仮面ライダードライブ with W   作:日吉舞

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仲間とは何なのか -4-

「連続傷害事件は、昨晩から今朝の間に三件。最初は一六日の二三時半頃に男女四人連れが、一七日の一時に男性三人が、同日五時に同じく男性三人が襲われました。被害者はいずれも刀傷か銃創のどちらかが認められ、二人の怪物に襲われたんだと証言したそうです。ただしほぼ全員が重傷のため、詳細は回復を待ってからしか聞けないものと思われます」

 

 疾走するバンの中で運転手の霧子から手短な報告を聞きながら、進ノ介はその全てを頭の中に叩き込んでいく。が、その整理も許されないまま捜査に雪崩れ込む羽目となった。

 さほどの間を置かず、二人は最後に男性三人が襲われた現場に到着していた。

 久留間運転試験場からほど近いその場所は閑静な住宅街の一角に当たる路上だが、立入禁止を示す黄色いテープで囲われた数十メートル四方の内側は物々しい空気の中にある。怯えた近隣住民は遠巻きに現場を見守る一方で、何も考えていない者がスマートフォンで現場を撮影しようとして警官に追い払われ、日常の雰囲気はすっかり奪われてしまっていた。

 被害者が襲われた場所には生々しい血痕もかなり大量に残っていたが、それが一般市民の目に触れる位置にないのは幸いであろう。

 

 シルバーのワンボックスから下りた進ノ介と霧子は早速、りんなの自信作である重加速測定器ーー通称「ピコピコ」を身に纏い、立入禁止区域へと入っていく。無数の派手なランプが煌めくヘルメットに一昔前を思わせる黒縁の丸い眼鏡、背中にはレトロ感漂う箱形の装置の二人は、紺色の作業着を着た鑑識スタッフや制服警官の集団に溶け込めず、浮いて見えることこの上ない。

 

 しかしこの光景も見慣れたのか、はたまた滑稽ななりに吹き出しそうになるのを堪えているのか、現場の警察スタッフたちは二人の邪魔をすることなく、各々の職務を黙々とこなしていた。

 ピコピコの反応を真剣な表情で確認していた霧子が顔を上げ、すぐ近くの道路標識の陰を確認していた進ノ介に結果を伝える。

 

「重加速反応を検出しました。間違いありません」

「こっちもだ」

 

 進ノ介も確かな反応を確認し、範囲を絞るため今度は民家の塀にまでセンサーを当てていった。

 彼らが重加速の残滓を見つけたのは、被害者が襲われた三叉路から数メートル離れた一軒家の前である。新築の小綺麗な一戸建てや小規模マンションが並ぶ街で繰り広げられている捜査の風景は、一般犯罪のそれともまた違う独特さがあった。

 

「何で俺まで……」

 

 至って真面目な二人の側でぼやいたのは、翔太郎である。

 彼は遅れて現場に着くなりトレードマークのソフト帽を未来に奪われ、有無を言わさずピコピコを装着させられていたのだ。

 ハードボイルドな仕事と真逆のギャグにしか見えない作業をさせられている彼は、文句を口にしながらも一応はきちんと重加速反応の検出に当たっている。

 

「仕方ないでしょ。りんなさんが張り切って予備の分も出してくれたんだから」

 

 捜査風景を一眼レフで撮影しながらタブレットに記録を取っている未来が、ぶつくさ言っている翔太郎をたしなめた。が、特状課のメンバーでピコピコを装着していないのが彼女だけというのが、半熟探偵の気に障ったらしい。

 むっとした表情を隠そうともせず、翔太郎は未来に不満をぶつけた。

 

「何でお前はやらねえんだよ」

「私はこの場で、普通の人が気づかない証拠を拾うことのほうが重要なんだから。しょうがないじゃない」

 

 好戦的とも取れる仲間に、女性捜査官がきっぱりと言い返す。あくまで彼女は自分の仕事にピコピコが適さないと言いたいようであったが、それでも翔太郎の苛立ちは解消されない。ライトが目まぐるしく光るヘルメットを脱ぎ捨てんばかりに、彼はまだ食ってかかっていく。

 

「こんな面白メカ、ハードボイルドな俺には合わねえんだよ。他の奴にやらせろってんだ!」

「面白いのは認めてるんだ。いいじゃん、似合ってるよ」

「似合う似合わないの問題じゃねー!」

「どうせなら、似合う貴重な人材ににやってもらった方がいいんだっての。大丈夫だって、そのうち自分以外の誰も気にしなくなるからさ」

 

 吠える翔太郎を、未来はむしろ楽しげにいなした。どう見ても軽口を楽しんでいるとしか思えない未来に、翔太郎は更なる返しで挑んでいこうとする。

 周囲の捜査員たちから投げかけられる呆れた視線もものともせず、二人は子どもっぽいやり取りを暫し続けていた。

 

「あの二人、昨日あの後何かあったのか?」

 

 その中には、進ノ介のそれも含まれている。

 昨晩の非公開会議時はあれだけ気まずそうだったのに、たった一晩で何が変わったというのであろうか?

 怪訝そうに眉間に皺を寄せる進ノ介であったが、彼よりも更に少し離れた場所に立っている霧子は特に表情を変えずに様子を一瞥しただけだった。

 

「わかりませんが、捜査を円滑に進めるのにチームメンバーの不和は困ります。それがなくなりそうなら、喜ばしいことです」

 

 職務を黙々とこなす機械のような物言いは今に始まったことではないにしても、相変わらずにこりともしない霧子に、進ノ介は軽く溜め息を漏らした。

 

「霧子は相変わらず堅いな……ん?」

 

 その時ようやく、彼はジャケットの内ポケットに入れていた携帯電話が着信を告げて震えているのに気づかされた。慌てて本体を引っ張り出し、相手が誰なのかも確認せず応じることとなる。

 一組の男女から携帯電話へと注意を逸らした同僚を、ピコピコ姿の霧子は押し黙って見つめていた。

 霧子が大人になるまでの進ノ介を知らないのと同じように、進ノ介は幼馴染みである未来の十四年に渡る空白について知らない。だからきっと、彼は未来が自分の知らない誰かになってしまったように感じているのだろう。

 

 しかし、と霧子はそこで思う。

 進ノ介と未来の間には、子ども時代に築いた十年もの時間がある。

 つまり、彼女は霧子よりも進ノ介という人間の根っこを知っていると言えるのだ。

 自分の知らない進ノ介がいて、なのに未来という女性は進ノ介の記憶に確かに存在し、ともに成長してきている。

 そのことを考えると、何故だか胸の奥にずきりと鈍い痛みが走るかのような気がしていた。

 勿論霧子はそんなことをおくびにも出す気はなく、進ノ介も生来の鈍さ故に気づくことはないであろう。それが証拠に、彼は霧子からの複雑な想いが秘められた視線を意識することなく電話を終えていた。

 

「……そうですか。了解しました」

 

 硬い表情で携帯電話を内ポケットに突っ込んだ進ノ介が、普段と変わらない口調で霧子に告げる。

 

「現さんからだ。最初の現場でも重加速反応が出たらしい」

「今、照井警視から連絡があったよ。二番目の現場でも反応が出たって」

 

 そこへ、やや緊張した面持ちの未来が歩み寄ってきた。

 彼女はまだピコピコを装着したままの翔太郎を伴っていたが、両者の違うところは、ハーフボイルド探偵が笑いを隠し切れないにやけ顔でいるところであろう。

 

「照井からか……」

 

 それでも爆笑しそうなところを堪えているらしい翔太郎に未来が不審そうな目を向ける。

 

「何笑ってんの?」

「いや……あの照井がピコピコをつけてるかと思うと……」

「て言うか、あんただって同じじゃん」

 

 未来からの鋭い突っ込みにも、翔太郎の笑いの沸点は下がらない。

 

「……ぶっ!」

 

 ところが、派手に噴き出したのは翔太郎ではなかった。

 思いがけず背後から上がった笑い声にぎょっとした進ノ介が振り返る。

 

「誰だ……って、剛!お前か!」

 

 すると、いつの間にか来ていた剛が肩を震わせて大爆笑を必死に抑え込んでいる姿が視界に入った。一同が捜査に当たっている一角は立入禁止になっているのに、いつもながら抜け目のない若者だ。

 勝手に現場に入り込み、しかも進ノ介の上司に当たる照井をネタにして笑うなど、もし本人に知れたら叱責ものだ。

 剛は驚く進ノ介を尻目に、にやけ顔を隠そうとする気配もない。

 

「いやー。照井さんがあの仏頂面でピコピコしょって、真面目にやってるとこを思うとさ……」

「おまっ……いくら本人がいないからって、不謹慎だぞ!左さんも、真面目にやる気があるならもっと捜査に集中してくださいよ!」

 

 剛をたしなめるつもりで小走りに近寄った進ノ介は却って慌てさせられる羽目となり、最も手近にいた翔太郎も咄嗟に注意してしまった。

 しかし進ノ介の反射的な行動は、翔太郎に対して何の効果も及ぼしていなかった。帽子の探偵は剛に傍で爆笑されることで、むしろ抑えがきかなくなってきているようなのだ。

 

「そ、そうだよな……あの照井が……」

「変だよなぁ?やっぱ俺、あんたとは気が合いそうだよ」

 

 案の定と言うべきか、自称ハードボイルド探偵は剛の笑い転げる様子に同同調していた。剛ももはや遠慮する様子は見せておらず、二人の若い男は捜査現場に何とも似合わない空気を作っている。

 もう呆れるしかなくなった進ノ介は、恐らくこの場を納められるであろう人物に助けを求めた。

 

「おいミッキー、あいつと仲いいんだろ?お前からも何か言ってくれよ……あれ?」

 

 肝心の未来本人が翔太郎の傍らに控えていないことにそこで気づき、進ノ介は辺りを見回した。

 いつそこへ移動したのか、未来は十数メートルほど離れている被害者が襲われた三叉路に佇んでいた。血痕や遺留品が散らばっていた場所を示す番号札や、集塵機を片手に凍てついたアスファルに這いつくばっている鑑識スタッフたちへ時折視線を巡らせながら、じっと考え込んでいるようだった。

 移動の邪魔になるピコピコを外してから、進ノ介はコート姿の女性捜査官に近づいた。

 

 

「どうかしたのか、ミッキー」

「……ちょっとね。あいつらの動きに、どうも不自然なところがあるように思えてさ」

 

 幼馴染みに話しかけられても、心ここに在らずの未来は低い声で答えつつも視線を動かさない。

 二人が話し出したことに気づいた剛も走り寄ってきていたが、彼は鼻息も荒く未来の独り言に近い言葉に返していた。

 

「不自然?んなの、どうだっていい。ロイミュードは全部、ブチのめすだけだ」

「結果としてそうすればいいのは賛成。なんだけど……」

 

 剛の逸った発言を敢えて否定しない未来は、言いながらも腑に落ちなさそうに言葉尻をぼかしている。彼女の超能力と言っても過言ではない感覚のことを思い出し、進ノ介が緊張を声に出した。

 

「何かあるのか?ロイミュードの動く音がするとか」

「今のところ、私センサーに引っかかるような微細な証拠はないみたい。ただ……」

「ただ、何です?」

 

 皆が一ヶ所に集まっているのを目にして進ノ介から数歩程度後ろまで近寄ってきていた霧子が、感情を感じさせない声で先を促す。

 未来はそこでぐるりと周囲を見渡し、短い沈黙の後に一同へと向き直った。

 

「アルファは、元軍人の殺人鬼をコピーしたロイミュードだって説明したよね。奴はこれまでずっと単独で行動して無差別に人を殺してたんだけど、例の刀で武装してるロイミュードは、襲う相手を選んでたんでしょ?ということは、二人はタイプが全く違うってことなんだよ。それがどうして一緒に行動するようになったのかなって。この現場を見てみて、はっきりとわかったんだ。これまでの犯行とは全く違うって」

 

 仲間たち全員の顔をまんべんなく見ながら、FBIの女性特別捜査官は自らの考えを述べた。そのまま、交わした言葉の密度が最も低い霧子の目を見て話を振る。

 

「刀ロイミュードも、今までとは違う犯行パターンなんだよね?」

「ええ……あの刀ロイミュードは友達がどうとかと、斬りつける前にいつも言っていたようです。だから被害者は複数か、もしくは誰かと別れた直後のタイミングで被害に遭っていることまではわかっています」

「うーん」

 

 突然発言を求められたにしては、うまく答えられた方であろう。が、霧子には未来が何を思い感じているかまでは掴みかねていた。

 状況分析を続けようとしている未来は唸ってまた沈黙したが、すぐに胸の中で燻っている煙を吐き出すべく言った。

 

「お互い、自分と行動の趣旨が全く違う相手をすぐ信用して組むわけもないだろうし。ただ人間を効率良く襲うこととは、また別の目的があるように思えるんだよ」

「けど……言われてみれば、確かにそうだな」

 

 進ノ介も、話を聞くうちに同じモヤモヤを感じ出していた。

 同一のロイミュードが起こす連続した事件では、そもそもの目的や動機が最初ははっきりしていないことが多い。しかし、途中から全く想定されていなかったパターンの事件を起こすことは極めて稀だと言える。「何故」というキーワードは、一連の傷害事件において時間の経過とともに確実に増えてきているのだ。

 

 犯人のロイミュードは何故、被害者を襲う前に「友達」云々と口にしていたのか?

 何故、全く共通点もなさそうな別の個体同士が組んでいるのか?

 被害者たちは何故、襲われなければならなかったのか?

 一同が考えに沈みそうになった時、剛が軽い皮肉を込めた視線を未来へと投げた。

 

「ふん。行動分析はFBIのお得意ってわけか」

「即時の行動が、一番効果的じゃない時もあるからね」

「俺はロイミュードが何を考えてるかなんて、知りたくもねえな」

 

 この場で最も若い男は吐き捨てたが、彼の言ったことはまたしても、気に入らない女が肯定も否定もしたわけではない。面白くなさそうに唇を歪め、剛は未来へもっともな疑問をぶつけた。

 

「じゃあ聞くけどさ、その『別の目的』って何なんだ?」

「さあ?それがわかれば、苦労はしないんだけど」

 

 寒さのため白くなった息とともにしれっと返された拍子抜けする答えに、剛は舌打ちを漏らす。

 

「結局わかんねえのかよ!」

「でも大切なのは、犯人をよく知ることだとは言えるんじゃない?この場合、ロイミュードのコピー元になった人間がどんな人物だったのか、ってことが鍵になってくるんじゃないかな。詩島巡査、貴女が見た刀ロイミュードについての情報は何かない?」

「え、いえ……まだ誰をコピーしているのかがはっきりしないので」

 

 また未来から話を振られた霧子であったが、彼女の持っている情報はもう全て特状課に渡してしまっており、新たに思い出したこともない。

 だがそれは想定内だったようで、未来は軽く頷いてから皆の意思を確かめるかのように一人一人と視線を合わせながら提案した。

 

「なら、今回新しく出た被害者の中に何か共通点がないか、最優先で調べるのがいいかもね。アルファと関係がある人物が被害者の中にいないかどうかは、私が調べるから」

 

 FBIの女性捜査官が示した案に、まずは進ノ介が素直に納得した。

 

「そうか!そこから犯人に共通する情報が拾えれば、コピー元の人物を割り出せる可能性は高い」

「確かに……泊さんの言う通りかも知れません。犯行のパターンが変わったこともありますし、そちらを優先的に当たるのも手ではありますね」

 

 次に霧子が、あくまでバディーの男に対して同調したことを示してから賛成して見せる。

 勢いづいた若き刑事は、早速どう行動するかを頭に描きながら呟いた。

 

「そうすれば次に誰が襲われるかの予想もつくし、未然に犯行を防ぐことにもなるな。勿論、通常の捜査と平行して調べる必要はあるけど」

「そういうことなら、俺に任せてくれ。調査にうってつけの奴がいる。泊刑事、今の時点でわかっている被害者の情報を回してくれるか?」

 

 ここは自分の活躍のしどころだと言わんばかりに口を挟んできたのは、今まで黙らざるを得ずにいた翔太郎だった。ロイミュードのことにも特状課のことにも明るくなかった彼は、ようやく訪れた好機を逃したくないのだろう。

 いつの間にかピコピコを外した探偵は、気取ってすら見える仕種で自分のことを指していた。

 

「えっ……」

 

 この申し出に一瞬詰まってしまったのは進ノ介だ。

 いかにも「かっこつけ」な翔太郎が考えそうなことで、この出しゃばり別に意外ではない。だが、果たして彼に捜査上の重要情報を教えていいものかという咄嗟の迷いが、進ノ介の思考を短時間とはいえ停止させてしまった。

 何より自分が翔太郎を信用していないという事実が、一番強く足を引っ張っているのだ。

 その時ふと、口うるさい相棒の一人の朗々とした声が聞こえた気がした。

 

『チームワークには難しさがあるが、時には仕事として理性で割り切る必要があるのが大人というものだ』

 

 今朝、目の前に立つ半熟男のことをベルトに話した時のこと言葉である。

 客観的な実績を見れば、探偵は信用するに足る人物であることの判断はつく。

 仕事に私情を挟むべきではない、と自身に言い聞かせた進ノ介は必要以上に強く頷いた。

 

「……わかりました。情報は、慎重に扱ってください」

「ああ、わかってる」

 

 対する翔太郎は軽く片手を挙げ、得意気に指を帽子の縁へ滑らせて見せた。

 その気取った仕種が癪に障るのだが、進ノ介を代弁するかのように未来がにやりとして突っ込んだ。

 

「んなこと言って、実際に調べるのはフィリップくんなんじゃない」

「フィリップくんって……昨日いた、髪にクリップつけてる変な髪型の?」

 

 変わった名前を耳にした進ノ介が、昨晩の非公式会議が終わった頃に顔を出してきた人物の姿を思い浮かべた。

 フィリップなる青年は、確か翔太郎がいる鳴海探偵事務所のメンバーで、彼の片腕とも言うべき人物だと紹介されていた。確か整った顔立ちに繊細さが感じられる、どこか謎めいた雰囲気を持っていたことを覚えている。どう見ても外国人には見えなかった彼の名である「フィリップ」は、愛称なのだろう。

 成人はしているようであったが、髪型の他に印象として残っているのは、積極的に他人と関わろうとしない極端な姿勢ぐらいであった。

 

「そうそう。でもあの子、凄いんだよ。何せ……」

 

 未来がフィリップの人となりを進ノ介に説明しようとした時、再び進ノ介の携帯電話が着信を告げて振動した。話を続けようとした幼馴染みへ軽く手を挙げて断り、現八郎からの着信であることを確かめてから彼は通話を始めた。

 

「はい……何ですって?……はい、はい……わかりました。すぐ向かいます」

 

 通話自体は十数秒で終わったが、進ノ介の顔と声に緊張が走ったのは一目ででわかるほどだった。

 すっかり進ノ介の空気を変えた一報が気安いものでないことを察し、未来も声を低くしてくる。

 

「どうかしたの?」

「ロイミュードにまた人が襲われたらしい。この現場からは近いようだから、俺が行く。霧子、未来も。後は任せていいか」

 

 現八郎から直接指示されたのであろう。

 進ノ介は自身と関わりの深い二人の警察仲間である女性の顔を、交互に見やって言った。

 

「了解」

「気をつけてくださいね」

 

 未来と霧子がしっかりと頷いたのを確認してから、進ノ介がコートの前をかき合わせながら走り出す。

 --同じ日に、こうまで事件が頻発するなんて!

 最早警察と仮面ライダーへの挑戦と言っていいくらいの連続ぶりに、進ノ介は悔しさを滲ませて歯噛みした。無抵抗の市民を、それも強力な殺傷力を持つ武器で無差別に傷つけるなど、許し難い犯罪なのだ。

 早く現場へ辿り着かねば、という焦りが若き刑事の走る速さを必要以上に加速させる。

 

「まだ敵は近くにいるかも知れねえ。油断するなよ」

 

 熱い怒りと正義感で突き動かされて駆け抜けていく進ノ介の背へ、翔太郎が忠告とも取れる一言を投げ掛ける。

 

「言われなくてもわかってますよ!」

 

 修羅場をくぐってきた先輩としての言葉だったのだろうが、生憎と今の進ノ介には響かない。

 彼はトレードマークの帽子を被り直している探偵を一度も振り返らずに、警察車両の群れへと全力疾走していった。


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