変更 2017.5.9
のちのネタを少し変更し、グランの入学を取り消しました。こっちの方がネタがうまくいったので。
風紀委員会と変態三人組
「では、風紀委員会会長から新入生に一言あります! どうぞ」
晴天となった空にわずかに雲が浮かんでいる。学校内に何本か植えられている桜の花びらが散り落ちて、桜色の道を作っている。ここは駒王学園、今は入学式の真っ只中だ。今は学園の代表者たちが挨拶している場面である。校長、教頭、そして生徒会長と続き、最後の風紀委員会会長が挨拶をしようとしている。
「新入生の皆さん。私は風紀委員会会長の二年生、杵槌 日向雅と言います。私は生徒会長と違い、三年生ではありません。ですがだからといって、手を抜くなんてことはいたしません」
机の上のマイクに向かって話す。体育館に響き、緊張感を醸し出す。
「先輩である三年生の皆さん、後輩である一年生の皆さん。私は風紀委員会会長として貪欲に動きます。間違えたこともするでしょう、腹が立つような真似もするでしょう、馬鹿なこともするでしょう。しかし、風紀委員会は間違えたことは行わないとして行動します。抵抗は認めません」
暴論を吐いたことにわずかに騒めく生徒たち。
「しかしッ!! 異論は認めます! 言葉でそれを語ってください! 全てを暴力で解決などしません! 私たちに求められている人物というのを考え、それを皆で高め合っていきましょう! 以上、風紀委員会会長 杵槌 日向雅でした」
ピッシリと教科書に書いたような礼をして、ステージを降りていく。そして、少しづつ拍手が起こり、最終的には数十秒拍手が続く。
◯
駒王学園には生徒会室が本校舎の3階にあり、風紀委員会室が2階にある。それぞれの部屋に大きな違いはなく、そこに務める生徒の置くものなどによって変わる。風紀委員会室の場合、そこまで変わっていないが、強いて言うなら、和風になっている。皿やコップなどは陶器が使われていた。今そこにいるのは、入り口に対するように存在する一番大きな机に面している豪華な椅子に座っている黒髪の少年、杵槌 日向雅。その隣で幾つかのプリントを持つ、桃色の髪を腰あたりまで伸ばし、耳の上に髪の毛をまとめるためのシニョンキャップを付けている、まさにできる女と言わんばかりの雰囲気がある茨木 夏箋。
「日向雅、今日は服装確認に問題があるものは5名。全員、注意完了したわ」
「服装注意者は減ってきたな。いいことだ」
「私たちに対する不満は少ないわ。あるとすれば大方一つよ」
「元浜、松田、兵藤の問題児か。何回注意しても、罰を課しても、やめる気配がない。むしろ、ある意味尊敬できるぞ」
二年生の変態三人組で今や町でさえその名前を知る人は多い。毎度のごとく、風紀委員たちによる注意をしているのだが、一向に辞める気配がない。何度か罰則を行わせたりしたのだが、効き目がなかった。
「その問題児の一人が厄介ごとに巻き込まれたっぽいぜ」
風紀委員会室の扉を開けて現れたのは、五人いる風紀委員のうち唯一、問題児三人組と同じクラスの矢武颯也だった。
「と、いうと?」
「堕天使の一人と接触していた上に、悪魔になってやがった。あいつから神器の気配がしてたし、殺されたのをおそらくグレモリーが転生させたんじゃないのか? あと、堕天使彼女のことについては知らないふりをしておいたぜ」
会長席の前にある、ソファに乱暴に座り込んで日向雅を見る。指示を待っている様子だ。
「俺たちは依頼をこなす。ただそれだけだ。今の依頼は覚えているな?」
「問題行動を起こした異種族をしょっ引くんだろ? なんでまた響さんはこんな依頼を俺たちにしたのかねぇ。『学校に通ってこい。ついでになんかしてるやつはしめちまえ』ってさ」
そう、日向雅を含めた夏箋、凱太郎、骸、颯也は響の指示で去年からこの駒王学園に入学した。響自身は満面の笑みだったので、全員が何かあるとは思っているのだが。ただ、グランのみはそれを辞退した。それは彼の境遇もあるのだが、彼の学力は高校の内容などすべて頭に入っているし、本人が自由に動ける人材がいた方がいいと提案したことで、入学はグランのみがしなかった。
「向こうが何もしない、なんて訳ないわよ。グランによれば、近々聖女って呼ばれてた子がくるみたいよ。その堕天使の住処にね」
「一悶着ありそうだぜ」
だるそうに目を細めて天井を見上げる颯也を横目に日向雅はたちあがり、一冊のファイルを持って外に出ようとする。
「どこへ?」
「先生への報告書の提出だ。やることはやったから、先に帰っていいぞ」
風紀委員会室から、教員室までは結構距離がある。階段を上がり、そのフロアの端から端へ移動する程度ではあるのだが、今日が金曜日であることも合わさって、少しだるかった。
「鈍ってきたか……?」
肩を回しながら、前に歩く。鍛錬は怠っていないはずだ。
「あなたがその程度で鈍っていしまったら、私たちはお手上げですよ」
凛とした声。曲がり角から現れたのは、眼鏡をかけた黒髪の女生徒。駒王学園生徒会長の支取蒼奈だった。
「ソーナか。まだいたのか?」
「生徒会長なので仕方ありませんよ。まぁ、風紀委員会があってくれてだいぶ助かっていますが」
他愛のない会話をすると、
「おい、杵槌! お前、二年生なのに先輩である会長を呼び捨てすんなよ!」
そういって現れたのは男子生徒。茶髪で背が高く、活発そうなイメージだった。名前は確か、
「匙元士郎、だったか。新しく生徒会に入ったと来たな」
「そうだ! っつーか、話聞いてんの……」
「やめなさい、匙」
「でも、会長!?」
「私から呼んでもらえるように頼んだんです。彼に悪いところなんてありませんよ」
「んなっ……」
どうやら彼は俺がソーナと仲がいいことが許せないのか、敵対しているような目を向ける。だが、いくつもの場数を踏んだ俺からすれば、子供の癇癪しか見えなかった。
「まぁいい。がんばれよ、匙とやら。ソーナは厳しいからな」
「あなたほどではありません」
手を挙げて挨拶をしながら、職員室に向かう。実力が相当に上がっていたし、向こうの場で会うのが楽しみだ。
〇
あたりはすっかりと暗くなり、月明かりと街灯が路地を照らす。街灯が一瞬暗くなったかと思うと、そこには六人の男女がいた。全員が制服を着こんだ学生だが、雰囲気が普通とは違った。
「それで、部長。はぐれ悪魔っていう悪魔を裏切ったやつを倒しに行くんですよね?」
「そうよ、イッセー。さっき説明したでしょ」
「いや~、なんていうか、場所がこんなに近いとは思ってなくて……」
いま、彼らがいるのは町の端にあるような廃工場の前である。彼の想像ではもっと違う場所が浮かんでいたのだろう。
「あはは、イッセーくんはファンタジー的な場所を想像してたのかい?」
「うっせ、悪いかよ、木場」
「あらあら、いましたわよ、リアス」
黒髪の女性は一瞬で巫女服に着替え、手に電流を走らせる。入口から中を見ると、中にいるのは人のサイズを明らかに超えた怪物だった。だが、様子がおかしい。
「……こぉのわ、わたしがぁ……こんな小僧にぃ……!」
全身が血だらけになった上の一部が女性、下がムカデのような怪物は地面に横たわる。
「抵抗はお勧めしないって、何度も忠告したと思うんですけど……」
その怪物の上にいたのは銀髪の髪を腰まで伸ばした、赤い目をした青年と少年のちょうど中間的な性別のイメージを持った男だった。彼はこちらに気づくと、飛び降りて一礼をする。
「これはこれは、リアス・グレモリー殿。この町の管理者様」
「……あなたは誰なのかしら」
「はじめまして、私は妖焔山に所属する妖怪の一人、『紅血鬼』の文字を与えられているものです」
妖焔山の文字所持者、それも三文字だったことに驚きを隠せないリアスたち。
「な、なぁ。妖焔山ってなんだ?」
数日前に悪魔になったばかりの一誠だけは状況を理解できていなかった。
「簡単に表すなら、あらゆる勢力に対しての傭兵団みたいなものです。そのなかでも優れた人には二つ名として漢字が与えられるんです。その中でも三文字というのは一般の依頼を受ける中ではトップクラスの実力を持つんです。私たち個人では勝負になりません」
「いぃ!? まじなのかよ、小猫ちゃん!?」
白髪の女の子の説明を聞いて驚きに表情を隠せない。そんな様子を見て、『紅血鬼』はくすくすと笑った。
「私たちは依頼をされてここにいます。あなた方の迷惑になるようなことはありませんので、どうかご安心を」
「その依頼は誰からされて、どんな内容なのか。私たちも知る権利があるのではなくて?」
悩むようなそぶりを見せた後、懐から一枚の紙を取り出す。それをわかりやすいように両手で伸ばして、見せた。
「ここで依頼を受けたという証明書です。これがあれば、あなたたち悪魔でも文句は言えないと思いますよ? 依頼に関しては個人情報に近いので、お話はできませんのでご了承をば」
この行為に関して、リアスは黙らざるを得なかった。その契約書にあった印は確かに悪魔のものだったからだ。そして、彼は一例をした後、蝙蝠状の翼をはやして、飛んでいった。
「今回は仕方ないわね。このことはお兄様に報告しておきましょう。みんな帰るわよ」
「了解です、部長!」
一誠が元気な声を上げる。それに続き、祐斗、朱乃は外に出るが、小猫だけがその場に残り、『紅血鬼』が飛び去った後を見上げている。
「小猫?」
「…………なんでもありません」
リアスが言葉をかけると、何も変わらない様子で外に出てきた。何もないだろうと、彼女は魔方陣を起動させる。
「あの、飛び方。まさか……」
その声は魔方陣で移動する音に消えた。
〇
翌日、搭城小猫は昨夜見た、男の飛び方を忘れられなかった。普通に飛んでいると誰もが思うはずなのに、その姿がかつて見た仮面の人物の飛び方に重なったように見えた。だが、『紅血鬼』と呼ばれた男と仮面をつけた人物とでは身長や声も違う。共通点は男であるであろうことと飛び方、そして血という単語だった。これは偶然なのかと、考えにふけっていたその時だった。
「おうおう、マスコットキャラたるあんたがそんな顔して考え事してちゃ、変な噂ばらまかれるぞ? げげげげ」
後ろから聞こえる、声の低い笑い声。このクラスになってから、係りや席などでやけに関わり合いがあった男のものだった。
「……今考え事してるんです。話しかけないでください、骸くん」
「おお、怖い怖い。触らぬ神に祟りなしってな。かかかかっ」
まだ昼食の時間でもないのに、パンの袋を開けてかぶりつく。このクラスの中でも病弱そうに見える外見と体格をしているくせに、やけに丈夫なこの男はやけに私に絡んでくる。ふんいきからただ、からかっているだけだとわかった時から放っておいたが、今は気分が悪かった。
「……今日は午前中の授業だけなのに、なんで昼食持ってきてるんですか?」
「ん? 腹が減っては戦はできぬっていうだろ?」
変な論理を聞いて、考える気をなくしてしまった。次の授業が終わったら、さっさと部室に行こうと思った。
「…………動くのは明日か? だとしたら昼飯いらなかったか。しゃーねー、残りは明日にとっとくか」
最後に発したその言葉が少し気になったが、放っておくことにした。
〇
「たっだいま~。いわれたもんかって来たぞ」
「うむ、お帰りだ」
古びた一軒家。そこで八畳ほどのリビングの真ん中でぐつぐつと煮える鍋があった。そのテーブルの一角に座っているのが凱太郎だった。
「肉がないってどうゆうことなんだよ」
「悪いか。家にあると思って買ってこなかったんだよ」
颯也が切られた野菜が入ったバットを両手に抱えて持ってきた。
「まず、骸が結構肉を食べるのに疑問を抱いてるわよ、私は」
コップとお茶を両手に持ちながら現れた夏箋が机の周りにそれぞれのコップを置く。
「いいじゃねえか。骨でも腹は減るんだよ」
「食っても腹にたまらないんじゃないのかよ」
颯也が骸の買ってきた肉と野菜を煮え切っただしの中に放り込む。菜箸で中を混ぜながら、残り二人の到着を待つ。
「悪い、遅れた」
「結構時間食っちゃった」
十分ぐらいたつと、日向雅とグランが到着した。
「遅いぞ~。腹減ったぜ~」
「骸はさっきからそればかりだな。骨なのにな」
「うっせーよー」
全員が席に座り、鍋をつつき始める。普段から晩は全員で食べるようにしている。そっちのほうが食費が浮くからではない。断じてない。
「それでさ、地中にいる俺の一部からの連絡としては、明日には動きそうだぜぇ」
「僕の血たちも少なくとも明日までには動くって判断してる」
日向雅は肉と白菜をほおばり、咀嚼し飲み込んだ後、箸をおく。
「明日は全員すぐに動けるようにしておけ。幸いにも授業は午前中に終わる。監視は二人とも続けろ。相手が動いたら、グランは先に動け」
「「「「了解」」」」
全員が指示を聞き、納得をした。グランが今日の街の様子を報告していると、日向雅はグランに尋ねた。
「グレモリーに接触したそうだな」
「はぐれがちょうど人を襲ってて、助けない選択肢はなかったんだ。派手なことはしないつもりだったんだけど……」
「それに関してはいい。塔城小猫ばれなかったか?」
「うん、体は変えてる。でも、いくつか共通点があるし、ばれるかばれないかは時間の問題」
考えるそぶりを見せる日向雅とグラン。二人で響に報告するということで納得した。
「お前はグレモリーの眷属の一人に目的があるんだからな。それは理解しておけよ」
「もちろん。僕がそれを一番わかってる」
静かに夜が更けてゆく。彼らの物語が動き出す、その瞬間だった。
ようやっと原作です。ケツアゴさんのキャラは聖剣編まで出ないので、先に謝っておきます。すいません。