シズ・デルタに恋をしたナザリックの機動兵器 作:t-eureca
別働隊を率いているローグは村の包囲を完了していた。
周囲には索敵能力の高いヘルスパイナーとホークアイの他に、獣のようなタイプの機械種やローグと同じ人型のものも展開していた。
今のところ周囲に、生命体は存在していないが何が起こるかわからない為、厳戒態勢に入っている。
(今のところは異常なしか……)
専用のライフルを持ち、周囲を見渡すローグ。
勿論敵と戦闘に備えてマシンナーから「フル装備で来い」と言われ、自身が持つ最強の装備で臨んでいた。
右手には神話級の性能を持つライフル「KARASAWA」を、左手にはリボルバーの回転式弾倉に杭をつけた武器、パイルバンカー「アイゼン」。右肩には索敵能力向上装備「レドーム」、左肩には折り畳み式の「グレネードキャノン」を装備していた。
(だがいつ何が起こるかわからん、マシンナー様ですらこの世界は未知の世界だと言っていたからな…)
「いいか全員気を抜くな! なにか少し変化があればすぐに知らせろ!」
「「「ハッ!」」」
展開している部下に指示を飛ばしつつ、自身も今一度気を引き締めるローグであった。
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「情報になりそうなものは、あまりないな…」
「そうですね…」
あの後更に村を探索したのだが、やはりあるのは遺体くらいだった。
家の中も見てみたが、どれも特別なにかありそうな物は全くなかった。
(もう少し探索して何もなかったら引き揚げるか、長居をするわけにもいかないし)
もしもこの村を襲撃したものがまだ付近にいたら面倒だからな。
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あれから少し経った後に、俺達はナザリックに帰還した。
モモンガさんの方でも、あまりいいものは見つからなかったらしい。
「そうですか、ありませんでしたか…」
「すみません、隈なく探索したんですが生存者は皆無でした…」
「そんなに気にしないでください、まだ周辺にはいくつか村がありますから、そこを改めて調査しましょう」
おお、ならまだチャンスがあるな。
「でも全く成果なしというわけではないじゃないですか、少なくとも文明はあまり進んではいないほうでしたし」
モモンガさんの言うとおりあまり文明は進んでいるように見えなかった。
まるで中世のような感じだったな…。
「てことはあまり科学レベルもそんなに高くないかもしれないな…」
「ですね、銃とか発明されてなさそうでしたし…」
「まあでもこの世界の人間のレベルがどれくらいか気になりますね」
「ええ、ただの一般人でも我々からすればlv100という事もありますよ」
「そうなると本当にわらえないですね…」
割と本気で笑えないですよモモンガさん、でもじっさいそうだったらヤバイな、この世界の人間全員がGガンダムのモビルファイターやジャイアントロボの十傑集並の身体能力とかマジ勝てないんだけど……。
「こりゃ本格的に今まで作ってきた物、総動員してナザリックの防衛力にあてるか…」
「今まで作ってきた物をですか? でもマシンナーさんが作ってきた物の中には割と洒落にならないものもあるからなあ…」
「えーと……例えば?」
「ほらあのバカでかい大砲の…「列車砲です」そうそれ!」
「ああ『グランド・ドーラ』と『グスタフ・マキシマ』ですね、でもあれ拠点攻撃用だからなあ…」
『グランド・ドーラ』
『グスタフ・マキシマ』
マシンナーが製作した兵器の中では単純な破壊力と射程では最高クラスを誇る兵器。
一発の威力はとんでもないもので小さな拠点ならば瞬く間に破壊できる代物。
しかし単発式でなおかつ再発射にはかなりの時間がかかり、なおかつ列車砲自体もかなりの大きさで、一旦見つかってしまえば集中攻撃されるため、使うときはもっぱら短期決戦のみだった。
「モモンガさん、折り入って頼みが…」
「駄目です」
「まだ何も言ってないのに!!」
「列車砲の実験をしたいって言うんでしょ? 流石にあれは目立つので駄目です」
「くそっ…」
俺は思わずガクッとうなだれた。
「こうなりゃパンジャン・ドラムを…」
「それネタ兵器じゃないですか、というか作ったマシンナーさんも「これネタ枠だから」といってたじゃないですか」
「こけおどしにはなるはず!…多分」
この後適当に駄弁りながら時間を過ごす俺とモモンガさんであった。
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「お!ようやく動いた!」
「《遠隔視の鏡》の使い方って結構難しいな…」
あれから一日が経ち、俺とモモンガさんは《遠隔視の鏡》の使い方に四苦八苦していた。
というか骸骨とロボットが鏡を弄り回す絵面ってかなり変な光景のような…
「使い勝手が悪いなあ…」
「せめてこれが機械だったら改造の余地もあるんですけどねぇ…」
《遠隔視の鏡》の扱いにくさにぼやきながら、俺とモモンガさんはあるものを見た。
「何だこれ? お祭りかな?」
《遠隔視の鏡》をいじった時にたまたま出てきた村の映像、しかし村人たちは忙しなく動き回っている。
鏡をいじるとそれが鮮明に映し出された。
「祭りは祭りでも血祭りの方じゃねえかよおい…」
甲冑を被った兵士が村人を切り捨てていく。この前村を襲ったのももしかしてこいつらか?
「モモンガさんどうする?」
「見捨てる、危険を冒してまで助ける必要はない」
モモンガさんを見ながら俺は思った。
言葉ではこう言っているが、本心は助けにいきたいんじゃないか?と。
この未知の世界では軽率な判断をすれば瞬く間に自分の命を失う。
モモンガさんの判断は正しい。
けどなにか違う。
人を殺されるのを見て、なにも思わない、いやなにも感じない。
(心まで鉄になったってのか俺は…!)
変わったのが身体だけでなく心も変わってしまった事に、恐怖を抱いていた。
そう思っていた時、モモンガさんが後ろにいたセバスの方に振り向いていた。
「誰かが困っていたら助けるのは当たり前……」
「モモンガさん…その言葉!」
たっち・みーさんがよく言っていた言葉…。
モモンガさんと一緒に俺をPKから俺を助けてくれた人。
「あの人なら…助けにいくでしょうね…」
「ええ、たっちさんなら…」
「マシンナーさん」
「ええ、行きましょうモモンガさん! セバス!」
俺はセバスに護衛としてアルティマを完全装備で来るように伝える。
モモンガさんはナザリックの警備の指示とアルべドを完全武装で来るよう指示を出していた。
画面を見ると逃げる少女の姉妹が映っている。
あっ! 野郎背中を切りやがった!
あまり、時間は残されていないな……
「モモンガさん! すまないが…」
「ええ、先に行っててください、後で合流しましょう」
「了解! マシンナー、出る!」
アイテムを使いゲートを開いて、俺はそれをくぐった。
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もう駄目だ、私達は此処で死ぬんだ…。
姉妹の片割れであるエンリは震える妹を抱きしめて思った。
自分達は目の前の騎士に殺される。
騎士が自分たちに向けて剣を振りげる。
エンリは妹を抱きしめる手の力を強くする…。
『ロケット・パンチ!!』
――――――バゴォン!!!
大きな声と共にもの凄い音がした。
今まで聞いた事の無いくらい大きな音が。
恐る恐る、伏せた顔を上げると……
先程の騎士の上半身と下半身が真っ二つに引き裂かれて、上半身は遠くに吹き飛ばされ、下半身の方は倒れて自分たちの方に倒れる。
「ひっ!」
思わず声を上げ、その音の方角を見る。
するとそこには黒い鉄の人のようなものが立っていた…。
「な、なんだこいつは! ゴーレムか!」
「いや、腕を飛ばすゴーレムなんか聞いたことねぇぞ!」
「何もんだてめえ!!」
「……」
騎士たちは現れた者に向かって叫んでいる。
だが「それ」は何も答えない。
代わりに「それ」の右腕が飛んできて「それ」に装着される。
そしてそれはドスン、ドスンと足音を歩き出す。
「び、びびるな! 相手は丸腰だ!」
騎士の一人が斬りかかった。
大きく振りかぶり斬りつける、が。
バキャン!と金属の折れた音が森に響いた。
剣の刃が身体に触れた瞬間折れた。
ぽっきりと折れたのだ。
斬られた「それ」は傷一つ負っていない。
「…んな……くら」
小さいが、初めて「それ」は声を出した。
しかし何を言ったか聞き取れない。
そしてもう一度「それ」は喋った。
「そんななまくらで俺を斬れると思ってるのか?」
今度ははっきりと、そして凍てつくような低い声で喋り、斬りかかってきた騎士の頭を鷲掴みにし、持ち上げる。
私はそれを呆然と見ていた。
「あああ! 痛い痛い痛い! 熱い熱い熱い!
離してくれぇ! 頭が! 頭がぁぁあ!」
捕まれた騎士が絶叫し必死にもがいて懇願している。
バキ…メキ…ジュゥゥ…
耳障りな音と何かが焼けるような音と匂いがする。
よく見ると頭と顔を覆うヘルムが凹み、熱で焼かれていた。
騎士は暴れるが、「それ」は気にもしていない。
「い! ぎゃぁぁあ! あづい!! あづい!! あづ…!!」
ぐしゃ
「それ」は躊躇なく騎士の頭を握りつぶした。
「ば、化け物……」
残っている騎士たちはガタガタと震えていた。
そして「それ」は残りの騎士たちを睨みつける。
ガシュン…フシュ—……。
どこからか音が聞こえ、「それ」から煙が出てくる。
「生憎俺はゴーレムではない…」
「それ」はどこからか現れた血のように赤い色をした大きな剣を握りしめ、残りの騎士たちに突っ込んでいく。
「ひぃぃぃい!」
「逃げろぉ!!」
騎士たちは一目散に逃げ出す。
しかし「それ」の速さは騎士たちを遥かに上回っていた。
「俺は…」
ズン!!!!
すさまじい音と風が周囲に響いた。
目を開けると、驚くべき光景が広がっていた。
騎士たちの身体はバラバラに寸断されており、「それ」が立っているところの地面は大きく凹んでいた。
そしてゆっくりとその身体が起き上がる。
「機械神<デウス=エクス=マキナ>だ…覚えておけ」
そしてそれは私達の方を向くと、またドスン、ドスンと足音を立ててこちらに近づいてくる。
後ずさりたかったが、恐怖で動けない。
そして私達の目と鼻の先まで来ていた。
「……」
黄色い瞳が私達を見下ろしている。
私達はあの騎士と同じように殺されるのだろうか……。
エンリとネムは再び窮地に立たされた。