『憎しみ』の器、世界を渡りて『理由』を得る
2015年7月末、数々の自然災害が日本を襲い、それに追い打ちをかけるかのように現れた人類の敵『バーテックス』。その生命体は人々を容赦なく蹂躙した。
彼の生命体の出現直後、日本の各地にて結界が構成され、その内の1つである長野の諏訪地方でもそれが現れた。さらにそんな中、『バーテックス』に対抗しうる力をもった『勇者』、結界を張る土着神の声を聞ける『巫女』と呼ばれる少女たちがいることが判明し、3年間諏訪の地が守られたがついに結界が破壊されてしまう。
最期まで日常を守ろうとした長野の勇者『
「……みーちゃん、ごめん…。もうここらが限界かも。せっかく出来た夢…守りきれなくて…ごめんね」
「…ううん、うたのんは…頑張ったよ」
長野の巫女である『
星屑と呼ばれる白い体をもつバーテックスの個体が彼女たちににじり寄る。恐らく、本宮に避難している人たちも既に囲まれているであろう。このまま奴らに食われるのはもはや時間の問題だ。
水都は涙に顔を滲ませながら歌野をぎゅっと抱きしめながら自らの最期を覚悟した。
「っ!?」
歌野は最期まで抗おうと得物である鞭を振るおうとした……が、手が動かない。
(お願いします…世界がバーテックスの脅威に晒されながら今日まで生きてきた人たちを…うたのんが守ろうとしてきた日常を…私の大事な友達を…助けて!!!)
この地を守ってきた土着神の声は聞こえない。手段がなくなり最期を迎えようとしていた水都だったが自分はどうなってもいい、目の前にいる親友や人々が死ぬのは見たくはない。そう無意識に思い込み願った。
だが、彼女の懇願を踏み躙るかのように星屑は一斉に襲い掛かった。
このまま彼女たちはなす術もなく……そんな時だった。
【・ ・ ・】
2人の目の前並びに周囲にいたバーテックスが消滅した。
「何……何なの……!?」
突如起きた光景に状況が把握できない2人。水都は頭上に輝く何かに気づき見上げると
「金の……巨人…」
淡い金色をメインに、細部にえんじ色を差し色としている巨人が空に浮かんでいた。
――――――――――
side:金色の巨人
「……よもや、すぐに戦闘する事になるとはな…」
金色の巨人。いや、ロボットともいえる巨大兵器に搭乗するパイロットが視界に広がる状況を一瞥し呟く。
彼は自分のいた世界でこれまでの存在を失い、搭乗している巨大兵器のパイロットとして戦わされていたが、戦いの末に沈静化し彼を『憎しみ』の器とした存在の力に巻き込まれ宇宙へと放逐され眠りについていた。
しかし、ふと聞こえた声と共に2人の少女の姿を見えた。
――― 1人は体中が傷だらけになっても戦い続ける黄緑の衣装を纏った少女。
――― 1人は涙を滲ませながらも戦う少女を見守る赤い袴に白い衣装を纏った少女。
そこから離れた所には幾多の人々がいた。
(これではまるで…シュリナーガルの時みたいじゃないか!)
【お願いします。もう……私には力が残っていません…失い逝く人々を…彼女たちを救えるのはこの声を受け取れたあなただけ……】
その声に応えなくてはいけないと思ったパイロットは声をもたらした存在の最後の力で世界を超えここに来たのである。
「位置情報…該当なし。……フェストゥムに似通っていないが同じような化け物が相手か。ここの防衛戦力は?」
生命反応を捉え拡大。パイロットの青年の視界に入ったのは血まみれで倒れこんでいる少女とそれを抱える少女だけである。
『…みーちゃん。あの巨人はいったい?』
『うたのん、私にもわからないよ…っ!?』
水都が頭を抱える。彼女の頭に思考が流れ込み抽象的なイメージが脳裏に刻まれる。歌野はボロボロの体で水都を案ずるが、その隙を狙ってバーテックスが大口を開けて彼女らに迫る。
「伏せていろ!」
そう叫ぶと巨人は背中のイージス装備を展開。巨大な光学シールドが広域に発生しバーテックスはそれに接触。接触したバーテックスはそのエネルギーの反流に耐えきれず消滅する。
【!?】
無数のバーテックスが金色の巨人を敵と認識し、長野を総攻撃するための戦力の一部を集結させる。
「数が多い。だが……消えろ!」
両肩のユニットを展開すると無数の光線を発射し、その光弾は群がるバーテックスのほとんどを吹き飛ばす。
(す……すごい)
歌野が巨人の力に驚愕する中、その光線の雨を抜けた個体が巨人へと迫るものの手にした槍状の武器で刺し貫いた。
人類の兵器が効かず、対抗できるのは神に選ばれその力が宿った武器を振るう勇者のみであるが、巨人はバーテックス・勇者以上の力をもっているそれを歌野と水都は間近で見た。
――――――――――
side:歌野・水都
「う~ん」
「みーちゃん!」
蹲っていた水都の意識が戻った。バーテックスは巨人によりほぼ掃討され今は殲滅戦へと移行している。
「うたのん」
「大丈夫? 何かわかったの?」
自らも傷だからけなものの水都の身を案ずる。水都は歌野に自らが見えた最後の神託を伝える。
「あの巨人は、諏訪の神様の声に応えてくれた……『理由』の名を持つ巨人」
「『理由』の名を持つ巨人? こりゃあ諏訪の神様もとんでもない切り札をもっていたんだね」
「ううん。あの巨人は異世界から来たの」
「それ本気?」
『そこの2人』
水都が頷くと周囲のバーテックスの殲滅を終えた巨人が2人を見下ろす。
「……みーちゃん、私の見間違いじゃなければ」
「……うたのんの思った通りだよ。あれはロボットだよ」
『ここにいる人は君たちだけなのか?』
巨人からの声に2人ははっと気づく。本堂には避難した大勢の人々がいるのだ。
「大変! 本堂の人たちが…ぐっ!」
「うたのん、その身体じゃあ無理だよ!」
歌野に激痛が走る傷だらけの体で無理に動かそうとした結果だ。
『(そんな体で戦っていたのか)少しじっとしていろ!』
それを見たパイロットが巨人の手をかざす。
「(!?)うたのん!」
歌野の体が翡翠色の結晶に包まれすぐに砕け散る。
「……? 痛みが…消えた」
歌野の体から痛みが消える。体中にあった傷からの血も止血されているようだ。
『しばらくそのままにしていろ。…本堂というのは?』
「あ、あちらです」
水都が指を差す方角を見るとバーテックスが今まさに本堂の人々に襲い掛かろうとしていた。巨人は2人に背を向ける。
「ま、待ってください。あなたはいったい?」
水都が巨人の事を尋ねる。時間はないのでパイロットは簡潔に答えた。
「……『ジョナサン・ミツヒロ・バートランド』。かつてはそう呼ばれていた。この機体はファフナー……『マークレゾン』」
「ファフナー…」
「マークレゾン…」
背部の羽状のユニットが光り輝くとその巨体が浮き地面から離れた。レゾンは機体を加速させると本堂にむけ発進した。
――― 俺の名前はジョナサン・ミツヒロ・バートランド。……『憎しみ』に囚われていた哀れな人形の名前だ。
かつて、ベイグラントのコアにより『理由』もない『憎しみ』の器と植え付けられ世界に憎しみを満たそうとした。
しかし、それは祝福をうけた人たちによって止められ、俺は機体ごと宇宙へと追放された……。
俺はこのまま眠りにつくはずだったがある声により再び目覚める。
それが俺であるための『理由』をもたらしてくれる2人の少女……いや、この先で会うことになる子も含めて8人と交わる事と知らずに ―――
『乃木若葉は勇者である』の上の特別書き下ろし番外編『白鳥歌野は勇者である』を見た際に衝動的に浮かんでしまったネタを出力してしまったもの。
『ジョナサン・ミツヒロ・バートランド』も『蒼穹のファフナーEXODUS』にて立場上救われないし、続編があった際に重要キャラとして出てきそうなので主人公化させました。
裏話にあった通り最後までいけたら続編として出したいなあ……。
2016/10/25追記
捏造テーマソング:『僕は僕であって』(angela × fripside TVアニメ版『亜人』第2クールOP)