シズ・デルタに恋をしたナザリックの機動兵器 作:t-eureca
マシンナーがクレマンティーヌを仕留める少し前……。
「ふん!先程はちと油断したが、今度はそうはいかんぞ?」
「油断の代償が右腕一本とは大きな代償ですね?もうくっついているらしいですが…」
ジナイーダの皮肉にカジットは「ふん」と鼻を鳴らす。
「ほざけ、小童どもそんな減らず口叩けるのも今のうち…」
台詞を言い終える前にマグノリアがボウガンでカジットの頭を狙撃するが、何やら灰色の壁を出してそれを防ぐ。
「……ちっ」
「ほう…下等生物の割にはそれなりの反射神経はあるようね?」
「ふん、愚か者共め。今頃あの男もクレマンティーヌにやられておるわ」
「それより老人、どうやら<死者の軍勢>の魔法を使っているようだが、それ以外にも何かしらのアイテムを使っているのか?」
「ほう、戦士職の割には知識はあるようだな?如何にも、この負のエネルギーを蓄える死の宝珠の力の御業よ!」
その言葉にモモンは顎に手を添える、カジットの言葉が本当ならばアンデッドに関する魔法の補助効果や何らかの強化ができる可能性があるのではないかと考えた。
「やはり、この世界には色々と興味深い物が多いな…」
「何をゴチャゴチャ言っている!丁度よいわ! 貴様らから先に絶望させてくれる! 出よ!」
カジットが呼ぶと、空から巨大な影が降ってくる。見た目は竜だが無数の人骨で造られた|骨の竜《スケリトル・ドラゴン》と呼ばれるモンスターが飛来した。
「
「その通りよ!貴様の連れている
カジットが長々と喋っているのを見かねたマグノリアがまたもやボウガンを発射するが、今度は
「……ちっ」
「小娘!人が話している時に二度も邪魔するとは空気読まん『うるさい』ぬぅ!」
「…私の姉を……馬鹿にするな…!」
「…う」
(シズ・デルタがキレた?)
(珍しいものが見れたけど…私の為に怒ってくれてありがとうシズ)
(ある意味大物だなあの老人…)
自分が喋り終えるのを二度も邪魔された事に思わず声を荒らげるが、
「ふ、ふん、そんな減らず口すぐに叩けなくしてくれる!まずはそこの小僧からだ!」
カジットの命令に
それをジナイーダは背中に装備している野太刀を抜刀し応戦した。
「援護します」
「……ナーベに同じ」
アルティマの援護に回るためにナーベは剣を抜き、シズはボウガンを発射する。
三人とも今は命令により制限が掛かっており、全力の状態ではない。
尤も本来のLvで三人の中で最も高いジナイーダ、アルティマはこの状態でも|骨の竜《スケリトル・ドラゴン》を瞬殺できる。しかしそれをしないのはカジットに利用価値がある人材であるかを見極める為であった。
尤も、現時点では低評価ではあるが。
「確かに貴様と儂の実力は貴様の方が上だろう、だがこの
「…ジナイーダさん、もう容赦するのは結構です。そろそろあの蛆虫の身の程を弁えさせましょう」
「そうだね、見たところあの"死の宝珠"とかいう物しか価値がなさそうだし…」
フハハハと高笑いをするカジットに若干キレ気味の2人、カジット自体に利用価値は無いに等しいと考え、後はどうしようか?と考えていた時、自分達の主からはっきりと"命令"が来る。
「ナーベラル・ガンマ!アルティマ・レイ・フォース!シズ・デルタ!ナザリックが威を示せ!!」
その命令に躊躇なく3人は同意する。
「……御心のままに。このナーベラル・ガンマ、全力を以って対処致します」
「お任せを……マシンナー様の創造されたシモベとして、<マキナ>総隊長としての恥じぬ働きをさせて頂きます」
「……御心のままに。シズ・デルタ、全力を以って排除します」
ジナイーダ、否、アルティマ達が命令の聞こえた方角を向いたのを好機と見てか、
ガシ!
「………は?」
アルティマがその巨大な尾を左手で掴む。
「サービスタイムは終わりだよ
「全兵装自由、システムオールグリーン……戦闘モード起動」
アルティマの姿が徐々に変形していく。冒険者として着ていた衣服が徐々に真紅の装甲に変わっていくのに合わせて身体の大きさも細くも逞しいシルエットになっていく。
顔も人間の顔から真紅の仮面の様な顔になりと鋭い緑色のツインアイ。身体も鋭角的な外見になっていく。
その四肢も大型になっていき、真紅の装甲で覆われる。中でも目立つのが右腕で左腕よりも一回り大型で掌には何らかの装置がついている。最後に背中から羽が生え緑色の光を放出しながら翼を形成していく。
変形が完了したアルティマの外見は一見真紅の悪魔のようにも天使のようにも思えた。
「な…なんじゃお前は!一体何なんじゃ!?お前は!」
『さっきまでよくも調子こいてくれたね?お前のような奴にこの姿は勿体無さすぎるけど、絶対的な絶望をプレゼントする為になってあげたよ、死ぬほど感謝してね?』
機械的な音声が混じった声でアルティマはカジットに言い放つ。
カジットは目の前に現れた存在に驚愕する。一見ゴーレムのようにも思えたがそれとは確実に違い、尚且つ完全な意思があった。しかしカジットの知識にこのような存在の事など全く存在しなかった。
「生物でもゴーレムでもないじゃと?そんな種族聞いたこともない! 貴様は一体なんなんじゃ!?」
『本来教える価値も無いが特別に教えてやるよ……41人の至高の御方の一人にして偉大なる|機械仕掛けの神《デウス・エクス・マキナ》、マシンナー様のしもべにして機械系異形種軍団<マキナ>総隊長……アルティマッ!』
左手を目一杯振り回し、
『まだだよ、御仕置はたっぷりしないとね♪』
横転している
暫くして少し飽きたのかジャブの連打を止めると、
『…
そう言うとアルティマの右腕にカートリッジが装填され発熱し始め|骨の竜《スケリトル・ドラゴン》の前脚を受け止める。アルティマの右腕には『
この装備は魔法職で言えば第十位階の炎属性魔法に匹敵する攻撃力と装備を展開していれば防具にもなる利便性の高い装備だ。欠点を挙げるならば、連続で使用すれば一定時間オーバーヒートしてしまうという所だが、他の武装もある程度充実しているアルティマにとっては微々たる問題である。アルティマは受け止めた足を右腕で払いのけ右腕で|骨の竜《スケリトル・ドラゴン》の頭を鷲掴む。
『無駄な働きありがとう、バイバイ』
再びカートリッジを装填し、|骨の竜《スケリトル・ドラゴン》に輻射波動機構を発動する。
その瞬間、
『駆除、完了…』
冷たい声色で吐き捨て、そのままアルティマはカジットの方に歩く。
『ご自慢のペットは吹っ飛んだよ?寂しいだろうから同じ場所に送ってあげる』
アルティマは右腕の爪の関節を鳴らしながらカジットに近づくがカジットは急に笑い始める。
その反応を訝しんだアルティマだが上空を見てすぐに理解した。
「フハハハ!馬鹿め!
カジットが高笑いをしているうちにもう一体の
それを見たアルティマは一瞬溜息を吐きたくなった。
「
そんなカジットの様子を見たアルティマはさっきのを見てどうして勝つ気になれるんだろうと?疑問に思った。確かに輻射波動機構は連続で使用できないが素の戦闘力でも自分の方が大いに上回っている事になぜ気づかないんだろうか?と思いながら早急に始末しようと歩き始めるが…。
「……私が行く」
『シズ?』
それをシズが制し、
「シズ、でも貴方は後衛…」
「大丈夫…コレがある」
シズは右腕を上げる、ナーベラルの視線の先にはマシンナーがシズに贈った
「……ジャガーノート、スタンバイ」
《イエス・マム
その瞬間、シズの身体に数多の装甲と武装が装着される。プレアデスの中ではエントマに次いで小柄な部類に入るシズだが、ジャガーノートを完全に装着したことでまるで重戦車のような威圧感を漂わせていた。
ガシィン!
左右の両手を打ち付け火花が散り、装着されたヘルメットに付いているバイザーが緑色に発光する。
「……叩きつぶす」
ズシン、ズシンと重厚な音を響かせてもう一体の
「何を出したかと思えばそんな鈍重な装備でこの
その言葉にシズは一瞬動きを止める。
(……鈍重な装備?そんな装備?マシンナー様の最高傑作の一つを……?)
頭の中を戦闘モードに切り替えていたシズの中で何か熱いものが溢れる、オーバーヒートとは違う熱いもの、それは純粋な"殺意"、今シズの脳内の最優先している指令は「
「殺すっ……!」
緑色のバイザーが赤色に変わり、立ち塞がる
「……脆すぎ」
シズに振り下ろした|骨の竜《スケリトル・ドラゴン》の前脚はジャガーノートに直撃したあと粉微塵に砕けた。
「なっ!」
「…次は私」
シズは右腕を振りかぶる、その瞬間右腕は凄まじい速度で変形し始める。
右腕の中央部には
「
シズは
「
シズもジャガーノートの
「撃ち貫くのみ……!」
「まだ…!」
そのままジャガーノートの右腕の出力を上げ、
「……全弾あげる」
その台詞の後に右腕の回転式弾倉の中に入っていた弾薬を一発、二発と炸裂させ杭をその弾薬分打ち付ける。
そのまま最後の一発も炸裂させ、そのまま
「一撃……だよ?」
そのまま豪快にカジットの近くに着地をし弾倉に入っていた弾薬を排莢する。
「そんな……儂の…儂の数年間懸けたものが…」
「……無駄になったね」
「ふっふざけるなッ!!儂はまだ、まだ負けた訳ではないッ!!こんな所で……!」
「お喋りはお終い……」
そう言うとシズはカジットに向けて両腕を突き出して大型プラズマ砲をを展開した後両肩、両足の格納式ミサイルランチャーを展開、そして両腰の専用ビームライフルを前方に向けて最後に背部の大型レールキャノンに専用ジェネレーターを直結させる。
(え?ちょっと待って?もしかしてシズ
思わずシズを止めようとしたアインズだが少し遅かった……。
「一斉発射……!」
「ま、待てぇ!」
「嫌…待たない」
その光景を見たカジットは制止の声を出すが勿論シズに聞く気は全く無く、躊躇なくジャガーノートの銃火器を一斉に発射した――――――。
・
・
・
ソニック・スレイヤーとドランザーが合体したソニック・ドランが一人佇んでいる。
周囲には無数のアンデッドの死骸が晒されてあった。
ソニック・ドラン―――――もとい合体時のコアロボットとなっているドランザーは合体しているソニック・スレイヤーに話しかける。
「アラカタ排除シタカ?」
『少なくとも門の所に行くのは今のところ居なさそうだな』
「潜入隊ノ活躍モアッタオ陰ダナ…」
ドランザーの言う通り潜伏していた潜入部隊がソニック・ドランの攻撃時と共に決起し、ソニック・ドランの撃ち零しを片付けたりしていた。
「後ハドウスルカ……」
『誰か助けてほしいでござる~!!?』
「ン?」
『なんだ?』
ソニック・ドランは声の方角を振り向き、画面を拡大すると一本の木の上にしがみ付いているがその木の周りにアンデッド達が群がっている可哀想な巨大ハムスターがいた。
「オイ、何ダアノ巨大ナ「とっ◯こハ◯太郎」ハ?」
『お前が言うと変な感じがするな?』
「何ヲ言ッテオル?取リアエズ助ケルゾ…」
『ああそうだな、行くぞメカ◯ジラ?』
「…◯カゴジラ言ウナ」
そんなやり取りをしながら巨大なハムスター……ハム助の救出しにソニック・ドランは飛び出し、すぐにハム助がしがみ付いている木に到着する。
「オイソコノデカイ鼠」
「ん?わ!なんでござるかお主!一体何者でござる!?」
「質問ヲ質問デ返スナ、今カラオ5秒後ニ前ノ周リヲ囲ンデイルアンデッド共ヲ排除スルカラ全速力デ逃ゲロ……」
「ええ!?そんな無茶でござるよ!」
『じゃないと死ぬぞ?』
「死、死ぬぅ!?」
「イ~チ…ニ~イ……」
「ああもうどうにでもなれでござる!」
ドランザーがカウントを取り始めたのを聞いて半ばヤケクソになりながらハム助は木から思いっきりジャンプし、周りのアンデッドを飛び越え全速力で逃げる。勿論アンデッド達もハム助を追い始めるが空中にソニック・ドランが立ち塞がる。
『ここから先は立ち入り禁止だ』
「ゴ退場願オウ……」
ソニック・ドランはアンデッド達に向けて全ての銃火器を一斉発射し、殲滅した。
「終ワッタナ」
『ああ、一旦合体を解除するぞ?』
「了解ダ…」
そういうとソニック・ドランが光りだし元の
そこに先程逃げていたハム助が近付いてきた。
「助かったでござるよお二方ありがとうでござる、某九死に一生を得たでござる。あっ申し遅れたでござる、某、殿のペットの「ハム助」と言うのでござる」
「殿?」
「誰ダソイツハ?」
「おっとこれは失礼、殿の名前は「モモン」、冒険者をやっているでござるよ!」
その瞬間ソニック・スレイヤーとドランザーに電流が走る。
(なん……!)
(ダト……!)
ハム助の言葉にドランザーとソニック・スレイヤーは目を合わせる。
(アインズ様にペットが居た?初耳だぞ!)
(落チ着ケ、モシカシタラコノ世界デペットニシタカモシレン、取リアエズアインズ様ノ所マデ護衛スルゾ)
(了解した)
「これも何かの縁だハム助、君の主を見つけるまで我々が護衛しよう」
「同ジク…」
ドランザーとソニック・スレイヤーの言葉にハム助は目を輝かせる。
「本当でござるか!とても心強いでござる!!」
「ウム…」
「それでは探そうか?」
「了解でござるよ!」
こうしてハム助一行はアインズの捜索に向かう事にした。
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・
「あれ確かモモンガさん達居る辺りだよな?一体何が起こったんだ?」
マシンナーは謎の大爆発が起こった地点にまで簀巻きにしたクレマンティーヌを担ぎながらアインズ達が居る場所まで歩いていく。
「お~いアインズ……って何コレ?」
到着したマシンナーは到着した場所の状況を見て声を上げる。辺り一面が焼け野原となっており、まるで爆撃でも起こったんではないか?と錯覚するほどに燃え盛っているだけでなく、小さなクレーターまでできていた。
前方を見ると黒いフルプレートを纏ったアインズとナーベラル・ガンマ、そして戦闘形態になっているアルティマとジャガーノートを纏ったシズが居た。
「マシンナー…」
「アインズ、これは一体…?」
「ああ、これはだな…」
アインズが先程の戦闘の経緯を話す。そしてさっきの爆発がシズのジャガーノートの銃火器の一斉発射だとわかるとマシンナーは納得する。何せマシンナーはジャガーノートを制作した本人であり、その火力の事はよく熟知している。そしてアインズはマシンナーにメッセージの魔法を送る。
「そうか、ご苦労だったな三人とも」
「勿体なきお言葉…」
「……ありがとうございます」
「至高の御方のシモベとして当然の事です」
(マシンナーさん、あの『ジャガーノート』っていう装備にどんだけ火力詰め込んだんですか?)
(いやまあその……かなり?)
(シズの一斉発射見て敵にちょっと同情しちゃいましたよ、死体すら残ってないんだから……あ、でも死の宝珠っていうこの世界独自のアイテムは手に入れましたけど)
(え?何ですかそれ?名前聞く限りアンデッド関係のアイテムっぽいですけど?)
(名前の通り多分そうでしょうね、敵もそう言ってたし取りあえず使い道は後で考えます)
(そういえばハム助は?)
("あ")
(忘れてたんですか!?)
「殿~御屋形様~」
((あ、いた))
ハム助の事を思い出したアインズだったが、丁度良いタイミングでハム助一行も合流してきた。
「ハム助、よく戻ってきた」
「はい、この御両名が助太刀してくれたでござるよ」
「そうか、よく護衛してくれたなドランザー、ソニック・スレイヤー流石はマシンナーのシモベだ」
「「勿体なきお言葉(デス)…」」
「え? この御二方は殿の知り合いでござるか?」
「知っているもなにも彼らは隣にいるレイヴン……いや"マシンナー"のシモベだ」
「そろそろハム助にも我々の正体を教えるかアインズ?」
「ああ、そうだな」
そう言うとアインズとマシンナーは本来の姿である
「え?殿!御屋形!?」
「これが我々の正体だ」
「ま、今後ともよろしく」
「ぎょ、御意でござる…」
半ば怯えながらも了承するハム助。
「ふむ、では皆帰るとするか?」
「了解だアインズ」
他のシモベ達もそれに従い、エ・ランテルの帰路についた。
パイルバンカーは浪漫の象徴の一つ。