流星のロックマン×ロックマンエグゼ ~願いが希望に変わる時~ 作:フレイムナイト
パラッ・・・
『五歳の熱斗』が本のページをめくる。
何も無い白い部屋、その部屋で唯一家具と呼べる物は、『五歳の熱斗』が座っている白い椅子のみ。
その部屋には熱斗ともう一人、椅子に座っている『五歳の熱斗』と向き合って床に座っている少年、『十二歳の熱斗』の二人しかいない・・・。
『五歳の熱斗』は、『十二歳の熱斗』に本の中身が分かる様に本を広げて見せる。
その本には文字ではなく、二枚の絵が描かれていた。 気を失って倒れている男の子を抱えて嘆く少女の絵ともう一枚、独りぼっちで泣く青いネットナビの絵・・・。
「これが、七年前に起こった出来事・・・」
『五歳の熱斗』が本を広げたまま『十二歳の熱斗』に話し始める。
「・・・・・・」
『十二歳の熱斗』は何も言わない。 だがその目からは涙が溢れ出ていた。
「思い出せた? 七年前の事」
『五歳の熱斗』が『十二歳の熱斗』に呼びかける。
「その時の事だけじゃない・・・銀色さんのことも、彩斗兄さんのことも、全部、全部思い出した・・・!」
『十二歳の熱斗』は目から溢れ出る涙を腕で拭いながら、搾り出すような声で『五歳の熱斗』にそう言った。
「なぁ・・・お前は結局は"オレ"なんだよな? なんでそんなに色んな事を知ってるんだ?」
『十二歳の熱斗』は涙を拭き取ると『五歳の熱斗』に問いかける。
「熱斗が銀色姉ちゃんに聞いたんだろ」
『五歳の熱斗』の言葉に『十二歳の熱斗』は「アッ!」と声を上げた。
「旧秋原エリアのパストビジョンでの戦いの後、銀色姉ちゃんからのメールでピュアルに呼び出されて、パストビジョンで見た事の真実が知りたかった熱斗は銀色姉ちゃんに聞いたんだ。 それで、真実を話すべきだと思った銀色姉ちゃんは自分の知っていること全部話したんだよ。 自分と彩斗兄ちゃんの事、七年前の事件の事も・・・」
そこまで言い終わると『五歳の熱斗』はため息を付く。
「で、やっぱりショックで気絶しちゃってこうして夢の中で頭を整理している訳だけど・・・」
「ハ、ハハハ・・・」
『五歳の熱斗』の言葉に『十二歳の熱斗』は苦笑いを浮かべる。
「笑い事じゃないよ。 彩斗兄ちゃんの事思い出したんだろ? なら分かっているはずだ。 "ロックマンの正体"が・・・・・・」
「・・・・・・!」
『十二歳の熱斗』はそこで真剣な表情になり、『五歳の熱斗』を見据えた。
「ああ、分かってる。 ロックマンは・・・・・・」
『十二歳の熱斗』はそこまで言うと、数秒黙り込む。 そしてその後に続く言葉を一気に言った。
「ロックマンは、彩斗兄さんがネットナビに変わってしまった姿だったんだ・・・!」
「・・・・・・」
『五歳の熱斗』は何も言わない。 『十二歳の熱斗』の話を黙って聞く。
「あの時、パパの研究室に忍び込んだ男が盗もうと持っていたのはオラシオン・ロックだった。 それで、彩斗兄さんがそれに触ったら急に光りだして、オレはそのまま気を失ってしまって・・・・・・どうして、どうしてオレは彩斗兄さんの事を忘れちまっていたんだよ!!!」
熱斗は下を向き、唇を噛み締めて自分を責める。
「あの後、彩斗兄ちゃんが消えてしまった後、どうゆう訳か銀色姉ちゃんとパパとママ以外の人達全員の記憶から、彩斗兄ちゃんについての記憶だけが消えてしまっていた。 熱斗も、彩斗兄ちゃんを通じて知り合った銀色姉ちゃんの事と一緒に・・・」
「・・・!?」
「原因は、オラシオン・ロックにあったんだ」
「オラシオン・ロックに・・・!?」
「パパが熱斗に言ったよな、『ホープ・キーは、私の父・光 正が作り上げた究極プログラムを遥かに凌ぐ力を秘めたプログラムだ』って」
「ああ、だからネビュラよりも先に見つけてくれって・・・」
「究極プログラムを遥かに凌ぐ力を秘めたプログラム、それはホープ・キーじゃない」
「えっ!?」
『五歳の熱斗』の言葉に、『十二歳の熱斗』は思わず立ち上がる。
「正確には、ホープ・キーはそのプログラムの封印を解くために必要なキーデータなんだ。 そして、究極プログラムを遥かに凌ぐプログラムの名は・・・『イキシア』」
「イ、イキシア!?」
『十二歳の熱斗』はその名に思い当たる人物がいた。 幾度となく夢の中で遭遇した謎の少年・イキシアと・・・。
しかし、『五歳の熱斗』が言っているのは人ではなくプログラムの事だ。 『十二歳の熱斗』の頭はまたもや混乱しそうになる。
「そのお兄ちゃんが誰かはオレにも分からない。 でも、イキシアって名乗っている以上、無関係ではないと思う」
『五歳の熱斗』が『十二歳の熱斗』に自分の意見を言う。
「話を元に戻すよ。 ホープ・キーは『イキシア』の封印を解くためのプログラム、そして、『イキシア』を封印しているのが、オラシオン・ロックなんだ」
「オラシオン・ロックの中に!?」
「究極プログラムを遥かに凌ぐ力を持つプログラム『イキシア』、その未曾有の力は人をプログラムに、ナビに変えてしまう程の力を持っている」
「人間をネットナビに・・・!?」
『五歳の熱斗』はコクンと頷くと話を続ける。
「彩斗兄ちゃんがロックマンになってしまったのはその力のせいさ。 ネビュラの目的は、オラシオン・ロックに封印されたプログラム『イキシア』を手にいれ、世界をダークキングダムに造り変える事。 そのために、Dr.リーガルとDr.ガルナはホープ・キーとオラシオン・ロックを手に入れようとしている」
「今、ネビュラはホープ・キーのパーツ一つと、オラシオン・ロックを持っている」
「そして、ロックマン・・・彩斗兄ちゃんも一緒に・・・」
『五歳の熱斗』がそう付け加える。
「・・・ここまでが、熱斗が銀色姉ちゃんに聞いた事だよ」
『五歳の熱斗』はそういうと座っている椅子の背もたれにもたれ、開いていた本をパタンと閉じる。
「熱斗、彩斗兄・・・ロックマンはダークチップのせいで心が闇に染まってしまっている。 もし、その闇を晴らしてロックマンを取り戻せたとしても・・・・・・本当の意味でロックマンを助けたとは言えないんだよ?」
「・・・ッ!」
『五歳の熱斗』の言葉に、『十二歳の熱斗』は悲しそうに声を詰まらせる。
「熱斗・・・」
『五歳の熱斗』は『十二歳の熱斗』の次の言葉を待つ。
「正直、どうすれば良いのか分からない・・・」
「・・・・・・」
「ロックマンを元に戻す方法も、ネビュラが『イキシア』を使って何をしようとしているのとかも、全然分からない。 だけど、オレは"あの時のお前"じゃない!」
『十二歳の熱斗』は顔を上げると、『五歳の熱斗』を正面から見据える。
「今のオレには、一緒に戦ってくれる仲間がいる! もう、彩斗兄さんのことを忘れたりなんかしない! ・・・絶対に、大丈夫さ!!」
『十二歳の熱斗』は力強くそう言うと『五歳の熱斗』に笑顔を見せた。
「・・・・・・ニコッ♪」
すると、『五歳の熱斗』も『十二歳の熱斗』に笑い返した。
その笑顔は、不安も悲しみもない、希望ある笑顔だった。
「・・・熱斗君?」
銀色が熱斗に呼びかける。 熱斗は静かに目を開けると、銀色の顔を見る。
ここはピュアル、彩斗と銀色の思い出の花園。
"『五歳の熱斗』との夢"から覚めた熱斗は、ピュアルの花畑に横たえていた体を起こした。
そして、立ち上がると銀色と真正面に向き合った。
「熱斗君・・・」
「銀色さん・・・。 彩斗兄さんを助けるために、力を貸してください・・・!」
熱斗はそう言うと銀色に手を差し出す。
「・・・!! もちろん・・・!!!」
全てを悟った銀色はその手を握り返した。