なざなざなざりっく!   作:プロインパクト

15 / 28
ナザリックの忙しい一日

その日、ナザリックは喧騒に包まれていた。

普段は静寂に包まれ、廊下を歩く足音しか響くことはない廊下を、数人のメイドやシモベが走り回る。

 

 

「――急ぎなさい、資材の搬入はまだですか?!」

 

「シャルティア様からのシモベの伝令によるとまだのようです!」

 

 

いつもは冷静なデミウルゴスですら、その日は焦っていた。

そのデミウルゴスの言葉に、走り回っていたシモベの一人、サキュバスがまだ届いていないことを伝える。

 

普段であれば叱責の対象であるその態度も、今はどうでもいいとさえ思えていた。

 

「くそ、ここで何としても手柄を立てなくては……」

 

デミウルゴスのその言葉は、廊下の喧騒に消えていった。

 

 

円卓の間。普段は会議で使用するその場所は、今は男性プレイヤーしか居なかった。

 

「それで、どうします?」

 

重苦しい空気の中、取り敢えずジャブでモモンガが会話を繰り出す。

その言葉に反応するように、隣に座っていたたっち・みーが言う。

 

「ですから私たちは、自分の守護者の姿を使いますよ」

「えぇ」

 

「えー……」

 

同意するように頷いたウルベルトを見て、モモンガは分かりやすい不満を口に出した。

 

 

【変化の腕輪】の変化対象。

それが急務での議題だった。

 

ことの始まりは昨日。

 

 

 

 

 

「――やまいこ様、ぶくぶく茶釜様両名。御帰還されました」

「御無事の生還で何よりでございます」

 

守護者、シモベ、メイド……、ナザリックに存在する全てのシモベが、二人に向かって頭を垂れる。

困惑するやまいこと違い、ヒラヒラと適当に対応したぶくぶく茶釜は、モモンガの元へと来ると言った。

 

「ただいま。心配かけてすみませんでした、モモンガさん」

「あ、す、すみませんでした」

 

「いえ、二人が無事で何よりですよ」

 

本心からの言葉に、やまいことぶくぶく茶釜は胸を降ろす。

会話が終わったのを感じてか、執事のセバスと、守護者のデミウルゴスが三人に近付く。

 

「失礼を承知で申し上げます。あのような状況では、シモベの数名を引き連れて行くべきだと思われます」

「セバスに同意でこざいます。お二人は他の至高の方々と同じくナザリック、いや、この世において頂点に位置する御方。勝手な行動をされて、心配する者が居ると意識なさって下さい。」

 

デミウルゴスの言葉に反応するように、アウラ、マーレ、ユリが立ち上がり深く頭を下げた。

 

「……うん。ごめんね」

「次からは気を付けるから」

 

自分の子供ともいえる者からの心配に、二人も頭を下げた。また過剰に反応されても困るので、後で謝りに行こうとすぐに上げる。

 

 

「あ、モモンガさん。伝えることが」

「どうされました。やまいこさん」

「えーっと、近いうちに、ナザリックにお客さんが来るんですけど……」

 

 

「……え?」

 

 

 

それからのナザリックは嵐のようだった。お祭り隊長、ぶくぶく茶釜、餡ころもっちもち、るし★ふぁー、ヘロヘロを先頭に、ナザリック(特に外観)をリフォームしようぜ、となったのだ。

凝った見た目にするため、ブループラネット、タブラ、ウルベルトもそれに参戦した。

 

元々毒の沼地にあった遺跡が、だだっ広い草原に移ったので、ナザリックの外観は周囲に比べてあまり良いものではなかった。

皆が言うならせっかくだし、とモモンガもノリノリでGOサインを出した。

 

そこまでは良かった。

 

 

 

「なら、二人みたいに人間の時の姿でも決めましょうか」

 

 

誰が言ったか、その言葉から戦争が起きた。

 

 

 

「なら、私は守護者のセバスをモチーフとしましょう」

とたっち。

 

「それなら私はデミウルゴスですね」

とウルベルト。

 

「なら僕は……、あれ、もう居なくね?」

 

それからも争いは続いた。

 

「モモンガさんそのままでもカッコいいじゃないですか」

「人前に出れる姿じゃないですよね」

 

「コキュートスなんてどうです?絶対モテますよ」

「蟲にしかモテねーよ!」

 

「じゃあエクレアをお譲りしましょう」

「イワトビペンギンじゃねーか」

「おや、詳しいですね」

「誉められても全然嬉しくない!」

 

 

そんなプレイヤーをそっちのけで、シモベの間でも争いは始まっていた。

 

「ぶくぶく茶釜様はルプー、やまいこ様はユリ姉をモチーフにした。羨ましい」

「いやぁ、こんな私を至高の方々に使われるなんて至極光栄の極みっす♪」

「ぐぬぬ……、腹立つほどに羨ましいぃ……」

「私もよ、エントマ……。他に決められていないのは、餡ころもっちもち様だけね 」

「至高の方々に使われるなど、私たちにとっては何物にも代えがたい至福。……譲りんせんよ?」

「それはあの方々が決めることよ、シャルティア。まぁ、貴女が選ばれることはないでしょうけど」

 

その場にいたプレアデス、守護者数名は静かに、されど激しく闘志を燃やす。

 

私が選ばれる。

 

水面下での戦いは、噴火寸前の火山のように高まっていた。

 

 

 

「……順当に行くならば、私の姿はウルベルト様が使われるかと思われるが……、ぶくぶく茶釜様の例を見ると、思わぬ番狂わせがありそうだ」

「ソウダナ。……マァ、俺ノ姿ナド、至高ノ方々ハ使ワナイダロウガ」

「そ、それを言うなら、ぼ、僕だって無いですよ。至高の方々からすれば子供に見えるし……」

「いや、マーレ。君は私たちが見ても子供に見えるが……。とにかく。今、ナザリックの模様替えをしているのは大きなチャンスだ」

 

デミウルゴスの言葉に、コキュートス、マーレは疑問を浮かべる。

セバスは察したのか、なるほど、と口を開いた。

「つまり、この模様替えでの貢献によって、今後至高の方々が行動をされる際、共に行動、または任命されると……」

「その通りだ、セバス。まぁ、至高の方々から頼りにされると思えば、分かりやすいかな」

 

話の内容を理解したのか、おぉ、と声を上げる。それぞれの野望があるのか、特にコキュートスはトリップしていた。

 

「オォ、若様。ソンナニ慌テナクトモ、爺ハココニ居リマスゾ……」

「いや、コキュートス。それはいくらなんでも飛び越えすぎだ……」

 

とにかく。と言って、

 

「今がチャンスだ。共に、ナザリックに、ひいては至高の方々に仕える者として、お互い協力しようじゃないか」

 

デミウルゴスが差し出した手に、その場に居た男性陣は手を重ねた。

 

 

 

「おや、此処で何をされてるんです?タブラさん」

「あぁ、プラネットさん。外観をどのようにしようかと、考え中でして……」

 

第一階層、出入り口の付近で座り込んでいるタブラの近くに、ブループラネットは座った。

近くではコキュートスの配下である【八肢刀の暗殺蟲】が、姿を消して控えている。

 

二人とも【変化の腕輪】を使用していた。取り敢えずはその辺にいる人間の姿を、【遠隔視の鏡】を使用してコピーしている。

 

「それで、どうするつもりなんです?」

「んー、思いきってタイル張りにして外壁を造るか、柵を設置して庭園風にするかで迷っているんですけど」

「外壁は良いんじゃないですか? 要塞っぽく造るのもカッコいいと思いますけど」

「要塞……、良いですね。そのアイデアいただきです。」

 

目の前に広げた羊皮紙に、サラサラとタブラは書き込んでいく。

そこには全体の造りと、どこをどう造り変えるかのアイデアが記されていた。

 

「おかげで外観は決まりそうですね」

「そうですか。……他には何処をリフォームするんです?」

「第六階層に、お客さん用のホテルを建てるらしいですよ。もう、建築にまで取り掛かっているようです」

 

 

「はいはーい、そこはもう床張って行って良いよー」

 

第六階層、ジャングルの一角に、その建物は建築途中であった。

骨組みは終わっており、後は各階層の床など、内装を完成させていくところだった。

 

「お疲れさま、アウラ。調子はどう?」

「ぶくぶく茶釜様、お疲れさまです! 後は内装を仕上げていくだけですね。後1日あれば終わりそうです」

「え、早……。大丈夫だよね、欠陥住宅とかじゃないよね」

「欠陥住宅……? モモンガ様から貸していただいた【デスナイト】や、コキュートス、デミウルゴスの配下の者が手伝ってくれてるんです」

「あぁ、なるほど。皆やる気充分なんだね、ありがとう」

「至高の方々からの命令とあらば、どんなことだって致しますよ!」

 

どん、と胸を叩き、誇らしげにするアウラに、ぶくぶく茶釜は笑う。

 

この工事終わったら絶対休ませよう。絶対。

 

そう、心に誓った。

 

 

「え、えーと。こんな感じですか?」

「そうそう、そんな感じ。悪いね、マーレ」

「い、いえ。至高の方々からの命令ですから、嬉しいです!」

 

ナザリック外部、屋根部分に、三人の人影があった。

その中の一人、マーレが、隣にいるるし★ふぁーへと疑問を放つ。

 

「そ、それにしても、堀を三重に作るのは、どのような策略が?」

 

「俺の国では、昔拠点の回りに堀を掘ってたんだよ。侵入者のルートを削るのにも役立つし、仮に入られたりしても、橋を落とせば逃げられないしな」

「な、なるほど。確かに大人数でも一網打尽に出来ますね。流石は至高の方々」

 

「ま、【飛行】を使われたら意味ないけどねー」

「え、えぇー……」

 

ケラケラと笑いながら言うるし★ふぁーに、マーレは困惑する。

そんな二人に、隣にいた建御雷が訊ねた。

 

「ところでマーレ、掘はどれくらいの深さになっているんだ?」

「え、と、深さが大体10メートル、幅は5メートル程で造っています」

「そうか……、深さをもう3メートル深くしてもらえるか?」

「わ、分かりました」

 

杖を構え、マーレは魔法を起動する。

ドルイドである彼は、大地の操作に手慣れている。ゆえに、ナザリック外部での今回の作業は、彼の独壇場であった。

 

「(こ、これでアピールポイントは大分稼げたはずだよね)」

 

至高の方々直々の側近。

 

守護者各位、更には姉であるアウラを出し抜けたと、マーレは心の中でほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば建御雷さん、ここには何で?」

「満場一致で、るし★ふぁーさんの監視を頼まれました」

「そこまで信用ないの俺?!」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。