拒絶の血、光抜の速鬼   作:鏡狼 嵐星

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書き直しまくり、早く10回ほど。
やっと納得がいったのであげます。


朱き少年と白き龍

「ふぅ……」

 

広々と広がる和室の一室で、鬼の少女が一本の筆を硯へと置く。彼女の隣にはいくつもの巻物があり、数時間それに費やしたことがうかがえる。

 

「相変わらず、真面目やなぁ。さぼることも覚えなぁよ」

 

女性とは思えないぐらいに着物を着崩しながら寝っ転がり、キセルを吹かす。灰色の髪は地面に扇状に広がり、口から出た煙は円を描く。

 

「はぁ、天奈。仮にもこの第四勢力 妖焔山のトップを担っているんですから、そういう発言は控えてください」

 

天奈と呼ばれた女性はキセルを片手に持ちながら、かんらかんらと笑う。

 

「そんなに気を詰めとったら、いつか倒れるで。あんたのお師匠様みたいなことはでけへんよ。あの両極端な二人やったからこそ成り立っとたんや」

 

妖焔山の創始者である二人組。そのうちの一人が現在、妖焔山のみならず、世界でも指折りの強者である千秋の師匠であるのだ。

 

「……はい、そうですね」

 

「せやから少しは誰かに甘えなぁよ。あてでもええ。あんたの子供らでもええ。あんたが一番甘えたいであろうあいつは今ここにおらんからな」

 

千秋は立ち上がると、部屋を出て行った。その顔が少しほころんでいるのを天奈は確かに見た。

 

「はぁ、相変わらず真面目すぎて硬いわ。あてじゃなかったんは少し残念やけどなぁ」

 

一人になった天奈はキセルを加えて、座ったまま何もないはずの後ろを振り向いて、ため息をついた。

 

「女の会話を覗くなんて、いい趣味とは言えへんで。アザゼル」

 

何もなかったはずの虚空から、ゆがみが生じ、和服姿の金髪と黒髪の初老の男性が現れる。その男性は背中に十二枚の翼をもっており、その天使のような黒い翼から堕天使であることがうかがえた。

 

「来た時にシリアスな話をしてたから入るには入れなかっただけだっつーの。まったく」

 

天奈の前に腰かけて、葉巻を口にくわえてジッポーで火をつける。数分の間、二人とも自分のくわえているものを楽しんでいるのか、はたまた会話がないのか音はたばこの煙を吐き出す音だけだった。

 

「んで、あんたが用もなしにうちにはこやへんやろ? 依頼か?」

 

「依頼っちゃ、依頼だな。サーゼクスやミカエルにお前らから伝えてほしいことがあるんだよ」

 

天奈はその内容の重要さに目を細めた。いまだに敵対しあっている第三勢力は、互いに情報を回すことがそれぞれの力だけでは厳しい。よって、その仲介役を頼まれているのが妖焔山なのである。

 

「あんさんが依頼するんや。よっぽど重要ってことやな?」

 

過去、このアザゼルが情報の依頼をしてきたことは一度しかないのだ。そのときもとてつもないほどの重要な情報だったのを思い出す。

 

「あぁ、……『概念所持者』が一人見つかった」

 

「っ!? なんやて?」

 

概念所持者。それはかつての大戦で死した巨大な力を持つ者たちの力だけが生き残り、現代の何者かに宿ったもの。ここで概念所持者の厄介な点はその個人が持っている才能と能力、|神器≪セイクリット・ギア≫の上に追加されるということ。そして、その力自体は意志を持つかの如く、強者にしか宿らないのだ。

 

「ある意味では天災の始まりだな。しかもそいつは魔王、『|暴食≪ベルゼブブ≫』だったそうだ。これが意味するのは四大魔王の概念所持者もいるってこと。悪くいけば、|番外≪エクストラ≫までもが出てくる可能性がある」

 

「そいつの特徴は?」

 

「金髪の小さい女だったそうだ。悪魔らしいんだが、うちの幹部の光の槍を受けても平気な顔をしてたらしいから普通じゃないんだろうな。不思議な魔法も扱う、そんな奴だったと報告されたんだ」

 

悪魔なのに光が効かない。本当ならそれだけで異端認定されてもおかしくないのだが、それに魔王の概念まで持っているのならSSS級並みの危険人物である。

 

「わかった。あてらの使えるもん使って、報告でできるもんは報告しとく」

 

「サンキューな」

 

安心したのか、大きく息を吐くアザゼルに苦笑いしながら、指を振る。空に浮かんだ酒瓶と杯が二枚飛んでくる。

 

「飲むか?」

 

「おお? 景気がいいなぁ。いただくぜ」

 

豪快に杯に注ぎ入れ、二人で一気飲み。飲み終わり、思いっきり息を吐いた後に天奈は気づいたことがあった。

 

「そういや、あんたのお気に入りの白龍皇はどこや?」

 

「あぁ、あいつか? ここのやつで強い奴とやってくるそうだ。被害額はうちに請求しといてくれればいいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖焔山中腹。木が低く、葉が多いため、それを押しのけないと前に進めない。普段そんな場所へ向かうことはないが、そんな場所へ向かう人物は物好きか人嫌いか。

 

「はぁ~、うっとうしい。こんなところに強い奴なんているのか? アルビオン」

 

『いるはずだろうな。おまえ自身も感じているだろう? 殺気ではないが気迫を、な』

 

銀髪の子供が、虚空から聞こえる声と会話しながら木々の間を抜けてきている。一見すればシュールだが、この子が白龍帝ならば話は別だろう。

 

「ん? なんだこれ?」

 

しばらく歩いていると、空中に赤い球がいくつも浮いているのが見えてきた。いつの球が飛んできたので、その子供はそれに触れようとするが、

 

『ッ!! ヴァーリ、それに触れるなっ!!』

 

その声に反応して、後ろに大きく飛ぶが、赤い球は大量の矢じり上の刃物へと変わり、周りにまき散らす。少し掠ったもののほぼ無傷で地面に降り立ち、周りを警戒する。

 

「爆発する魔力玉か? ……いや、これは」

 

『これは血だな。噂になった妖焔山の鬼の四天王の一人《血鬼》が近くにいるということだな』

 

「珍しいな。白龍皇であるお前が一匹の妖怪を覚えているなんてな」

 

『失礼な。強いものの名前は覚えるぞ、俺は』

 

いくつかの球はこちらに飛んでくるが、難なく避ける。奥を見ると、かなり大量に浮かんでいる。間はあるものの、無数に浮かんでいるせいでよけるのは至難に見える。

 

「くくく、いいなぁ。燃えるな」

 

空気中に浮くかのように滑らかに動くことで玉の間をするすると抜けていく。しばらく行くと、岩の上で両手を前に出し、指を細やかに少しずつずらしながら玉を操作している人物がいた。

 

『ほう、あの少年が血鬼なのか。つまりこの玉は血か』

 

「らしいね。銀髪の子供。見た目も合うし、何よりも実力がありそうだ」

 

ヴァーリは手に魔力の玉を作り、玉の間を通りながら岩の上の少年に一直線で飛んでいく。彼に着弾するかというその瞬間に、彼の服の中から出現した血が彼を守るように覆い、魔力の玉を防いだ。

 

「ひどいことするね。いきなりだなんて」

 

「ちゃんとあいさつはしただろう?」

 

目を閉じていたはずだが、いや、見る必要がなかったのだろう。魔力の玉を作るときに殺気をバンバン当てていたのだから。

 

「ちょうどいいから、新技の実験体になってもらおうかな」

 

片手を振るうと血の玉の一つ一つが一本の槍へと変わる。両手をヴァーリの方向へ伸ばしたとたん、すべての槍の切っ先が一気にヴァーリへと向く。

 

「くくくっ、こうでなくちゃなぁ! 『白龍皇の光翼(ディバインディバイディング)』!!」

 

飛んできた槍を全ていなしながら、『divide!』という叫とともに背中に生えた翼を青く光らせて槍の力を半分にして、魔力の衝撃波で吹き飛ばす。

 

「君が今代の白龍皇か」

 

「あぁ、俺はヴァーリ。お前の言う通り白龍皇だよ、血鬼」

 

地面を思いっきり蹴り、一気に迫る。が、最初に魔力弾を防いだ血が引き続き、本体を守り続けている。

 

「お前自身は戦わないのか?」

 

「戦ったとしても、君には勝てないよ。僕は近接戦闘は強くないからね」

 

次は両手全体を使ってヨガのように振るう。すると、吹き飛ばしたはずの血が一箇所に集まり、一本の巨大な槍と化した。ヴァーリはそれを察知し、飛んでくる前に撃ち落そうとしたのか、何発か魔力弾を放つが効いた感じはしないと判断し、空中へと躍りでる。槍はしっかりと狙いをつけ、一直線に向かってくる。

 

「ふっ、これぐらいしてくれないと困る」

 

飛んできた槍を真正面から向き合い、正面から殴ろうとする。一見すれば正気の沙汰ではないが、ヴァーリ自身の魔力を持ってすればできないことではない。ちょうどその二つがぶつかりそうになったその時、

 

「なにッ!?」

 

槍がまるで柔らかくなったように、拳を当てた場所から中へとめり込んだのだ。逃げようとするが、間に合わず、血にすっぽりと覆われてしまう。

 

「……こんな程度じゃないはずだよね?」

 

「もちろんだ!!」

 

血が瞬時に霧状に蒸発、その中を突っ切ってその顔面に一撃お見舞いしようとするが、謎の違和感とともに体が動かなくなる。

 

「……!?」

 

「わかってないって顔だね。君さ、最初に僕の血球(ゴルマータ)に触れて少しとはいえ、かすり傷を負ったでしょ? 僕は血という存在であれば、魔力を少し回すだけで操れる。今さっき君を覆った血でその傷から魔力を流させてもらったよ。それで、ちょつと大人しくしてもらっただけだから安心してね」

 

ヴァーリはどうにか体を動かそうとするが、どうにも動かない。血を操られているということは全身を操られていることに他ならない。

 

「どう? 降参する?」

 

「……ふふふっ、くくくっ、いやぁ、こんなに興奮したのは久しぶりだ! こんなに早くは終わらせられないなぁ」

 

背中の翼が「divide!」とう叫んだ瞬間、地面が揺れ始める。

 

「なにしたの!?」

 

「なに、地面の耐久力を減らしただけだ。ここら一体な」

 

地面が崩れ、刹那にあった能力のブレを使って、拘束から抜け出したヴァーリはまた拘束されないうちに決着をつけようと全力で殴りにかかる。しかし、その進行方向にあった顔から

 

「っ!?」

 

たったコンマという時間ですらないはずのほんの少しだけ感じた死の恐怖。ヴァーリは久方ぶりに感じたその感触に身を守ったのが幸いだった。雲散霧消していたはずの血がすでに剣となり、ヴァーリに一太刀浴びせていた。

 

「どう、これでわきゃっ!?」

 

体勢を立て直し、大きな笑みを浮かべてこちらを見たヴァーリのある部位を見た瞬間、顔を真っ赤にしてそむけた。そのことを疑問に思ったヴァーリは自分の体を見る。そこには先ほどの傷で切れてしまった自分の下着があった。そして自分の少しだけ膨らんだ胸が見えていた。

 

「こんなもの、なんでもいいだろ。早く続きを……」

 

「どうでもよくない!! 早く何か着てぇ!?」

 

「そんなこと言っても、着るものなんて持ってないぞ」

 

「あぁ、もう!!」

 

後ろを向いて右手をヴァーリのほうに向ける。前アリにあった血がヴァーリの体の周りに巻き付いた。ヴァーリ自身はそれに警戒したが、体に巻き付いて出来上がったものを見て驚いた。赤と黒でできた着物が自分にぴったりに出来上がっていたのだ。

 

「それ着ててよ。あう~」

 

ヴァーリにそれを着せた後、こちらを見るがすぐに顔を赤くして沈んでしまう。

 

『……興ざめだな。こんな終わり方をするとは』

 

「へ~、おまえの能力万能だな」

 

彼女の背中に生えている白い翼が青く光りながらしゃべる声に、振り返る。

 

「それが、白龍皇 アルビオンの声なの?」

 

『あぁ、そうだ。俺こそが白龍皇 アルビオンだ。先ほどの戦い、ヴァーリを圧倒するとはなかなかだった。久々に強い奴を見たな』

 

「二天龍に褒めてもらえるなら光栄だよ」

 

どうやらいつもの調子を取り戻した様子だったので、ヴァーリはその顔を覗き込んだ。

 

「おまえ強いな。今まで俺と同等に戦ったやつはいなかったぞ。あと、続きはしないのか?」

 

「悪いけど今度にしよう? こんな状況でやるのもあれだし、……その、君のその服は少しでも破れちゃうと形を保ってられないから、すぐに着替えてね」

 

人差し指同士をくっつけてもじもじする様子はほほえましく感じた。二人の身長はほぼ変わらない、いや、ヴァーリのほうが少し高いくらいだったので、ヴァーリはいたずらっぽい笑顔を見せて。

 

「ふ~ん。これ少しでも傷つけたら、さっきのお前の顔を拝めるんだな?」

 

「やめてぇ!? 女性がそんなことを人前でするものじゃありません!!」

 

顔を真っ赤にしてヴァーリを説得しようとするその様子がおかしくてヴァーリは笑みを浮かべた。

 

「そんなに言うことなのか?」

 

「いうよ!? 女の子なんだからそんなことしたらいけないの!! そういうのは自分が好きだとか、認めた人にしかしちゃだめ。わかった?」

 

「む、むう。わかった」

 

その気迫に思わず納得してしまった。そのことも含めて何かおかしくて笑ってしまう。

 

「いいなぁ、気に入ったよ。そういえば、名前効いてなかったな、名前は?」

 

「…………えっ、あっと、グランだよ?」

 

「どうした?」

 

ヴァーリが疑問の顔を向けると、口元に自分の手を持っていって笑いながら答えた。

 

「いや、そんなにかわいく笑うんだな~って」

 

少しだけ風が吹いた。二人の髪が揺れる。その髪でヴァーリの顔が隠れたままグランがいる方向とは逆に顔を向ける。

 

「……そ、そうか」

 

ヴァーリは自分の心臓がとても早く拍動を打っているのを感じた。自分の顔が赤くなるのも感じている。まるで火でも吹いているかのようだ。

 

(お、俺はかわいいのか?)

 

常に戦いに身を置いてきたヴァーリにとって、かっこいいとかこわいとは言われたことがあったが、かわいいとは言われたことがなかった。自分自身でさえ、かわいいとはどんなものかはわからなかった。

 

(な、なんでだろうか、嬉しいなぁ)

 

なんとなくだが、嬉しい。そう感じながらグランの手を後ろを見ないままとる。

 

「な、なぁ、ここら辺を案内してくれないか? グラン」

 

「ん? 別に構わないよ。美味しいぜんざいが食べれるお店があるから、そこへ行こうか」

 

調子が戻ったグランと訳がわからない感情に支配されるヴァーリ。二人は手をつなぎながら妖焔山の下腹にある商店街へと向かう。

 

ぜんざいを食べた後に食べ歩きをしたせいでグランの財布が空になったのは余談である。


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