拒絶の血、光抜の速鬼   作:鏡狼 嵐星

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私のこと覚えてます?
失踪とかしませんよ?
というわけでお久しぶりです。書く気が起きずグダグダしているうちにめっさ遅くなりました。

変更点としていくつか。
原作のアニメを見ると、聖剣計画の処分の時に人がいっぱい来てたと思うんですが、それを閉め切った室内に毒ガスを巻いたということにしています。あと、夜だと思うのですが、夕方まで戻しています。

その他質問等、遠慮なく書いてください。それを返しているだけでもやる気おきます。


聖剣計画と文字昇格試験

妖焔山に入ることはいたって単純だ。個人名、妖怪としての名前、年齢を書けば働くことができる。かといっても、この妖焔山という組織は何も妖怪だけを受け入れるわけではなく、悪魔、天使、人間問わずここで働くことができる。仕事など細かい点ではだいぶ違うが、差別は一切していない。それぞれの勢力ではぐれてしまったもの、はぐれ認定されたものなどが来ることが多い。はぐれの場合はその人物が属していた勢力と相談し、ここに入れるかどうかを決める。よっぽどな犯罪者でない限りはここに入ることができる。これは創立者の一人、紅黒零狼王が提案した案をできる限り実現したものになっている。

 

今、その妖焔山に入りたいと志望した志願者たちが本部の庭に集められている。実を言うと、ここにいる人物は極端に多いわけではない。妖焔山は二つ文字になるまでは自由に依頼を受けていく、いわゆるクエスト形式になる。ここの依頼は比較的軽いものが多い。対して、二文字や三文字持ちになると個人へ指定して依頼するようになる。ただし、よほどの実力者でない限り文字すら持てないので、強くなりたいなどの気持ちがない限りはここへくることが多くない。妖焔山の管理下にある土地にいれば、安全は保障される。なので入ることは自由だが、実際は強者だけがここに入る。

 

「おお、今回は少し多めやなぁ。最近は地方の分社へ心願するもんが多くて、本部への志願者が少なくて困っとたんやけど、こんだけおれば問題あらへんなぁ」

 

妖焔山の本社である、和風の城の中から出てきた巨大な鴉の翼をもつ艶美な女性。それは常時この妖煙山に在住し、数えたら両手で足りる数少ない四文字持ち、『災颪天魔(わざわいおろし てんま)灰神流(かいかんな) 天奈(あまな)だ。

 

「わざわざなんか言うこともあらへんのやけど、文字持ち目指して頑張ってや~」

 

手をひらひらと振る。文字を与える権利を持つのは柴死雲外鏡ただ一人なのだが、基本その任命権を鬼子母神である母様に委任している。ある程度仕事をこなし、実力を認められれば、文字持ちとして認められるかどうかの試験を受けられるようになる。それを達成した時点で文字持ちになる権利が与えられる。

 

「文字持ちになれば、受ける依頼も報酬も優遇される。何よりも単純な仕組みだよね」

 

「グランか、いつからいたんだ?」

 

「日向雅の近くに来たのは今だよ。さっきまでここにいる人の顔を見ていたんだ」

 

隣に来たのは銀髪の吸血鬼であるグランだ。だが、今は両翼がある状態(・・・・・・・)になっている。グラン自身は片方の翼がないのだが、自らの血を操る魔法で翼を形作っている。それを利用し、自分の体型も変えることができる。そのうえ、ほかの種族の血をまとうことで、日の下で動くこともできる。

 

「あ、そうや、いうの忘れとった。杵槌 日向雅、グラン・スカーレット、無梢戯(むしょうぎ) (むくろ)の三名は文字持ちへの昇格試験を受けるように響から言われとる。早めに千秋のところへ行きなぁよ」

 

周りがざわめく。それはそうだ。組織に入った時点で文字持ちへなるということはそうそうないことだし、一人でも珍しいのに三人いる。俺が一番気になったのはグランのほかに呼ばれたもう一つの名、無梢戯 骸のことだった。

 

「ケッケッケ、俺をお探しかい?」

 

「「!!」」

 

グラン、そして俺の真後ろにいたのは小学生ほどの身長の細めの男だった。グランのような銀髪というよりは、老人の白髪を思わせる髪。全体的に細いため、押してしまえば倒れてしまいそうな雰囲気だった。腕もまるで幽霊のように、両手を前に出しながら力の入っていなさそうな両手を揺らす。

 

「そんな怖い顔すんなよ、同期になるわけだしなぁ、ケラケラケラ」

 

骸という名のように骸骨が揺れるように笑う。妖怪であるがゆえに不気味だと思わせるほど強いのは確かだ。

 

「……そうらしいな、よろしく、骸」

 

「あぁ、よろしくだぜぇ、長い付き合いになりそうだよなぁ、日向雅とグランだっけかぁ?」

 

「あ、う、うん。よろしくね、骸」

 

軽く握手を交わす。本当に力を入れてしまえば、折れてしまいそうだった。だが、妖怪の人型は最も恐れられている姿に近くなる。だから、この姿が一番強いのだろう。

 

「ケケッ、そろそろ行こうぜ。鬼子母神様を待たせるわけにゃいかんだろ?」

 

「そうだな」

 

「あっ、まってよ~」

 

本部の中へと入る。目指すは最上階にある母様、鬼子母神の部屋だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、俺はこっちらしいなぁ」

 

最上階へと上がる階段を抜けた先、そこには二つの通路があって、その片方にある看板に骸の名前が書いてあった。

 

「別れるのか?」

 

「らしいぜ。つーわけでまたなぁ」

 

「頑張ってね」

 

「おめーらもなぁ」

 

ふらふらと看板を超えて、通路の先へと行く。

 

「母様の部屋は逆なんだけどなんでだろう?」

 

「さぁな。響さんの差し金じゃないのか?」

 

そんなことを話しているうちに母様の部屋の前についた。ノックをして中に入る。

 

「失礼します。杵槌 日向雅参りました」

 

「同じく、グラン参りました」

 

頭を下げながら、部屋の中に入ると、

 

「はふぅ~、ししょぉ~」

 

「猫みたいだぞ、お前。……ん? きたか」

 

胡坐をかいている響さんに対して、抱き着きながら撫でられている母様がいた。

 

「ひゅ、日向雅!? グランまで!? あぁっと……」

 

身だしなみを治すが、いつも皆の前にいる雰囲気などかけらもない。

 

「今更遅いぞ、千秋」

 

「ひゃわっ!?」

 

響さんが母様の頭をつかみ、自分の膝へ戻す。ついでに撫で始めたので母様の顔がまた緩み始める。

 

「さて、お前らを呼んだのは、文字持ちに昇格のための俺からの依頼の説明のためだ。あと、結果次第では二文字も考えてやる」

 

文字を与えることができる権利を持つ響の依頼をクリアすることは、いわゆる文字持ちになれる唯一の方法なのだ。が、彼が大分気分屋であるせいで、依頼を出す時も完全に気が向いたらというなんとも適当なのである。故に文字持ち昇格の依頼を受けさせてくれるこの状況は千載一遇のチャンス、それも飛び級ならなおさらだ。

 

「そんな簡単にいいんですか?」

 

「日向雅の言いたいことはわかるが、お前らの実力は四文字持ちの地方のリーダーたちも認めてる。それに、ある意味お前らは爆薬だ。十数年しか生きてないお前らが文字、しかも二文字になってみろ。気が緩み始めてる他の奴らに対しての激励に近いこともできる。俺は別にお前らを三文字にしてもいいと思うんだが、さすがにそこまでしちまうと、贔屓されてるって思われかねねぇからなぁ」

 

さらさらと理由を述べる。この人のすごいところはどんな滑稽なことでも真っ当な理由で言いくるめてくる技能だ。こんなのはあくまで一片にしか過ぎないが、これだけでも初見のやつからすれば、腰を抜かすかもしれない。

 

「それで、依頼の内容はなんなんです?」

 

「簡単に言えば、ある計画の阻害または破壊かな? ミカエルからもらっていた資料から考えた、俺の考えが間違っていなければ、このあたりにいるはずだ」

 

そう言って資料を投げ渡してくる。そこは今の時期ならば豪雪地帯である場所の山奥のことが書かれていた。

 

「こんなところに?」

 

「その計画はほぼ終わりかけ(・・・・・)だろうけどな」

 

「それでは行く意味が無い、なんてわけ無いでしょうから、それを実行している人物を捕まえてこいってことですか?」

 

「自由にすればいいんだよ。グラン、お前は読みすぎだ。そこまでしたいならすれば良いんだが、お前らがしたくてできることをやれば良い。それが試験なんだからな」

 

日向雅とグランは顔を見合わせる。満面の笑みを浮かべた響は指ぱっちんの用意をして二人に言う。

 

「制限はいまから半日、お前らから見て逢魔が刻までだ。んじゃ、いってこい」

 

ぱちんと音が響くと、二人の足元に鏡が現れ、姿が搔き消える。

 

「あとはお前に任せたぜ?」

 

後ろの襖の奥にいるであろう人物に声をかけて、響は千秋の頭を撫でながら茶を飲んだ。

 

 

 

 

 

「おっと」

 

慣れたように雪の上に降り立つ。響さんの移動は基本、鏡による瞬間移動なので、これが普通なのだ。

 

「日向雅、すごいね。僕、まだ慣れないよ」

 

まだ慣れていないのか、グランは雪の上に尻餅をついている。雪を払いなが立ち上がるのを見ながら、周囲の確認をする。基本、木しかなく、雪がはらはらと降っている。風はほとんど無いし、そこまで降っていないので視界の邪魔にはならなさそうだ。

 

「逢魔が刻、日が沈んだらその時点で時間切れか。グラン、その研究所を探せるか?」

 

「もうやってる。ただ時間はかかるけどね」

 

手を地面につけ、指先から血が出て、地面の上を走り、蜘蛛の巣状に広がっていく。

 

「どれくらいだ?」

 

「範囲次第だけど、資料から見れば五、六時間は行くと思う。この近くに街は無いはずだがら建物があり次第中も調べる」

 

「了解した。少し体をここに慣らすが良いか?」

 

「構わないよ」

 

俺の加速は魔力によるものだが、魔力だけによる放出(ブースト)ではなく、魔力による全身の強化(パワーアップ)なので、加速するのなら、走る必要がある。雪の上だから、地面の上よりも加速度が減るので、そこに慣れておく必要があった。体を動かすと違和感はなく、普通よりも加速度は低いものの、いつも通りだった。

 

「どうだ、グラン」

 

「今のところ建物は3つあったけど、全部廃墟だよ。地下もなかった」

 

その時、わずかに視線を感じ、後ろを振り返った。が、近くに人影らしきものも動物もいない。

 

「気のせいか……?」

 

「ん? 日向雅、ここの辺りは平坦なはずだよね?」

 

「そのはずだ」

 

響さんから渡された資料から、ここら辺り一帯はほぼ平坦、山も無い。

 

「ならなんで……? いや、もしそうなら……」

 

「何を見つけた?」

 

「洞窟だよ。無いはずの崖にあったんだけど、どうにもきな臭い」

 

「そこが何かしら関わりがありそうだな、グラン、行くぞ、纏え(・・)

 

その言葉に反応したグランの体がどんどんと紅く染まり、真紅になる。そして液体状になったかと思うと、俺の体にまとわりつく。全身を覆うローブのような状態に変わり、普通の服と変わらないようにも見える。

 

「……全血(トゥーサング)

 

「方向は?」

 

「南南東、64マイル」

 

聞くや否や、その方向へと体を向け、一気にスピードを上げる。

 

俺がスピードを出せるのは、魔力の質以外にも体格にもある。普通の鬼の男性の場合、しっかりと筋肉がついた、言い換えればムキムキな人が多い。もちろん、俺のような例外も存在し、細い人物がいないわけでは無い。スピードを出しても問題無いように俺の体は細くしなやかだ。ただ、加速度が異常に高い俺の魔力の場合、少しでも体型が変わると、それが大幅に変わる。故に大きな荷物などを持ちながらなどの場合は、うまく動けないことも多々ある。今回の場合、グランは日向雅の移動速度に追いつけないことも踏まえ、彼自身が血となり、服のように形を変えて、ひっつくというのが一番いい方法だと考えたのだ。

 

「日向雅、中に侵入を成功、どうやらカモフラージュ的なものみたいだったから、想像異常に楽だったよ」

 

「様子は?」

 

「中には建物が1棟。……ビンゴ! 実験体と思える、少年少女を十二人確認。毒ガスがまかれてる上に全員弱ってる!」

 

「響さんのまさに言葉通りだな、くそっ」

 

「全員に僕の血を仕込んだから、少しは持つよ!」

 

一分もしないうちに無いはずの崖が見える。外見的にはそり立っていて普通ならとても登れそうに無い。

 

「問題無いからそのまま飛び込んで!」

 

「応!」

 

自分の体をシャボンのようなものが覆い、割れるような感覚。一瞬で景色が変わり、崖がなかったように移動できる。結界らしきそれを通った瞬間、教会に似せた建物が見える。

 

「あれか!」

 

「入ってすぐ!」

 

扉を、腰にさせていた金棒で叩き割り、中に入る。紫色の薄い霧が充満し、十人程の子供が倒れていた。争ったような跡さえある。

 

「日向雅、口と鼻を僕の血で覆うから、全員を外に連れ出して!」

 

自分の口と鼻が血で覆われるのを確認する前に飛び出す。一気に全員を運び出すのは不可能。二人ずつ数秒で外に運び出す。全員を運びきるとグランが血液上のまま、彼らのうえに覆いかぶさる。

 

「体内の毒素を抜くのに少し時間がかかりそうだから、周りの警戒をお願い」

 

グランの二割ほどが俺にくっつき、顔を覆う。そして俺は空へと跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げた。生きると約束しあったみんなを置いて。

 

僕はもう動かない足を引きずり、木々にもたれかかりながら必死に進んだ。むき出しの足はもう真っ赤で感覚なんて無い。頭もフラフラする。

 

その時、何故かはわからない。衝動に任せて、後ろを振り返った。

 

 

 

紅く光る人影が夕日に重なった。

 

 

 

目がくらみ、目を閉じて開けた時にはもう空には何もなかった。

 

「あっ」

 

それに気にしていると、何かにつまづいて前に倒れた。痛くは無い。ただ雪の寒さが体にしみていく。

 

(あれはなんだったんだろう……)

 

倒れてからもそれについて考えていた。

 

(みんなの魂……?)

 

勝手にそう結論づけた。そう思うとみんなの思いが蘇り、

 

「まだ死ねない……!」

 

感覚の無い手で雪をつかみながら、体を起こそうとする。

 

「みんなの無念を晴らすまで……!」

 

しかし、起き上がれない。諦められないのに諦めざるをえないこの状況に歯嚙みしかできなかった。

 

「どうせ死ぬなら私が拾ってあげる。私のために生きなさい」

 

最後に目の端にまた紅い何かが見えたのが最後に気を失った。




「俺の文字昇格試験は監視かよ。あんたも中々エグい依頼してくんなぁ、ケラケラケラ」

「どうだったよ、いいやつらだろ? 俺と違ってさ」

「若いぜぇ、まったくよぉ。まぁ、面白そうだし、あいつらにこれからも絡むさぁ、げっげっげっ」

試験後の夜、こんな声が響の部屋から聞こえたそうだ。

追記
文字についてなのですが、誰に与えるか、その数、試験を行うのが響で、「鬼子母神」などの文字の種類を考えるのが千秋の役目となってます。

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