

 

「いやいや、軽いぞ、全然軽いぞ、問題ない!」

 

女に対して重いとか絶対に言えないし!そう思っているとシズは心なしか俺の首に回している手の力をぎゅ…っと少し強めたような気がする…。

 

「……良かっ…た……」

 

シズの少し微笑む顔を見て一瞬ドギマギしながらも、シズを抱きかかえながら飛ぶ。

地上からでも綺麗に見えた空が益々綺麗に見えた。

 

「……綺…麗…」

 

「そうだな…」

 

(まあ、俺にとってそれ以上に綺麗な存在が腕の中にいるんだが…)

 

そう思いながら俺はシズの顔をちらりと見る。

シズは俺の事に気付いたのか俺の顔を見る。

 

「……何?」

 

「いや、綺麗だなって…」

 

「……え?」

 

「!!?………あっその…」

 

やばいやばいやばいやばい何言ってんだ俺は!!?いや正直な言葉だけど…!

うっかり、口が滑り、とんでもない事言ってしまった!!?

 

「……嬉し…い…」

 

顔を僅かに赤くしながら少し微笑むシズを見て俺は思わず、戦闘用のマスクを装着してしまう。

これは超位魔法級以上の破壊力だよ…!

 

「……っ!」

 

このままでは俺の精神が不味いことになりかねないので、たまたま見た月を見てなんとか落ち着かせようとする。

 

「……月が綺麗だな」

 

「…?…う…ん」

 

そう言うとシズは月に向かって手を延ばしてこう言った。

 

「手を……伸ばせ…ば……届く…かも……」

 

「ロケット……パン…チ……できれば…」

 

「いや、無限パンチの方が届くと思うぞ?」

 

「でき…る…?」

 

シズの質問に俺は少し考え込む。実際にやったら届く可能性もあるけど正直どうなるかわからない…。

俺は苦笑しながらシズの質問に答えた。

 

「どうかな~?」

 

その後、もう暫く俺達は夜空を見上げ続け、偶々流れ星を見つけたので俺は願い事をした。(何を願ったって?ぜってー言わねーし!!)

 

 

 

 

その後マシンナーと共にナザリックに戻ったシズは、プレアデス達の部屋に戻って行く。

部屋に戻るとそこにはプレアデスのリーダーであるユリ・アルファが居た。

 

「……」

 

「あら、シズ帰ってきてたの?」

 

「ん…」

 

「マシンナー様に礼を欠くような事はしてないわね?」

 

「……ん」

 

それを聞いてユリは胸を撫でおろす。至高の御方に無礼な真似はせずにちゃんと職務を全うしたこととシズが意中の御方と何の問題もなく過ごせた事に安堵したのだ。

 

「良かった…」

 

「綺麗…な……月…だっ…た」

 

「良かったわね」

 

妹の幸せそうな顔を見てユリも少し微笑む。「常時ポーカーフェイスのシズだが最近シズは表情が柔らかくなってきた」と他のメイド達にも噂になっていた。恋をすればこんなにも変わるんだとユリはそう考えた。

 

「マシンナー様……も…言っ…てた」

 

「え?」

 

微笑から一転、ユリはピシりと表情を変える。ユリの表情を見てシズは不思議そうに首を傾げた。

ユリは間をおいて恐る恐るシズに質問をする。

 

「…?」

 

「ねえシズ、本当にマシンナー様が「月が綺麗だ」って言ってたの?」

 

「?…う……ん」

 

それを聞いてユリは口元を抑えて声を出さずに驚愕する。

 

(月を見た感想?それとも…いやでもまさか………!)

 

そんなユリを不思議がり、シズは話しかけるもユリはいつもの彼女らしくない程にしどろもどろになりながら答える。

 

「ユリ…姉……?」

 

「ああ、いやなんでも無いよシズ!なんでも…」

 

それを見てシズは何かを隠しているのを確信して、問い詰めた。

 

「……なんか…隠し……てる…」

 

「べ、別に隠してるわけじゃ…」

 

「明らか…に……動…揺……して…る……」

 

ジッと…目を細めて自身を見るシズの何とも言えない迫力を感じてうっ…となり、観念して話すことにした。

 

「うっ…(そんな目で見られたら…)」

 

「わかったよ、でもこれは僕の推測だからね?」

 

「?……うん」

 

「月が綺麗って言うのはね……?」

 

「……」

 

「…………あなたが好きですの隠語でもあるの」

 

じっくりと間を置いた後ユリはマシンナーが言った事の隠された意味をシズに告げる。

それを聞いたシズは「ボンッ!」と顔が赤くなり、煙を出す。

 

「……!!!!!!!!?」

 

「し、シズ?大丈夫…?」

 

「何…とか……」

 

「一応聞くけどシズはなんか答えた?」

 

「……手を伸ばせば…届くか…も…って」

 

ユリはそれを聞いて口を抑えながら今度は彼女まで少し赤面する。

シズはそれを見てふしぎがりながらユリに問いかける。

 

「~!!!」

 

「…ユリ……姉?」

 

「シズ、それは偶然で言ったんだよね?」

 

「…うん」

 

「それはね?……月が綺麗の返事の一つでもあるの…」

 

「…え?」

 

「それも意味は私も好きですって事…」

 

「……~!!!!」

 

それを聞いたシズは更に赤面し、煙が更に噴き出していた。

 

(うわ、湯気が出るほど赤くなってる…そりゃそうだよね…)

 

しかしこのままだとまたシズがオーバーヒートする可能性があるので、何とか落ち着かせようと声を掛けるが…

 

「し、シズ…落ち着いて、これはあくまで僕の推測だか…」

 

「シズ…?」

 

「……」

 

時すでに遅く、シズは既にオーバーヒートを起こしてしまっていた。

ユリは口元を抑えて心の中で絶叫する。

 

(オーバーヒートしてるぅー!!!!?)

 

その事態に慌ててしまい、思わず自分達で直すというのを忘れてしまいマシンナーに助けを求めた。

 

「え、えーと…こういう時はマシンナー様に!……気が引けるけど」

 

「あ~やっぱりあれじゃわからねぇよな…やっぱりストレートに…ん?ユリか?」

 

一方、マシンナーは自室でシズにどうプロポーズするか考えている。

恋愛経験なんてこれっぽっちも無いので、全くと言って良いほど答えが出ない。

その時ユリからの〈メッセージ〉がマシンナーに届いた。

 

『すみません、マシンナー様。シズがオーバーヒートを起こしてしまい…』

 

「何?わかった、すぐに向かう」

 

直ぐに修理道具一式を手にシズの下に向かおうとするが、扉をノックした後アルティマの声が聞こえたので入るよう促す。

 

「アルティマか?入れ」

 

許可を出すとアルティマが慌ただしい様子で入り、マシンナーに緊急の報告を入れる。

 

「マシンナー様!」

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「はい!例の機械系異形種が目を覚ましました!!」

 

「何!?」

 

「なんてタイミングが悪いんだ!」とマシンナーは顔を抑える。こうなるとすぐにでも早くシズの修理を終えなければならなくなった。

 

「悪いアルティマ…シズがオーバーヒート起こしてしまってちょっと修理に行ってくる、できる限り早めに来る!」

 

「は!わかりました!」

 

「すまねぇ!」

 

そう言うとマシンナーは転移を使い急いでシズの下に向かった。

 




新型コロナで色々と騒がれてますが皆さん、お身体の方は大丈夫でしょうか?
こちらは今の所無事ですがやっぱり不安ですね。皆さんもお気を付けください。

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