シズ・デルタに恋をしたナザリックの機動兵器   作:t-eureca

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第54話 蜥蜴人掃討戦1

『コキュートス殿、間モナクオ時間デス』

 

「ウム…」

 

掃討作戦の陣地で腰を掛けているコキュートスにドランザーは作戦決行の時間を言い渡す。

それを聞いたコキュートスは自軍のアンデッド達に攻撃の指示を出した。

 

「アンデッド達ヨ、進行ヲ開始セヨ!!」

 

(短期間ダケダガヤレル事ハヤッタ、後ハ見届ケルノミ…)

 

 

コキュートスの指示に従いアンデッド達が一斉に蜥蜴人達に進軍していく。

一方の蜥蜴人も既に戦闘態勢に入っており武器を構えている。

 

「動き始めたぞ…」

 

「指揮官らしき者は見当たらんが…」

 

「指揮官も必要無いってか?嘗めやがって」

 

徐々に接近しつつあるアンデッド達に対して蜥蜴人のザリュースは他の蜥蜴人達に指示を出す。

 

「ザリュース!」

 

「ああ。この戦い勝つぞ!」

 

一方別の場所ではマシンナー、シズ、アルティマ達が風呂敷を広げ、飲み物と食べ物を広げてコキュートスの戦を観戦していた。

 

「始まったな」

 

「はい!」

 

「ん…」

 

傍から見ればピクニック気分だが、

 

(罠ガアル可能性モアル、スケルトンヲ先行サセヨウ。ソノ後弓兵隊デ援護ヲサセナガラ他ノアンデッド達ヲ突撃サセヨウ…)

 

一方のコキュートスはどのように攻めるか思案し、指示を出す。

コキュートスの指示により本来単純な動きしかできないアンデッド達だが、滑らかな動きでその指示を全うしようとする。

 

「スケルトンヲ先行サセ、弓兵隊ノ援護ノ元、他ノアンデッドハ進撃セヨ!」

 

先に突撃をしたスケルトンはコキュートスの読み通り罠にかかるが、スケルトンが囮になったお陰で他のアンデッドの多くが罠にかからず蜥蜴人に攻撃を始める。蜥蜴人も迎え撃とうとするが弓兵隊のスケルトンが放った弓の雨により、中々進行できなかった。

 

「コキュートス殿は本格的な指揮は今回が初めてと聞きますが思いのほか上手いですね」

 

「話を聞くとドランザーに教えを乞うたらしい、ある程度は出来るように仕込んだとか…」

 

コキュートスの指揮の思いのほかの上手さに少々驚くがマシンナーは指揮と戦術をドランザーから教えて貰ったことを話す。

シズはこの戦いがどちらが勝つのかをマシンナーに質問をした。

 

「…どちらが勝……つ…?」

 

シズの質問にマシンナーは「う~ん」と腕を組んで少し唸った後、蜥蜴人が勝つと言う予想を口にした。

 

「多分蜥蜴人だな…」

 

マシンナーの返答にアルティマとシズは少し意外な顔をし、互いの顔を見合わせた後アルティマはマシンナーにその予想の理由を聞いた。

 

「……理由を聞かせてもらっても?」

 

「簡単な答えだ。経験の差だよ、どんなに手腕が優れているものでも経験の差で失敗することがある。それに蜥蜴人達も馬鹿じゃない、何らかの策は練ってるだろうな」

 

更に今回戦っている場所は蜥蜴人が勝手知っている場所だ。地の利は蜥蜴人にある。

 

「…コキュートス様の負け……確定?」

 

「いや、勿論コキュートスが勝つ可能性も十分ある。上手く立ち回ればだが…」

 

今回コキュートスが使役するのはアンデッドの軍団だが、上手く立ち回れば蜥蜴人達に十分勝てる戦力である。

現状コキュートス側が少し優勢であった。

 

「……」

 

「それでマシンナー様、我々は如何いたしましょうか?」

 

「ここで暫く見物でもするとしよう、アインズ達もそうしているらしいしな…」

 

そう言うとマシンナーは置かれていた飲み物に手をつけ、蓋を開ける。

アルティマとシズも食べ物と飲み物に手を付け始めた。

 

 

 

 

蜥蜴人との開戦から少し時間が経ったが、戦況は一転していた。

序盤はコキュートス側が押していたが、蜥蜴人達が次第に対応し始め、押し返され始めていた。

弓兵のスケルトン達を優先的に排除され、援護が無くなったアンデッド達も次第に狩りつくされていく。

 

「ムゥ…やはり押されてしまうか…」

 

『……』

 

コキュートスは逆転できる考えられる手段は尽くしたが、それでも戦況は好転しなかった。

自分の非力さに落胆するコキュートスだったがドランザーは真逆の反応だった。

 

(ダガ今回ガ初ノテト考エレバ悪クナイ流レダッタシ、戦略モ間違ッテイナイ…シカシヤハリ経験マデハ埋メラレナカッタカ…)

 

ドランザーの考え通り序盤は上手く立ち回っており、逆転こそされてしまったが初めての指揮と考えれば十分上手くやった方であると考えていた。

 

「コキュートス殿」

 

「ヤハリ付け焼キ刃デハ駄目ダッタカ……スマヌドランザー、オ前ノ教エヲ無駄二シテシマッタ…面目ナイ」

 

ドランザーに頭を下げて謝罪をしようとするが、ドランザーはそれを止める。

そしてドランザーはこの後の予定を聞きコキュートスはマシンナーから託された実験体を投入することを決意した。

 

『イイエ謝ラナイデクダサイコキュートス殿、時間ヲ考エレバ十分ナ成果デス。デスガコノママ終ワルツモリハナイノデショウ?』

 

「当タリ前ダ。一矢ハ報イテ見セル、実験体ヲ投入スルゾ」

 

『ハッ!実験体を投入させろ!』

 

コキュートスの指示でドランザーは己の部下に実験体の起動する指示を出し、部下はそそくさと出ていく。

そして少し時間が経つと、蜥蜴人によって8割狩りつくされて尚抵抗していたアンデッド達は急に踵を返して撤退していく。

 

「なんだ?急に退き始めたぞ?」

 

「何をする気だ…?」

 

「ザリュース、空から何か降ってくるわ!」

 

「何?」

 

急に撤退を始めたことに違和感を感じた蜥蜴人のザリュースと。その時空中から人型らしきものが勢いよく降下してその下の何名かの蜥蜴人を吹き飛ばしながら豪快に地面に着地した。

着地した衝撃で砂煙が大きく舞う。

 

「何だあれは?」

 

ザリュースを始め他の蜥蜴人達も目を細めて降ってきたソレを見つめる。

砂煙が徐々に晴れ徐々に全容が明らかになってきた。

ザリュースの家族であるヒドラのロロロに匹敵する人型の巨体を暗い紫色の装甲が覆っていた。

頭部に目らしきものは無く、代わりにモノアイが赤く光っている。

両腕には一振りで蜥蜴人数人を薙ぎ払えるくらいの大剣が握られていた。

ソレは最初跪いていたが、モノアイが激しく発光して、雄たけびを上げる。

 

『実験体01、戦闘プログラム起動、ミッション内容:蜥蜴人ノ殲滅…!殲滅!殲滅!!殲滅!!!』

 

両腕の大剣を大きく振り上げて蜥蜴人達に襲い掛かった。

 

『蜥蜴人……抹殺…抹殺…抹殺ウゥ…!!』

 

「なんか…まともじゃなさそうだな?」

 

同じく蜥蜴人のゼンベルがそう呟いた後、ザリュースが弓矢を放つ指示を出した。

 

「弓矢放て!」

 

指示に合わせて蜥蜴人達は弓を構えて矢を放つが実験体は凄まじい速さで滑るように動き弓を避け、大剣で弓矢を弾き飛ばした。

 

『ギぃ…』

 

「糞!あんなにデカいのに何だあの速さは!!」

 

実験体の見た目によらない動きに蜥蜴人の誰かが驚愕する。

コキュートスはドランザーに実験体について質問をした。

 

「ドランザーヨ、少シ聞イテモ良イカ?」

 

『ハ…』

 

「アノ実験体ハ<マキナ>が製作シタト聞イタ。ドウイウ代物ナノダ?」

 

『ハ、マシンナー様二ヨルト、武技ヲ習得シテイル者ノ脳髄ヲ利用シタ改造人間……その試作品ト聞キマシタ』

 

ドランザーが話した内容にコキュートスは僅かに反応する。

 

「武技ヲ修得シタ者ノカ…?」

 

『ハ、武技ヤ異能ヲ持ッタ人間ヲ素材二シタ改造人間デス。摘出シタ者ハ脳ヲ再生サセテイルノデ、コストノ問題モ大丈夫デスシ武技ノ使用モ問題ナク発動シタノデスガ…』

 

「問題ガアルノカ?」

 

コキュートスの質問にドランザーは少し言いよどむが少し間を開けて喋りだす。

 

『ハ…報告ニヨルト元ノ人格二影響ガ見ラレ少々情緒不安定ニナルトイウ欠点ガ見ツカリマシタ…オソラク改造ノ影響カト…』

 

ドランザーの言う通り、実験体は武技を問題なく発動することができた。だがその代償として精神に異常をきたし、一時的に暴走したが、すぐにマシンナーが取り押さえたのだった。

 

『ははははははは!コレガオレノ新シイ力!!!』

 

「ぐお!」

 

実験体は壊れたように大きく笑いながら向かってくる蜥蜴人達を殴り殺し、踏み潰し、切り殺していった。

 

「ちっ!」

 

その時幸運にも実験体の一撃をかわした蜥蜴人が棍棒を持って実験体の頭上めがけて大きく跳び襲い掛かる。

そして実験体の頭部に振り下ろしたが…。

 

『ソンナ子供だまシ…!!』

 

あっさりと棍棒を掴まれそのまま握りつぶし、もう片方の腕で蜥蜴人の頭を掴んだ。

 

『けダもノガぁ!?』

 

そして腕部に仕込んでいたパイルバンカーを作動させて、蜥蜴人の首に大きく穴をあける。

 

「がっ!」

 

「何故ソンナ物ヲ?<マキナ>ノ戦力デモ十分ダト思ウノダガ?」

 

コキュートスの言う通り〈マキナ〉のわざわざ現地の人間を使って改造人間を増やさなくても〈マキナ〉の戦力は現時点でも十分なモノだ。

コキュートスの質問にドランザーは答える。

 

『マシンナー様ガ改造人間ニシテモ異能ヲ使エルノカトイウ実験ヲ最近思イツキ始メマシタ、アレハソノ実験用ノ物デス。戦力トシテ開発サレタワケデハアリマセンガ実戦ノデータモ取ロウトコノ戦イニ投入サレル事二ナリマシタ』

 

「フム…」

 

「クソ!弓で動きを封じろ」

 

コキュートスがドランザーの話を聞いている間、戦場では再度蜥蜴人が弓矢やスリングショット等で実験体を狙うが、実験体は先程と同じようにプロのスケート選手の様に滑走してそれらをぬるぬるとかわしていく。

 

「あの巨体であの動き…どういう身体してるんだ…?」

 

「気持ち悪い…」

 

実験体の動きにザリュースは驚嘆し、クルシュはその動きに嫌悪感を吐露する。

 

「おい、んな事言ってる場合か!何とかしねぇとこっちがやられるぞ!?」

 

「何か考えは…」

 

蜥蜴人達が考えている時、別の場所で見物していたマシンナー達はそれぞれの考えを口に出す。

 

「へぇ…最低限実戦に耐えれるようにはしていましたけど思ったより働きますね?」

 

「まあ生体ユニットとして使った奴は腐ってもミスリル級だったからな。あれぐらいしてもらわなきゃ困る」

 

「……」

 

『ウぉうラぁ!!』

 

「がぁ!」

 

蜥蜴人相手に大立ち回りをする実験体、しかし蜥蜴人達もこのままただやられる訳にはいかない。

何とか打開策はないかと策を練り始めた。

 

「動きや単純な力は我々より遥か上だな…」

 

「…だが見たところ飛び道具は持っていないのが幸いだな、魔法も使ってないのを見ると肝心な時の為に温存しているかそれとも使えないかだ」

 

ザリュースの兄であるシャースーリューの言う通り実験体は近接攻撃だけを繰り出しているのみで魔法や飛び道具などは一切使っていない。

シャースーリューの言う通り前者はともかく、後者ならばまだ希望はある。

 

「で、どうやって倒す?こういっちゃなんだが勝てる気しねぇぞ?」

 

好戦的なゼンベルが珍しく弱気な発言をするがそれを諫める者はいない。数ならば蜥蜴人が勝っているが、このままでは逆に一体に殲滅されそうな勢いになっているのだ。

しかしザリュースは実験体の動きを見ていくにつれて一つ気づいた事があった。

 

「確かに敵はすさまじいが、よく見ると動きが滅茶苦茶で単調だ人の形をしているがどちらかと言うと獣だな」

 

ザリュースの言葉を聞いても何かに気づいたのかそれを口にする。

 

「攻撃も一撃も大振りだ。攻撃を回避してカウンターを入れれば勝てるかもしれない」

 

「兄者、勝てるかもしれないじゃなく勝つんだ。勝たなければ俺達には…!」

 

「ああ、わかっている」

 

ザリュースとシャースーリューの兄弟は改めて勝利の決意を固めた時、クルシュの質問の後にザリュースは策を話し始めた。

 

「それでどうするのザリュース?」

 

「俺とゼンベル、回復役としてクルシュで行く。兄者達は伏兵の可能性もあるからここで待機していて欲しい」

 

「わかった」

 

ザリュースを筆頭に蜥蜴人達は実験体に向かって走り出す。

実験体は嘲笑混じりに言いながら武器を構えた。

 

「敵……動いた…」

 

「そのようだな、さてアノ実験機がどこまで戦えるか…」

 

ザリュースは蜥蜴人の四至宝のひとつである剣『凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)』を構え、ゼンベルは槍を構えて実験体に切り込みを仕掛ける。

実験体はその行為を嘲りながら両腕の武器を大きくふりあげる。

 

『あぁ?タッタ3匹で俺ヲ倒セると思っテイるノかヨぉ!?』

 

そのまま勢いよく両腕の大剣を二人に振り下ろした。

その瞬間大きく土煙が上がる。

 

『ハハっ、所詮蜥蜴……!?』

 

実験体は仕留めたと思い上機嫌になるが、横からザリュースがわき腹に向かってフロストペインを突き刺そう突き立てる。

 

『ヌぅ!?』

 

しかし実験体は胴体に隠されていた小型の隠し腕を出してそれを止めた。

ザリュースは止められた事に舌打ちをしながら実験体の胴に蹴りを入れて距離を取る。

 

「ち…」

 

『テメェ…』

 

実験体はザリュースを切り殺そうとザリュースの方に向かおうとするが、横からゼンベルが実験体に取りついた。

ゼンベルは槍で実験体の身体を何度も突くが、装甲を貫通することが出来なかった。

 

「オラぁ!そいつだけじゃねぇぞ!」

 

『!?』

 

実験体はゼンベルを掴んで力任せに投げ飛ばす。

ゼンベルは着地して槍を構えるが、実験体は激昂しながら突っ込んでいく。

 

『貴様ラぁ…!』

 

そのまま大剣を二人に横薙ぎに振るった。

ザリュースとゼンベルは地面に転がってその一撃を回避する。

 

「避けろ!」

 

「わかってらぁ!」

 

そのままザリュースは実験体に突っ込み、胴体の装甲の隙間に『凍牙の苦痛』の能力を使用する。

実験体の内部の機械は徐々に凍り付いていく。

 

『ガァ!!』

 

「〈氷結爆散(アイシー・バースト)〉!!」

 

しかし実験体は身体を大きく振ってザリュースを振り払う。

そして胸に手を当てながら排気をする。

 

『!ちっ、蜥蜴の癖に生意気な…!』

 

内部の機械は完全に凍り付いていなかったのでまだ問題なく行動できた。

激昂した実験体は大剣を構えて〈武技〉を発動して切りかかった。

 

『死ぃねぇ……!〈斬撃〉!!』

 

「やらせるかよ!」

 

モンクであるゼンベルがそのスキルを使って斬撃を防ぐ。

そこにザリュースが再び切りかかるが実験体は後ろに下がり回避をした。

 

「苦戦……してる…」

 

「あんな簡単に不意を突かれるなんて情けない、中身がアレだからでしょうか?」

 

「中身も結構弄ったからな、その影響が出ているのかもしれん」

 

実験体の生体ユニットになったあの男の事を思い出す。

脳を摘出する前にも関わらずギャンギャン騒ぎ、実験体として起動させるとマシンナーに襲い掛かってきた事もあった。(無論返り討ちにしたが)

その為、多少中身を弄り、ある程度まともにはなった。

 

『ギ!…グぐぐ!』

 

憤慨したのか実験体は全身から怒りを表現しているかのように煙を出し、蜥蜴人の二人に向かって吠える。

 

『クソがぁ!タカが蜥蜴がこの…俺に!……英雄の…俺を…!』

 

「何を言ってるんだこいつ?」

 

「化け物が自分を英雄だとよ?」

 

ザリュースの問いかけにゼンベルは鼻で笑いながらザリュースに返す。

 

「英雄ね…」

 

「冗談じゃないぜ全く…!」

 

あんな怪物が英雄を名乗るなんて世も末だな…と呆れながら肩をすくめる。

実験体は攻撃を再開するが先程よりも動きに粗が出来ている。

 

『ああああああああ!』

 

「良い感じに荒れてきたな」

 

実験体の攻撃をなんとかかわしながらゼンベルは実験体の懐に近づき、右腕を大きく振るう。

 

『!』

 

「おらぁ!」

 

自分のスキルである《アイアン・ナチュラル・ウェポン》を発動させた全力の右ストレートをその身体に叩き込む。当たり所が良かったのか実験体は少し怯む。ザリュースはそれを見逃さなかった。

 

「ザリュース!」

 

「終わりだ化け物!!」

 

ザリュースは先程と同じように実験体の隙間にフロストペインを突き刺す。

そして再び〈氷結爆散(アイシー・バースト)〉を発動させた。

 

(このまま凍らせて…!)

 

この攻撃で終わらせると決意し、更に奥に食い込ませるが実験体は苦悶の声ではなく嘲るような声を出す。

 

『やっぱり蜥蜴だなぁ…?』

 

そういうと実験体は胴体から3門の砲塔を展開させる。

 

(何!?)

 

『死ねよヤァ!!』

 

そのままザリュースに向けて発射してザリュースを大きく吹っ飛ばす。

ゼンベルはすぐにザリュースの下に駆け寄った。

 

「ザリュース!」

 

「が……ア……」

 

辛うじて息をしているが、それでも胸に大きく穴が開き血が溢れている。

ゼンベルはクルシュの方に向けて、ザリュースを全力で投げる。

 

「クソ!あんな所に武器なんて仕込んでたのかよ!!クルシュ!」

 

投げられたザリュースが落ちた場所にクルシュが駆け寄り、すぐにザリュースを回復させる。

ザリュースは息を荒くしながらも目を開けてクルシュを見つめる。

 

「ザリュース!」

 

「う……ぐ…」

 

「待ってて、今治療するから…!」

 

「はあ…はあ…すまないクルシュ」

 

「クソ、やっぱりそう上手くはいかんか…」

 

むしろさっきまで大きなダメージを負わなかったのが奇跡である。

残ったゼンベルは実験体に果敢に立ち向かっているが完全に追い込まれていた。

 

(どうする?もう一人いれば何とかなるんだが、兄者達からだいぶ離れてしまったし…)

 

ザリュースはどうにか策を考えていると後ろから大きな足跡が後ろで響き、ザリュースははっ。となる。

 

「なんの音?」

 

「?」

 

音はどんどん大きくなりザリュースは後ろを振り返ると目を大きく見張る。

 

「な!お前…!」

 

一方実験体を一人で相手にしていたゼンベルは限界が近づいてきていた。

攻撃こそなんとかかわしているがそれだけで精一杯だった。

 

「クソ、まだかよザリュース!」

 

(二人でも精一杯だってのに、一人じゃ避けるだけでも奇跡だ…!)

 

肩で息を荒くしながら心の中でそう呟いていると、後ろから何かコチラに近づいてくる様な音が響く。

ゼンベルは援軍か?と僅かに期待する思いで振り返る。

それは彼自身が思ってもいない意外な者達だった。

 

「なんだ?……って」

 

「ザリュース!とロロロ!?」

 

ザリュースの家族であるロロロがザリュースを乗せ実験体に突撃を仕掛けたのだ。

 

『死にぞこないガぁ!デカいだけの木偶の坊に乗っただけで、俺に勝てルトでも思ってるのか!』

 

『まずはその木偶の坊を先に始末してやる!』

 

実験体は激昂しながら先程ザリュースに重傷を負わせた胸の砲塔を再び展開させロロロの身体にに食らわせる。

命中したロロロは致命傷こそ負わなかったが血が大量に噴き出ていた。

 

「な!テメェ!!」

 

それを見たゼンベルは激昂し、実験体に掴みかかった。

ロロロに追い打ちをかけようとした実験体は邪魔をするゼンベルを引きはがそうとする。

 

『ええぃ!邪魔だ!……!』

 

ゼンベルを引きはがし、ロロロの方に向き直るがロロロは目の前まで迫ってきておりその巨体を勢いよく実験体にぶつける。巨体であるロロロの突進を受け止めるが。実験体は一つ見落としていたことがあった。

 

「すまん……ロロロよくやってくれた。ゆっくり休んでくれ」

 

ザリュースが優しい口調でそう言うと、ロロロから飛び降り実験体に飛び乗る。

そして勢いよくフロストペインを突き刺した。

 

「これで…今度こそ…!」

 

ザリュースは己の残っている力を振り絞って、実験体の内部に更に突き立て最後の〈氷結爆散(アイシー・バースト)〉を発動させた。

実験体はザリュースを振り払おうとするがロロロは己の傷を顧みず実験体に噛みつき動きを抑える。

 

「終わりだぁ!」

 

そして徐々に実験体の内部の精密機械も凍り付いていき、遂に機能停止になった。

動かなくなったのを確認したザリュースは地面に倒れた。

 

「……ハァ…ハァ…倒せ…た…」

 

周りにクルシュやゼンベルの声が聞こえたが、ザリュースは何を言っているのか上手く聞き取れなかった。

 

「……負けた」

 

「マシンナー様…」

 

「実験機にしては思ったよりは働いてくれたな、データもしっかり取れた」

 

(けどやっぱり問題は多かったな、だがもう少し研究してみる価値はある。解析して改善点を見つけるか…)

 

 




解説

・実験体1号
マキナ内で開発された武技を扱える人間の生体パーツを組み込んだ実験データ収集用のサイボーグ。
武技を所持した人間をベースとしているだけあって戦闘力は実験機の割に高く装甲の頑強さと人口筋肉の瞬発力に優れており、武装も遠距離の機関砲から近距離の武装まで揃っているがまだ試作段階の状態で、欠点や不安点等が目立つ。(素体となった人間の性格により暴走する危険性など)

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