シズ・デルタに恋をしたナザリックの機動兵器   作:t-eureca

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六月中には投稿する予定でしたが、遅くなってしまいました。申し訳ありません。


第49話 肉の字のイグヴァルジ

「レイヴンの旦那!」

 

「やりましたね、レイヴンさん!」

 

ルクレットとぺテル、漆黒の剣が興奮気味にレイヴンに駆け寄る。

 

「いや、ハムスケや漆黒の剣の援護があったからこそ倒せた。ありがとう」

 

「そんな!私達はたいした事はしてませんよ!」

 

「我々は僅かな時を稼いだ位なのである。直接奴に手を下したのはレイヴン氏である!」

 

レイヴンの御礼に、漆黒の剣はとんでもない!と言わんばかりに否定する。

そんな興奮している漆黒の剣の面々だったが、ニニャは真っ二つになり爆発した改造人間に疑問を持った。

 

「でも、これはいったい何でしょうか?見たところだとアンデッドという感じではありませんし…」

 

「なら、調べてみるか?白い暴君が言ってた爆発も、さっきしたから大丈夫だろうし…」

 

「そうだな…レイヴンさんはどうですか?」

 

「ああ、俺も気になっていた。調べた方が良いと思う」

 

そしてレイヴン達黒鉄と漆黒の剣は改造人間の残骸を調べ始める。

 

「こりゃ…金属でできているのか?まるでゴーレムみたいだな」

 

「しかし、この敵の姿はあの集団が組み合わさって生まれた姿なのである、一体どういう仕組みなのであろうか?」

 

「ニニャ、ニニャは何か知ってるか?」

 

「いえ、私にもこれが何なのかわかりません。それに…あの巨体でなんであんなに敏捷に動けるのか私にもわかりません」

 

漆黒の剣が頭を捻っている時、レイヴン達はその仕組みを調べ始めている。

 

(なるほど……脳髄を正中線状に配置して、複数の脳みそで巨体に似合わない反射速度を出してたんですね?)

 

(ああ、しかも直で見てみると脳みそにも電子機器が付けられている)

 

(骨格も…金属に置換されている…関節にはモーターのようなものが…ある)

 

(一体誰が作ったんだ?作るとしても周辺国家の現状を見るとここまでの物は作れない筈…)

 

(もっと詳しく調べたい……でも…)

 

(爆発で重要そうな部分が殆ど破壊されている。恐らく機体の損傷によって自動的に自爆する仕掛けなんでしょう)

 

(証拠抹消ってことか、用意周到な事で…おっとアインズに連絡しなきゃな)

 

レイヴンは別行動をしているモモンにメッセージを飛ばし、改造人間の撃破を報告する。

 

(モモンガさん、先程モモンガさんが言っていたサイボーグを撃破しました)

 

(そうですか、それで何かわかりましたか?)

 

(いえ、撃破した後爆発してしまいまして、重要な部分が殆ど酷い状態になっていてあまり詳しい情報は…すいません)

 

(いえいえ気にしないでください、なら、些細な事でもいいので何かわかった事はありますか?)

 

(そうですね、脳みそに電子機器が付けられている事と骨格は完全に金属に置換されていることですかね、他にもモーターやアクチュエータ等の部品も発見しました)

 

レイヴンの報告にモモンは考え込む。文明は中世とあまり変わらないこの世界でそのような技術が存在していれば確実に発展している筈だ。

 

(周辺国家がそんな科学技術がないとすると…)

 

(俺たちと同じく転移してきたプレイヤー、もしくはそれに近しいものの可能性が高いですね…)

 

(マシンナーさん、これをナザリックに持って帰って直接調べたいんですけど)

 

(ええ、後でマキナから回収部隊を出動させる予定です、合体する前のこいつらも調べたいですし)

 

(合体?)

 

(ええ、こいつら結構な人数だったんですが、全員で合体したんですよ)

 

(…マジっすか?)

 

(マジです、合体して結構デカくなったんですけど大きさの割には結構機敏で、ハムスケや白い暴君とも互角に渡り合っていました)

 

(白い暴君?レイヴンさんが倒したんですか?)

 

(はい、倒したらなんか舎弟になりました)

 

(しゃ、舎弟?)

 

(とりあえず、一旦合流しましょうか?)

 

(ええ、そうですね、では)

 

 

 

 

転移魔法を使い、レイヴン達の近くに転移し、少し歩いてレイヴン達と合流した。

 

「(まさか白い暴君がイタチだったとは…)無事でしたか皆さん」

 

「殿!!」

 

「おお、モモン氏!」

 

「モモンさんも無事で何よりです、ズーラーノーンは?」

 

「その件ですが実は先を越されまして…」

 

モモンは先程の戦闘を漆黒の剣と黒鉄の面々に説明をする。

それを聞いた漆黒の剣は驚きの声を上げる。

 

「モモンさんの所にも現れたんですか!?」

 

「その反応から察するに皆さんの所にも現れたようですね?」

 

「ああ、俺たちの後ろの物体がそれだよ」

 

「これが…ですか?我々が見たのとは違いますが…」

 

「ああ、どうゆうカラクリかは知らないが、十人単位の数で一つの存在に融合したんだ」

 

レイヴンの言葉にモモンは僅かに動揺したような動きをする。(勿論演技だが)

 

「何?本当かレイヴン?」

 

「ああ、しかも巨体に似合わず俊敏でな、ハムスケや白い暴君と互角の高速戦闘を繰り広げた程だ」

 

「本当かハムスケ?」

 

「御屋形様の言う通りでござるよ殿、某と白いのより重たそうな見た目なのに同じくらいの速さで動いていたでござる、拙者本当に驚いたでござるよ!」

 

「ちょっとすまねえ鼠、この男が噂のモモンか?」

 

「ん?そうでござるよ!殿!紹介するでござる、この白いのが某と何度も牙を交えた『白い暴君』でござるよ!」

 

ハムスケの紹介の後、白い暴君はモモンに深々と頭を下げる。

 

「この度レイヴンのカシラの傘下に加わった白い暴君じゃ、モモンの叔父貴、今後ともよろしゅう頼みます」

 

白い暴君の挨拶にナーベは少し目を鋭くさせるがモモンに制され、その場は治める。

 

「ほう、この魔獣を手なずけたのかレイヴン?」

 

「ああ、伝説通りハムスケと同格の魔獣だ、おまけに武技も使える」

 

「ほう」

 

モモンは白い暴君が武技を使えることに感心する。

魔獣にも武技が使えるならばハムスケも覚えることができるのでは?という期待が僅かに見えた。

 

「あ~あと、イグヴァルジのクラルグラだが…イグヴァルジともう一人を残して全滅した」

 

「何?」

 

「本当ですかレイヴンさん!?」

 

レイヴンの報告にぺテルは驚く。イグヴァルジの性格はともかく、チームであるクラルグラの実力はミスリル級に恥じない物だ。それがイグヴァルジともう一人を残して全滅するなんてと思ったが、先程の改造人間の力を見れば十分納得できる。そして自分達が如何に幸運なのかを知った。

 

「ああ、話を聞くにどうやらさっきまで俺たちと戦ってた奴らの別動隊らしい、メンバーの一人はジナイーダに任せたが、イグヴァルジの方はどこにいるかわからん…救助した奴の話を聞くと自分をあっさり見捨てて逃げたらしいが…」

 

その言葉にモモンとぺテルは眉を顰める。常に危険と隣り合わせの冒険者だからこそ背中を任せられる仲間こそ何よりも大事な存在なのだ。それを容易く切り捨てることができるイグヴァルジを内心軽蔑する。

 

「あ、それならここに来る前に発見して森の外れに避難させました。相変わらずデカい態度でしたけど…」

 

「そうか、なら探す手間が省けたな」

 

「そうだな、では皆さん依頼は一応完遂しましたし森から出ましょう」

 

「その前にモモン、襲撃した奴らの一部を組合に持っていこう、これは報告しなければならない案件だ」

 

「勿論そのつもりだ。私も先ほど倒した奴等の腕を持って組合に見せる予定だ」

 

「了解した、なら奴の体から比較的損傷の少ない部分のみを持っていく」

 

その後レイヴンは改造人間の比較的損傷の少ない部品を少量を袋に入れモモン達と共には森の外れに出て、倒れているイグヴァルジを見つけ、救助されたクラルグラのメンバーが居るテントに到着した。

 

「よお大丈夫か?」

 

「アンタ達無事だったか!良かった……ってイグヴァルジ!?」

 

「……」

 

レイヴン達が連れ帰って来たイグヴァルジを見てクラルグラのメンバーは驚く。

 

「ああ、アンタを襲った連中に脚を斬られちまったが一応生きている」

 

「……そうか」

 

「コイツを組合に引き渡すが構わないか?」

 

「…ああ、かまわない」

 

イグヴァルジを組合に引き渡す旨をメンバーに伝えるとそれを聞いたメンバーは複雑そうな顔をしながら、それを認める。レイヴンはその後イグヴァルジを置いてテントを出、外で待っていたモモンと会話を始める。

 

「どうでしたメンバーの様子?」

 

「複雑な顔をしてたよ無理もないが、あの様子じゃクラルグラは解散だろうな」

 

「そうですか、まあ却って都合が良いですね」

 

「ええ、組合で処分を受けた後ナザリックに連行する予定です」

 

「わかりました、それにしても…」

 

「はい?」

 

「あの巨大イタチが白い暴君だったとは、そういうと森の賢王はハムスターでしたが」

 

「ええ、正直驚きました」

 

「そう言えば白い暴君はどうするんです?やはりハムスケと同じように?」

 

「ええ、できればナザリックに連れて帰りたいんですけど?良いですか?」

 

「まあ構いませんけど、そう言えば名前はどうするんです?」

 

「ああ、そうだった名前どうしよう、ノロイは色々とアウトだからなぁ…」

 

「イタスケと言うのはどうでしょうか?」

 

「う~ん、そりゃちょっとな~」

 

レイヴンが頭を捻っていると、何か思いついたような顔をし、白い暴君を呼ぶ。

 

「あ、そうだ」

 

「ん?」

 

「白い暴君ちょっと来てくれないか?」

 

「なんじゃいカシラ?」

 

「お前の名前を付ける、白い暴君はちょっと長いからな」

 

「おお!名を付けてくれるんか!?カッコいいのを頼むで?」

 

「ああ、お前の名前は「イアイ」、お前の<鎌居太刀>の構えが居合い切りに似ていたからそれから取った」

 

白い暴君はその名前を聞いてニヤと笑い、自身の名を高らかに叫んだ。

 

「イアイか…まあ悪ない、気にいったで!、儂は今日から白い暴君改め、イアイじゃ!!」

 

名前をもらって嬉しかったのか上機嫌に笑う、白い暴君改め、イアイ。

その後、準備が整い、エ・ランテルに向けて帰還を開始するのであった。

途中起きたイグヴァルジが何か騒いでいたが、イグヴァルジを完全に見限ったクラルグラのメンバーがその度に力ずくで黙らせられていた。

 

 

 

 

森を出立してから3日後、モモン達一行は昼辺りにエ・ランテルに到着した。

エ・ランテルに現れたモモン達一向に街行く人々は注目する。

それは前回のハムスケと同じように皆、イアイに注目していた。

 

ただハムスケの時と同じようにイアイの背にはマグノリアとジナイーダが乗っていた。

これは漆黒の剣がイアイに騎乗してみてはと言われたのだが、レイヴンはイアイが自分の自重に耐えれるのかを心配して、2人に騎乗を許可したのだ。(因みにシズは一目でイアイを気にいった)

 

(確かにマシンナーさん俺より重いからな…)

 

骨だけの自分とは違い、金属製の骨格や原動機、人工頭脳、冷却装置、細かい電子部品等がその身に詰まっている金属の塊である。彼のその重量はアインズは当然、同じ自動人形系統のNPCであるシズとアルティマよりも重い。

仮に乗れたとしても重量により、長くは歩けないだろう。

 

そうしている間にエ・ランテルの冒険者の組合に到着し、ハムスケとイアイを残して組合に入っていった。

 

「よく無事で戻ってきてくれた!モモン君!レイヴン君!ぺテル君!本当によく無事で!」

 

モモン達が組合の会議室入り口の扉を開けた瞬間、組合長のプルトン・アインザックが暴れ牛の如く突進するような形で三人に抱擁をかます。余談だがこの出来事によりモモンとぺテルからは同性愛者疑惑を持たれてしまう。(因みにレイヴンは現実世界で勤務していた工場の同僚の中に海外からの労働者もおり、同じような事があったので特に気にしなかった)

 

「……アインザック組合長、その辺で。早急に報告しなければならない事がありますので…」

 

「そ、そうだったな、申し訳ない、つい感極まってな…。では、詳しい話を訊きたいから好きな席についてくれ」

 

 

 

 

「なんと…!それは本当なのか……!?」

 

会議室でモモン達が語った報告にアインザックは驚愕する。

大森林に秘密基地を構えていたズーラーノーンの一党は壊滅、一人残らず惨殺され、突如現れた謎の集団。

それだけでも問題だが、その集団の装備の中には何らかの方法で魔法を反射する盾を持っており、モモンのチームメイトであるナーベの魔法を跳ね返したと言う。更に集団で一体の巨人のような姿に融合し、その力は「森の賢王」「白い暴君」の伝説の大魔獣二体にも引けを取らない力を持っていたという。

 

「はい、幸い融合した個体はレイヴンと漆黒の剣の皆さんが倒しました」

 

「で、それがそいつらの遺体の一部だ」

 

そう言うとレイヴンは残っていた改造人間の腕を見せる。

アインザックは一瞬たじろぐがすぐに戻り、その腕を観察する。

 

「皮膚の下から金属のような光沢があるだと?…一体これは?」

 

「俺達<黒鋼>と<漆黒の剣>が調べると、どういう方法でやったかはわからんが骨が金属製のものに変えられていていた事から骨格そのものが金属製になっていると推測している」

 

「骨格が金属に置き換えられていただと?そんな事が可能なのか…?」

 

信じられないと言う顔で顔を抑えるアインザック。

アインザックの反応を見たレイヴンはは「この世界にはロボットどころか機械すら無いからな」と思いながら、自分の推測を述べた。

 

「他の残った部分に縫合後があったから恐らく外科的手段でこうしたと思われる、現状ではそれしかわからない」

 

「むむ…」

 

「組合長、彼らの戦力なのですが、不意打ちとは言えミスリル級のクラルグラのメンバーが殺されたらしいです。更に巨人のような姿になっての強さは私のハムスケと互角以上です、これは全体に警戒を促した方が良いと進言します」

 

「ふむ、そうだな、モモン君の言う通りこの集団は警戒する必要がある。後で他の者たちにも伝える」

 

「それと白い暴君はどうしたのかね?やはり退治したのかい?」

 

もう一つの調査対象の「白い暴君」についてアインザックは質問をする。

その質問にレイヴンはすぐに答える。

 

「いや、俺が倒して仲間にした」

 

「えぇ!?」

 

んな馬鹿な!と言いたげな顔で身を乗り出すアインザック、モモンは真偽を確かめさせるべく、窓を開けて見るよう促す。

 

「組合長、外をみればわかりますよ」

 

「え?」

 

アインザックは恐る恐る窓を開いて下を見ると、モモンが従えてる「森の賢王」ことハムスケと駄弁っている「白い暴君」が居た。それを見て口をあんぐりと開けるアインザック、そのアインザックに気が付いたイアイはアインザックの方に振り向く。

 

「あ?、なんか用かワレ?」

 

「……」

 

「オイこらシカトかワレ?」

 

「…失礼」

 

そう言ってアインザックはばたんと窓を閉じた。

 

「なんやありゃ?」

 

「さあ?でござる」

 

「嘘じゃないだろ?」

 

「…ああ(まさかモモン君以外にも伝説級の魔獣を従えさせる者がこんなにも早く現れるとは…)」

 

顔を手で押さえたままアインザックは答える。

まさかモモンの他にハムスケと対をなす伝説の大魔獣を仲間にくわえるとは考えてもいなかったからだ。

 

「後でイアイを組合に登録したいのだが大丈夫か?」

 

「イアイ?ああ、白い暴君の事か。勿論だとも…うん。あ、時間を取らせてすまなかった、もう下がっても構わないよ?」

 

「わかりました、それでは失礼します」

 

モモン達が組合の会議室から去った後、アインザックは一息つく。

 

「はぁ……前から両名とも只者ではないと思っていたが、あれ程とは……」

 

「あの実力だともはやミスリル級では済まされんぞ?オリハルコン級に昇格……いやいっそのこと…」

 

そう考える途中に扉がノックする音が聞こえ、入るように伝える。

 

「組合長、パナソレイ都市長とラケシル魔法組合長がお見えになりました」

 

「ああ、わかった、すぐ向かう」

 

(やれやれ、次は問題のイグヴァルジか、別の意味で頭を抱えることになりそうだ…)

 

次の案件に再びため息をつき、生還したクラルグラの冒険者二名を呼ぶよう指示を出した。

 

 

 

 

部屋に呼び出されたイグヴァルジとクラルグラのメンバーは席につくとイグヴァルジはいきなりアインザック達に怒鳴りつける。

 

「おい!いきなり呼び出してなんなんだよ!?こっちは脚斬られて重傷なんだぞ!!!」

 

アインザックは不快そうに顔を顰めながら、イグヴァルジに問い詰める。

 

「……何故呼ばれたのかわかるなイグヴァルジ?」

 

「そ、それは…!?」

 

問い詰められたイグヴァルジは目を泳がせながら、言いよどむ。

 

「君は今まで色々とトラブルを起こしてきたが実力だけならミスリル級として十分相応しいものである事と今まで仲間を死なせなかった事は私も評価はしていた。だが…」

 

「今回、他のチームに終始高圧的な態度を見せ、連携も取らず、しかもチームメイトが止めてもそれを直そうとせず、更に調査も自分の独断でクラルグラの単独行動。その結果君ともう一人以外戦死、更に唯一生き残った一人も躊躇なく見捨てて一人で逃亡……これはいくらなんでも目に余る!到底見過ごせない事だ」

 

「そ、それは他の奴らに助けを呼ぼうと…」

 

「黙れ!あの時アンタは俺を見捨てた!『未来の英雄になる俺のために囮になれぇ!!』と言いながら俺を突き飛ばしただろうが!!?」

 

「そ、それは聞き間違い…」

 

「ふざけるな!言い訳すんじゃねえぞ!!この…!」

 

メンバーはイグヴァルジの胸倉を掴み、腕を振り上げて、イグヴァルジを殴ろうとするが、アインザックはそれを静止する。

 

「止めたまえ!……気持ちはわかるが、拳を下すんだ」

 

「…わかった……組合長に感謝しろ」

 

メンバーは静かに拳をおろし、席に戻る。

 

「イグヴァルジ!」

 

「っ!…何だよ…」

 

アインザックの声にイグヴァルジは一瞬狼狽しながらも、アインザックに睨む。

アインザックはそれに意に介さず、淡々とイグヴァルジに処分を通告する。

 

「処分は追々伝える。しかし決して軽くはない、覚悟しておくんだな」

 

「な!?」

 

「…これでこの件はお開きだ。2人とも退出したまえ」

 

アインザックは解散を言い放つ。イグヴァルジは不満が顔に現れていたが渋々退出した。

 

「っ!クソ!」

 

イグヴァルジ達が退出した後。残ったアインザック達は偶然にも同時にため息を着いた。

ラケシルはアインザックにイグヴァルジの処遇に着いて尋ねる。

 

「……それでアインザック、奴の処分はどうするつもりなんだ?」

 

「最低でも降格はさせるつもりだ。最悪冒険者の地位も剥奪しようと考えている」

 

ラケシルの質問にアインザックが答えると今度はパナソレイがアインザックに質問する。

 

「一つ質問してもいいかね?」

 

「はい、何でしょうか都市長?」

 

「彼の顔に書かれていた文字?いや模様かね?見たことないのだが最近流行っているのかね?」

 

パナソレイの質問の内容にアインザックは大きく吹き出し。隣のラケシルも笑いをこらえながらパナソレイに訴える。

 

「ぶふぅ!!?」

 

「や、辞めてください都市長今までずっとこらえてたのに…」

 

「なんだ君たちも私と同じだったのかははは…」

 

「そ、それより都市長、ある冒険者チームについて話があるのですが…」

 

先ほどの張りつめた空気は何処へやら、和気藹々な雰囲気になった空間に、アインザックが何かの話を切り出したと同時にアインザックから退出を促されて退出した2人は会議室から退出したが、ある程度会議室から離れた時メンバーがイグヴァルジを殴りつける。

 

「ぐっ!テメエ、いきなりなにしやがる!」

 

「……アンタは確かに色々問題事を起こしてきたが、仲間だけは大切にしていると信じてた、けど…」

 

「…今回の事でアンタにはそれすら無い事が良く分かった。もうアンタには着いていけない、俺はもうチームを脱退させてもらう」

 

「な!?」

 

「俺はもう一度冒険者をやり直す。このまま終われないからな」

 

元メンバーは座り込んでいるイグヴァルジを通り過ぎ、階段に向かう。

 

「じゃあな、世話になった」

 

「お、おい待てよ!おい!」

 

「……」

 

驚愕し、引き留めようとするイグヴァルジを無視して元メンバーは組合の階段を下りて行った。

 

この後彼はミスリル級のプレートを自らアインザックに返上し冒険者として再び銅級から再出発をし新たな仲間を見つけチームを作り、人々の信頼を少しづつ集めて再びミスリル級のプレートに相応しい冒険者になったのは別のお話である。

 

 

 

 

人気のない路地裏、イグヴァルジは顔に何本もの青筋を浮かばせて松葉杖を着き悪態を声に出しながら歩いていた。

 

「クソ!クソ!なんで俺がこんな目に!それもこれもアイツらのせいだ!!」

 

「このまま終わってたまるか!そうだ、アイツらのあることないことをこの町中に言いふらせばアイツらも…」

 

モモンとレイヴンに逆恨みと嫉妬を抱き、彼らの立場を貶めようと画策していると、不意に誰かに当たってしまう。イグヴァルジがぶつかった方向を見ると、2人組の大人の男が前に立ちふさがるように立っていた。

 

「あぁ!?テメエ何処見てやがる!」

 

イグヴァルジは声を荒らげるが2人組はそれを無視して会話を始める。

 

「標的の肉はコイツか?」

 

「ああ、とっとと持ち帰るぞ」

 

「おい、無視してんじゃねえ!俺を誰だと…」

 

無視をされていることに腹が立ったイグヴァルジは更に声を荒らげるが、目の前の2人は無視どころか、手から棒状の物を取り出す。そこから電流が走っているのをイグヴァルジは確認する。

それを見たイグヴァルジは今の状態では不利と悟り、後ろから逃げようとするが背後には別の2人組が立ちふさがっていた。

 

「な、何だよお前ら!どけよ!」

 

しかしそう叫んでいる間に後ろから電流に音と光が走り、イグヴァルジは気を失った。

 

「がっ!?」

 

気を失ったイグヴァルジを見て、4人組は袋を取り出しその袋にイグヴァルジを入れ始めた。

 

「目標確保…」

 

「よし、すぐに基地に帰りナザリックに持ち帰るぞ」

 

「了解…」

 

4人はそのままどこかに消えていった。

 

 

 

 

「んで?カシラ?次は何処に行くんで?」

 

「……アインズと合流する」

 

「は?アインズ?誰やねんそれ?」

 

聞いたことのない名前にイアイは眉を顰めるがレイヴンは構わず、ジナイーダとマグノリアに声をかける。

 

「アルティマ、シズ、ナザリックに戻るぞ」

 

「……了解」

 

「かしこまりましたマシンナー様」

 

更に聞いたことのない単語を聞いてイアイは混乱し、レイヴンに疑問をぶつける。

 

「は?え?マシンナー?え?ナザリック?おいカシラ一体何の話や!?」

 

「イアイ、お前には伝えなければならない事がある」

 

「は?」

 

すると目の前の空間が割れ、転移門が出現する。

 

「まあとりあえず、ナザリックにようこそイアイ、行くぞ2人とも」

 

「はっ!」

 

「……了解」

 

「え?お、おいカシラ!?ええいままよ!」

 

そしてレイヴンとジナイーダ、マグノリアが入っていき、一人残されたイアイは戸惑うが、それでも中に入っていった。

そしてイアイの目の前に現れた光景は一言では言い表せない、豪華絢爛な玉座の間。

そしてその玉座の間に控えるのは自身を軽く上回る存在達が立っていた。

 

(なんやこの場所は?ここがカシラの拠点なんか?というかカシラの正体ってなんなんや?つーかそれより…)

 

(なんやこれ、周り、儂より遥かに上回る化け物どもやんけ!!!って…)

 

そして玉座の間にモモン率いる「漆黒」が現れイアイは驚愕した。

 

「も、モモンの叔父貴!」

 

「イグヴァルジの拉致、完了したぞアインズ?」

 

「ああ、よくやったご苦労だったなマシンナー」

 

そしてレイヴンとモモン達は本来の姿である異形の姿に戻る。

それを見たイアイは口をあんぐりと開けていた。

 

(な、なんやその姿!!モモンの叔父貴はアンデッド……か?見ただけで寒気が、そしてカシラは、なんなんやあの姿、あの時の奴らと同じような…)

 

マシンナーの姿を見てイアイは先日戦った改造人間達の事を連想する。

 

「隠しといてすまないイアイ、レイヴンは仮の姿、本来の姿は機械の神…まあ金属で出来た生命体って覚えてくれればいい、本名はマシンナー、このナザリックの副総括代行をしている。そして」

 

「私の名はアインズ・ウール・ゴウン。このナザリック地下大墳墓の総括をしているものだ。よろしく頼むぞイアイ?」

 

「へ、へぇ…」

 

(人間とは思えない戦闘力だったがま、まさか本当に人間じゃないとは!いやそのほうがむしろ納得良くような…ん?ちょっと待て、さっき金属で出来た生き物って…)

 

マシンナー達の紹介にイアイは内心あの人外染みた強さに納得もしたし、僅かながらに安心した。

あんな桁外れの奴らが人間なんて恐ろしすぎる。

 

「白いの…」

 

そんなイアイのもとにハムスケが近付き、イアイに耳打ちする。

 

(ね、鼠…)

 

(気を付けるでござるよ?ナザリックの方々はほとんどが某達を一瞬で屠る方々でござる)

 

(マジかい…儂、来るとこ間違えたか?)

 

(大丈夫でござるよ、住めば都でござるよ?一つを除いては)

 

最後の方が少し気になるが、マシンナーに声をかけられイアイはハッ、と帰る。

 

「イアイ?、イアイ」

 

「あ、おうなんじゃカシラ?」

 

「アインズがお前に聞きたいことがある、質問に答えてやれ」

 

「へい」

 

イアイが顔を上げアインズの方に顔を向ける。

 

「儂でよろしければなんなりと仰ってくだせえアインズの大頭」

 

「(大頭?ああ、マシンナーさんがお頭だから上司の俺は大頭って訳か)うむ、ではまず君の事から教えてくれ」

 

「は!」

 

イアイは自分の事について喋り始めた。

自身がトブの大森林で生まれ育った事。ハムスケを倒すために大森林を出て旅に出たこと。そして自分の親について喋っていると、アインズは「待て」と言った。

 

「イアイ、君の父親は確かに自分は別の世界から来たと言っていたのだね?」

 

イアイが自分の父親について話している途中に、「親父が死ぬ前に自分は別の世界から来たと言っていた」と言っていたのだ。

 

「へぇ、確か…ユグドラ…「ユグドラシル」あ、そうです、それですわ確かに死んだ親父はそう言っておりましたわ!」

 

それを聞いたマシンナーはアインズにメッセージを飛ばす。

 

(モモンガさん)

 

(はい)

 

「それで後は何か話すことはあるかね?」

 

「え~と…あ!実はカシラの鉄で出来た生き物の言葉で思い出したんですが…」

 

「ん?」

 

「百年前なんですけど…なんかちょっとした小屋ぐらいの鉄でできたデカイ玉を見つけまして、それが心臓みたいに動いてたんでさぁ…見たのはその一回だけなので今どうなっているのかはわかりやせんけど…」

 

それを聞いたアインズとマシンナーは目を見合わせる。

ニグレドの探知にもそんなものの情報はなかったからだ。

 

「なに?」

 

「え?そんなのあったでござるか?」

 

「見つけたのは儂の縄張り範囲内だったからのう、ただ、見た時、不気味やったわ、鉄の玉が心臓みたいドクンドクンしてるんじゃぞ?」

 

イアイの話を聞いてアインズはマシンナーにイアイにその物体について話させるように促させる。

 

「マシンナー」

 

「ああ、イアイ」

 

「へい?」

 

「その球みたいなものについて、何か覚えているか?なんでも構わない、些細な特徴な事でも良いんだ」

 

「ん~…覚えとることなぁ…」

 

イアイは頭を抑えて考える、思い出そうにもそれなりに時が立っているのでそう簡単には思い出せなかったが、

なんとかその時見たものの特徴を覚えている限り伝えた。

 

「色は鉛の色で…所々に赤い点みたいなのがあった、それ以外はわからん」

 

(マシンナーさん、もしかしてですけどそれって…)

 

(ええ、イアイが言っていた特徴から推測すると金属生命体の核の可能性があります。しかも核の時点でそれだけデカイとなると、かなり大型になっている可能性も)

 

(ですが、イアイが核の状態で見たのは100年前の話です。普通そんなに経っているなら言い伝え位はある筈です)

 

(もしかしたら、地下に潜って完全に成長するまで潜んでるかもしれません)

 

(確かにそれもありますね…マシンナーさん、この件は一旦2人で話しましょう)

 

(了解です)

 

「そうか…アインズ、後で話がある」

 

「うむ、わかった」

 

その後、玉座の間にいたシモベ達を元の仕事に戻るように伝えて、アインズとマシンナーその場を後にした。

 

 

 

 

周りに様々な機械が置いている実験室のような場所で、何かの機械を操作している導師と跪いている仮面の男が会話をしていた。

 

「………つまり全機破壊されただけでなく、ズーラーノーンの高弟の首も回収すらできなかったと?」

 

「申し訳ございませぬ!まさかこのような事になるとは…!!」

 

「黙れ」

 

「っ!」

 

仮面の男は導師に謝罪を述べるが導師はそれを睨み黙らせた。

 

「人間をベースに改造した攻撃力が最も低い型とは言え合体状態ならばあの王国戦士長やフールーダーの小僧でも破壊するのに手こずる性能を有しているのだぞ?それがミスリル級と金のプレートの冒険者チームに敗れた?全て破壊された?言い訳だとしてももっと言いようがあるだろう、のうシュラよ?」

 

「ですが破壊したのは只のミスリル級ではございませぬ!破壊したミスリル級の冒険者チームはモモン率いる「漆黒」とレイヴン率いる「黒鋼」でございます!」

 

仮面の男「シュラ」の報告に、導師は興味を抱いたのか、その話を聞き始めた。

 

「何?あの噂の冒険者チーム達が?誠か?」

 

「はっ!その他にもかの「森の賢王」、そして「白い暴君」も戦闘に加わっていたと言う報告を王国の冒険者組合に忍ばせている者から聞きました」

 

導師は椅子に座りながら、頬杖をつき、ふむと答える。

 

「成程…かの伝説の大魔獣達も加わっていたのか、それならば納得が行く」

 

「更に白い暴君もレイヴンの軍門に下ったと言う報告を受けました」

 

この報告に少し驚いたのか導師は眉を顰め、考え込む。

 

「ふむ…」

 

暫く考えた後、導師はシュラに「漆黒」と「黒鋼」について調べるように指示を出す。

 

「シュラ」

 

「はっ!」

 

「すぐに「漆黒」と「黒鋼」について調べろ、そやつらも一応要注意人物としてマークする」

 

「はっ!只今!!」

 

先の失態を挽回するべくシュラは即座に立ち上がり、歩き始めた。

 

「ふぅ…」

 

(全く先日の報告も十分驚嘆する程のものを聞いたばかりだと言うのに全く…)

 

数日前スレイン法国に潜入させている、偵察用の改造人間から法国最強の特殊部隊、「漆黒聖典」が行方不明になり、しかもスレイン法国の至宝の一つである「傾城傾国」までも行方知らずになったというのだ。知っているものからすれば驚かないほうがおかしい位の報告なのだ。

 

そんな時導師は、王国に潜入させた者から気になる報告を受けて居た。

 

(そう言えば王国戦士長を助けた魔術詠唱者の名前が「アインズ・ウール・ゴウン」と「マシンナー」と言う名だったな…)

 

「マシンナーは知らんがアインズ・ウール・ゴウンの方はどこかで聞いた事があるような……後で師が残した資料を見て見るか…」

 

導師は気持ちを切り替え、再び作業に取り組み始めた。




キャラクター解説

名前:イアイ
異名:白い暴君

解説:アインズ達が来る百年前までハムスケと同じくトブの大森林を根城にしていた白い体毛を持つイタチの大魔獣。異名に違わず性格は獰猛かつ好戦的で、森の賢王ことハムスケと何度も縄張り争いをしていたが、ハムスケを倒すために武者修行を行うためにトブの大森林を離れ、その後他のモンスターや魔獣と闘いながら旅をしていた。
旅をしている中で武技を扱えるようになり、独自で編み出したオリジナルの武技<鎌居太刀>の威力はハムスケを吹き飛ばす程。過去に亡くなった父親がどうもユグドラシルプレイヤーだった可能性があり、特に父親が好物だったという「お好み焼き」はとてつもなく興味があったとか。

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