シズ・デルタに恋をしたナザリックの機動兵器   作:t-eureca

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第47話 白い暴君2

エ・ランテルから出発して数時間後、辺りは夕方になり、レイヴン達は見晴らしの良い高原でテントを張り野宿をしている。その内『漆黒』『黒鉄』『漆黒の剣』は隣り合うように設置されているが、イグヴァルジの『クラルグラ』だけはその3チームから大きく離れたところにテントを設置しており、丁度夕飯の準備の真っ最中であった。

 

「予定では明日の朝一番にはつきたいですね」

 

「ええ、しかし『漆黒の剣』の人達だけならまだしも……」

 

「イグヴァルジの野郎っすよね…こっちの歩調に全然合わせる気無しですし…」

 

「今後の事を考えると……」

 

「あの時の話と同じ方向で行きますか?」

 

「ええ、ナザリックに連行するつもりです、今のところは」

 

「了解、で待遇の方はどうするんです?」

 

「そうですね……あの男にはナザリックの食糧問題の解決に貢献させるつもりです」

 

「なるほど……『肉』だけにですか?」

 

「ンフw、止めてくださいよ、折角我慢してたのに(笑)」

 

「全然取れてませんでしたね?(笑)描いたの俺っすけど!」

 

「ンフフフフフフ!」

 

先刻のイグヴァルジの横暴の仕返しにマシンナーはイグヴァルジの顔の額と頬に『肉』の落書きを描いたのである。それを知らずイグヴァルジは喚きながら馬を走らせていたが仲間の指摘に自分の顔の落書きに気付き、顔をこする等をして落そうとしたが全く消えず、結局この高原についても全く取れておらず、仲間からは顔を直視されてもらえず、他のチームからは笑いをこらえられる始末になっていた。

 

「あ、でも、できれば首か脳は貰ってもよろしいでしょうか?」

 

「肉体があれば別に構いませんが何に使うんです?」

 

「前に見たアニメで脳かもしくは首を生体パーツにして機械の体に繋いで兵器にするってのがありましてね、こっちでそれを再現しようかと」

 

「発想がマッドサイエンティストなんですがそれは…」

 

「面妖な変態技術者なので」

 

「なんですか面妖な変態技術者って…とりあえずは明日ですね、白い暴君とやらは一体どんなモンスターなんでしょうね?」

 

「森の賢王がハムスターだから白い暴君は猫でしょうか?」

 

「ああ~ありそうですね~」

 

そんなやり取りをしながら夕飯の支度を終えて、『漆黒』『黒鉄』『漆黒の剣』のメンバーで夕飯を囲む。

一応クラルグラも誘ったのだが、メンバーの一人が「飯の時にまで迷惑をかけたくない」という理由で断った。

 

「へぇ、よくここまでの物を…」

 

「ルクレットさんが作ったんですよ」

 

「ほう、では早速…」

 

怪しまれたら不味いのでレイヴンは兜を脱いで食事をとることにした。

兜を取るとき、漆黒の剣はやや目を瞠って見ている。無理もない、この前会ったときは素顔は見せてなかったのだ。

 

特に反応はしていないがモモンもレイヴンの素顔にやや気になっていた。

モモンと同じようにレイヴンも冒険者の時は現実世界の顔にしているのだ。

 

兜を取り、顔につけている面も取った。

 

(え?あれがマシンナーさんの人間だった頃の顔なの?こわ…)

 

素顔になったレイヴンの顔は強面で角刈りという、ヤの着く職業にでもいそうな顔だった。

 

「へぇ~モモンさんとあまり変わらねえんだな、おっさんだ」

 

「おいルクレット!失礼だろ?」

 

レイヴンの顔の感想を言ったルクレットにぺテルは注意をする。

レイヴンはそれを見て笑いながらこう返した。

 

「うるせえ、老けてるんじゃなくて熟年していると言え若造」

 

そして渡された食事に手を付ける。

 

「いただきます」

 

渡された食事を口に運ぶ、味は思いのほか美味い事にレイヴンは驚き、素直に称賛した。

 

「おお、中々いけるな」

 

「へへ、そうでしょレイヴンの旦那?」

 

「うめえなルクレットさん、冒険者辞めて定食屋開いたらどうだい?」

 

「ははは、嫁さんでもできたらそれもいいかもしれねえな、ねえナーベちゃん?」

 

「捻りつぶしますよナメクジ?」

 

「はい今日もナーベちゃんの冷たい一言頂きましたー!」

 

未だめげずにナーベにアプローチをかけるルクレットに苦笑するレイヴン。

 

「タフだねぇ」

 

「へへ」

 

「違いますよレイヴンさん、タフというより馬鹿なだけです」

 

「おいおいそれはないだろニニャ?」

 

「いや、ニニャが正しいである」

 

「ダインもかよ!」

 

ハッハッハ!と大笑いする漆黒の剣を見て、モモンが彼等を気に入った訳をレイヴンは改めて理解した。

 

「そう言えばレイヴンさん達の関係ってどういった関係なんです?」

 

不意にぺテルが振ってきた話題に、レイヴンは食事の手を止める。

 

「ん?」

 

「確かマグノリアちゃんはナーベちゃんの姉妹で、レイヴンさんはモモンさんの戦友で…」

 

「ジナイーダ氏はどういう繋がりであるあるか?」

 

「知り合いの子供とか?」

 

「ん~?コイツはな…」

 

そういうとレイヴンはジナイーダと目線を合わせる。

ジナイーダはこくりと頷き、レイヴンも頷いた。

 

「旅の途中でコイツが倒れていたのを見つけてな、それがコイツとの出合いだ」

 

「へぇ」

 

「でも何故倒れてたんですか?」

 

「話を聞くと、奴隷売買で売られそうになったんだが隙を見てその売人を刺して逃げてきたらしい」

 

「マジか、凄いな」

 

「最初は俺にも警戒心剥き出しだったよ、まあ仕方ないが」

 

「その後は色々あってなんとか心を開いてくれてな、今では良き相棒の一人だ」

 

「えへへ…」

 

「確かに昼間のは凄かったな…」

 

昼間の午後3時辺りに、顔の落書きの件で苛立ちを抑えられないイグヴァルジが漆黒と黒鉄と漆黒の剣に半ば八つ当たりで喚き散らしていた。

流石にこれは見過ごせなかったのか、他のクラルグラのメンバーが総出で止めに入ったが、その制止を聞かずに喚き散らす。しかしレイヴンが凄まじくドスの利いた声で、「それ以上謂れのない文句を言うんなら前歯全部へし折るぞ?」と警告した。その一言にイグヴァルジ以外のメンバーは本格的にこれは不味いと思い力ずくでイグヴァルジを連れ戻そうとするが、癇に障ったイグヴァルジは仲間の拘束を振りほどき、レイヴンに殴りかかったのだ。

しかし横からジナイーダがイグヴァルジの横っ面に飛び蹴りを叩き込まれイグヴァルジは気絶したが、ジナイーダは絶対零度の殺意を込めて「殺しますか?」とレイヴンに問うとレイヴンは「そんなモンスターのクソ以下の奴殺す必要もない」と言ってジナイーダを抑える。

一瞬の静寂の後我に返ったクラルグラのメンバーは漆黒と黒鉄と漆黒の剣に謝罪し気絶したイグヴァルジを抱えて

自分達の野営地に戻っていったのだ。

 

その後レイヴン達は夕飯を食べ終え、交代をしながら就寝をした。

一方レイヴン達のテントから大きく離れたクラルグラのテントの内、イグヴァルジがいるテントの中が何故か光っていた。

 

「り、リーダー……フフっ、せめて…ンフっ!顔はか、隠してくれ!眩しいんだ…ブフっ!」

 

何故かイグヴァルジの額と頬に描かれていた『肉』の字が黄色く発光しており、それをクラルグラのメンバーが笑いをこらえながらリーダーに顔を隠すように頼む、メンバーに指摘されたイグヴァルジは大きく怒鳴った。

 

「うるせえ、黙ってとっとと寝ろ!!!」

 

その後、他のメンバーもイグヴァルジと交代する時、顔を見た瞬間大きく噴き出し、イグヴァルジは顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていたという。

あの時レイヴンがイグヴァルジに使ったペンは洞窟や暗い所にメッセージや合図を残すために使う魔法アイテムのペンだった。

明るいところでは只の文字だが、暗闇だと文字が発光するのである。

 

まだ日も出てない早朝、レイヴン達は朝食を済まし、野営のテントを片付けて目的地に出発準備を始める。

遠く離れたクラルグラが居る場所ではイグヴァルジが顔の落書きを黄色く光らせながら喚いている。

 

「なあ、なんであいつ顔が光ってんだ?」

 

「言うなよ、意識しないようにしてたのに…」

 

「ニニャ、何か知ってるであるか?」

 

「いえ、知らないです」

 

「皆さん、お気持ちはわかりますが急ぎましょう…ㇷㇷ」

 

イグヴァルジの顔に疑問を抱く漆黒の剣にモモンは笑いをこらえながら出立の準備をし、暫くしてそれを終え、クラルグラを先頭に出立したのだが不意にレイヴンが「あいつ先頭に立たせたら、ライト代わりになるな」と言ったらモモンと漆黒の剣はイグヴァルジにばれないように小さく笑ってしまったのは仕方ない。

 

 

 

 

出発して、午前10時の頃に目的の森林にレイヴン達は到着する。

漆黒と黒鉄と漆黒の剣は共に調査を開始したのだがクラルグラは到着してすぐにレイヴン達と別行動を始める。

 

「リーダー、やっぱり協力して調査したほうが…」

 

「うるせぇ!あんな新参と格下共に手柄を取られてデカい顔されてたまるか!!」

 

「リーダー……」

 

クラルグラのメンバーの一人が依頼完遂の効率を高めるためイグヴァルジに他のチームとの協力を提案するがすぐに突っぱねられてしまう。そんなイグヴァルジに他のメンバーもため息をついていた。

 

「いつにも増して荒れてるな…」

 

「仕方ねえよ、この前デビューした冒険者チームが僅かな日数で俺達と同じミスリル級になったんだ、リーダーが荒れるのも無理ない」

 

「けどいくらなんでもあの態度は拙いだろ?只でさえ俺達あまり良いイメージ持たれてねえのによ…」

 

メンバーの言う通り、クラルグラはミスリル級としても文句なしの腕前を持つ冒険者チームだが、リーダーであるイグヴァルジの横柄な態度のせいで組合は勿論、一般人からもあまり良いイメージを持たれていない。

イグヴァルジ以外の他のメンバーは冒険者として今後の事を考えると、このままでは拙いと思っていた。

 

「昨日の事を見て今後の事考えると、改めてリーダーにはもう少しミスリル級としての自覚持ってもらわねえとこの先拙いぞ?」

 

「昇級はおろか、ミスリルから降格させられかねねえよな……」

 

「笑えねえぞそれ…」

 

リーダーの今の状態ではなにか功績を上げたとしてもオリハルコン級にはまず昇級できない。

しかも今話題の2チームがこの先更に功績を上げればワーカー並みに評判の悪い自分達の立場が確実に危うくなる。

そんな心配とは別に悩みの原因であるイグヴァルジは遅れているチームメイトを見て怒声を上げる。

 

「おいなにボサっとしてやがるお前らとっとと行くぞ!!!」

 

「……ああ」

 

イグヴァルジの怒声にため息交じりで答えながら他のメンバーも歩みを進めるのであった。

 

 

(モモンガさん、確かこのあたりに…)

 

(ええ、カジットが言っていたズーラーノーンの隠しアジトがある筈です)

 

(なんだかんだで復活させて良かったですねアイツ)

 

(ええ、研究にも期待できそうです)

 

先日復活させたカジットから得た情報によるとこの森林の地下にズーラーノーンの隠しアジトが存在するらしく。

規模もそれなりにあると言う。自分達の評価を上げるには丁度いい獲物だ。しかし問題もある。

 

(白い暴君はどうしますか?)

 

(ああ、それなら俺達が何とかしますよ)

 

(わかりました、頼みます)

 

「皆さん、ここからはそれぞれのチームで一旦別れて調査しましょう、けどハムスケは漆黒の剣の皆さんと同行させます」

 

モモンは各チームに分かれて調査をする案を提案する。

漆黒の剣にハムスケを同行させたのは戦力を偏らせない為の措置だ(すでに偏っているが)

 

「わかりました」

 

「わかった、皆気をつけろよ」

 

 

 

 

「アインズ様、何故ハムスケをあの者たちに同行させたのですか?」

 

「我々とマシンナー達と比較して漆黒の剣は弱い、だが彼等を生かしておいたほうがまだメリットがある。組合長が言っていた白い暴君とやらに遭遇してもその魔獣と互角だったハムスケが居ればそう簡単にはやられない筈だ」

 

「なるほど、理解いたしました」

 

ナーベラルがアインズに何故ハムスケを漆黒の剣に同行させたのかの理由を聞いている間に目的地であるズーラーノーンの隠しアジトに近づいていた。

 

「ナーベラル、そろそろ目的地だ。気を引き締めろ」

 

「はっ…」

 

そしてズーラーノーンの隠しアジトに着いたアインズ達だったが、予想外な事が起こっていた。

 

「なんだこれは……」

 

隠しアジトは確かにあった。しかし、周辺にはズーラーノーンの構成員と思われる者たちの死体が散乱している。

 

「何者かに先を越されたようですね」

 

ナーベラルの言葉に獲物を横取りされた事への苛立ちと誰がやったかという疑問で溢れていた。

 

「見ればわかる。だが一体誰だ?クラルグラだけでは殲滅は出来ない筈」

 

確かにクラルグラはミスリル級の冒険者だが、少なくとも一チームでこうも短時間で殲滅できるわけがない。

そう考えているとナーベラルが何かを察したのか、アインズに警告する。

 

「モモンさーーーん、来ます」

 

ナーベラルの言葉の後に隠しアジトの扉からフードを被った者達が5人現れる。

一番先頭に居た者は何か袋を持っていた。

 

「何者だ、見たところズーラーノーンではなさそうだが…」

 

モモンがその集団に言葉をかけるが、先頭の者は機械的に喋る。

 

『ミスリル級冒険者二名……発見』

 

『回収する』

 

そういうと後ろに控えていた者達がモモン達に襲い掛かった。

 

「やれやれ、いきなりか」

 

「モモンさ────ん、ここは私が」

 

ナーベが先頭のリーダーらしきものに電撃の魔法を放ち直撃するが、全くの無傷であった。

 

(!、電撃を喰らって無傷だと?)

 

『反射』

 

そういうと、手を正面にかざすと電撃をそのまま発射した。

 

「何!?」

 

モモンとナーベはすぐに回避するが、モモンはそれを見てあるものを思い出した。

 

(今の光、まさか魔法反射装甲か?)

 

モモンは急いでレイヴンに<メッセージ>を送る。

 

(マシンナーさん、ちょっと問題が起きました)

 

(どうしたんです?)

 

(先ほどズーラーノーンの隠しアジトに着いたのですが、ズーラーノーンは殲滅されてました)

 

(なんですって?)

 

(更に謎の集団が現れ、今交戦しています。そこまで脅威というわけではないのですが問題が)

 

(どうしたんです?)

 

(はい、しかも魔法反射装甲を装備していました)

 

(え?本当ですか?)

 

(はい、とりあえずコイツらを倒して詳しく調べます)

 

(わかりました)

 

「……マシンナー様」

 

「どうしたシズ?」

 

「……あっちに反応…あり」

 

「何?」

 

シズが指を刺した方向を警戒しながら進んでいくとそこにはあのイグヴァルジが率いるクラルグラのメンバーの一人が腕から血を流して倒れていた。

 

「あ、アンタら…」

 

「お前クラルグラのメンバーか?一体どうした?イグヴァルジは?」

 

レイヴンはそのメンバーに青いポーションを飲ませて回復させる。

回復したメンバーはレイヴンに感謝の言葉を述べた後、先程まで起こった事を全て話し始めた、

 

「リーダーは…アイツは俺を置いて…逃げやがったんだ!」

 

「何?何があった?」

 

そのメンバーの説明によると、クラルグラが別行動で探索しているときにに何者かに奇襲をかけられたのだという。クラルグラは即座に戦闘態勢に入ったが自分とイグヴァルジ以外のメンバーは瞬く間に殺されてしまい、自身も負傷してしまった。そしてリーダーのイグヴァルジは負傷した仲間を置いて尻尾を巻いて逃げ出して言ったという。

 

(?メッセージ?ニグレドか?)

 

再びマシンナーにメッセージが届く。

メッセージの送り主はナザリックにいるニグレドだった。

 

(マシンナー様)

 

(ニグレドか?どうした?)

 

(今、ハムスケが居る地点にハムスケと同じレベルのモンスターが向かっております)

 

(何?わかった、すぐに向かう)

 

「マギー、ジナイーダ、お前たちは一旦森の外まで出ろ、俺は他のチームを探してくる」

 

「わかりました」

 

「…了解」

 

「す、すまねえ迷惑かけっぱなしで…」

 

「気にするな、困ったときはなんとやらだ」

 

「ではア…僕たちはこの方を森の外まで運んだらすぐに戻りますので」

 

「ああ、頼む」

 

「お任せください、行くよマギー」

 

「……了解」

 

 

 

 

 

 

その頃、漆黒の剣とこれに同行していたハムスケ達も探索を始めていたが、その途中にハムスケが何かを感じ取ったのか険しい顔になる。

 

「むむ!」

 

「どうしましたハムスケさん?」

 

「……静かに、何かがこちらにくる気配がするでござる」

 

「なんだって?」

 

ルクレットはすぐに地面に耳を当て、ハムスケの言う通り何かがこっちに向かってくるのを感じ取る。

 

「……森の賢王様の言う通り、何かがこっちに向かってくる足音がする。しかも足音から察するにデカいぞコイツは!」

 

「!……皆様方!、下がるでござる!!」

 

「え?は、はい!」

 

「皆、急いでハムスケさんの後ろに!」

 

「ジャアァァァアァァァア!!!」

 

ハムスケの指示で漆黒の剣は後ろに下がり、武器を構える。

すると次の瞬間、茂みから巨大な何かがハムスケに攻撃を仕掛けてきた。

 

「ぬうぅ!?」

 

ハムスケは尻尾でそれをいなし、出てきた存在と対峙する。

 

「ふふ…フフフフフフ!!」

 

目の前にはハムスケを上回る巨体、凶暴なモンスターすら逃げ出すような貌、雪のような白い毛皮、目は血のように赤く鋭い、それを支える長い前脚。

 

その姿は巨大な白いイタチだった。

白い暴君はハムスケの姿を見ると次の瞬間、大きく高笑いする。

 

「ハーハッハッハぁ!!久りぶじゃのう大鼠ぃ?」

 

「……やっぱりお主でござったか白いの」

 

ハムスケは警戒と腐れ縁を見つけたような声で喋る。

しかし、ハムスケの言葉を聞いた漆黒の剣は目の前の魔獣がかの伝説の魔獣だとわかり驚愕する。

 

「白い?じゃあまさか!」

 

「あれが……『白い暴君』!!」

 

「見た目は言い伝えそのものだけどよ………実物はそれ以上だぜあれは…」

 

「なんという威容…!?かのハムスケ氏と同格と言われたのも頷けるのである!」

 

漆黒の剣の反応を見た白い暴君は機嫌がよさそうに笑う。

ハムスケは警戒をしながらかつての知己に今回の騒動について尋ねる。

 

「ほう、儂の名もそれなりに知られておるようじゃのう?」

 

「白いの!この度の騒動はお主が原因でござるか?」

 

ハムスケの質問に顔を振りながら、白い暴君はハムスケに答える。

しかし、ハムスケは信用ならないという顔で白い暴君に再度質問する。

 

「ん?ん~?そうじゃのう、半分はあっちょるなぁ。確かに儂を見つけて身の程知らずに攻撃してきた馬鹿な冒険者共は返り討ちにはしたが、数える程しか攻撃しておらんぞ?後は別の奴らの仕業じゃぁ…」

 

「某がそんな嘘信じると思っているでござるか!?」

 

そんなハムスケに白い暴君は半ば呆れたような顔をするが、律儀に答えた。

 

「おいおい百年経ってから随分喧嘩っ早くなったのう大鼠?確かに儂らの関係は血で血を洗う腐れ縁じゃが、儂はおどれにホラを吹いたことは一度もないじゃろ?ん?」

 

「むぅ……」

 

完全に信じたわけではないが、ハムスケは多少納得する。

そして白い暴君は今回戻ってきた理由をハムスケに話す。

 

「……本当に違うんでござるね?」

 

「本当に嘘じゃないわい」

 

「それにな?儂が戻ってきたのはおどれとまた仲良う殺し合う為に戻ってきたんじゃ、というかおどれ…」

 

白い暴君は懐疑的な目で、ハムスケと後ろにいる漆黒の剣を見渡し、疑問に思ったのかハムスケに問いかける。

 

「なんで人間とつるんどるんじゃ?少なくともそがな奴等おどれの敵じゃなかろう?」

 

「……某はモモンと言う偉大な冒険者と出会い、その御方を殿と呼び生涯忠を尽くすと決めたのでござる!」

 

白い暴君はハムスケの答えに若干驚くが、すぐに元の表情に戻り更に追及する。

 

「……まさかおどれ、そいつに負けたんか?」

 

「そうでござる!清々しい位の完敗でござった!!」

 

ハムスケは立ち上がり、胸を張って堂々と叫んだ。

 

「胸を張って言うことじゃなかろうが…だが…」

 

「おどれに勝つ奴がこの辺りに居たとはのぉ?気になるのぉ…」

 

白い暴君はハムスケの堂々ぶりに若干呆れながらも、すぐに好戦的な笑みを浮かべ、あることを思いついた。

 

「よし決めたで!おどれを倒してそのモモンという奴に果たし状を叩き込んだるわ!!」

 

「そんな狼藉、某が許さないでござる!殿の前には絶対に行かせないでござるよ!!」

 

白い暴君の発言にハムスケは再び臨戦態勢に入る。

 

「くっくっく、構えろ大鼠?百年ぶりに仲良う殺し合いをしようや?」

 

そういうと白い暴君はその大きな両手を横に広げ立ち上がる。

それを見たハムスケは蛇のように長い尻尾を鞭のようにしならせる。

 

「容赦しないでござるよ!!」

 

「フフフフフフ!!来いぃぃぃ!!」

 

白い暴君の叫びにハムスケは答える形で回転を加えて尻尾を打ち付ける。

その攻撃を白い暴君は両腕で受け止めた。

 

「衰えてはおらんようじゃのう!安心したわぁ!!」

 

白い暴君は歓喜の声を上げながら、右前脚を豪快に振るう。

ハムスケはそれをすぐに避け、尻尾を白い暴君の首に巻き付ける。

 

「それはこっちも同じことでござる!」

 

「ぬぅ!?」

 

そしてハムスケは白い暴君を尻尾で巻き付けたまま、ジャイアントスイングの要領で思いっきりぶん投げた。

 

「でえりゃあぁぁあぁぁ!!」

 

投げ飛ばされた白い暴君は木々をなぎ倒しながらも着地し、再びハムスケに突っ込んでいった。

 

「けっ!相も変わらず鬱陶しいミミズのような尻尾じゃのう!」

 

白い暴君は苛立ちながら前足を高速で何度も振るう。

 

「なんの!」

 

ハムスケはそれを何とか躱して行くが、その連撃が直撃した地面や木々は穴が開き、吹き飛ばされていく。

 

(!相変わらず馬鹿力でござるね…)

 

「おおっと!魔法は使わせんぞ!そんな隙与えんわ!!」

 

ハムスケは得意の魔法を使おうと隙を伺うが。

白い暴君もそれは知っており、発動させまいと攻撃を仕掛ける。

 

「ルクレット!」

 

「ああ!」

 

ぺテルに促されたルクレットは弓を向け、白い暴君に放つ。

しかし白い暴君はそれを軽く弾き飛ばした

 

「ぬ!?」

 

「皆様方!」

 

「僕たちも戦います!」

 

「例え倒せなくても」

 

「隙位は作って見せるのである!」

 

ハムスケと共に立ちふさがった漆黒の剣を見て白い暴君は苛立ちを隠そうとせずに咆哮を上げる。

 

「邪魔すんじゃねえぞおどれらぁ!!!」

 

 

 

 

「ふん!」

 

『……』

 

突如現れた謎の集団とモモン達、『漆黒』は戦闘に突入した。

戦闘力自体は『漆黒』の方が上だが、連携は侮れないものがある。

 

(先程から気になっていたがこの身体能力、やはり人間ではない。だがアンデッドでもない、ならコイツらは?)

 

モモンの言う通り、身体能力も並みの人間を超えており、モモンの動きにも着いてきていた。

 

「少し本気を出すとするか…!」

 

モモンは先程よりも凄まじい速さで斬りかかる。

 

「はぁ!!」

 

「…!」

 

斬撃はそのまま相手に当たり、刃がめり込んだ。

 

「まずいった…」

 

そのまま次の相手に切り込もうとしたが、先程斬った相手が立ち上がり、モモンに踊りかかった。

 

「何!?」

 

『損傷軽微、戦闘続行可能』

 

「ふん!」

 

モモンはすぐに力任せに引きちぎり、地面に叩きつける。

しかし、次の相手が飛びかかるがナーベが首を切り飛ばした。

 

「モモンさん!」

 

「すまない、ナーベ」

 

「いえ、しかし偶然とはいえモモンさんの一撃をまともに喰らっても生きてるとは…」

 

「ふむ、ますます気になるな」

 

モモンは集団を調べるために迅速に排除することを決意する。

 

「ナーベ、これから切り込む魔法を使い援護しろ」

 

「はっ!」

 

モモンの指示にナーベは了承し、集団の前に立つ。

ナーベは第五位階の魔法<|雷撃〈ライトニング〉>を謎の集団の一人に向けて発動する。

謎の集団の一人はすぐに防御態勢を取り、<|雷撃〈ライトニング〉>を防御をし、すぐに反射しようとするが、モモンはその隙を突き、首を斬り飛ばす。そして残りの2名もそのまま切り伏せた。

 

「よくやったナーベ」

 

「ありがとうございます、モモンさん」

 

「……それにしてもどういう身体をしてるんだコイツは?」

 

モモンは切り伏せた相手の身体を掴み。着ていた衣服を脱がす、するとモモンは驚きの声を上げた。

 

「!、なんだと、これは…」

 

 

 

 

「ぬぅぅうん!」

 

「おわぁ!」

 

漆黒の剣の援護を得て、先程と比べ僅かながらハムスケが優勢の状態であったが、それでもハムスケにとっては強敵に変わりない。

 

「ぐっ…(何とか隙を見つけて魔法が使えれば)」

 

ハムスケは何とか魔法が使える機会を伺いながら戦う。

そこにニニャの魔法の矢が白い暴君の顔に命中し、白い暴君は一瞬だけスキを見せる。

 

(今でござる!)

 

ハムスケはこの隙を見逃さず、得意の〈全種族魅了〉を発動しようとしたが…。

 

「<縮地>」

 

その瞬間白い暴君は一瞬でハムスケの至近距離に瞬間移動した。

 

「!」

 

「〈斬撃〉」

 

更に武技を発動させハムスケを爪で切りつける。

ハムスケは咄嗟に避けた為皮一枚切らせるだけで済んだが僅かばかり血を流していた。

 

「ぐっ!」

 

「なっ!あの魔獣…」

 

「武技を使えるのか!」

 

白い暴君が武技を使った事に漆黒の剣は驚愕する。

 

「くくく、伊達に百年も森林から出てたわけではない」

 

「くっ…」

 

「冥途の土産じゃ、とっておきを喰らわせたる」

 

そう言うと白い暴君は右前脚を横に伸ばす。

すると右前脚が白く光り始めていた。

 

「<鎌居太刀>!!」

 

白い暴君は勢いよく右前脚を振り下ろす。

次の瞬間、見えない衝撃波の刃がハムスケを襲った。

 

「ぎゃあああああ!ぐぐ…」

 

白い暴君の武技を食らったハムスケは木々をなぎ倒しながら吹っ飛ばされる。身体中に傷を負いながらもそれでも立ち上がる。

 

「立っていられるのは流石だな、だが…」

 

ハムスケのタフネスを褒め称えながら白い暴君はハムスケに近付く。

 

「これでしまいだ!…っとその前に…」

 

そして尚も白い暴君に向かって攻撃を加えようとする漆黒の剣のメンバー達を力任せに吹き飛ばす。

 

「ふん!!」

 

「ぐあ!」

 

「くぅ!」

 

「さて外野も静かになった。これで…」

 

そして両前脚をハムスケの首目掛けて振り下ろそうとする。

 

「最後じゃあ!!」

 

振り下ろそうとした瞬間レイヴンが白い暴君に斬艦刀で斬り掛かった。

 

「おおぉぉおらああぁぁぁ!!」

 

「!?」

 

白い暴君はそれを回避し、目に止めを邪魔された苛立ちを込めながらレイヴンを睨みつける。

 

「お、御屋形様ぁ!!!」

 

「誰じゃあ…?おめぇ?」

 

「そいつの主人のダチのレイヴンってもんだ。白い暴君ってお前の事……」

 

斬艦刀を構えなおしハムスケの前に立ったレイヴンは白い暴君の姿を見て、唖然とした。

 

(あれ?なんかコイツ、アレに似てね?ガ◯バの冒険のラスボスのデカいイタチ、名前は確か…)

 

暫く考えた後、レイヴンは思い出したのか手をポン、と打ち喋りだす。

 

「…お前さん、ノ◯イって言う名前のイタチの子孫?」

 

「おどれ儂の喧嘩の邪魔しておいて何を抜かしとるんじゃボケェ!!」

 

 

 

 

「機械が埋め込まれた身体…だと?」

 

謎の集団の一人をモモンが調べると、その者の体内からは歯車や金属製の骨格。

本来なら心臓がある部位には四角い形をした動力装置のような物が入っていた。

 

「サイボーグだと言うのか?だが今のこの世界の技術力でこんな…ましてマシンナーのマキナにもこのタイプの者は居なかった、一体これは…」

 

モモンが様々な疑問を思い浮かべていると、調べていたサイボーグの動力装置のような物が突如として光りだし始めた。

 

「しまっ…!」

 

モモンが言いかけたその瞬間、動力装置は閃光を発しながら爆発した。




コメント欄の中にイグヴァルジの今後を当てる人が居て、この人、ニュータイプか?と本気でビビりました。

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