シズ・デルタに恋をしたナザリックの機動兵器 作:t-eureca
「……ん」
「良かった。シズ、目が覚めたのね」
「……ユリ姉」
ぱちりと目を開いたシズは、隣にいたユリ・アルファに気付く。
何故自分がこうなったか記憶をたどる。
(確か……マシンナー様から…ご褒美として自作の装備を頂いて……それ…から…)
確か至高の御方であるマシンナーから自作の装備を褒美として貰い、自分は気絶したのを思い出す。
(あ…あ……!)
シズは自分が演じた失態を思い出し、すぐさま立ち上がろうとしたところをユリに止められた。
「駄目よシズ、急に動いたら……」
「で…も…」
「いいから、今マシンナー様を呼んでくるよ」
「……え?」
ユリの言葉に驚きつつも、シズは何かに気付いたのか、辺りを見渡す。
数々の銃器や武器が保管されており、何かの装置のような機械まである。
それを見たシズはここが誰の部屋かを思いだし、ユリに尋ねる。
「ユリ姉……ここ…」
「うん、マシンナー様の部屋だよ」
「……!!」
「じゃあ今からマシンナー様を呼んでくるね」
「え?…待っ…」
マシンナーの部屋で就寝していたという事に混乱し、しかもユリがマシンナーを呼んでくるという事を聞いて更に混乱する。
そしてユリに連れられてマシンナーが入ってきた。
「起きたか。良かった……」
シズの顔を見て安堵したのか、胸をなでおろすマシンナー。
そして、ベッドの隣に二つ椅子を持ってくる。
「ほらユリも座れ」
「え? ですが…」
「いいから座れ」
「は…はい」
マシンナーの言葉に驚き躊躇しながらも、マシンナーに促され、出された椅子に座った。
「……申し訳……ありません」
「いや、気にするな、大事にならなくて良かった」
まあ、ショートした時は焦ったがな。と言われて、シズは慌てて寝台から起き上がって謝罪しようとしたが、それに驚いたマシンナーが制する。
「馬鹿、さっき起きたばっかりなんだ、無茶するな」
「ですが……」
「気にするなって言っただろ?」
「……」
先の失態を気にするなと言われるも、シズはどこか罪悪感があり、少しうつむいてしまう。
それを見たマシンナーは「じゃあこういうのはどうだ?」と言われ、シズは顔を上げる。
「今度俺のスキルの実験をするからそれを手伝ってほしい。それで今回の件は不問にする、それでいいか?」
「!ッ……はい」
マシンナーの提案にシズは深々と頭を下げた。
「ありがとう……ございます……」
「ん? ああいいさ、それと……」
マシンナーはアイテムボックスから冊子を取り出し、シズに渡した。
「ジャガーノートのマニュアルだ。ショートした時、渡せなかったからな、明日の試運転の為に読んどいてくれ」
「はい……」
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あの後シズの体調が良くなったので、シズは職務に戻る事にした。
使っていたマシンナーのベッドもきちんと掃除をし、ユリと共にマシンナーの部屋から退出した。
退出する際、マシンナーから「また調子悪いと思ったら言ってくれ」と言っていた。
「ユリ姉…」
「なにシズ?」
「……聞きたいこと…ある」
「?」
「私が…ショートした時…マシンナー様が…直してくれた…の?」
「そうらしいよ? 僕がモモンガ様に玉座の間で呼ばれた時、マシンナー様が修復したらしいよ?」
「……え?」
「モモンガ様が「機械に関する知識と技術ならばマシンナーさんの右に出るものはいない」って言ってたわ、マシンナー様も「ショートした部分は修復したが、なんかあったら大変だから念のため俺の部屋のベッドに寝かせといてくれ」って」
「……!」
至高の御方であるマシンナーから修理をしてもらった事に驚くシズ。
表情は変わってないが、目は驚愕の色を出していた。
「だけどもう次は無いと考えなさい、マシンナー様に許してもらえても僕は許さないからね?」
「……うん」
(でもシズの気持ちもわかるな、マシンナー様から自作の装備を頂いたんだし……)
神にも等しい至高の御方から、御方自ら創作した装備を頂いたのだ。
普段感情の起伏が薄いシズでも喜びのあまりショートしてしまうのもわかる。
ユリは正直シズを羨ましく思った。
(それにしてもマシンナー様が自ら作った装備を褒美としてシズに授けるなんて…そういえばマシンナー様は以前からシズを気に掛ける素振りを見せてたような気が…)
以前からシズを気にかけており、時間があればシズの様子を窺いに立ち寄る事が多かったのをユリは思い出す。
(マシンナー様はシズの種族『自動人形』の最上位種『機械神』……これまでの行動、そして今回の事、まさか…いや、早合点はやめておこう……)
マシンナーの以前の行動と今回の事を合わせて、一つの「答え」にたどり着いたのだが、まだ確証を得られないため、あくまで「推測」として今は留めようと考えた。
「…ユリ姉?」
「あ、いや、何でもないよシズ」
「…そう」
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シズとユリは第九階層のシモベ用の食堂に入っていく。
丁度夕飯時であるため、食堂には一般メイドのホムンクルス達とシズとユリを除いたプレアデスの面々がいた。
メイド達が楽しげに会話をしながら食事をとっている。
そこにシズとユリが入ってくるのを見た時、ルプスレギナが気付いてシズに手を振る。
「シズちゃん目覚めたんすか!」
「…うん、心配かけた…ごめん」
「でも、シズが気絶するって珍しいわね? まあ少しわかるような気がするけど…」
「至高の御方が作られた装備を頂けるなんてぇ、うらやましぃ」
「貰った…ここにある」
シズは右手にある銀色の腕時計型の端末を見せる。
端末には『NZ-CZ2128 Juggernaut』と彫られていた。
「おお! 見せてほしいっす!」
「私も気になるわ」
「見せて見せてぇ」
三人にねだられたシズは「…わかった」と言い、端末を操作する。
「ジャガーノート…スタンバイ…」
『イエス・マム』
「喋った!」
シズが着けている端末が喋った事に驚くルプスレギナ。
そしてシズの身体に迷彩色の重装甲の強化外骨格が装着される。
追加装甲を装着した腕の他に強化外骨格についていた大型の腕、足はミサイルポッドや固定用のアンカーが着けられている脚部のパーツを装備している。
顔には、フェイスガードが装備されていた。
無骨で堅牢なフォルムと全身の武装、そして両肩に装備している、大型のキャノン砲が武装の中でもっとも目立っていた。
「うぉー! シズちゃんかっけぇ!!」
「こ、これは…素敵!」
戦闘メイドだからだろうか、ジャガーノートを装着したシズの姿に大興奮していた。
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「え~と…ここはこうでっと…アルティマ、モンキーレンチ出してくれ」
「どうぞ」
「サンキュ」
俺はアルティマと一緒に、あるマシンのフレームを制作していた。
一つは二足歩行の自動人形で、もう一つは一回り大きい四足歩行型だった。
「マシンナー様、この機体達は一体?」
「ああ、これか? ナザリックの警護用のマシンのフレームだ」
「ナザリックの?」
マシンナーの答えに驚くアルティマ。マシンナーは説明を続ける。
「我々は異世界に転移したのだ。知的生命体がこの世界にいる以上、昔のようにこそ泥が侵入してくる可能性がある。この二機はその為の道具だ、完成すればモモンガに見せた後、あの村にも配備させる予定でな」
「成程、さすがはマシンナー様です…それでこの機体のコードネームは?」
「ああ、この二機か? 『クライナーフォーゲル』と『シュピーネ』だ」
因みに意味はドイツ語で「小鳥」と「蜘蛛」ってことである。
「これで一段落ついたな…アルティマ、ありがとな」
「いえ、マシンナー様のシモベとして当然のことです」
「そうか、ならちょっと俺の軍団の総隊長として相談したい事があるんだが……」
「そんな! 相談といわず、ご命令してくれればいかようにも!」
「ああいや、まだ決まったことじゃないんだ。それにこれはモモンガにも相談する事なんだ」
「わ、わかりました。それでご相談とは?」
「ふむ、それはな…」
俺は一呼吸おいて答えた。
「この世界で我が軍団を動かそうと思う……」